【インタビュー】ステラ・ドネリー、穏やかなサウンドに潜む激しく渦巻く感情
スタンダップ・コメディアンを父に持つオーストラリアのシンガー・ソングライター、ステラ・ドネリー。その愛らしいキャラクターとは裏腹に、ファースト・アルバム『Beware of the Dog』では、世に蔓延るミソジニーやパワハラといった問題に対して声を上げ、一躍ブレイクを果たすこととなった。そして3年ぶりのセカンド・アルバム『Flood』では、大半の曲でトレードマークのギターではなくピアノを弾いており、一聴すると前作よりも静かで穏やかな作品となっている。
「ものすごく深い意図があったというよりも、単純に時間があったからっていう、ホント裏を返せばそれだけの気がする(笑)。通常モードでツアー中だったら、いつも傍らにギターがあるからついついそっちに手が伸びてただろうけど、今回時間があったからピアノの前に座って鍵盤とじっくり向き合うことができた。なんかほら、コロナのこととかあんまり言いたくないけど、ロックダウンのせいで2年間ほぼ人前でプレイできなかったことで、それまで先延ばしにしていた細々したことにじっくり取り組む機会があったわけで。この期間中にパン作りに目覚めた人とか…私もそのうちのひとり(笑)。パン作りに関しては今でも失敗ばかりしてるけど、ピアノは上達したからね(笑)」
ノルウェーのミュージシャン、ジェニー・ヴァルの大ファンを公言しているステラだが、本作ではそのジェニーのコラボレーターとして知られるノイズ・ミュージック界の重鎮ラッセ・マーハウグが、全編のミックスを手掛けている。
「アルバムの曲と曲をひとつの作品として繋げるためにラッセの力を借りてるの。今回、どの曲も見事なまでにバラバラだったから。性格もテーマもまるで違ってて、それがラッセの手にかかったことで、アルバム全体としてサウンドスケープを描きながら、まとまった1枚の作品として仕上げることができた。あるいは、「Restricted Account」の後半部分の巨大なウォール・オブ・サウンド的な分厚い音のレイヤーを作ることができたのも、ラッセの協力によるところが大きくて。しかも今回シチュエーションからしてかなり強烈なんだよ。彼は北半球のノルウェーで私は南半球のオーストラリアの郊外で、お互いに隔離された状態で…ちょうどオーストラリアが真夏の時期で、私は毎日42度っていう灼熱の環境の中から、一方のラッセは太陽がほとんど出ない、一日中ほぼ闇っていう真冬の中で作業してたから、それこそお互いに地球の最南端と最北端から、地球規模でワイルドなスケールで繋がってたっていう(笑)」
ロックダウン中にオーストラリアの東海岸から動けなくなったステラは、熱帯雨林でバードウォッチングをして過ごしたそうだが、アルバムのジャケットにも、オーストラリアに生息する鳥、ムネアカセイタカシギの群れの写真があしらわれている。
「アルバム・ジャケットを一枚の作品みたいにしたかったのね。写真自体はインスタグラムで見つけたの。オーストラリアの写真家でトム・ハントっていう、その人が撮影したムネアカセイタカシギの写真。インスタで見て即メッセージを送って「これ、アルバム・ジャケットに使わせてくれませんか?」って。同じ生き物達が同じ一つの空間にワサワサ密集してる感じが、今回のアルバムの空気感を象徴しているような気がしたの。何年か前のエルボーのアルバム(『Giants of All Sizes』)のジャケットに近い感じのノリで、そっちはスイミング・プールにたくさんの人達が密集してるってやつで。なんかね、私的には見ていてものすごく感情がザワザワしてそそられるんだよね」
“洪水”や“氾濫”を意味するアルバムのタイトルも、ジャケット写真からインスピレーションを受けたものだという。
「今回、タイトルよりも写真が先なのね。自分の中であの写真と“Flood”って言葉がリンクしたの。曲のほうの「Flood」は、暗くて長い終わりの見えないロックダウンの最中に、会いたい人に会いにいくこともできないし、直接会って触れ合うことがずっと叶わない状況で。自分の中のイメージとしては、悲しい小さな冒険みたいな…若干子供っぽい目線の曲かも。悲しそうにしてる大人に近寄ってって「ねえ、大丈夫?どうしたの、元気?」って、「ねえ、泣いてないで、こっち来て一緒に遊ぼうよ」みたいな、そういう気持ちというかノリの曲なんだ」
そんなステラの名を世に知らしめたのが、友人のレイプ被害について歌った「Boys Will Be Boys」だった。デビュー・ミニ・アルバムの『Thrush Metal』に収録され、ファースト・アルバムの『Beware Of The Dogs』でも再録されたこの曲について、「歌わなくて済む日が来るまで歌い続ける」と語っていたステラだったが、新作に収録された「Morning Silence」も、同じようなテーマを持った曲だ。
「そう、あれはまさにもう、かなりあからさまにそういうテーマについて取り上げている曲。アルバムの今回の他の曲に関してはぼかしてたり遠回しに触れてたりするんだけど、あれはそのものズバリの曲で、まさに“Boys Will Be Boys”に繋がるテーマについて触れてる。あれはまさしく自分の今の率直な気持ちについて、自分が今のシチュエーションに対して抱いてる実感があの曲の中に感情となって現れてる。「私は今の世の中のあり方に対してちっとも満足なんてしてないよ、むしろ不服に思ってるよ」って。それをただありのまま包み隠さずに描いていきたかったの。私だって四六時中、世の中に対してそんな風に怒りや絶望ばかり感じてるわけじゃないけど、ただ、どうしてもそういう気持ちになってしまうときもある。そういう場面に遭遇したときに、それを自分なりにちゃんと消化して、きちんと声にして表に出して上げることが大事だと思ったから」
そう語るステラの感情は、アルバムのラストに収められた「Cold」の、“You are not, big enough, for my love(あなたはわたしの愛を受け入れるほどの器じゃない)”というコーラスで、まさに洪水のように溢れ出していく。
「あれはなんかもう大爆発みたいな、エネルギーを思いっきりバーッとぶちまけるみたいな感じにしたくて。過去に経験した関係の中で抑圧されてた自分自身のアイデンティティを奪還して、自分自身の強さを取り戻すためにね。この瞬間だけでも強い自分になったみたいに感じられるように、自分ひとりの声だけじゃなくて、他の女性の声も全部巻き込んで大きな声にして表現したかったの。それこそフェミニスト的な強さを象徴する意味も含めて。私ひとりだけじゃなくて、世の中にいる多くの女性が少なからず似たようなシチュエーションを経験してるわけだから。それをあのフレーズで一気にぶちまけてるという」
普段は静かに流れる川も、雨が降り続ければ次第に水位を増して決壊し、猛威を振るう。いつまでも黙っているわけじゃない…穏やかな水面のような本作の下には、そんな激しい感情が渦巻いているのだ。
インタビュー・文◎清水祐也
通訳◎竹澤彩子
編集◎BARKS編集部
ステラ・ドネリー『フラッド』
SC432JCD ¥2,500+税
※世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック4曲収録
1.Lungs
2.How Was Your Day?
3.Restricted Account
4.Underwater
5.Medals
6.Move Me
7.Flood
8.This Week
9.Oh My My My
10.Morning Silence
11.Cold
12.Bell*
13.Bored*
14.Raffles*
15.Pressing On*
*日本盤ボーナス・トラック
<Stella Donnelly Japan Tour>
東京LIQUIDROOM
開場 19:00 / 開演20:00 スタンディング 前売¥6,000 税込み(ドリンク代別途必要)
[問]03-3444-6751(SMASH)
2022年11月30日(水)
渋谷CLUB QUATTRO
開場 19:00 / 開演20:00 スタンディング 前売¥6,000 税込み(ドリンク代別途必要)
[問]03-3444-6751(SMASH)
2022年12月2日(金)
名古屋CLUB QUATTRO
開場 19:00 / 開演20:00 スタンディング 前売¥6,000 税込み(ドリンク代別途必要)
[問]052-264-8211(CLUB QUATTRO)
2022年12月3日(土)
梅田CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演19:00 スタンディング 前売¥6,000 税込み(ドリンク代別途必要)
[問]06-6535-5569 (SMASH WEST)
オフィシャル先行:8月23日(火)17:00 - 8月29日(月)23:59
最速プレオーダー:8月30日(火)12:00 - 9月4日(日)23:59
受付URL:https://eplus.jp/stelladonnelly/
チケット一般発売日:9月10日(土)10:00
◆ステラ・ドネリー・オフィシャルサイト