【レポート】<朝霧JAM '22>、全ての参加者で築き上げた4年ぶりの楽園
ⓒ 宇宙大使☆スター
翌朝。富士山の輪郭まで拝める晴天が広がっていた。だいぶ冷え込んでいるものの、少しずつ顔を出す太陽の姿を写真に収めようと6時台から人が続々と集まる。刻一刻と陽光が辺りを満たしていく様子は圧倒的だった。その後、朝霧JAM最大のアクティビティである数千人規模に及ぶラジオ体操には、ケロポンズもフィーチャリングとして登場。ケロポンズが2017年の出演時に朝霧JAM実行委員長とラジオ体操で意気投合し、委員長のオヤジギャグにインスピレーションを得て作られたという楽曲「ツイてる!ツイてる!」、そして代名詞「エビカニクス」をパフォーマンスし、子ども連れを中心に大盛況となった。
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▲ラジオ体操〜ケロポンズ ⓒ 横山マサト
昨今のキャンプブームにもよるのだろうか、とにかく今年は子ども連れの参加者が多く、メインステージとセカンドステージのあいだに位置する「KIDS LAND」エリアもいつも賑わっていた。そこでは、本門寺重須孝行大鼓保存会による太鼓ワークショップや富士宮の歴史を紹介する読み聞かせなども行っており、おとなと同じくらい子どものMORE FUNが用意されていた。MOONSHINEエリアに並ぶFLEA MARKETには、カリンバ作りや、松ぼっくりのナチュラルな着火剤作りなどのワークショップも体験できた。もっとシンプルに、直線をダッシュしたり、虫を追いかけたりと、遊びの天才たちもまた朝霧JAMを謳歌していた。また、この「KIDS LAND」では、朝霧高原でつくられた牛乳が味わえるキャンペーンも実施。酪農家の人々を支援するため200円以上の支援金の協力をするというのも、フェスの開催地と共存共栄の関係を築くSMASHらしい施策だと感じられた。
地元を中心とした美味しいフェスごはんが集まる飲食店も常に賑わっていた。ぐるぐるウィンナー、にじます塩焼き、富士宮やきそば、クリームシチュー、ステーキごはん、静岡おでん、クラフトビールなど、みんな目移りしていたと思うが、筆者は地元のお菓子屋さん「藤太郎」の朝霧シュークリームが大ヒット。濃厚なのにさっぱりしたクリームに歩き回った疲れを癒してもらい、後日ネット検索したらお取り寄せも可能ということなのでこれで朝霧ロスを紛らわしたい。
▲「藤太郎」の朝霧シュークリーム
2日目のライブアクトでは、世界の音楽を味わった充実感がある。イギリスのAlfie Templemanは、19歳だがディスコビートやR&B〜ソウルのフィーリングをポップにまとめるセンスが抜群だった。ベッドルームミュージックとポップミュージックを兼ねた良質な音楽なので、チェックしてほしい。躍り狂った人も多かったのは、ハンガリーのBohemian Betyars。レベルミュージックかつダンスミュージックとして次々と繰り出されたスカパンクは、瞬間的にオーディエンスの心を掴んだ。そして、Fantastic Negrito。2日目の午後から雨が降り始め、夕方になると大雨に見舞われたが、エレピの音色がひときわ瀟洒なファンキーかつブルージーなバンドサウンドに吸い寄せられるように人がまた集まりだした光景は朝霧JAMらしかった。ジョークも交えながらエンターテナーとしてステージを盛り上げる姿は、さすがブラックミュージックの伝道師。また、初日に出演したフランスのThe Inspector Cluzoも強烈だった。農家とロックデュオの兼業という肩書きもインパクトがあるが、容赦ない気迫のロックで圧倒し続けた。SpiritualizedとKamaal Williamsのキャンセルは残念だったが、朝霧JAMは今回も世界の広さ、面白さをダイレクトに伝えるように多様な音楽を紹介した。
▲Alfie Templeman ⓒ 横山マサト
▲Bohemian Betyars ⓒ Sotaro Shimizu
▲Fantastic Negrito ⓒ Sotaro Shimizu
▲The Inspector Cluzo ⓒ Sotaro Shimizu
その一方で2日目は、羊文学やyonawaといった邦楽のオルタナティブなバンドや、STUTS、BIM&VaVa、Daichi Yamamotoなどジャパニーズ・ヒップホップシーンを担うアーティストも続々と登場した。特にバンドセットでパフォーマンスしたSTUTSは、才気ほとばしるセッションが素晴らしかった(このバンド編成で最新アルバムのリリースツアーも廻るということなので必見)。もちろん、BIMとDaichi Yamamotoを迎えた「大豆田とわ子と三人の元夫」主題歌「Presence」もセットリストに組み込まれ、冷たい雨が降りしきる会場を熱くした。
▲STUTS ⓒ Sotaro Shimizu
▲BIM&VaVa ⓒ 横山マサト
▲Daichi Yamamoto ⓒ 横山マサト
▲never young beach ⓒ 横山マサト
やはり、2022年の朝霧JAM最大のハイライトは加山雄三だろう。1曲目から「君といつまでも」というキラーチューン。優しく手を振りながらステージに姿を現した加山が伸びやかな歌声を放つと空気が一変して、誰もが彼の虜になった。すべてのスターがそうであるように、観衆ひとりひとりを包むその度量と繊細さに、すでに感動した。そしてMCでは、「幸せだなぁ」といった感謝の言葉ばかりを述べていく。「もう85歳だよ、ギネス記録級だよな(笑)」と本人は楽しそうに話したが、伸びやかで豊かな歌声からはとても信じられない。自身が憧れたエルビス・プレスリーの「Love Me Tender」、PUNPEEのラップを讃えてから曲紹介した「お嫁においで」、「14歳の時に作ったんだよ」というエピソードに若い観衆がまんまと驚愕した「夜空の星」。そしてラスト、名残惜しそうにしながらも、大好きな曲なんだと紹介して披露した「海 その愛」では、雨足まで強まるドラマを引き寄せながら、大きなロマンを乗せた歌が宇宙に響き渡った。彼のコンサート活動は12月の船上ライブを残すのみ。貴重な場に立ち会うことができて心から光栄だった。
▲加山雄三 ⓒ 横山マサト
晴天、曇天、冷たい雨まで、野外フェスならではの体験をもたらした2022年の朝霧JAMを、ツアーバスの発車時刻まで満喫させてもらった。改めて振り返ってみると、不穏な時代を過ごしているからこそ、あの楽園には「ラブ&ピース」が溢れていたと恥ずかしげもなく断言する。楽園と言っても天が用意してくれたわけではない。音楽や自然を通した本質的な豊かさを伝える主催者やアーティスト、その世界観を支える地元の人々や出店者、さらには笑顔でゴミゼロステーションを護ったり交通整理する地元のボランティア、そして彼らの理想に賛同するオーディエンスといった全ての参加者が築き上げた代えがたい楽園が朝霧JAMであることを4年ぶりに体感したのだった。
ⓒ 宇宙大使☆スター
文:堺 涼子