【ライブレポート】願いや祈りを込める中島美嘉に、万雷の拍手

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中島美嘉が9月13日(火)に東京・LINE CUBE SHIBUYAにて、全国ホールツアー<MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2022『I』>の最終公演を行った。

近年はアコースティック編成のプレミアムライブツアーを行ってきた中島美嘉は、デビュー20周年を迎えた2021年には3年半ぶりとなる全国ツアー<MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER>を開催。2022年5月4日(水)には、通算10枚目のオリジナルアルバムで、全曲の作詞作曲を手がけた初のセルフプロデュースアルバム『I』をリリースし、7月8日(金)の千葉公演を皮切りに、全国16箇所をめぐる1年ぶりの全国ホールツアーをスタートさせ、この日にファイナルとなる東京公演を迎えた。



開演前の紗幕にはゴールドのラベルに「I/MIKA NAKASHIMA」と印字されたアナログレコードが映し出されていた。開演時間になると、場内に鐘が鳴り響き、紗幕にマトリックス・コードのように言葉が雨のように降り注ぎ、やがて、アルバム『I』に収録された全13曲のナンバーとタイトルが浮かび上がった。そして、ステージに向かって「I」を表すかのような一本の光が真っ直ぐに照らされ、同時に幕が上がった。ステージ上のスクリーンに映った金色の「I」という文字とともに、全身真っ白の衣装で、ヴェールを被った中島美嘉が登場。オープニングナンバーはニューアルバムで唯一の英語歌詞の楽曲「I’m Here」だ。彼女は微笑みを湛えながら、「自分を信じることを恐れないで」というメッセージを観客に届けた。スクリーンには日本語の歌詞も出ていたが、「私が毎日祈ります」というフレーズにある“祈り”こそが、彼女の多彩な楽曲、多様な表現の全ての根底に流れる、決して揺るぐことのない姿勢なのではないかと思う。

この日は全28曲(メドレーを1曲とすると全20曲)をパフォーマンスしたが、アンコールを除くと、衣装やヘアアレンジはだいたい5パターン。彼女のポニーテールの毛先の色や衣装で大まかに分けると、およそ5つのブロックに分かれていた。

最初のブロックは、「これが私です」というありのままの自分自身を描いたニューアルバム収録曲である新曲を5曲立て続けに披露した。「I’m Here」を歌い終え、ヴェールを脱いだあと、「めんどくさい」では、ふたりのバレリーナが4つのポールを使って踊り、小さな幸せに目を向けた軽快なロックナンバー「HELLO」では「みなさん、ようこそ」と絶叫し、ジャンプとクラップを誘発。「1曲1曲、言葉を届けていきたいと思います」という挨拶を挟み、恋愛と夢の間で葛藤する若かりし頃の恋愛に思いを馳せるブルース「Puzzle」では、グリーンとパープルのツートンカラーのダンサーが運んできた椅子に座り、両足を広げ、ポニーテールをぐるぐると回しながら歌唱。そして、ピアノ伴奏のみで歌い始めたバラード「信じて」ではパワフルなロングトーンに場内から自然と大きな拍手が沸き起こった。



続くブロックでは、マント風のロングワンピースに着替え、21年間で「みんなが作ってくれた中島美嘉」を現在の等身大で表現。「ORION」や「桜色舞う頃」、「STAR」や「WILL」などのヒット曲を繋げた「バラードメドレー」では、観客ひとりひとりと目を合わせるかのように客席を見つめて、穏やかな表情と優しい歌声で四季折々の情景を引き連れ、「僕が死のうと思ったのは」では、1曲でミュージカル1本を観たかのようなインパクトと余韻を与えてくれるドラマを展開。ここで、彼女が一旦ステージを降りると、スクリーンには、アルバム収録曲である6/8拍子のワルツ「Delusion」のMVが流された。シュールでファンタジックな映像になっていたが、アルバム収録曲全13曲のうち、12曲はライブパフォーマンスで披露し、この1曲のみ映像で見せるというアイデアも、アルバムのビジュアルからデザイン、歌詞のフォントにまでこだわった彼女から発信されたものだろう。





タイトでエレガントなスーツの上にシフォンのティアードスカートを纏った「茨の道」からは再びニューアルバム『I』の世界観に。演歌や歌謡曲とハードロックが融合した「茨の道」は彼女が「アルバムの中で一番好きかも」と語っていた曲で、雑音が多い世の中で、他人にどんなことを言われたとしても、自分が好きなものは好きと胸を張って生きていこうというメッセージが込められていた。続く「CEO」で怒りをロックにぶつけると、観客からも盛大なクラップが沸き起こり、グリーンとパープルのライトが場内を派手に交錯した「LIFE IE A DRIVE」でさらに熱気は上昇。しかし、ここから雰囲気は一転。早着替えでスーツとヒールを脱いだ彼女は、裸足でステージ2階に上がり、ドラマ『漂着者』の挿入歌として、デビュー曲「STRAS」以来、20年ぶりのタッグになる秋元康の書き下ろした46枚目のシングル「知りたいこと、知りたくないこと」と映画『八日目の蝉』の主題歌で、10年前に活動休止からの復帰作としてリリースした33枚目のシングル「Dear」というピアノバラードをドラムレスで情感豊かに歌い上げた。前者は、ダンサーが最後に自らの首を絞めるかのような仕草を見せ、後者はバレリーナの二人が、母と娘のように踊っていたのが印象的だった。







同名のドラマ主題歌「LIFE」や映画「NANA」の主題歌として大ヒットした「GLAMOROUS SKY」を含むポップメドレーから始まった4つの目のブロックでは、これまでにあまり目にしたことのないセクシーな衣装にチェンジ。森三中とコラボしたパンクロック「I DON’T KNOW」では赤いソールのヒールで蹴り飛ばし、アルバム曲であるエレクトロナンバー「Phantom」では異星人のように姿を変えた3人のダンサーとスペーシーでエキゾチックなパフォーマンスを見せ、「Special Day」ではまたまた一転し、場内をハッピーなヴァイブレーションで満たすと、観客はサビで踊りながらも両手を左右へと振って一体となって盛り上がった。







オルゴールによるイントロで歓声が上がった「雪の華」からは最後のブロックへ。この楽曲を題材にした映画が作られ、冬のスタンダードナンバーとしても世代を超えて愛されている代表曲のひとつであるが、彼女は「ただキミを愛してる/いつもいつでもそばにいるよ」という言葉を間違いなく観客に向けて歌っていた。冬から夏へ。「愛のしずく」は彼女が七夕の夜空をイメージして作詞作曲した和メロのバラードだ。彼女はその憂いを帯びた歌声を透徹した神秘的な雨粒…愛の雫に変えて観客の心に真っ直ぐに届けた。そして、本編のラストナバーは、昨年のホールツアーのファイナルでバンドメンバーやスタッフにもサプライズで送った自作曲「僕には」であった。彼女は、「私が21年間、歌わせていただいてきた中で、本当にいろんなことがあって……。どんな時でもそばにいてくれたファンの皆さん、スタッフ、家族、ここにいるバンドメンバーに書いた曲です。皆さんにも近くに大切な人がいると思います。ぜひ、重ねて聞いていただけたら嬉しいです」と語り、前回のツアーの模様からCOLDFEETの二人が協力したアルバム制作までを収めた映像や写真をバックに、涙を堪えながら熱唱し、「僕は僕に なれるから」と教えてくれた“君”であるファンに大きく手を振ってステージを後にした。



アンコールでは、「アンコールを歌ったら終わっちゃうんですよね」とツアーが終わってしまうことに名残惜しさを滲ませながら、アニメ「ベルセルク黄金時代篇 MEMORIAL EDITION」のEDテーマして書き下ろされたバラード「Wish」を初披露。ツアーを振り返り、「いろんなことがあったけど、最後まで走り抜けられたのは皆さんがいてくれたおかげです。今日のライブのことも絶対に忘れません」と感謝の言葉を述べ、6枚目のアルバム『STAR』のラストナンバー「SONG FOR A WISH」で締め括った。スクリーンには彼女の歌とともに、「声」「笑顔」「未来」「翼」という単語が浮かび上がり、最後に「君の笑顔が未来の翼」という文章になると場内からはこの日一番となる万雷の拍手が鳴り響いた。たったひとりの君が笑顔になるまで「私は歌うよ/私は祈るよ」という思いが込められたバラードだ。ライブの最初の曲と最後の曲の「祈り」というワードが入っていたのは偶然ではないだろう。歌声、歌詞、ビジュアル、パフォーマンス、生き様と多彩な魅力を放つ彼女であるが、君の明日が少しでも良い1日でありますようにという願いや祈りを込めた歌こそが、中島美嘉=『I』の本質なのだと確信したツアーであった。

撮影◎河本悠貴
文◎永堀敦雄


<MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2022『 I 』>

2022年9月13日@LINE CUBE SHIBUYA
1.I'm Here
2.めんどくさい
3.HELLO
-MC-
4.Puzzle
5.信じて
6.Ballad medley
(1)ORION
(2)桜色舞うころ
(3)ピアス
(4)STARS
(5)WILL
(6)BABY BABY BABY
7.僕が死のうと思ったのは
8.茨の海
-MC-
9.CEO
10.LIFE IS A DRIVE
11.知りたいこと、知りたくないこと
12.Dear
13.POP medley
(1)LIFE
(2)Over Load
(3)GLAMOROUS SKY
(4)I DON'T KNOW
14.Phantom
15.Special Day
16.雪 の 華
17.愛のしずく
-MC-
18.僕には
-MC-
E.C.M1.Wish(新曲)
E.C.M2.SONG FOR A WISH

◆中島美嘉オフィシャルサイト
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