【インタビュー】浜端ヨウヘイ、メジャー1stフルアルバム『Things Change』で気付き「実は何も変わってなかった」

■いっぱい変わったつもりでいた

── 「オンライン」はコロナ禍での想いを綴った、独特の緊張感が漂う楽曲ですね？

浜端：コロナ禍真っただ中で曲を書き始めたときは、ツアー先のように景色が変わらないと同じ言葉しか出てこないなと結構苦しんでいたんです。でも、それでもあきらめずに作り続けていくことで、ブレイクスルーできた。「オンライン」を作れたことで、前進できた感じがありました。


── サウンド面もチャレンジがあったとか。

浜端：この曲は、どんなにいろんな音やアイデアを詰め込んでも許容してくれるなと思いましたし、実際にサイモン君とアイデアを詰め込みました。現時点で具現化できるアイデアはすべてやれたという感じがありますね。ただ、彼と一緒に作るときは、気力と体力が試されます。浮かんだものは全部やってみようという人で、2時間やってものにならなかったとしても、あっけらかんと「2時間やってダメだと分かったことが収穫だね！」って（笑）。そんな調子だから、昼過ぎに集合して終わるのはたいてい翌早朝5時くらい（笑）。

── 「中央林間行き各駅停車」も、念願の音源化だそうですね？

浜端：5年くらい前はライブのたびに歌っていたし、僕自身の歩みともいろいろと重なる感じがある特別な曲です。だからこそ、このアルバムに入れたかったし、核になってくれると思いました。僕自身、この曲に描かれている沿線で生活しているひとりですし、聞く方が「自分のことを歌っているのかな」と感じられる曲になれば嬉しいですね。また、僕が好きなルーツミュージックとは別に、ポップスとしっかり向き合って作りたいという気持ちが芽生えていたときでもあったので、僕の中でポップスと言えばサイモン君だなと思いお願いすることにしました。


── 音を詰め込んだ曲があるからこそ、「まあだだよ」のように極限まで音をそぎ落とした曲も印象深く聴こえます。

浜端：これは、どう料理しようかなと考えたときに、ごくごくシンプルな弾き語りが浮かびました。僕の歌って、酒を飲んで気分が良くなっているか、フラれてくよくよしているか、いやなことがあってうじうじしているかが多い（笑）。この曲は、3番目のパターンです。嫌なことがあるとつらいけど、それをばねに「なにくそ！」という気持ちになって結構曲になるんですよ。きっと生きていたら嫌なことがあると思うし、似たような感情を想い重ねていただけるんじゃないかなと。歌うときは、悔しさはもう成仏しているし、いったいなぜ嫌な気分になっていたかすら覚えていないんです。


── 新しい気付きやこだわりを詰め込んだアルバム『Things Change』を完成させた今のお気持ちは？

浜端：今は、このアルバムをひとりでも多くの人に届けたいし、長く愛してもらえるように頑張りたいなと言う気持ちですね。実は、これまでアルバムを創り上げると、出し切った感じが強くて途方に暮れてしまうところがあったんです。でも、今回はできあがった充実感と同じくらい、「次もまだまだあるよ！楽しみにしていて」という気持ちになれました。実際に曲も作り始めています。新しいことにいろいろと取り組んで分かったのは、実は何も変わってなかったんだなということ。いっぱい変わったつもりでいたけど、変わらない僕がいろんなことをしていたんですよね。無理に「自分を変えなきゃ」と行動変容するのは不自然で不健康だし、自分らしくないから変えないのも同じですよね。いままで、手を出さずにいたことも、実際にはちょっと興味があったのに理由を付けてやらなかっただけでした。こうして挑戦できる環境にいることがありがたいし、「これも僕です」と胸を張って言える作品ができました。

── では最後に、この先の浜端ヨウヘイはどう進んでいきたいですか？

浜端：ここ数年、立ち止まらざるを得ない状況だったからこそ、ミュージシャンとして当たり前のサイクルを取り戻したいという健康的な欲求が自分の中にたまっているのを感じます。今年5月、久しぶりのツアーに出たときは、足を運んでいただけたことにすごく感謝したし、皆さんもきっと待っていてくれたんだろうなと嬉しくなりました。ただ、僕らよりもシビアな状況の人たちがいて、ライブに来たくても来られないという現実もあります。そうした方が大手を振ってこられるのは、このアルバムのツアーのときなのか、いつになるか僕には分からない。けど、その人たちがいつでも来られるように、僕らミュージシャンはずっと音楽を続けていかなきゃいけないなという気持ちがより強くなりましたね。

取材・文：橘川有子
撮影：大橋祐希

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