【インタビュー】SATOKENが奏でる良質なニュー・レトロ・ミュージック「使い捨てられない音楽でありたい」
2022年の夏に突如高らかに鳴り響く、夢と憧れのウォール・オブ・サウンド。シンガーソングライター・SATOKENのニューアルバム『SATOKEN』は、ビーチボーイズとフィル・スペクターからの多大な影響を軸に、イーグルスやドゥービー・ブラザーズなどウエストコーストサウンド、ビートルズなどUKロックへの愛をたっぷりと注いだ、時代を超える温故知新ミュージックだ。
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すべての楽器とコーラスを一人多重録音で完結させた、マニアックな洋楽ファンをうならせ、新しくポップなものを求める若いリスナーにもアピールする素敵な1枚。彼はいかにしてこの傑作をものにしたのか? BARKS初登場インタビューをお届けする。
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■原動力は「やってみたい」ということだけ
──2022年の今にこんな素敵なアルバムが聴けるとは。うれしいですね。
SATOKEN:ありがとうございます。そう言っていただけて、めっちゃうれしいです。
──SATOKENはいかにしてSATOKENになったのか?を今日は探ってみたいと思います。ちなみにいつからSATOKENですか。
SATOKEN:最初は本名でやってたんですけど、あまりにもサトケンと呼ばれることが多くて、ローマ字にしたらかっこいいかもと思って(笑)。2014年からです。
──今回のアルバムまでに3枚のアルバムを出していて、それはいわゆるウエストコーストロックの匂いが強いものでしたよね。そこがルーツですか。
SATOKEN:元々は全然違う感じで、中学生の頃は流行りのJ-POPとかを聴いていたんですけど、ひょんなことからビートルズに出会って、次にイーグルスに行って、60年代や70年代の音楽を知るようになって、ドゥービー・ブラザーズを聴いて、めちゃめちゃかっこいいなと思ったんですね。結果的に西海岸だったんですけど、そういう音楽を聴いているうちに、カリフォルニアの景色が見えて来て、景色が見える音楽っていいなあと思って、そういう音楽を目指すようになりました。
──そこ、まずキーワードですね。景色が見える音楽を作りたい。
SATOKEN:ただ実際行ってみたら、あれはイーグルスの歌の中の幻想だったということに気づきました。そんなにきれいな街でもないし、「カリフォルニア・ドリーミン」じゃないですけど、僕にとっての夢であって、実際は違うんだなと。同じく言えるのが、僕は山下達郎さんがすごい好きなんですけど、「SPARKLE」という曲のイントロで空が一気に開けて海がバーッと見えてくるイメージが昔からあって、でも実際には存在しない景色なんだろうなという、そのリゾート感が僕はすごく好きなんですね。実際にあるものではなくて、夢のような景色というものに魅力を感じてます。
──比較するわけじゃないですけどね、かつてのジャック・ジョンソンのように、ライフスタイルと音楽がくっついているサーフミュージックのカルチャーとか、ああいう感じとはちょっと違いますよね。
SATOKEN:それこそSATOKENの初期の頃はジャック・ジョンソンを聴いていて、そういうものを目指した時期もあったんですけど、やっぱり僕にはできないと思いました。あれはハワイに住んで、そこのメシを喰って、そこの気候で暮らしてる人だからこそできる音楽で、僕はそこで育ってはいないし、あくまでも思い描くものでしかないんですよ。それに気づいて、紆余曲折あって今に至る感じです。
──それも大事ですね。イメージの中の景色、イメージの中の音楽。
SATOKEN:そういうのって、今回のアルバムから感じられました? ふわっとしたデイドリーム感というか、リゾート感というか。
──ああ、それはもちろん感じてます。
SATOKEN:もしかしたら、そういう感じがないのかな?と思ってたんですよ。
──というと?
SATOKEN:いわゆる「海」とか、わかりやすいキーワードを出した記憶がないので。だけど不思議なことに、たとえば「Prayer」という曲を書いた時に、すごいカリフォルニア感があるねと言われたことがあるんですけど、この曲は僕の中では、コロナ禍の中で希望をみつけたいという自分の心の内側の、夜だけど朝に向けてなんとか頑張りたいという祈り=Prayerを書いたつもり。それがカリフォルニア感と言われちゃったということがあって。うれしかったですけど、結局は言葉よりも、音とか音楽なのかな?とは思いました。
──聴き手の第一印象としてはそうかもしれないですね。でも今の言葉を聞いてハッとしましたけど、サウンドは夢のリゾート感満載でも、歌詞のメッセージにはそれとは別の切実な一面があるという、そっちが先にある時もあるんですね。
SATOKEN:そうですね。原動力は「やってみたい」ということだけなんですけど。実は僕、ビーチボーイズの良さが今までわからなくて、2年前ぐらいにやっとわかったんです。『ラブ・アンド・マーシー』というブライアン・ウィルソンの伝記みたいな映画を見て、最後に「ウドゥント・イット・ビー・ナイス(素敵じゃないか)」が流れた時に、「あ、この曲、いい曲だ」って、その時やっとわかりました。
──あー。それすごく面白い。
SATOKEN:わかりやすさという意味では、イーグルスやドゥービー・ブラザーズ、同じ60年代ならビートルズのほうがわかりやすかったんでしょうね、僕にとっては。そういうこともあって、「Prayer」という曲を書いた時には、自分の影響を受けた曲を一番詰めまくれたなという感覚がありました。全部解説できるんですよ。ここは誰誰の何という曲から引用しましたというものが。言っちゃっていいのかどうかわかりませんけど。
──いいんじゃないですか。大瀧詠一さんもやってますから(笑)。
SATOKEN:「Prayer」の中に20曲ぐらいあります。イントロのコーラスは完全にビーチボーイズですね。Aメロは日本的で、誰ということではないんですけど、一番困ったのはAメロのベースをどうするか?で、イーグルス「ホテル・カリフォルニア」からヒントをもらってます。あれは元々レゲエにインスパイアされたフレーズらしいんですけど、そこからですね。サビのコーラスは完全にドゥービー・ブラザーズで、サビの途中のオクターブ違いでハモるところはイーグルスで、サビのメロディ自体はユーミンみたいな感じ。今パッと出てくるのはそんなところですね。20曲は言い過ぎたかな(笑)。
──しかも全体の音作りは、フィル・スペクターのいわゆるウォール・オブ・サウンド。
SATOKEN:これが作りたかったんですよ。「ウドゥント・イット・ビー・ナイス」を聴いて、この人はフィル・スペクターという人の影響を受けてるんだということがわかって、フィル・スペクターって大瀧詠一さんも好きだよなと思って、そういう流れで、今回のアルバムはとことんウォール・オブ・サウンドにしようと思ったんですね。僕の場合は一人多重録音なので、音の分厚さやリヴァーブ感をなんとか出せないかな?と思ってたら、2年半かかっちゃいました。
──2年半に及ぶ実験と研究の成果がここに。さかのぼると、一つ前のアルバムが『Sun Child』(2019年)で、そこまでの3枚と今回の『SATOKEN』を比較すると、音の感触がだいぶ違うなと思うんですね。
SATOKEN:自分が作りたい音が明確になりました。今までは、きれいな音ならいいかなというぐらいで、そんなにこだわりがなかったんですよ。でも今回は60年代、70年代の音を聴いた時の耳の心地よさをいかに出せるか?という、それは機材だけの問題ではなく、人力で演奏することが大事だと信じて、こだわってやりました。
──生演奏にこだわったのが、前作との大きな違いですか。
SATOKEN:そうですね。それとコロナでライブをやりづらくなったこともあって、ライブをお休みして楽曲作りに専念できたことも大きいです。今まではライブで高い声を出すのが怖くて、低めのキーで作っていたんですけど、今回は高いキーでも好きなように歌ってます。
──ああ、そこも大きな違い。
SATOKEN:大きいです。ただ、この間久しぶりにライブをやって、今回のアルバムの曲を前半にやったら、キーが高すぎて声がもたなかった(笑)。それは今後の課題です。
──ライブを考えてなかったんですね。
SATOKEN:まったく考えてなかったです。本当に自由に作りました。とにかく「やってみたい」という気持ちが本当に強いですね。こういうものが好き、自分なりにやってみよって。
──それはオマージュという感じですか。
SATOKEN:そういう意識はないです。オマージュと言われてしまえば否定はできないですけど、オマージュと思ってやってはいないです。あと「こういう曲って今の時代にないよな」とか。
──それはすごく感じますね。だから最初に「2022年にこんなアルバムが聴けてうれしい」と言ったんですけども。
SATOKEN:本当はギターでカッティングするのが好きなんですけど、そういう曲は意外とたくさんあるから、違うものはないかな、コーラスかな、みたいな。
──それはアマノジャクという性格もあるのかもしれない。
SATOKEN:ありますね(笑)。あと、「かなわないかもしれない」とか思っちゃいます。飽和してる中で頭一つ抜ける自信はないです。だから誰もやってないところだったら、競争相手がいなかったら行けるかもしれない、みたいな感じですね。その中で好きなことをやろうと。
──前向きだか後ろ向きだかわかりませんけど(笑)。でもすごくわかります。やっぱりその人の思想や哲学って音楽に出るんですね。3枚目までの音楽やファッションの印象で言うと、西海岸のラフでワイルドな空気で、煙草に酒に女にみたいな男が現われるのかなと思いましたけど、今目の前で話しているSATOKENさんは全然違うので(笑)。
SATOKEN:そういうふうに装ってた時もありました。ライブやる前に煙草吸ってビール飲んで、ビール瓶持ったままステージに上がるみたいな。今思うと対バン相手に失礼だし、自分のパフォーマンスも絶対落ちてたと思うんですよ(笑)。
──初期のSATOKENはそうだったんですか。
SATOKEN:そうです。カッコ第一でした。今はそう思ってないですし、シンプルになりました。
──あらためて、SATOKENさんが自分で思うSATOKENミュージックの基本になる部分って、どういうところだと思いますか。なぜ自分はウエストコーストサウンドや、ビーチボーイズやビートルズに惹かれてしまうのか。
SATOKEN:さっきも言いましたけど、実際にはない景色が浮かぶということですかね。だから惹かれるんだと思います。全部が全部ではないですけど、西海岸の音楽に関しては間違いなくそれですね。ビートルズはまたちょっと違うかもしれないですけど、ストーンズは景色が浮かびます。「Tumbling Dice」を聴くと、アメリカの広大な砂漠を思い浮かべたりします。「Brown Sugar」もそうですけど、オープンGで豪快に奏でる感じがたぶん、スケールの大きい景色につながっていくのかなと思います。ストーンズ自体がブルースに影響を受けていて、こういうものをやりたいという気持ちが景色になって飛び込んで来るのかなという、だから僕の楽曲でカリフォルニアを感じるとおっしゃっていただけるのであれば、僕が西海岸の音楽に憧れていることが僕なりに出ているということかなと思います。
──なるほど。そうかもしれないです。今後は、この音楽で同志を増やしていきたいという感じですか。
SATOKEN:こういう音楽があったんだって発見してほしいですね。耳ざわりがいいかどうかで言ったら、免疫がついてないから敬遠しちゃうのかなとか思うんですけど、こういう音楽が少しでもどこかで流れてくれれば、一つの流れが生まれるような気がするので。こういうサウンドをなんとか当たり前に持って行きたいという、そうなってくれればうれしいです。
──普段から温故知新というワードも使われてますけど、やっぱりそれは大事ですか。
SATOKEN:大事だと思います。古い音楽を聴いて、自分なりにそれをやってみて、結果として今の時代には新しいものになってくれればいいなと思います。音楽は出尽くしたんじゃないかってたまに聞いたりするんですけど、僕はそれはないと思うんですけど、回っていくものなのかなとは思います。今は打ち込みが多いですけど、人力で、演奏にアラがあって、そういうものっていいなと思ってくれる周期があってもいいんじゃないですか。バンドブームやフォークブームや、そういうものがまた来ればいいなと思います。
──あと、歌詞のメッセージのことも聞いておきたかったんですね。曲は明るくキラキラしたポップなものが多いですけど、さっきも出たように「Prayer」に込めたメッセージはまさに今の時代の、この閉塞感を突き抜けたいという思いが言葉の裏にあったりしますよね。
SATOKEN:あります。特に1曲目から4曲目に関しては、最初のほうにレコーディングしたので、なんとか明るいほうに持っていこうという希望みたいな、僕の中ではそういう歌なんですね。
──1曲目「Wa Ha Ha!」は特にそう感じますね。闇を突き抜けろ、と歌ってる。
SATOKEN:この曲を書いたのは2020年で、先が見えなくて、胸が詰まる感じがすごくあったんですね。なんとか希望の歌を書きたいと思ってました。
──アルバムを作り終える頃には、気持ちは晴れましたか。
SATOKEN:そうですね。いろいろありましたけど、今はずっと快晴です。
──良かった。あともう一つ、ホームページのディスコグラフィーのところで、SATOKENさん自身が過去のアルバムの解説を書いてますよね。あれを読むと、北欧のラーゴムとかヒュッゲとか、東洋の禅や論語の言葉を紹介して、「多すぎず少なすぎず」「足るを知る」とか、そういう思想の大切さを語ってますよね。思想というと固いですけど、そういう考え方がSATOKENさんの表現の根底にはあるのかなという、そこも聞いてみたかったんです。
SATOKEN:ありますね。言葉で説明するのは難しいですけど、たとえば、服とかそんなに要らないじゃんとか思います。物をほしがる人を否定はしないですけど、今着てるそれでいいじゃんと思うんですね。今みんながかっこいいとか美しいとか思ってるものって、あくまでも今の時代に流行ってるものですよね。それが僕らの共通認識としてあるから、それに寄せることがかっこいいことで美しいことだというふうに思ってしまうんですけど、そんなことはないと。君は君のセンスでかっこいいと思えばいいし、周りがどうこうじゃない。そういう考えはありますね。僕は流行りの格好とか全然興味ないですし、流行りのものをほしいとも思わないですし、自分なりのアンテナをみんなに立ててほしいと思ってます。
──そこ、すごく大事だと思います。
SATOKEN:「足るを知る」は、君のセンスで足りてるんだよということでもあるし、物のことでもあるし、そういう考えです。だから音楽も、流行りを追うとかではなく、僕が本当に信じたもの、いいと思ったものを作るだけなので、余計なものに影響を受けなくていいし、自分の感性が飛びつきたいと思ったものに飛びついて、それに影響を受けて曲を作れと自分に対して思っているし、それがつながってくるのかなと思います。だから今回は、より今の時代っぽくない音楽になったのかなと思います。
──でもこれが好きでしょうがない。
SATOKEN:そうです。そして、君もきっといつか気づくよと。君さえそのアンテナを立ててくれるなら。僕はもう発信したから、君のアンテナでどうか気づいておくれよという感じです。
──いい言葉です。たとえ今はそんなに注目されなくても、いや、されてほしいですけど、何年かあとに届く人に届いていけば、すごく大切な音楽になる。そういう音楽だと思います。
SATOKEN:僕も、長い目で見ようと思ってます。何年か経った時に使い捨てられない音楽でありたいというか。
──持続可能な音楽で行きましょう。
SATOKEN:そう考えると、俺は音楽でSDGsを先取りしてるのかもしれない(笑)。
──ぜひみなさん、聴いてみてください。あと、この一人多重録音と多重コーラスをライブでどうやるのか、すごく興味があるので、ライブが見たいですね。
SATOKEN:今回、ライブを想定してなかったんですよね(笑)。この間やった時は、コーラスは無しでした。次はボーカルエフェクターでも使おうかなと思ってますけど、あれも難しいんですよね。曲は選ぶと思いますけど、いい形でやれたらと思います。次のライブは11月20日に練馬FAMILYというところでやる予定なので、来ていただけるとうれしいです。
取材・文◎宮本英夫
『SATOKEN』
JAN:4522197141855
発売元:SUNCHILD RECORDS
販売元:PCI MUSIC
1. Wa Ha Ha ! 2. Prayer
3. Someday
4. Summer Long 5. 恋人までの距離 6. Over
7. Boy
8. 虹をかける少女 9. 恋はタービン 10. You & I
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