【ライブレポート】眉村ちあきが只者ではないことを証明した全国ツアー追加公演
最新アルバム『ima』を引っ提げて3月5日のF.A.D横浜公演を皮切りにスタートした全国ツアー<CHIAKI MAYUMURA Tour“ima”>。6月2日に追加公演が行われたZeep Hanedaは、最高に楽しい空間だった。眉村ちあき(以降、“ちちゃん”)が只者ではないことが改めて証明されたこのライブの模様をレポートする。
「ピンポンパンポ~ン」──聴き慣れた声が響き渡り、いきなり始まった開演前のアナウンス。注意事項を読み上げる声にやたらとエコーがかかっていて、時折妙なところで途切れたりもするのは、空港内のアナウンスをイメージしたのだろう。観客同士で気遣い合いながら楽しむ精神を「アメリカ人のような心で」と表現している意味がよくわからない。しかし言いたいことのニュアンスはなんとなくわかる……という彼女のライブならではの独特なムードの片鱗を早くも体感したマユムラー(眉村ちあきファンの呼称)は、舞台裏でウキウキしているに違いない本日の主役に大きな拍手を届けていた。
ピザ神様なのだと言い張るちちゃんが、「どのピザに降臨しようかな?」と思案した末に、旅客機から飛び降りたオープニングムービー。すると、ステージ中央奥の石窯の中からピザ神様が登場した。「トロけたナチュラルチーズを模したオブジェで彩られたZepp Hanedaのステージが、神様に選ばれたピザだったんだ!」と大喜びするマユムラーに向けて放たれた1曲目は、「モヒート大魔王」。しなやかに踊り、飛び跳ねたりもしつつ歌う姿が実に活き活きとしている。2曲目「この朝を生きている」がスタートした頃には、会場いっぱいに清々しいエネルギーが満ち溢れていた。
「ダンスMIX」とでも称したくなるくらいの勢いで様々な曲が一気に披露された序盤。ほのぼのとしたムードを醸し出した「愛でほっぺ丼」は、シンセサイザーのサウンドがかっこいい「愛でられほっぺ」へと転じた後、無国籍サウンドを炸裂させた「なまらディスコ」、「頭の中に5歳児飼ってる?」という言葉が無邪気な盛り上がりを加速した「東京留守番電話ップ」、平時であれば大合唱するマユムラーのエネルギーが手拍子に全集中されていた「ナックルセンス」へと次々雪崩れ込んでいった。そして、怒涛のこのブロックを締めくくったのは「individual」。オペラの発声法も交えつつ、先の読めない展開を遂げ続ける様が、本当にドラマチックだった。前衛的な曲のはずなのに、キャッチー極まりない印象になっていたのはなぜなのか? その理由を端的に説明するならば、「ちちゃんはすごいから」ということに尽きるだろう。スリリングなサウンドを楽しみながら乗りこなせる歌唱力、動きのキレが衰えない高い身体能力が、ぶっ飛んだ曲を輝かせる様に息を呑まされた。
「シュリティカルマジック」のトラックが流れたので歌い始めるのを待ち構えていたら、「やめるわ、この曲」と突然ストップボタンを押したちちゃん。「ツアーで何回もやってるから飽きちゃった」というのが理由らしい。「飽きちゃったって自分で曲を作ってるから言えるけど、そんなこと絶対に言っちゃ駄目だよね?」と、意外と常識人なのかもしれない一面を垣間見せていた。そして、明るいサウンドを伸び伸びと躍動させた「告白ステップス」、聴きながら鶏の唐揚げを食べたくて堪らなくなった「KARAAGE WARS」……さらに2曲が届けられてから迎えた小休止。「こんなにぶっ通しで曲をやるのは珍しい。このツアーは心を入れ替えて……一新した心で? ライブバージョンのアレンジとか、いっぱいやったの」と、怒涛の序盤に関して説明した後、「陽気な眉村ちあきでも、眠れない夜があるんですよ。睡眠って人間には結構必要らしい。でも、私は寝るのがあんまり好きじゃないの。だって暇じゃん?」と、次の曲へと繋ぐMCを始めたのだが……うっかりスマホのアラームを鳴らしてしまうまマユムラーが発見されたり、朝食を作ろうとしたらプロテインの袋が燃え始めて驚異の肺活量で吹き消したエピソードが紹介されたり、自分同様に電車を乗り間違えるマユムラーが少ないことにがっかりしたり、「ウチら似た者同士じゃん?」と言うべきところを「ウチら同一人物じゃん?」と言ったり、話がとっ散らかり始めてしまったのであった。しかし、本人はさほど気にしていないのが、いつものことながら面白い。「早く寝なきゃ!って思えば思うほど寝れないじゃん? そんな時期がずっと続いた時に、子守唄みたいな曲が欲しいと思って作りました」と言い、そこそこ自然な話の流れを取り戻して披露された「寝かしつけろ」は、ひとくちカリカリ梅の袋をカサカサさせる音をマイクで拾う遊び心を加えつつ、清らかなハーモニーを響かせていた。
「フリースタイルハンドメイド」がスタートした直後、「ブツブツちあきTシャツ3」と「ブツブツちあきショートパンツ3」が猛烈に似合っていた堂島孝平が登場。先日、2マンで共演した際にちゃんと歌わなかったこの曲がついに音源に忠実な形で披露されたので、マユムラーは大喜びしていた。そしてシークレットゲストの堂島にお礼を言いながら一緒にステージから姿を消した彼女。「どうしたのかな?」と思いながら待っていると、ステージに大きな箱が運び込まれた。種も仕掛けもないことが我々に示されている点から察するに、登場した男性は奇術師らしい。後の説明でイリュージョニストのYUSHIであることが判明した彼が鮮やかな手さばきで操った箱からちちゃんが現れ、大喝采と共にスタートした「壁みてる」。4人組ダンサー・ゆうき、すずか、れいな、りなが加わった「顔ドン」。ダンサーチームと並んだちちゃんがダンスボーカルユニットのような華麗なパフォーマンスを繰り広げた「BEAT UP」……スペシャルな要素の連発から片時も目を離すことができなかった。
各地のマユムラーに会えてツアーファイナルを迎えられたことの感動を、ミュージカルテイストのパフォーマンスで壮大に表現した「夢だけど夢じゃなかった」の後、鳴り止まない拍手を浴びながら「そんなに良かった?」と大喜びしたちちゃん。「尊い! 推すわ、みんなのこと! どこにお金出したらいい? グッズとか買うわ! ……っていう曲をやります。あなたの推しのことを考えながら聴いてください」という言葉を添えて歌い始めた「Lovely days」は、温かい愛で客席にいる人々を包み込んでいた。そして、このツアーを通して歌が上手くなった気がする旨などを語る言葉がいつの間にかメロディを帯び始め、加わった手拍子が即興をさらに加速させてから「ピッコロ虫」がスタート。予測不能な展開を楽しみながら臨機応変に対応できるマユムラーの素晴らしさを再確認させられた。
無邪気に楽しむ人々の背中を押す「脳みそに5歳児飼えー!」というメッセージを添えつつ歌い始めた「大丈夫」。全身で歌声を響かせる様が圧倒的だった「悪役」で締めくくられた本編。アンコールを求める手拍子に応えて再登場したちちゃんは、オリジナル TV アニメ『ちみも』オープニング主題歌となった新曲「マルコッパ」について語った。アニメで流れる90秒音源のレコーディングは、約2年前に終了していたのだという。情報解禁を守り通すことができた自身の成長を讃えつつ披露された「マルコッパ」は、マユムラーと手を振り合いながら歌う風景が平和そのものであった。
アコースティックギターを爪弾きながら、改めて想いを語った彼女。「あんまり満足させるとファンは他界する(他界=ライブに来なくなるという意味)から絶妙なところで終わらせる女になりたい」「物理的にマユムラーに触ってベロベロ舐めたい」「心に5歳児を飼ってるから、どんな時代でも生きていける」「事務作業とかを何もせずに公園で遊びたい」……溢れ出る気持ちをダイレクトにのせた即興の歌は、時折のぶっ飛んだ言葉で我々を笑わせつつも、不思議と胸を打つものがあった。そしてラストに届けられたのは「旧石器PIZZA」。「心のウォーウォーをウォーウォーさせて!」── 曲の終盤で放たれた言葉は、マユムラーの心の震えを大合唱のような瑞々しい波動へと転じているのを感じた。
ゆうき、すずか、れいな、りな、YUSHI、堂島孝平──ゲストの人々をステージに招き入れた記念撮影の後、ライブは終演を迎えた。アコースティックギター、エレキギター、パソコンを操作して流すトラック、歌、ダンス、即興……ゲストが登場した曲以外は1人でパフォーマンスを繰り広げたこのライブは、会場に集まったマユムラーにとって忘れられない思い出になったに違いない。ユニークな要素も盛りだくさんだが、彼女のライブの楽しさには本当にかけがえのないものがある。そして改めて強調しておきたいのは、歌が圧倒的に上手く、表現力が半端ではないということだ。少しでも気になっている人は、ライブ会場に足を運ぶべきだと思う。
取材・文:田中大
撮影:樋口 涼
■セットリスト
2022.06.02 Zepp Haneda
1.モヒート大魔王
2.この朝を生きている
3.愛でほっぺ丼〜愛でられほっぺ
4.なまらディスコ
5.東京留守番電話ップ
6.ナックルセンス
7.Individual
8.告白ステップス
9.KARAAGE WARS
10.寝かしつけろ
11.フリースタイルハンドメイド(Guest:堂島孝平)
12.壁みてる
13.顔ドン
14.BEAT UP
15.夢だけど夢じゃなかった
16.Lovely days
17.ピッコロ虫
18.大丈夫
19.悪役
EN1.マルコッパ(新曲)
EN2.旧石器PIZZA
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