【ライブレポート】Hakubi、「あなたの背中を少しでも押せるなら押したい」
2017年の結成直後からストレートな歌詞と瑞々しいギターロックサウンドが話題を呼び、年々活動の幅を広げ続けている京都発のスリーピースロックバンド・Hakubi。3人が2022年3月から4月にかけて<巴・粉塵爆発ツアー>を開催。4月7日にそのセミファイナル公演がSpotify O-Crestにて開催された。
◆ライブ写真
このツアーは全箇所が、切磋琢磨していきたい同世代のバンドと、各ライヴハウスがプッシュする地元のバンドとともに行うスリーマンライヴ。昨年開催された全国ツアー<極・粉塵爆発ツアー>やワンマンツアー<傾・粉塵爆発ツアー>と比較して、キャパシティの小さい会場が多い。バンドの勢いが増しているこのタイミングだからこそ、今一度バンドの原点であるライヴハウスへと立ち返る──ひとつひとつの物事と過剰なくらい真剣に向き合っていくHakubiにおいて、そのメンタリティは非常に腑に落ちる。自分たちの大切にしたい文化をあらためて噛み締めるだけでなく、それを自分たちの音楽を愛する人々と共有したい。セミファイナル公演も、そんなピュアな思いが迸るステージだった。
O-Crest推薦のFusee、滋賀の同世代の先輩バンドであるclimbgrowの熱演のあと、グレゴリー・アンド・ザ・ホークの「Oats We Sow」をSEにHakubiのメンバーがステージへ登場。この日を迎えられた喜びを高らかに叫んだ片桐(Vo,G)が「ちゃんとあなたに届けます!」と告げると、マツイユウキ(Dr)のドラムカウントから初期曲「辿る」でライヴをスタートさせた。片桐は真夏の水しぶきのような、清涼感を帯びた熱量をギターと歌で繰り出し、ヤスカワアル(B)はクールな佇まいで集中力の通った低音を奏で、マツイは軽やかかつ安定感のあるリズムで弦楽器隊のグルーヴを引き立てる。
言葉に一言一言命を吹き込むように歌い、情景を瞳に焼き付けるように観客の表情を見渡す片桐の姿からは、大げさではなくこのステージに全身全霊で向き合っていることが痛いくらいに伝わってくる。観客もその思いに応えるべく固く握った拳を掲げ、冒頭から会場には力強くも優しい一体感が生まれていた。
「どんどん行きます!」という片桐の一声で片桐とヤスカワが一斉に身を乗り出し、「どこにも行けない僕たちは」。これまでにShibuya O-EASTや渋谷CLUB QUATTROといった会場でワンマンを経験しているバンドゆえ、発信される音の密度が高い。3人が丁寧かつ強靭に音を繰り出すのと同じく、観客もその音を取りこぼさないようにと全身でそれを受け止めてゆく。時勢的に歓声でコミュニケーションは取れないが、だからこそ3人の音に観客の思いが染みわたり、より強固なものになっていたのかもしれない。
静と動のグラデーションで織り成すミドルテンポのポップソング「Friday」で一旦クールダウンすると、片桐は今回のツアーを企画した経緯について話し始めた。去年のワンマンツアーを回るなかで、その土地で活動するバンドとその土地を盛り上げたいと思ったということ。さらに自分たちのリスペクトするバンドを交えて、3組で伝説のような1日を作りたいということ。対バンライヴの面白さを知ってもらいたいということ。それを語る彼女は、とても充実した表情を浮かべていた。
「いろんな毎日があるなかで、ライヴハウスにたどり着いてくれて本当にありがとうございます。わたしたちは今しか言えないこと、今しか歌えないこと、あなたに今届けたいことを全部届けていきたいと思います。ひとりも置いていきません。「在る日々」という曲をあなたに」
片桐がそう話し披露された同曲は、大事な人たちを守るべく強くあろうとする、光になるべく立ち向かっていく彼女の姿が非常に印象的だった。特にその後演奏された「栞」は、今のHakubiが音楽を奏でる理由そのものだろう。リズム隊も言葉にはせずとも音でそれを表現していく。眩しいくらいに透き通った思いを、恐れることなく伝えていく3人の姿は、とても凛としていた。
対バンからの刺激をもらってステージに立っているだけでなく、「あなたとも対バンをしているつもりでやっています。いい日です。すごく楽しいです」と語る片桐。「こんなことを笑顔で言える日が来るとは思いませんでした。すごくいいツアーを回れていると思います」と続けると、「落ち込むこともあるしまだまだやけど、やっとこの1年2年で支えてくれることの大切さ、バンド仲間の大切さ、ライヴハウスがある幸せを身に染みて感じることができるようになりました。そこでわたしたちと目を合わせてくれるあなたがいることが本当に幸せです。まだまだやけど、あなたの背中を少しでも押せるなら押したいと思えるようになりました」と気持ちをまっすぐ言葉にしていった。
「この曲の意味も変わった」と言い歌い出した「mirror」で、彼女は歌詞の一部を今の心情に変えて歌に乗せた。間奏でも “あなたがそこにいてくれるから言いたいことがたくさんある” とひたすら呼びかける。充分すぎるくらいに思いを届ける彼女と、その思いをよりドラマチックに彩るリズム隊。会場は彼女たちの愛で溢れかえっていた。
ラストは「光芒」。曲が進めば進むほど歌もバンドの演奏もエモーショナルに拍車を掛け、そこに感化されるようにフロアも高らかに拳を挙げた。このライヴ中、突如彼女に喉の異変が降りかかったが、彼女は最後までそれを感じさせない歌を全身から、さらには心の奥底から絞り出していた。“あなたがいたから歌えたよ”という言葉は紛れもない事実だ。
生憎ツアーファイナルとなる京都MUSEは彼女の体調不良により延期になってしまったが、Hakubiは細かいところまで意識を通わせ、様々な思いを感じ、それを大きな愛でもって我々に返してくれるバンドである。延期を経て、より深いところまで思いを届けてくれるはずだ。まだまだ3人は大きなバンドになっていく。それを確信した1日だった。
取材・文◎沖さやこ
写真◎翼、
セットリスト
2.どこにも行けない僕たちは
3.Friday
4.在る日々
5.栞
6.mirror
7.光芒
2022年第1弾 配信シングル「Twilight」
▼「Twilight」Pre-add、Pre-save事前登録サイト
https://lnk.to/hakubi_twilight
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