【インタビュー】Mrs. GREEN APPLE、約2年ぶり『Unity』完成「嘘がないように、今のありのままを届けたい」
■ミセスらしいコードチェンジがいっぱい
■サビなんか毎回コード進行が違うんですよ
──収録曲順としては前後しますが、先日ミュージックビデオが公開されたばかりの「ダンスホール」も、フジテレビ系『めざまし8』のテーマソングとして書き下ろされた曲ですよね。現代的なダンスミュージックとはひと味もふた味も違う、'70年代ソウルやファンクを感じさせるテイストが興味深かったです。
大森:番組側からのオーダーとしては、「朝だから爽やかに」といった話があった記憶はあるんですけど、そんなに細かなリクエストはなくて。
スタッフ:“毎日の朝を、元気に、前向きに”という歌詞のテーマがひとつあって、あとは番組のプロデューサーさんからのリファレンスとして、Mrs. GREEN APPLEの「Love me, Love you」が好きだというお話がありました。
大森:最初のミーティングでそういう話があったんですけど、ただ、今って戦争も起きているし、コロナもまだ収まっていないし、世界情勢的には圧倒的に“大丈夫じゃない”毎日じゃないですか。悲しいことだらけなんだけども、そんな中で毎日、朝に流れる音楽をポップに彩らなければならないとなった時に、無責任なポップではダメだと思ったんです。無責任な“大丈夫、そのままやっちゃえ!”ではなくて、“大丈夫って言ってみようよ”ということを歌おう、と。歌詞の中身は、前向きなことを言っている部分とそうでない部分とがあって、実はシニカルな側面もあるんですけど、“世界はダンスホールだから踊っていようよ”という内容にして。音楽的には、リファレンスに挙げていただいた「Love me, Love you」はビッグバンド的なショービズっぽい音楽ですけど、「ダンスホール」は、もう思い切りファンクにして。マイケル・ジャクソンではないけど、ああいう軽快な曲って、意外とこれまでミセスではやったことのなかったジャンル。それを、従来通りのオールドな感じにはならないように、ベースをちょっと打ち込みっぽくしてみたり、ドラムをすごく響きの少ないデッドな空間で録ったりして、なるべく今のデスクトップミュージックと融合したようなサウンド感にできるといいなと思って作っていきました。
──ちなみにみなさんは、以前からファンクやソウルは聴いていたのですか?
大森:いや、それが聴いてなかったんです。
──みなさんの今の年齢で、'70年代のファンクやソウルを聴くと、率直にどういう風に聴こえましたか?
大森:シンプルだよね。
藤澤:うん、シンプル。
大森:すごくシンプルで、もうグルーヴでしかない、というか。ジャクソン5もそうですけど、曲の構成うんぬんというよりも、とてもシンプルな中で、それぞれのフレーズのユーモアさが曲を彩っているという印象でした。でも、ものすごくテクニカルだよね?
若井:そうそう。そこが難しい。
大森:プレイ自体はとても技術的ですよね。
──特にファンクはギターカッティングのノリが肝になりますよね。
大森:カッティングに関しては、割と昔から若井が“イケますよ”みたいな顔をしているので(笑)、今回、“じゃあやってみようよ”という感じで(笑)。
若井:あはは(笑)。この曲は、リードパートもバッキングパートも、ほとんど僕が弾いているんです。元貴はベースとなるラインを弾いていて。
大森:すげぇ歪んでるギターが僕です。後ろのほうで幕のように鳴っていて、ちょっと音圧感を出しているギター。僕はそれしか弾いてなくて、チャカチャカ系のカッティングは、すべて若井がやってるんですよ。
若井:バッキングまで僕が弾いた曲は、ほぼ初めてなんじゃないかな。そうなった時に、この曲が持っている小気味の良さというか、身体が勝手にノッちゃうようなリズム感をカッティングで生み出すのはとても大変でしたけど、でもそれが楽しくもあって。あのカッティングの感じは、ジャクソン5とかいろいろと聴いて参考にしました。
──ミュージックビデオで披露したキレッキレのダンスは、まさしく活動休止期間中のダンスレッスンの賜物だと思いますが、そのダンスレッスンで身につけたリズム感も、特にこういうファンクな曲ではものすごく演奏面にフィードバックさせることができたのでは?
若井:めちゃくちゃ活かせたと思います!
大森:そう、究極の“楽器を持たない楽器練習法”みたいなものでしたからね。活動休止中にやったダンスレッスンは。
藤澤:本当にそうだよね。
──ピアノに関しても、もちろんクラシックとはまったく違うプレイスタイルですよね。
藤澤:そうなんですよ。こういう曲こそ一番難しいなと感じました。まさしくクラシックとはまったく違うので、とにかくもうみんなと呼吸を合わせて、ポップなんだけど、実はすごくタイトにリズムを取り続けることが肝でしたね。なおかつ、その中にミセスらしいコードチェンジがいっぱいあるという。サビなんか、毎回コード進行が違うんですよ。
若井:ミセスあるある(笑)。
藤澤:そこも頭にインプットしながら、でもリズミカルなプレイを心がけて。サウンド的にも、すごくありのままにギターとピアノの音が前面に出てくるので、そういった部分でも、今までのレコーディングとはちょっと違う感覚がありましたね。
大森:難しいことを考えずに聴いてもらえる曲って、今までのミセスの中にはあんまりなくて。そういう意味でも、すごく間口の広い楽曲になったと思います。実際に、“ミセスはよく知らないけど、この曲は好き”っていう声も耳にしていますし。そこはやっぱり、朝の情報番組とタイアップできたということも含めて、この曲を作ってよかったと思っています。さっき話はバンドのストーリーうんぬんとは全然違う流れで、純粋に“楽曲としていいものを作ろう”という明確な意図があっての制作でしたから、それが実現できたのでよかったなって思っています。
──もうひとつのタイアップ曲が、ゲームアプリ 『炎炎ノ消防隊 炎舞ノ章』テーマソングに起用された「延々」。これはドラムがすごく歪んでいたりして、ハードなバンドサウンドですよね。
大森:これ、パワー感があってカッコいいですよね(笑)。元々、2019年に僕らはTVアニメ『炎炎ノ消防隊』の第一期オープニング主題歌として「インフェルノ」を書き下ろしたんです。このTVアニメが、コロナの影響もあったのかもしれないですけど、世界中のすごく幅広い人たちにミセスのことを知ってもらえるきっかけになったんですね。そのゲームアプリが出るということで、またタッグを組ませていただくことになった時に、「インフェルノ」っていう僕らにとってもすごく大きな曲の次の一手として、「インフェルノ」のスピンオフ的な曲を書いてみたらどうなるのかなって考えたんです。そこで、例えば「インフェルノ」が赤い炎だったら、「延々」は緑の炎のイメージというように差別化をしていきながら、「インフェルノ」の制作時には、僕らがまだ表現できなかった、もっとガンガン突っ込んでいくビート感だったり、ギターがずっと16分で刻んでるようなクレージーなフレーズを入れていったらどうだろうか?という感じで作っていきました。だからこの曲は、“こういうものを作りたい”という明確なヴィジョンがあった感じではなく、その場で浮かんだアイデアをどんどん採り入れながら作っていった感じでした。
──ロックなバンド感もあれば、コンピューター上で波形を切り刻むことで生み出すエディット感も活かされていて、しかもリズムがトリッキーだったりして。
若井:2サビ後の間奏とか、そうですよね。
──そういうギミック色が満載の曲ですね。
藤澤:僕のピアノも、最初は普通に弾いて録ろうと思っていたんですけど、レコーディングの当日、若井がギターを録音している最中に、元貴と「このピアノ、打ち込みのほうが面白いんじゃない?」みたいな話をして。それで、若井がギター弾いている隣で、僕はパソコンに向かって自分のピアノフレーズを打ち込みで作ったんです。音のエフェクト処理まで自分でやって。クラシカルなフレーズをあえて打ち込みで鳴らすっていう、というまさしくギミカルなピアノになっています。
大森:メロディ的にはすごくヒューマニティが溢れているんですけど、プレイとしてはヒューマンな要素を完全に抜いたっていうところが面白いし、それをレコーディング当日に話したっていうのが、何よりヤバいよね(笑)。
──ラスサビで突然アコギが出てくる感じも斬新で。ああいうアイデアって、どうやって思い付くのですか?
大森:あれもスタジオで、その場で浮かんだアイデアですよ。「ここでアコギが入ってきたら、これ、頭おかしいでしょ」って(笑)。しかも、その後のアウトロを「インフェルノ」とまったく同じにするとか。キーは違うんですけど、アクセントの取り方が全部「インフェルノ」だったりするんですよ。
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