【ライブレポート】BUMP OF CHICKENの音楽はずっと友のようだった

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▲撮影:立脇卓

7月2日~3日の2日間にわたり幕張メッセで開催された<BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11>。「Silver Jubilee」というタイトルが示すように、1996年に結成されたBUMP OF CHICKENの25周年を祝すライブである。本来は今年2月に開催される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大状況を踏まえて延期になっていた。この日を待ち望んでいたのは観客だけではなく、バンドも同じだったのだろう。「こいつの誕生日に絶対にみんなに出席してもらいたかったんだ」── 私が行った1日目の公演で、ステージの背景に掲げられたバンドロゴを指しながら、藤原基央はそう語っていた。

▲撮影:立脇卓

派手な装飾とプレゼントが飛び交う盛大な誕生日会というよりは、音楽と、バンドと、観客が、とても深い場所でお互いの存在を祝い、慈しみ合うような、美しい空間だった。「アカシア」から始まったライブ。バンドはアンコールも含めると17曲を披露し、セットリストには最新曲の「クロノスタシス」や「Small world」もあれば、「リトルブレイバー」や「BUMP OF CHICKENのテーマ」などの最初期の楽曲まであった(未発表の新曲「木漏れ日と一緒に」も披露された。温かく神秘的な光に体を包まれるような素晴らしい曲だった)。ステージに立つBUMP OF CHICKENの4人── 藤原基央、直井由文、増川弘明、升秀夫の4人の姿は、25年の長きにわたり彼らが守り続けてきた、ひとつの変わらぬ魂の輪郭をなぞっていくような潔さと静謐さをはらんでいた。静謐と言っても、もちろん彼らはロックバンドだ。ときにつんのめるような疾走感と、獰猛なほどの熱気を滾らせながら。

▲撮影:横山マサト

▲撮影:横山マサト

▲撮影:横山マサト

▲撮影:横山マサト

「きっと後半の盛り上がりポイントでやるだろう、あるいはアンコールかも」と私が浅はかに予測していた「天体観測」は、いきなり3曲目に投下された。これまでのライブだったら観客の歌声に託していた部分を、観客が声を出すことを禁じられていたこの日も藤原は歌わなかった。演奏のあと、藤原はMCでこう語った。

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「世の中がこういう状況になっちゃう前に、君たちが、君が、歌ってくれていた部分があるよね。そこは、そのままにしておきたいと思います。例えば学校で、すごく通じ合える仲のいいたったひとりの友達が、やむを得ない事情でしばらくの間、学校を休まなきゃいけなくなった。その間、そいつの空席を、『早く学校来ないかな』ってずっと見ているような気持ちで、君たちが歌ってくれていた部分はそのまま空けておくつもりさ」

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ああ、このバンドは変わらない。変わり続けながらも、変わらない。「君たち」と言ったあとに、絶対に「君」と言い換えなければ気が済まないところも。見えないものを見ようとするのは、そこに何かあることを知っているからだ。それは、ときに星であり、ときに夢であり、ときに愛する人の横顔かもしれない。思えば、BUMP OF CHICKENの音楽はずっと友のようだった。いなくても、いてくれる、友達。

<そしてその身をどうするんだ>。私が初めてリアルタイムで買ったBUMP OF CHICKENのアルバムは『ユグドラシル』だったが、<そして>と歌い始める歌なんて、「オンリーロンリーグローリー」を聴くまで聴いたことがなかった。この世界で誰かが、ひとりぼっちで必死に生きようとしていることを前提にしていなければ、<そして>とは歌い始めることはできないだろう。この曲を初めて聴いたとき、「なんで知っているんだろう?」と感じた。まるで、それまでの私の毎日を知っているような歌だと思ったのだ。考えすぎて頭でっかちになって、それでも身動きはとれなくて、どうしたらいいかわからなかった私の毎日を、この歌はたしかに知っていた。もちろんBUMP OF CHICKENが私の頭の中を知っているわけはなく、彼らが知っていたのは、誰しもに朝に怯えながら眠る孤独な夜があること、そして、その孤独の尊さだったのだろう。この日のライブで私は初めて、「オンリーロンリーグローリー」を生演奏で聴くことができた。

物語の素晴らしさは、それに触れた人が、どんなにときが経ってもそこに「立ち帰る」ことができることだ。その人がその人の人生を生きることができるように、物語はいつもそこにある。友のように。灯台のように。ヘッドライトのように。BUMP OF CHICKENの音楽もそうだ。例えば、10代の頃にBUMP OF CHICKENの音楽に出会わなかった自分の人生を想像してみたとき、私は、今ほどに自分が「迷子」であることを受け入れて生きることができただろうか? そんなことを思う。受け入れる? たしかに、今だってそんなご大層なことはできていないのかもしれないが、しかしながら、暗闇を歩くような日々の上で、「どう生きればいい?」──そんな問いが頭をもたげたときに、自分と共にあったのは、「こうやって生きれば成功する」「これが正しい大人の姿である」といった、ヒエラルキーを上るためだけにしつらえられた雑な説明書のような言葉たちよりも、この自称「へなちょこバンド」が紡ぐ物語の主人公たちの姿であり、その物語と共に生きた自分自身の記憶だった。深夜に望遠鏡を担ぎ外に飛び出した少年少女たち、銀河鉄道に乗り込んだ哀しい瞳── 弱く、孤独で、しかし、小さな勇気や大きな夢を抱えた迷子の主人公たち。

歌を、物語を、ポケットに入れて歩く。私のポケットには魅力的な迷子たちがたくさんいるから、私も迷子であることに柔らかな誇りを持つことができた。この日、祝福されたのは25年の歳月を生きた円熟のロックバンドだけではない。この世界でBUMP OF CHICKENの音楽に触れてきた、あるいは彼らの音楽の中で描かれてきた数多の気高き迷子たちが、この日、祝福されたのだと思う。

▲撮影:立脇卓

▲撮影:立脇卓

▲撮影:立脇卓

アンコールの「BUMP OF CHICKENのテーマ」を演奏し終えたあと、ひとり、ステージに残った藤原は観客に向かってこう告げた。

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「27年、28年と、音楽をやっていきたいです。今まで、未来のことはあまり考えなかったです。でも、君たちが見せてくれる未来があります。曲を書いているスタジオで僕はひとりだけど、『この曲はいつかの未来に、君たちの、君の、耳に届くんだ』という未来を、君たちが僕に25年かけて教えてくれました。それは、僕の25年間やってきた中での宝物みたいな経験値です。本当にありがとう。これからもよろしくお願いします」

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▲撮影:横山マサト

文:天野史彬

■セットリスト

BUMP OF CHICKEN LIVE 2022 Silver Jubilee at Makuhari Messe 02/10-11
2022年7月2日[DAY 1]
01. アカシア
02. Hello,world!
03. 天体観測
04. なないろ
05. 宇宙飛行士への手紙
06. arrows
07. Small world
08. 銀河鉄道
09. リトルブレイバー
10. 乗車権
11. Aurora
12. ray
13. オンリーロンリーグローリー
14. メーデー
【アンコール】
15. クロノスタシス
16. 木漏れ日と一緒に
17. BUMP OF CHICKENのテーマ

2022年7月3日[DAY 2]
01. アカシア
02. Hello,world!
03. 天体観測
04. なないろ
05. ギルド
06. イノセント
07. Flare
08. 銀河鉄道
09. リトルブレイバー
10. 才悩人応援歌
11. Aurora
12. ray
13. ファイター
14. メーデー
【アンコール】
15. クロノスタシス
16. 木漏れ日と一緒に
17. ガラスのブルース
18. くだらない唄

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