【ライブレポート】defspiral、新体制で踏み出す一歩「ココからまた始めようぜ!」
4月3日、<defspiral tour 2022「New Beginning」>ファイナル公演が初台DOORSで行われた。約1年前、3人体制になったdefspiralにとって、ワンマンライヴは約10か月ぶり。久しぶりということもあるが、新体制のdefspiralはどうライヴを魅せてくれるのか?という視点から見る人もゼロではないはず。そういった意味も含め、多くの注目が集まるライヴだった。
◆ライブ写真
今回のツアーはサポートドラマーの和樹氏を迎えてのライヴを展開しているが、既に行われている名古屋、大阪の公演で、これまでと比べてなんら遜色ないライヴを展開してくれただけに、本公演に関して、メンバーもファンも心配や不安などはほぼほぼなかったことだろう。とはいえ中には、この目でライヴを観ない限りは判断できない、という考えのファンがいてもおかしくはない。恐らく、個々がそれぞれに想いを抱えながら会場へ足を運んだことだと思う。
それまでとは異なる心持ちで今か今かと待ち構える中、ほぼ定刻どおりにSEが流れ、ダークなブルーの照明に包まれるステージにMASATO(G)、RYO(B)、TAKA(Vo)が登場。ダークブルーに照らされたステージに白を基調とする衣装が眩しすぎる。暗く冷たい光りに少しずつオレンジ色のライトが足されていき、夜が明けていくような光りの演出を固唾を呑みながら見守っていると、ギターとベースがユニゾンで、大きなリズムのリフを奏でる。そこへ感情のままにTAKAがロングトーンを響かせ、そのまま唄へと繋げられる……が、オーディエンスはキョトンとして反応しない。それもそのはず、演奏されたのは未発表の新曲なのだから。
話によると、まだ制作途中の曲だが、どうしても新たなdefspiralを示したい、という想いで演奏したそう。それにしても1曲目に未完成の新曲をぶち込んでくるとは、メンバーも大した度胸だ。新体制defspiral、さらには新たな曲との対面に、ファンは一瞬、戸惑いを隠しきれないものの、Aメロの2回目から身体全体でリズムをとりはじめる人がちらほら出てくる。Freaks(defspiralファンの呼称)が相変わらず音楽の感度がいい。
そんな特別感のあるオープニングのラストでTAKAから「ようこそ、物語の続きを始めよう」と告げられると、そこからテンポをあげて「PULSE」へ。欲望剥き出しの歌詞が、オーディエンスの心に火を点け、PULSE(=鼓動)はどんどん高まっていく。焚き付けた後、「RAINBOW」「HYSTERIA」と続けば、コロナでライヴが思うようにできなかった時期の鬱憤や、心の奥に押し込めていた溜めに溜めた感情が爆発寸前といったところか。そこへシャッフルのリズムが身体を揺らす「THANATOS」で、デカダンで淫靡な世界観をTAKAらしい上品でセンス溢れる言葉でたっぷりと唄い上げれば、オーディエンスはうっとり。
「defspiralがステージに帰ってきました。今夜、ファイナル、思い切り心と体で感じ合って、愛し合っていきましょう」とTAKAが客席に呼びかけた後に始まったのは、アンニュイなコード感の「花とリビドー」。人生の儚さと、人の性(さが)、人間の本能を綴った歌詞と唄、怪しげなMASATOのギターソロが刹那の快楽に酔わせる。大きなウネリの「LABYRNTH」では快楽の先にある闇の世界を表現。闇から一気に浮上し、果てのない宇宙空間に放り出されたような「STARDUST」の浮遊感のあるサウンド……ストーリーに沿って作られた楽曲ではないのに、計算されつくされた曲の並びで、defspiralは感情のストーリーを描く。時折、台詞もないのに、まるでミュージカルを観ているように錯覚する瞬間すらある。そうやって音楽で創り上げる世界観へ、オーディエンスを知らず知らずのうちに引き込んでいくのはdefspiral流のテクニック。
加えて、まるで曲の延長上にあるかのようにさりげなく始まった「MOBIUS」、その曲同志の繋げ方はお見事!としか言いようがない。曲のテンポ、コード、唄の世界観…あたかも2曲が1曲かのように違和感なく流れていく。
「ようこそ! 今夜はとても嬉しい気持ちでいっぱいです。今夜も心の声で、たくさん叫んで想いをステージにぶつけて来てください。想いは必ず俺たちに通じます。今回の<New Beginning>は、みんな一緒にライヴで騒ぎたいという想いでやってきました。みなさんも思い切り、溜め込んでいたものを吐き出して帰ってください。いいですか? 久しぶりに会えたんだから楽しんでいこうぜ! 愛し合っていこうぜ!」
MC明けは「Arcoromancer」から。軽快な8ビートに合わせて、振り上がるオーディエンスの拳。その様を見ながら「“Freaks! もっと見せてくれよ!」とさらに欲しがるTAKA。それに応えるかのように、ファンの拳もより力強く高く掲げられる。会場がさらに温まったところで「PARADAISE」とくれば、オーディエンスもコロナ規制ギリギリのところで踊って身体を揺らして頭を振って、心のままに感情のままに全身で音楽を堪能。MASATOもリフを刻みながら、踊りのようにステップを踏む。“フーフーフ”の掛け合いコーラス、コロナ前のようにオーディエンスが声を出せないぶん、RYOのコーラスも大きめかも。歌詞の“灰になるまで逝こう”の呼びかけに応じるかのように余力を残さず踊り狂い、興奮は最高潮に。
その後ステージが暗転、一呼吸置いて演奏されたのは「AFTERGLOW」、広い世界観の「ESTRELLA」。いずれの曲も歌詞で描かれているのは、暗闇の先にある目映いばかりの未来へ突き進むんだ、という強い意思。もう数年前の曲なのに、まるで今のdefspiralの心境を表しているかのようで胸が熱くなる。
「去年の5月以降、もやもやした時間を経て、ステージに戻ってくることができました。ライヴが楽しいなと毎夜毎夜、ライヴのたびに思っています。ありがとうございます。これは今の正直な気持ちです。このツアーは新体制defspiralの新しい一歩だと思ってます。一緒に、物語を作っていきましょう。ココからまた始めようぜ!」
力強い言葉に続き、タイトルコールから「SILVER ARROW」のスリリングな演奏がスタート。終盤戦の「Break the silence」「METEOR」の歌詞は彼らが今伝えたい想い、そのものとも受け取れる。メンバーの脱退、コロナによる自粛などによって一瞬、閉ざされたdefspiralの未来。それを乗り越えた先の今、沈黙を打ち破ってココにいる。その喜びと、明日へ向かって進んでいくという揺るがない決意を唄と演奏で示してくれたように思う。言葉で多くを語らずとも、defspiralは未来へ向かって力強く一歩を踏み出していることは一目瞭然。言いたいことは音楽で伝える。それがdefspiralの美学、defspiralの流儀なのかもしれない。
「今日、こうして再会できた喜びに送ります。「IRIS」」とTAKAがコールして、オーディエンスの瞳を1人ずつ指さしていく。マスク生活が当たり前の今、“IRIS”(=眼の虹彩)こそ最大の意思表示のツールでもある。顔の半分をマスクで覆ったファンは、一所懸命ステージに向かって眼でコンタクトをとって気持ちを伝えようとしていたに違いない。“夢みたい ただそこに君がそう いるだけで”という歌詞の1フレーズすら重みを感じるコロナ禍の今、同じ空間で音と心を共鳴できたことに、ファンは惜しみない拍手を送った。
アンコールに応えて、まず登場したのはMASATOとRYO。「アンコールありがとう! 久しぶりに名古屋、大阪でやってね」とRYOが第一声を発すると、「初心に返るね。マスク大丈夫?」とファンを気にかけるMASATO。「いまだに声出せないとか……ねぇ。昔みたいに戻れたら、みたいな希望があるじゃない? でも、こうやって(人と人と間隔を空けて)余裕をもって観る感じもありだよね? だからね、昔に戻るというよりは、新しい楽しみ方を考えていけたらなって思いますよ。これからのエンターテインメントは希望しかねぇ!」最後の一文、何の根拠もないかもしれないけれど、大きな声できっぱりといきってくれたことで心につっかえていたものがすっと消えた気がしたのは、筆者だけではないだろう。
「まだまだ続いていきますから。我々は新しい体制で新しい音、今新しい音楽を作って、新しい未来を、新しいdefspiralを作っていきますので、ぜひ期待してください!」と、TAKA。
メンバーそれぞれから力強い言葉を聞いた後、アンコールで演奏されたのは「STORM」。雨降って地固まる、という諺があるように、嵐に打ちのめされた彼らの音楽に対する情熱は、より確固たるものになっていることが演奏から感じ取れた。「SERENADE」でのマイクスタンドを使ったパフォーマンスにみられるようなシアトリカルな部分や繊細で美しいメロディー、構築されたアンサンブルに目が行きがちだが、実はdefspiralが骨太なバンドなんだとあらためて感じさせる、そんなステージを展開してくれた。そして今夜はツアーファイナルということで、名古屋、大阪では披露されなかった、ライヴ定番の人気ナンバー「LOTUS」もダブルアンコールで演奏され、これでクライマックスに達することができたとFreaksも大満足だっただろう。
時間は戻るが、1度目のアンコールのラストに演奏された「AURORA」の歌詞にあるように、defspiralの途絶えた時間も、欲しかった未来も今、こうして動き出している。ツアーファイナルを待たずして、5月28日、赤羽ReNYでのアニヴァーサリーライヴ、その後の全国ツアーも発表され、彼らの視線は先へ先へと向いている。そう、defspiralの未来へと続く道は、すでに光に照らされているのだ。
文◎増渕 公子[333music]
写真◎上野宏幸 [株式会社LINKSOLU]
ライブ情報
2022年5月28日 赤羽Renyα
<defspiral TOUR 2022>
2022年
6月5日 柏Thumb Up
6月11日 仙台Space Zero
6月24日川崎Serbian Night
6月25日 西川口Hearts
7月2日 名古屋ell. FIts ALL
7月3日 静岡Sunash
7月17日 姫路Beta
7月18日 大阪Ruido
7月26日 渋谷Spotify O-WEST
◆defspiral オフィシャルサイト
この記事の関連情報
【ライヴレポート】<hide Birthday Party 2023>に全10組7時間の感動空間、生誕60周年を記念してプロジェクト始動発表も
<hide Birthday Party 2023>開催決定
【ライブレポート】defspiral、全国ツアーファイナル兼13周年の特別な夜「未来にご期待ください!」
【対談・短期連載Vol.2】メリーのネロ × defspiralのRYO、イベント<魑魅魍魎2>を語る「あの日の続きをやらせてもらいたい」
THE MICRO HEAD 4N'S × defspiral、5年ぶりカップリングツアーを7月より開催
【ライブレポート】defspiral、「2023年をみんなで迎えにいきましょうね。新しいdefspiralです」
3年ぶり有観客でhideの誕生日をお祝い<hide Birthday Party 2022>開催
【ライブレポート】defspiral、「新体制でココに帰って来れたことを嬉しく思ってます」
<hide Birthday Party 2022>開催決定