【速レポ】<JOIN ALIVE 2022>大森靖子の歌に重ねて思う、“生きること”
彼女が一声を放った途端、ピリリと空気は張り詰めた。彼女とは、NEO WALTZのトリを締めくくる大森靖子だ。今日はsugarbeans、山之口理香子を加えた“自由字架編成”での登場となる。
◆大森靖子 ライブ写真
リハーサル中からオーディエンスを徐々に集めていったわけだが、しゃべり方はごく普通の、むしろ親しみさえ覚えてしまうような感じ。リハーサルの最後も「じゃあ、時間になったら始めます。時間は厳守しないとね」と柔らかい口調。
ところが時間になった直後、ステージにそのままいた彼女は、何か挨拶をするわけでもなく、いきなり歌い出した。その曲は「Rude」。90万人近くの登録者数のいるYouTubeチャンネル『街録ch〜あなたの人生、教えてください〜』の主題歌としておなじみだろう。様々な人間の生きざまを自ら語ってもらう本番組は、登場人物の話から学ぶものも多い。そんなチャンネルにと大森靖子が依頼されて作ったのが「Rude」で、“生きることは優しさ”と説いている。
しかし歌い方は優しいだけではない。誰もが抱える悩みや葛藤も描くように、悲しみを帯びる瞬間もあれば、迷っているような表情で歌うことも。痛みも覚えてしまう曲といったらいいだろうか。続く「マジックミラー」は心の裏側まで映し出したような言葉の数々が鮮烈。大森靖子の歌が、彼女の書いた歌詞が、その場にいる全員を釘付けにしていった。そして歌詞に自分の気持ちを重ね合わせていった。みんな、微動だにせず大森靖子の歌に聴き入っている。
ところが「最後のTATTOO」になると、sugarbeansが奏でる跳ねたリズムのホンキートンク・ピアノをバックに、軽快なステップもしながら歌を聴かせる大森靖子。オーディエンスにハンドクラップを求め、笑顔をふりまきながら歌う場面も。さっきまでは迫力ある歌を全開で聴かせていたが、かわいらしい声やファルセットなど、歌詞の描き出す場面ごとに七変化する。その豊かな表現力には驚くばかり。しかし、それだけでは収まらなかった。ライブ後半の「TOBUTORI」から山之口理香子も加わり、歌詞の世界を体の動きで表現する。独創的かつ無二のステージが繰り広げられていった。
そして戦慄が走ったのは、大森靖子が率いるアイドルグループ・METAMUSEの曲でもある「family name」。最初のうちは、か弱く、今にも心折れそうな主人公の表情で歌う大森靖子。しかし徐々にネガティビティに憑りつかれたように、ワナワナと表情を震わせ、しだいに狂気性ある顔つきへと変化。もちろん歌い方も声のトーンも。さらにラストナンバー「死神」では、全ての人間を嘲笑うかのような歌い方といい顔つきといい、怖しさまで覚える。着ているのは可愛らしい薄紅色のドレス姿というのも、猟奇性を感じさせる。
“生きることは優しさ”と「Rude」では歌っていたが、生きることは壮絶さを伴うもの……。脳裏にずっと焼き付く約40分間の人生劇場を見せてもらった。
取材・文◎長谷川幸信
撮影◎石井亜希
<JOIN ALIVE 2022>
時間:開場 9:00 / 開演 11:00 / 終演 20:30予定 ※雨天決行
会場:北海道・いわみざわ公園〈野外音楽堂キタオン&北海道グリーンランド遊園地〉(北海道岩見沢市志文町794番地)
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