【ライブレポート】THE SPELLBOUND、気高く清らかでナチュラルな人生の旅
THE SPELLBOUNDというバンドは、“願い”という強い思いの化身なのかもしれない。すべての物事はいつか終わってしまうし、いつまでも続くことはない。終わりへと向かうその道程では、心がどうしようもないほどの暗闇に飲み込まれることもある。そしてこのバンドはそれを骨の髄まで理解しているからこそ、この音楽が鳴りやまないように、その道の先に希望があるようにと強く念じ、この先にどんな景色が待っているのかと恋焦がれている。それらの要素を、音と言葉に曇りなく落とし込んでいるように思う。
その精神は、バンド名をBOOM BOOM SATELLITES(以下BBS)の7枚目のアルバム『TO THE LOVELESS』の収録曲から取ったことにも表れているのではないだろうか。中野雅之がBBSと地続きの人生のなかで、THE NOVEMBERSの小林祐介とともに踏み込んだ新しい領域は、激しさと静けさを併せ持っており、どこまでもピュアで美しい。それを全身で体感した、濃密な時間だった。
都内で過去に3回のワンマンライブを行い、2022年2月に1stアルバム『THE SPELLBOUND』をリリースした彼らの初の全国ツアーは、主要4都市を回るワンマン公演。これまでと同様に、BBSのサポートメンバーとして参加していた福田洋子と、トラックメイカーやスタジオミュージシャン、yahyel、DATSのドラマーとして活躍中の大井一彌の2名がライブメンバーとして参加した。
ステージ背景下手側のライトが光るなか、夜明けのように少しずつ広がっていく音像。それに合わせてたちまち4人が光のなかに包まれ、「Sayonara」でこの日の幕が上がった。優美に広がるメロディと、それに奥行きをつけるサウンド。翼を広げ飛んでいく鳥と、どこまでも続いていくような青空の関係に似ている。隅々にまで血が脈打つ躍動感が漲り、穏やかさと緊張感が心地いい。一気にその世界に没入してしまい、気付かぬ間にステージは様々なパステルカラーで包まれていた。冒頭から押し寄せたいきなりのクライマックスムードは、《全てが終わって全てが始まるよ》という歌詞そのものだ。
ツインドラムの交錯がスリリングなロックナンバー「名前を呼んで」はまだ見ぬ世界への冒険に胸を焦がすようなクールな激しさで魅了し、ドラムンベース的ビート感が高揚を誘う「Nowhere」では中野がギターをプレイする。緻密でアダルティでありながらも、瑞々しく衝動的。これまでのキャリアを血肉にしてきた熟練たちの、新しく動き出したバンドであることを噛み締める。1曲1曲の濃度の高さに圧倒されながらも、どれもがすがすがしく心地がいい。フロアでは思いのまま身体を揺らす人々も多かった。
観客の歓喜の感情が乗ったクラップが楽曲の本質をより露わにした「はじまり」に続き届けた「なにもかも」は、明確にヴォーカルが軸となり展開していく楽曲。小林は歌詞の一言一言に命を吹き込むようにメロディを乗せる。どこかノスタルジックな空気が立ち込めたのは、小林の声が際立つからだろうか。もともとTHE SPELLBOUNDは、今年3月に公開されたインタビューで中野が語っていたとおり、小林が発する美しくて優しい日本語の歌を100%の純度で伝えたいという思いが根幹にある。そして“声”とはその人の人間性、人生が表れる、その人しか持ち得ない唯一無二のものだ。「なにもかも」のしなやかさとたくましさを感じる歌には、小林の人生の歩みが浮かび上がっているような気がした。《みつけて わたしを みつけて》という彼の歌に導かれるように解放されていく音像は、見たことのない何かが生まれる瞬間のように非常に神秘的である。その後に披露された「君と僕のメロディ」が、その先の物語をあたたかくエネルギッシュな世界にいざなうように機能していたのも印象的だった。
「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」では歌詞が映し出されたムービーが楽曲の妖しくエキサイティングなサウンドをより高め、シリアスとユーモア、喜怒哀楽がない交ぜになったサウンドスケープで魅了。一気に空気を変えた後に彼らが演奏したのは、THE NOVEMBERS「Hallelujah」とBBS「FOGBOUND」のカヴァーだった。前者では中野のアレンジ力に感服すると同時に、小林がTHE NOVEMBERSで培ってきたヴォーカルとメロディの親和性、THE NOVEMBERSだから実現できる無垢で勇敢な歌の存在を再確認する。後者は音階を駆け上がっていくシンセなど、BBS時のライヴアレンジを生かしつつ展開。点滅するライトと、それによりバックに浮かび上がるシルエットというライティングも小気味よく、中野と小林が揃ってギターを抱えたままステージ前まで出てくるシーンとよりテンションを高めていく観客の姿も多幸感に溢れていた。
そこから間髪入れずに「FLOWER」へ。アルバムのなかでも爽快感のあるオルタナティブロックの同曲は、小林の観客に向けて語り掛けるようなヴォーカルや仕草、まだまだ快進撃を続けていくという決意表明を感じさせるサウンドがまぶしい。最後の一音が鳴りやんだ瞬間に入った観客の盛大な拍手も含めて、青い清涼感に溢れていた。
MCを挟まずに10曲を演奏し終えたふたりは、観客に向けて拍手や頭を下げるなどして感謝を伝える。その後中野がメンバー紹介をし、ツアーを回ったことで止まっていた時計が動き出した感覚を抱いたこと、メンバー同士の絆が深まったことを語ると、「新しくバンドを初めて青春が始まったような…ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。これをまた皆さんと一緒に育てていったら、幸せな人生です」と続ける。互いのバンドのカヴァーを行ったことに対して「今までの僕らが作ってきた楽曲は僕らの、そしてファンであるあなたたちの財産なので、これからも大切に演奏していく」と話すと、観客からは大きな拍手が湧いた。
中野からMCのバトンを受け取った小林は、THE SPELLBOUNDのヴォーカリストに立候補してから、中野にたくさんの学びや気付きを得、支えてもらった旨を語ると、「これから中野さんと一緒にいろんなものを見に行けるのかと思うと、僕すごく幸せです。中野さんは信頼できる仲間がいるけど、すごく孤独だったんじゃないかと思うことがあって…でも今は僕がいるので。安心して帰ってください。これからもTHE SPELLBOUNDをよろしくお願いします」と観客に呼び掛けた。
「アンコールのために引っ込むような予定調和なことはしたくなくて(笑)。もうちょっと楽しんでいってほしいので、今日もまた特別な曲を用意しました」と中野が告げ、メンバーが披露したのは「LAY YOUR HANDS ON ME」。BBSにとって最後の作品の表題曲である。イントロが鳴りしばらくしてから観客が拍手をしたシーンも美しく、中野の言う“止まっていた時計が動き出した”瞬間を目の当たりにした感覚だった。
「スカイスクレイパー」に続き、最後に披露したのはアルバムのラストを飾る「おやすみ」。音のひとつひとつにほとばしる、時が経つのを待たずに自分から明日を迎え入れるような、澄み切った強いエネルギー。ソフトなのに隅々にまで気迫が通ったその音に、身動きが取れなくなるほど囚われてしまった。演奏を終えると、中野は「最高の夜です。本当に名残惜しいです。また会う日まで。また会いましょう」と後ろ髪を引かれるようにステージを後にし、小林も観客の顔を見渡し真摯に感謝を仕草で表した。きっと彼らは、この曲の歌詞のように《行き先も知らないまま/星たちに連れられて》、《どこまでも》進んでいくのだろう。人生を掛けた彼らの旅はどこまでも気高く、清らかでナチュラルだった。
取材・文◎沖さやこ
『THE SPELLBOUND』
(1)豪華スペシャルBOXセット
アルバム(全11曲収録CD)、ライブ映像Blu-Ray('21年7月8日LIQUIDROOMライブ収録)、ハイレゾ音源ダウンロードキーカード、フォトブック
(2)アルバムCDのみ
(3)ライブ映像Blue-Rayのみ
店頭販売用<1形態>
(1)アルバムCD+ライブ音源CD('21年7月8日LIQUIDROOMライブ収録)
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◆アルバム『THE SPELLBOUND』配信リンク
◆『THE SPELLBOUND』BOXセット・CD・Blu-Ray購入ページ
◆THE SPELLBOUNDオフィシャルサイト
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