【インタビュー】ヒトリエ、アルバム『PHARMACY』完成「“これを無視できるか?”っていう気持ち」
ヒトリエが6月22日にアルバム『PHARMACY』をリリースした。アルバムとしては新体制1枚目となった2021年2月発表の『REMP』以来、約1年4ヵ月ぶり。5月25日に発表されたシングル「風、花」に続いて2ヵ月連続作品リリースとなる。
◆ヒトリエ 画像 / 動画
2019年から現在のメンバー編成となり、その後も活動を重ねながら構築してきた“3人によるヒトリエ”をじっくり体感できるのが、最新アルバム『PHARMACY』だ。先行リリースされた「3分29秒」(TVアニメ『86―エイティシックス―』OPテーマ) 、「ステレオジュブナイル」、「風、花」(TVアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』EDテーマ)のほか7曲の新曲が収録された全10曲は、全曲の作詞をシノダ(G, Vo)が手掛け、メンバーそれぞれが作曲を担当。ソングライターとしての開花や個々のオリジナリティが高さがアルバムに色彩の豊かさを生み出している。“薬学” “薬局”を意味する『PHARMACY』について、シノダ、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)に語ってもらったインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■統一されているのは声とサウンド
■ポップスを意識するようになった
──アルバム『PHARMACY』を作るにあたって、何か具体的に考えていたことはありましたか?
シノダ:“次のアルバム、どうする?”っていう構想自体が、あんまりなかったんですよね。「風、花」「3分29秒」「ステレオジュブナイル」はアルバムに入ることになるでしょうというのがありつつ、“この曲は『REAMP』に入れる時期ではないな”っていう感じで前作に入れなかったものがあったり、それぞれが新しく書いた曲もあったんです。そういうストックのカードの中からデッキを組んだのが、このアルバムの10曲という感じです。
──3人のソングライターがそれぞれの作風を発揮するヒトリエが、今作によってさらに確立された印象があります。
シノダ:まさにその通りですね。そういう制作ラインの作業能率も上がりましたから。
──『REAMP』に収録するのを見送った曲に関しては、何らかの基準みたいなものはあったんですか?
シノダ:なんでしょうね? “良い曲だけど、なんか選考から外れた”みたいな直感的なことだったんですけど。
▲シノダ(G, Vo)
──今回のアルバム収録曲を聴いて、まずすごく思ったのは“ヒトリエは踊れるサウンドを奏でることに長けているバンドだ”っていう点なんですけど、どう思います?
シノダ:“ダンスビートとかモダンなビートってなんだろう?”っていうのはずっと考えています。でも、それは世の中のみんなも考えているようで、気づけば世の中の音楽って、同じようなビートばかりになってしまっているんですよね。
──そういうことを感じると、違う何かをやりたくなりますよね?
シノダ:さすがに嫌になって、違うものを提示したくなるというのはあります。そして、“いろいろな音楽を聴いてきた中で最終的に聴きたくなるのは、プライマル・スクリームの『スクリーマデリカ』、電気グルーヴの『A』だよな”とか。そういうことに気づかされたりもしました。その結果、“もういいや! 自分たちの好きなビート感で曲を作ろう”みたいな(笑)。ミニマルミュージック的なものへの憧憬もずっとあるので、そういうのをバンドに落とし込みたいというのはありましたね。
──『スクリーマデリカ』が挙がったのは、すごく納得させられるものがあります。
シノダ:1曲目の「Flashback, Francesca」とか特にそうだと思うんですけど。
──サイケデリックな浮遊感みたいなのがあるのが、「Flashback, Francesca」ですからね。
シノダ:こういうのをバンドサウンドでやれたのが、すごく良かったと思います。
ゆーまお:アルバムに関して、毎回“いろんな曲を入れました”みたいなことを言ってるけど、今回も本当にいろんな曲を入れたよね? 例えば「ゲノゲノゲ」を聴いてから「風、花」を聴いたら、全然違うテイストだから驚いてぶっ飛ぶと思うし。
シノダ:うん。「風、花」からヒトリエを聴くようになった人もいるだろうから。
ゆーまお:統一されているのは歌っている声とサウンド。でも、そういうところはありつつも、ポップスを意識するようにはなったのかなと思います。聴きやすくなったのかもしれない。
シノダ:そうだね。
──「風、花」はキャッチーですよね。こういう曲を入り口としてヒトリエを聴くようになって、様々なサウンドの心地よさに目覚めてもらえたら、すごく良いのでは?
シノダ:そうなったらしめたもんです(笑)。“いろんなサウンドの心地よさに気づいてくれたら嬉しい”っていうレベルじゃなくて、“気づかせる!”っていうくらいの感じです。“これを無視できるか?”っていう気持ちなので。それくらいのスピード感みたいなものを持った音楽じゃないと伝わらないですから。
──伝わる速度と密度の濃さという点で言うと、曲の尺がどれも大体3分くらいですよね。
シノダ:最近、世の中全体の流れとしても曲の尺が短いような気がしていて。2分台とかでも綺麗に終われる曲とかがありますからね。でも、2分台だとちょっともったいない。僕が作る曲は3分くらいになっています。
──最近のグローバルチャートの曲は、どれも3分くらいですから、世界的な潮流でもあるんだと思います。
シノダ:3分くらいって、ちょうどいいんでしょうね。
──イガラシさんは、アルバムの全体像に関して、どのようなことを感じていますか?
イガラシ:“ダンスミュージック”とおっしゃっているのを聞いて思ったんですけど、僕は今まで、ベースでメロディを弾こうとする感じがあったんです。でも、今回は「Flashback, Francesca」「ゲノゲノゲ」「Neon Beauty」とか、ベースでベースをやらなきゃいけないことが多くて。それが自分的に新しかったんですよね。
──オーソドックスなベーススタイルが新しかったと?
イガラシ:そうです。これまでも、自分なりに歌とかアンサンブルを支えているつもりでしたけど、いわゆるベースという楽器でバンドでやるような普通の役割ではないというか。それがさっき挙げた3曲はベースらしいベースプレイですよね。
──「Flashback, Francesca」は、非日常の浮遊感みたいなのをすごく味わえるサウンドですよね。このアルバムの前半、5曲目の「電影回帰」くらいまでは、そういう作風が特に発揮されているという印象です。
シノダ:僕のミニマルミュージック好きな面が出ているのが、その辺りなのかもしれないですね。1曲目「Flashback, Francesca」、2曲目「ゲノゲノゲ」、4曲目「Neon Beauty」は僕が作った曲ですし。でも、ただのミニマルではなくて、歌ものに落とし込みたい気持ちもどこかにあるんです。「Flashback, Francesca」は作り始めてから、“どう着地するのかな?”って少し不安になる瞬間もあったんですけど、そこら辺が上手いこといった感じがあります。
──「ゲノゲノゲ」も独特な作風ですよね。和メロっぽいけど、コサックダンスを踊りたくなるようなテイストで、無国籍ダンスミュージックっていう感じがあります。
シノダ:これは頭の中にメロディが浮かんできて、“とんでもないのが降りてきたな……”って思いました(笑)。あまりにもふざけ過ぎていたけど、みんなに聴いて欲しくてデモとして残したら、思いのほか好感触でこうして形になりました。
──“ふざけた感じだけどカッコいい”って、ヒトリエの作風として挙げられるものの1つだと思います。
シノダ:ここまでふざけたことはなかった気もしますが(笑)。でも、上手いこといきましたね。“このメロディ、一回聴いたら覚えるだろうな”っていうのもありますし。
──子供が無邪気に口ずさむタイプの曲なのかも。3歳児くらいが保育園で“ゲノゲノゲ”とか歌いながら飛び跳ねて保母さんに心配されたら、実に素晴らしいじゃないですか。
シノダ:いいですね(笑)。この曲、ロクなこと言ってないですから。
──絶妙なポイントで入るベースのスラップも気持ちいいです。
イガラシ:あれはシノダさんが「やれ」と言うので(笑)。ベーシスト的じゃない発想というか、舞台装置みたいな感じが反映されたトラックだと思います。
──ロックバンドのアンサンブルとはまた違ったスタイルの構築ですよね。
シノダ:そうですね。この曲に関しては“テクノを作ってやろう”っていうのがあったんです。実際にギター、ベース、ドラムの演奏が土台にありつつ、新しいテクノポップというか。“よくわからないけど、わかりやすいものを作りたい”みたいなのがありました。急に入るスラップとか、ドラムソロのパートとか、要するにサンプリングを差し込むようなアプローチなんですよね。
──DTM的なものを感じます。
シノダ:今回、DTMは特に駆使しましたから。そういうのもありつつ、終始ナンセンスなことをしたかったのが、この曲です。歌詞に関しても“よくもまあ、こんなにも意味のないことをつらつらと言えたもんだ”って思っています(笑)。
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