【ライブレポート】空白ごっこ、「安心できる場所がやっとできた気がします」

ポスト

“ハロー効果”。社会心理学の用語で、人やものの印象や評価が見た目や特徴に左右され歪められる現象を指す。

◆ライブ写真

その言葉を冠した、空白ごっこ初の東名阪ワンマンライヴツアー<空白ごっこONEMAN TOUR halo>。2021年に初ライヴとなる下北沢のライヴハウス10箇所を回るツーマンツアー全公演と、2022年5月に渋谷WWWXで初のワンマンライヴ<PLAY ZONE>をソールドアウトさせ、7月にはサーキットフェスイベント<下北沢フェスごっこ2022>を開催するなど、セツコ(Vo)とバンドメンバーは着実にライヴの経験値を積み続けてきた。ツアーファイナルの渋谷CLUB QUATTRO公演は、ライヴならではのハロー効果が起こっていたと言っていい。


<下北沢フェスごっこ2022>出演アーティストの楽曲が流れる会場に、ギター、ベース、ドラム、キーボードの4名のバンドメンバーが登場。そののち青いレイヤードワンピースを身にまとったセツコが現れた。空白ごっこのメンバーのうち、ステージに立つのはセツコのみ。つまり“空白ごっこ”をライヴの場で背負うのは彼女ひとりである。どんな思いで彼女はステージに立っているのだろうか――と思いを巡らせていると、針原 翼作曲の「かみさま」でライヴがスタートした。


冬空に浮かぶ白い息のように儚くも、月明かりのような静かな強さを併せ持つセツコの歌声は、硬派なギターロックサウンドのなかを駆け抜ける。観客は声援を送れないものの、バンドが音を出した瞬間から熱のこもったクラップなどでこの日を迎えられた喜びを存分にステージへと届けた。その健やかな光景は、たちまち会場が満天の星空に包まれていくようだった。


「19」を歌い終えると、セツコは「今日はコンタクトをつけてきたからみんなの顔がはっきり見えるんだ。いつもは見えすぎると緊張しちゃうんですけど、今日は腹をくくってここに来ました」と無邪気な表情で語る。フロアを見回した彼女は自分とお揃いのネックレスを身につけている観客を発見し、「そうそう、セッちゃんと同じネックレスを買ったよってTwitterで報告してくれた子がいて。皆さんからいただく愛が年々増しています」と照れ笑いを浮かべた。


そんな“年々増していく愛”が、彼女をステージで解放させていたのかもしれない。最新曲「びろう」では艶やかなヴォーカルからしなやかにたくましい声を響かせ、ミステリアスなムードがたちこめる「ピカロ」では気迫溢れる歌で観客を圧倒。一気にkoyori作曲曲ならではのダーク×ポップな世界観に染め上げた。


空白ごっこの活動がもうすぐ3周年を迎えることに触れたセツコは「こういう場に立てるたびに、俯いてばかりの世界から連れ出してもらえたんだな、良かったなとすごく思う」と活動を共にする針原とkoyoriへの感謝を語る。その後披露された「サンクチュアリ」は、そのMCも相まってよりピュアに、エモーショナルに響いてきた。そこからさらに「ラストストロウ」「なつ」と催涙性の高い楽曲を投下する。セツコのヴォーカルは曲中で感情をグラデーションのように描いていくのが特徴的だ。歌のなかで感情の軌道を感じられるからこそ聴き手が没入できるのだと、彼女の歌を直に聴くことで身をもって知る。彼女が作詞作曲を手掛けているポップソング「プレイボタン」では切なさと甘酸っぱさが晴れやかに広がっていく様子がピュアで美しかった。


セツコは<halo>というライヴタイトルに寄せて、空白ごっこはメンバー3人全員がソングライターであること、3人とも異なるカラーを持っていること、リスナーからの感想はどんな内容でもうれしいことを語る。「みんな感じ方が違って当たり前。どんな感じ方が正しくて正しくないのか、みたいなことを考えてほしくない。みんなにこんなふうに感じてほしい、とわたしから強要したくない。干渉し合いたくない」と、飾り気のない様子で告げた。

だが彼女がそう思うようになったのも、自分が同意を求めるクセを持っていたからだという。人とのいい距離感をどう取ればいいのかを悩んでいる彼女だが、そんな自分でもメンバーやファンが支えてくれていることを実感している旨を語ると、「ここ(空白ごっこ)は居心地がいいまま消えないんじゃないかな。安心できる場所がやっとできた気がします、セツコちゃんは!」と照れ笑いを浮かべながら真摯に述べた。その後演奏された「ふたくち」が音源以上のポテンシャルを発揮していたのは、間違いなく観客である我々が彼女の真心を言葉として受け取っていたからだ。


以降はロック色の強い「カラス」、「雨」、「運命開花」などを畳み掛け、アッパーな「シャウりータイム」で積極的に観客とコミュニケーションを取ると、「あー! 楽しいね!」と満足気な表情を浮かべるセツコ。彼女がMCなどで見せる人となりがより感じられる「リスクマネジメント」の後、「天」では凛とした眼差しを浮かべ歌い、彼女はしつこいくらいに手を大きく振りながらステージを去っていった。


アンコールでは3曲を披露。ラストの「ストロボ」の歌唱は躍動感に溢れており、等身大の彼女の思いやエネルギーが混じりけなく鳴り響いていた。“ありがとーう!”と盛大に告げると、バンドメンバーたちとその場のノリでダンスをしたりとハッピーなムードで締めくくる。ステージから去るときは、やはりぎりぎりまで何度も何度もしつこいほどに手を振り続けていた。

開演前に思った“彼女はどんな思いでステージに立っているのだろうか”に対して、仮説が立った。きっと彼女はライヴを重ねていくごとに、ステージに自分の場所を見つけたのだろう。針原とkoyoriがステージに立っておらずとも、彼らの楽曲は彼女を支えている。バンドメンバーもセツコの歌と空白ごっこの音楽をより輝かせることに尽力している。目の前には愛を向ける観客の姿がある。セツコの瞬間瞬間を終始楽しんでいる姿、時折見せるシャイゆえのキュートさが印象に残った。そんな彼女の姿を観ながら聴く空白ごっこの音楽には、やはりポジティヴなハロー効果を感じざるを得ないのであった。

取材・文◎沖さやこ
写真◎鈴木友莉

セットリスト

1.かみさま
2.19
3.びろう
4.だぶんにんげん
5.ピカロ
6.サンクチュアリ
7.ラストストロウ
8.なつ
9.プレイボタン
10.ふたくち
11.カラス
12.雨
13.運命開花
14.リルビィ
15.シャウりータイム
16.リスクマネジメント
17.天
en1.キザな要素が足りない
en2.ハウる
en3.ストロボ

◆空白ごっこ オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報