【インタビュー】MUCC、25周年と新章を飾る『新世界』完成「今までにない空気感…LOVE&PEACEの“PEACE”の部分がある」
■全く逆のものがぶつかって新しいものになる
■という共通したコンセプトが今回はあった
──いろいろなミラクルが重なって生まれた作品なんですね。これまでもMUCCはジャンルを問わない音楽性でしたが、今回はラウドロック、パンク、レゲエ、ブルースやジャズなど、それぞれのジャンルの様式美をあえてサンプリング的に取り込みながら、全く新しいものを生み出しています。例えば「零」はメタル調のツインギターソロが耳に残りますが、曲全体としてはメタルという印象は受けません。新曲群を更に掘り下げていきたいんですが、ミクスチャーとジャズが融合したような「COLOR」はYUKKEさんによる作詞作曲ですね。どのようにして生み出されたのでしょうか?
YUKKE:ちょうど逹瑯のソロを聴いていて、まぁMUCCでも以前からラップを歌うことはもちろんあったんですけど、“取り入れてみてもいいな”と思ったのが、まず一つあって。あと、自分もラクに聴きたい音楽というか。意外とジャズ喫茶とか好きで、ウェス・モンゴメリーとかのレコードも聴きますし、そういった曲調に一つ自分のやりたいこと、語りというかポエトリーを乗せたものをやってみよう、というところから始まり。自分でつくっていた2曲を1曲に落とし込んでみたら面白くなった、というのが「COLOR」でした。
▲ミヤ(G)
──歌詞は、いつもよりずっと時間を掛けて書かれたそうですね?
YUKKE:そうなんです。今回自分としても初めて書く時に視点を変えてみたんですよ。これまで何曲か書いてきたものは、自分自身のすごくパーソナルなことを書いていたんですけど、たまたま今というこのタイミングなのもあるし、初めて“外を向いて書いてみようかな?”という気で取り掛かってはいて。
──言葉選びは難しかったですか?
YUKKE:言葉選びもそうだし、そう意気込んだ最初の作品ではあるんですけど、そうは見えないような、どこか余裕は持ちたいなという気もしていて(笑)。だから言葉遊びもできれば入れてみたいな、という気持ちもあったし。そういう作業に時間が掛かってしまったので、素直につらつら書けたというよりは、ちゃんと考えて落とし込んでいった気がします。でも出来上がりは“良かったな”と思っていますけどね。
──ミヤさんと逹瑯さんは、YUKKEさんの「COLOR」の歌詞をどう評価していますか?
逹瑯:面白かったんじゃないですか? 俺とミヤのどちらかがこの曲の歌詞を書いてたら、良くない意味ですごく馴染んじゃうんじゃないかな?って。この浮き方がすごく良かったと思います。俺が書いたら、たぶんすごく馴染ませちゃうと思うので。
ミヤ:この曲はケンドリック・ラマーと、フライング・ロータスとエミネムを足したような曲にしたかったんですよ。でも、圧倒的にそうはならないのがこの歌詞の強みかな?と思いますね。それはMUCCらしさにもなっているし。俺とか逹瑯が書いてたら、さっき逹瑯が言ったように馴染みのいい感じになって、ミクスチャー感を強く感じる曲になっていたと思う。なんかこう、俺的には“歌詞だけJ-ROCKっぽいな”という感じなんですよ、悪い意味で。それがハマりがいいんですよ。
──結果的に面白いバランスになっている、と?
ミヤ:J-ROCKっぽい歌詞をJ-ROCKに乗せても何も面白くないじゃないですか? 真逆だからいい。今回そういう対比は他の曲でも多くて、例えば「星に願いを」というタイトルでミクスチャーだったり。そういうのっていいですよね。全く逆のものがぶつかって何か新しいものになる。古いものと新しいものがくっついて新しい物が生まれる、という共通したコンセプトが今回はあったし。『新世界』というタイトルも、新しいという言葉だけど何か懐かしさもある。昔のリバイバル、オマージュをしているんだけど新しいとか。今回リンプ・ビズキットのフレーズをそのまま弾いてる曲があるので、そういうのも見つけてみてほしいですね。
──1曲目の序曲的SE「新世界」は、地獄の門に辿り着いたらその先に天国の扉があった、というような…。
逹瑯:あはは!
──短い中にも、そんな情景が浮かびます。
ミヤ:でも、簡単に言うとたぶん、本当にそうです。不安から何となく希望の光が、夜明けが見えてきた、みたいな感じですね。
──どの段階で出来た曲なんですか?
ミヤ:最後の最後、アルバムの工場マスターの納品の前日です。だから、盤にしか入ってないんです、SEは。配信にはないです。
──では、盤を買うモチベーションになりますね。
ミヤ:最後の最後に思いついちゃったので、単純に間に合わなかったんですけど。
──今作の大半の曲に“世界”という言葉が出てきますが、作詞の段階でメンバー間の擦り合わせはされたんですか?
逹瑯:俺は今回、『新世界』というアルバムタイトルが決まってから、コンセプトアルバムに近い感じでそこに向かっていってもいいかな?と思って歌詞を書いていました。
──古い世界と新しい世界の対比とか、古ければ悪いのか、新しければいいのか?という問い掛けを歌詞から感じますが、そこについて逹瑯さんも自問自答をしながら?
逹瑯:普段から別にそんな難しいことを考えてないですけど、何が良くて何が悪いのか?とあえて考え出すと、悪いと思っているものが、人によっては良いと感じるものもあるし。コロナで世の中が止まって、それは“良くない”方向みたいな感じになりましたけど、自分に置き換えてみると、止まった段階の時って、メンタルだったりフィジカルだったり、いろいろなものを整えられた時期でもあったんですよね。だから“悪いことばかりが起きたわけでもないな”という気がしていたり。『新世界』というアルバムタイトルがあって、今の世の中の感じを見ていった時に、歌詞がそこへと向かっていったんです。いつもだったら曲ごとにバリエーションを考えて、バランスを取りながら歌詞を書くんですけど、今回はあえて“その一点に向かっていく感じでもいいや”と思って書いた曲が、個人的には多いですね。
──なるほど。「WORLD」は既発曲ですけど、アルバムの最後に置くのは初期段階から決まっていたんですよね?
逹瑯:そう。もう決まっていたので、そいつが押さえてくれるから他は結構好きに書いてもいいな、という安心感がありました。
──「WORLD」は、まだ戦争が始まっていない時期だったのに、まるで今を予見しているようで、時代とのシンクロニシティを感じます。
ミヤ:このアルバムには、今までにない空気感が何かあるな…と思っていたんですけど。もしかしたら、“LOVE&PEACE”の“PEACE”の部分は、これまでのMUCCになかったのかも。それが今回はあるかもしれない。LOVE&PEACEを掲げて歌ったことはないですけど、それって別に実際に歌う/歌ってないの話じゃなくて、気分の問題で。だから今回はサイケデリックになっていったのかもしれないですね。やっぱり、ロックの原点に立ち返ってるんですね。今、自分ですげぇそう思っちゃった。
──「パーフェクトサークル」とか、サイケデリックですもんね。
ミヤ:サイケデリックというか、あの曲は俺的にはブルースなんですけどね。ブルース、ゴスペルっていうのはすごく出したかったです。
──反戦アルバムとは言わないまでも、「いきとし」の歌詞もそうですが、弱い立場の人たちが傷付くことへの憤り、そちら側に立つ姿勢が出ている気がしますが、どうでしょうか?
ミヤ:それを“どうにかしたい”と思って書いたわけではなくて、“大丈夫かな?”という気分のほうが強い感じですかね、「いきとし」に関しては。“まともじゃねぇぞ?”っていう。まともじゃないけど普通にしている今のこの日本…まぁ、今はいろいろな国でそういう感じになってると思うし。すごくマズい、大変な状況になっているのに普通にしていられる、この変な感じに対する違和感ですね。でも何かできるか?と言ったら、曲をつくるぐらいしかできないから、曲をつくってみた、というだけの話で。
▲<新世界完全再現>2022年6月9日(木)@神奈川・CLUB CITTA’
──「Paralysis」は麻痺状態を意味する言葉ですが、その言葉の選択にも繋がっているんでしょうか?
ミヤ:麻痺ということに関して歌詞を書きたいな、と思って調べたら出てきたのが、その言葉でした。あまり普段やらないような英詞のサビにしたくて、その導入にしたいな、何かいい響きの単語出てこないかな?と思って探したら、これが出てきて。あまり聞いたことがないけどなんかいいかな?と。分かりやすくする気もなかったし。
──“麻痺してるな”と感じるのは、ミヤさんにとって具体的には何だったんですか?
ミヤ:やっぱりコロナになって、麻痺してきている感覚のものもすごくあって。それって良くないな、と思った部分ですかね。例えばマスクをしている日常って、今まではなかったじゃないですか? そういうことです。もちろん、マスクをしたほうが風邪をひかないし、手洗いとうがいはずっとしていくべきなんですよ。でも、それってやっぱり新世界なんですよね。その新世界がいい悪いは別として、確実にいろいろなところに散らばっているから。意外と近くにいると麻痺して気付かないなっていうこと。歌っている感情としてはすごく曖昧です。でもそれにパッと気付いた時に“あ、これって今までだったら絶対ありえなかったな”とか結構あるし。そういった意味でも“これが新世界なんだな”という気はしました。
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