【ライブレポート】My Hair is Bad、国立代々木競技場第一体育館公演で「今こそ心の導火線に火をつけろ！」

My Hair is Badが3月26日、＜ダイナマイトホームランツアー＞のファイナル公演を開催した。同ツアーはライブハウス編８公演と、3月12日および13日に兵庫・神戸ワールド記念ホール2DAYS、3月25日および26日に東京・国立代々木競技場第一体育館2DAYSのアリーナ編2ヵ所4公演で開催されたものだ。その最終公演のレポートをお届けしたい。

◆My Hair is Bad 画像9点

国立代々木競技場第一体育館に足を踏み入れて、まず目に飛び込んできたのは、アリーナ席のど真ん中の円形ステージであった。“バンド史上初となる360°ステージでの開催”という旨は事前発表されていたので驚いたわけではないのだが、やはり実物を見るとワクワクする気持ちが自ずと高まる。1階、2階のスタンド席まで埋め尽くされたこの空間で、どのようなライブが繰り広げられるのか？



待ちわびている内に迎えた開演。会場内が暗転し、SEが流れ始めると、ステージが青色のライトで一気に染まった。そして、アリーナ席のエリアの通路を歩く椎木知仁(G, Vo)、山本大樹(B, Cho)、山田淳(Dr)を包み込んだ大きな拍手。リングへと向かう格闘家のような凛々しさを、彼らの姿から感じた。

演奏の準備を手早く済ませた後、椎木、山本、山田が拳を合わせて発した気合い入れの声。そしてオープニングを飾ったのは「優しさの行方」だった。3人が奏でるサウンドが広大な会場を震わせていく様が、とにかく気持ちよくて仕方ない。観客が掲げた腕が一斉に揺れる様が壮観だった「グッバイ・マイマリー」。力強い手拍子を誘った「愛ゆえに」。こうして代々木のステージに“あの時のまま”立っていることへの感慨を椎木が弾き語りで描写してから雪崩れ込んだ「ドラマみたいだ」……序盤から歌声と演奏が冴えわたっていた。




「来てくれてどうもありがとうございます。ツアーファイナル、昨日と今日の2日目。大切な土曜日に時間、お金、身体、全部使ってここに来てくれたこと、本当に感謝してます。どうか今日という日が、“ただMy Hair is Badのライブを観に行った日”で終わりませんように。やってる側と観てる側で分かれませんように。どうかこの真ん中で、正面のない真ん中で、ひとつになれますように。気持ちをこめて精一杯、全部出し切って帰ります」──椎木知仁

想いを語った後、照明を浴びながらギターを弾いて歌い始めた椎木。そこに山本のベース、山田のドラムもすぐに合流して響き渡った「真赤」は、観客たちの心を熱く震わせているのを感じた。続いて「悪い癖」と「予感」も披露されたが、歌詞で描かれている物語に鮮やかな色彩、深い奥行きを添えていく歌声、楽器の音色が素晴らしい。


「今から歌う歌は誰のためでもなく、僕が僕のために作りました。「予感」という歌の続きだと思って聴いてください」という椎木のMCを経てスタートした「綾」。曲に刻まれた感情、人物、風景が、ありありとイメージできた「卒業」。「昔の恋人でも誰でもそうだけど、他人の幸せを願えなかったら幸せになんてなれないよなと。赦したことで赦される、そう思ってます」という言葉が、曲を一際きらめかせていた「味方」……じっくり耳を傾ける喜びに溢れたひと時だった。引き込まれた観客のエネルギーが全方位から押し寄せる感覚は、ステージ上にいる3人にとってかけがえのない体験だったのではないだろうか。

ステージ上には最小限の機材類のみが置かれていて、山田のドラムを中心としたフォーメーションとなっていた。ドラムセットは会場の南向き・北向きの2種類を背中合わせで用意。山田が向きを変えると正面が入れ替わる方式だった。椎木と山本のスタンドマイクは4ヶ所に配置。山田と向き合ったり、客席側に向かったり、様々な体勢で歌っていた。


「今日でツアーが終わっちゃうのが寂しくもあるんですけど、寂しさも置いていけるような、振り払えるような日にしたいと思ってて。これから激しい曲をやりますけど、行けそうですか？」と椎木が観客たちに呼びかけて、「告白」を皮切りに突入したライブの後半も多彩なフォーメーションで「熱狂を終え」「クリサンセマム」「ディアウェンディ」「ワーカーインザダークネス」を披露。

「来て良かったと思ってもらいたい。その気持ちだけでやってます。ダイナマイトはお前の心の中で爆発するんだ！　今こそお前の心の導火線に火をつけろ！」──椎木が弾き語りで言葉を溢れ返らせてから始まった「フロムナウオン」は、猛烈な熱量を体感させてくれた。

会場の隅々にまで音が広がっていく様が堪らないほど心地よかった「戦争を知らない大人たち」。2020年春の空気感が思い出された「白春夢」。My Hair is Badの地元・新潟県上越市の描写が、観客各々の故郷の風景と重なったに違いない「ホームタウン」。そして、「みんながいなかったら今日も歌えなかった。声が出なかったと思います。本当に感謝しています！」と椎木が感謝の言葉を伝えた後、「宿り」「歓声をさがして」「アフターアワー」が本編を華麗に締め括った。


手拍子に応えてステージに戻ってきた3人。「楽しかったです。楽しかったですか？　不安だったけど360°、やって良かった！」と、このライブが実現した喜びを全身に滲ませていた山本。「最高！」という潔い生声を響かせた山田。椎木は「次のツアーも長くなる予感です。いろんなところで僕らは僕らを続けていきますので、これからも応援、サポートをよろしくお願いします！」と、今後の活動に向けての意欲を燃え盛らせていた。そして、アンコールで披露されたのは「カモフラージュ」と「いつか結婚しても」。観客たちが打ち鳴らした手拍子は、大合唱のような爽やかなエネルギーを帯びながらステージから届けられるサウンドと融け合っていた。

3人がステージから去り、点灯した客電。一旦は終演を迎えたのだが──鳴りやまない手拍子を浴びながら戻ってきた椎木、山本、山田。そして届けられた「夏が過ぎてく」は、夏を先取りしたかのようなムードを醸し出していた。MCで椎木が触れていた通り、次のツアーの予定の一部が既に発表されているが、今年はMy Hair is Badのライブをたくさん観られそうな予感がする。夏には各地の音楽フェスを彼らが盛り上げることにもなるだろう。場所や会場の規模は問わず、My Hair is Badの音楽はいつでも最高の空間を生み出す。アリーナ会場の全方位に向かってフレッシュなエネルギーを放ち続けた今回の公演は、彼らが作り上げるサウンドの切れ味の鋭さを堂々と示していた。今後も彼らのライブに足繁く通うファンの輪は、どんどん広がっていくはずだ。

なお、My Hair is Badは明日4月1日(金)放送の『ミュージックステーション』春の3時間スペシャルにて地上波自身初パフォーマンスを行う。

取材・文◎田中大
撮影◎藤川正典