【ライブレポート】神はサイコロを振らない、初の日比谷野音ワンマンで「何億光年先までみんなと駆け上がっていきたい」
神はサイコロを振らないが3月20日(日)、東阪野音ライブ<最下層からの観測>の東京・日比谷野外大音楽堂公演を開催した。
◆神はサイコロを振らない 画像25点
彼らにとって初の野外ワンマンであり、過去最大規模の会場。冒頭数曲を終えたあとのMCで柳田周作(Vo, G)は「すごい……見たことのない景色です」と感動している様子だったが、その後付け加えたのは「緊張や不安は一切ないし、楽しみしかないです」という頼もしい言葉。そんな彼と想いを共にする吉田喜一(G)、桐木岳貢(B)、黒川亮介(Dr)も終始充実の表情で演奏していて、楽しげに、しかし逞しく、野音を揺らす4人の姿が印象に残った。
東阪野音ワンマンに臨むにあたって、神サイ史上最も長いセットリストを用意したという。彼らのライブは、メンバーが鳴らす生のバンドサウンドに、曲の美しさを一層引き立てる照明演出や同期のストリングスなどを重ね合わせる方式だ。丹精込めて制作した音源にある構築美も尊重しつつ、時にはライブならではのアレンジも加えながら、今この瞬間だから湧く感情にも身を委ねていく。プレイヤーとしてのそれぞれの個性、各曲のスパイスとなり得る要素も明瞭に伝わってくる。
神サイの一つの持ち味といえばバラエティ豊かな楽曲群、その振れ幅の幅広さであり、アッパーチューンは身を賭すように激しく、バラードは物語を丁寧に紡ぐように演奏された。例えば、前曲の残響音が残るなか、駆け上がっていくストリングスがスリリングに感じられ、その後展開されるバンドのアンサンブルがもっとスリリングに感じられたのは「イリーガル・ゲーム」で、ステージ上では炎がゆらめき、スモークが充満する。恋する人の微細な情緒を柳田がその歌で表現したのはバラード「あなただけ」で、曲終わりの静寂を野音全員で共有する時間も含め、非常に豊かな演奏だった。
3月2日にリリースされたばかりのメジャー1stフルアルバム『事象の地平線』から多くの楽曲が披露されたこの日。神はサイコロを振らない×アユニ・D(BiSH/PEDRO)×n-buna from ヨルシカによる「初恋」、アルバムには、神はサイコロを振らない×キタニタツヤによる「愛のけだもの」などコラボ曲も収録されているが、「初恋」ではなんとボーカルとして同曲に参加したアユニ・Dがサプライズで登場。柳田から「おいでくださいませ、姫!」と呼ばれたアユニ・Dが姿を見せると、会場中が喜びの拍手でいっぱいになった。神サイとアユニ・Dの5人で「初恋」を生披露するのは、2021年7月に大阪で行われた神サイとPEDROのツーマンライブ<GM+>以来2度目。本当に貴重なコラボなのだ。そして「ここまでライブを観ていて、神サイさんと神サイさんのファンのみなさんの愛で溢れているなあと思いました」とアユニ・Dが語ったあと、披露された「初恋」。対面し、呼吸を合わせながら歌う柳田とアユニ・Dのハーモニー、そしてその歌をより特別なものにさせるバンドのアンサンブルが夜空へと響いていった。
2020年春頃より「夜永唄」が急速に広まっていき、その勢いを追い風に2020年7月にメジャーデビュー。そして先述の通り、今年3月にメジャー1stフルアルバム『事象の地平線』を発表した。こう書くと順風満帆に聞こえるかもしれないが、今日に至るまでのバンドの歩みは決して平坦なものではない。いわゆるバンドワゴン時代も経験してきたし、自分たちの音楽をどう届けていくべきか悩んだ時期もあった。柳田曰く、今は「僕らの音楽がいろいろな人に届くチャンスが巡ってきた」タイミングであり、それに見合う結果をしっかり出していきたいという気持ちなのだという。
<最下層からの観測>にある“最下層”とは、「日の当たらない場所で終わりのない旅をしていた感覚だった」というインディーズでの5年間、メジャーデビュー以降も染みついている劣等感を象徴するワードだとのこと。そんなライブタイトルを背負いながら、柳田が音楽を始めた13歳の頃、神サイを結成した19歳の頃に焦点を絞った自伝的な楽曲「パーフェクト・ルーキーズ」を野音に突きつける様は痛快で、黒川の力強いビートを筆頭に、一音一音をこの場に刻みつけるようなメンバーのプレイが、一歩ずつ地道に重ねてきたバンドの道のりを思わせた。その力強さをバネにしつつ、開放的なテンションを伴いながらライブは展開。「タイムファクター」では、今はシンガロングできない観客の“心の声”とともに希望を内包した音像が広がっていく。
会場は晴れやかな空気で満たされているが、彼ら自身が「元々は独りよがりなバンドだった」と自称していた時期=数年前に神サイのライブをよく観ていた身からすると、清々しい表情で客席を見渡すメンバーの様子も、「今までも思い出深いライブはありましたけど、こんなに幸せなライブ、こんなに幸せな景色は初めてです。みなさんありがとうございます」という柳田の発言もにわかには信じ難い。MCでも話していたように、拭えない劣等感はあるかもしれないが、今の彼らのライブからは目の前の人を信じる気持ち、バンドを信じてついてきてくれた人たちをいい方向に引っ張っていきたいのだという意志が感じられる。彼ら自身が変わろうとして変わった部分もあれば、ファンやスタッフなど、他者の存在によって溶けたものもあったのだろう。ロックバンドとして手にしたラブ&ピースの心で以って鳴らされた「LOVE」には、「どうか争いのない、戦争のない世界で、共に平和な日々を僕らと一緒に紡いでいきましょう」(柳田)という願いが込められた。
「ロマンチストみたいなことを言いますけど、この雲の上、何億光年先までみんなと駆け上がっていきたいなと。みんながフルパワーで、僕らに愛をぶつけてくれれば、この曇天を突き抜けて、眩しすぎて見えないよってところまで行ける気がします。僕らとみなさんは、どこまでも行ける気がします!」──柳田周作
まだ誰も辿り着いたことのない領域(=事象の地平線)をバンド人生を懸けて探求していく意志を鳴らした4人。神サイにとって大切なライブになるであろう<最下層からの観測>は4月10日の大阪城音楽堂公演でファイナルを迎え、その後バンドは全国ツアー<事象の地平線>へと出発する。
取材・文◎蜂須賀ちなみ
撮影◎Viola Kam (V'z Twinkle)
■<東阪野音Live 2022「最下層からの観測」 >
4月10日(日) 大阪・大阪城音楽堂
■<Live Tour 2022「事象の地平線」>
open17:00 / start18:00
5月22日(日) 宮崎・LAZARUS
open17:00 / start17:30
5月28日(土) 山口・RISING HALL
open17:30 / start18:00
5月29日(日) 島根・松江 B1
open17:00 / start17:30
6月04日(土) 宮城・Rensa
open17:30 / start18:00
6月11日(土) 北海道・札幌 PENNY LANE 24
open17:30 / start18:00
6月18日(土) 広島・BLUE LIVE HIROSHIMA
open17:30 / start18:00
6月19日(日) 香川・高松 festhalle
open17:00 / start17:30
6月25日(土) 新潟・NIIGATA LOTS
open17:30 / start18:00
6月26日(日) 石川・金沢EIGHT HALL
open17:00 / start17:30
7月03日(日) 愛知・DIAMOND HALL
open16:30 / start17:30
7月10日(日) 大阪・なんばHatch
open16:30 / start17:30
7月16日(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA
open17:00 / start18:00
7月17日(日) 東京・LINE CUBE SHIBUYA
open16:00 / start17:00
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