【ライブレポート】ヒグチアイ、日々の営みや悲喜こもごもを物語に
4thアルバム『最悪最愛』を携えたヒグチアイのライブ<HIGUCHIAI band one-man live 2022 [最悪最愛]>が3月11日、東京EX THEATER ROPPONGIで開催された。
◆ライブ写真
1年半ぶりとなるバンドセットでのライブとなった今回、御供信弘(B)、伊藤大地(Dr)、実妹・ひぐちけい(G)というメンバーで立ったステージは、エモーショナルな空気で満ち、バンドアンサンブルの心地よい呼吸感が会場をスイングさせる晴れやかなものとなった。
ヒグチアイ自身、コロナ禍でライブ自体の数が少なくなっていたこの数年。昨年は、メジャーデビュー5周年を締めくくる<ヒグチアイ 5TH ANIV 独演会 [真感覚]>をはじめ、ピアノ弾き語りによるヒリヒリとした緊張感を味わえるライブが中心だったが、バンドセットでは信頼のおけるメンバーにほどよく体を預けられるところもあるからか、同じ曲でもそれぞれに響きのちがいを楽しめるものとなった。
ステージ後方からのライトが4人の姿、シルエットを浮かび上がらせるなか、アルバム『最悪最愛』同様に「やめるなら今」でスタートしたライブ。ドラムのキックがはやる鼓動のようにも、先を焦らせる秒針のようにも響くなか、ヒグチアイが柔らかに問いかけるように歌い出す。力強く、心から湧き出る思いを後押しするようなサウンドの高揚感が、その歌声も舞い上がらせていく。その音楽で会場内を煌々と照らしていくパワーがあって、眩しい。続く「前線」もビートとピアノ、コーラスによるポリリズム感や、よりロックにフィジカルなライブならではのアレンジとなった間奏パートの勢いのままに、ヴォーカルを走らせる。冒頭から、バンドならではの加速感があって観客の熱も高い。マジカルな60’Sポップスの佇まいを感じる「サボテン」では、観客の手拍子も合わさって、さらにポップなドライブ感が加わっていく。
改めて挨拶をしたヒグチアイは、久しぶりのバンドでのライブを楽しみにしてきたと、声を弾ませる。そしてアルバム『最悪最愛』について、30歳を越えて、新しい気持ちを発見して作った作品だと語り、このライブをゆったりと、自分の時間にしていってほしいと告げる。
ピアノ弾き語りによるライブの体験が、心にダイレクトに語りかけられる究極の一対一のようなものならば、バンドセットでのライブはヒグチアイの描く物語、監督する映像の中にポンと身を置くような感覚がある。ずっと心臓を握られたまま深い歌の底へとズブズブ沈んでいくあの感覚が得難いものであるのはもちろんだが、今回のアルバム『最悪最愛』の多彩なサウンド、作品を通して風が吹き抜けていくようなしなやかな曲、歌は、バンドでの表現がよく似合う。
人生のビター&スウィートをドラマティックに描いていく、中盤の「ハッピーバースデー」や「火々」、コントラバスによる美しく哀愁感のある低音が大人の滋味を醸す「距離」、そして都会的でウィットに富んだ「悪い女」ではヒグチアイは鍵盤の前を離れマイク一本でバンドグルーヴに乗る。自身の感情を昇華し、ストーリーテラーとして豊かに、日々の営みや、悲喜こもごもを表現していく音楽は、色に溢れ、生きている街のざわめきや香り、誰かの気配がある。
何かに負けまいと武装したり、“私”にがんじがらめになることなく、最悪と最愛の間にある何気ない機微や余白をも楽しんでいる、その平熱感がとても居心地がいい。“働く女性”をテーマにした三部作のシングル第1弾となった「悲しい歌がある理由」は作品同様に弾き語りでの披露となったが、このライブで聴く「悲しい歌がある理由」は、穏やかで、とても優しいものだった。
後半は、テレビアニメ『進撃の巨人』Final Season Part2のエンディングテーマとして書き下ろされ、国内だけでなく海外でもJ-POPチャートの1位を獲得した「悪魔の子」、そして「まっさらな大地」を披露した。重厚で、スケール感のあるサウンドを背負い、ステージの真ん中でマイクを握り歌う歌は、繊細でパワフルで、神聖さも恐ろしいほどの情念も解き放つダイナミズムがあった。正しさとは何か、人間とは何かをこれまで担いスケール感と深さとで描いた曲は、ライブでもその威力を発揮する。シーンの空気を変えるのにも十分な曲となっており、逆にまたこの曲を弾き語りだったらどのように表現するのかにも興味が湧いた。
そんなスリリングな場面から、終盤は自身の人生を「劇場」になぞらえ話をする。メジャーデビューをして6年、シンガーソングライターとしてスタートして13年、ひとりでここまで築いてきた矜持があること。しかしここまで歩んでくる中では、様々な人との出会い、手伝ってもらったりと、人とちゃんと関わることも大事だったことを語る。自分の鍵盤を指して、「これ20キロあるんです。ひとりでは運べないんです」と言い、これを買うことは、誰かにサポートをしてもらったり、人と一緒にやっていくことの、けじめのようなものだとMCをした。様々な人との出会いや別れ、深いものから一度きりの邂逅も、そのすべてが今の自分を作っている。それぞれの人の、それぞれの人生の軌跡が奇しくも交錯しながら成り立っている、人生という「劇場」は、この日より一層晴れやかに響いた。
「楽しかったですか?」と笑顔を見せると、軽やかにピアノの伴奏を高鳴らせながら、「家族に向かって書いた曲ですが、あなたに向かって歌います」と最後の曲「縁」を披露。アップテンポの弾むようなビートと、螺旋を描いて上昇する歌に、大きな手拍子が重なっていく。序盤からのぞいていた笑顔が、明るい観客の拍手とともに満面の笑みとなる。素の表情が清々しいステージとなった。
アンコールでは、3月11日という日にちに触れ、これまではこの日に自分が何ができるのかという思いがあって、ライブを入れることを避けていたと語ったヒグチアイ。「悪魔の子」をリリースし、たくさんの反響やSNSでのコメントに触れながら、何か発さなくてはという気持ちも出てきたという。11年前からは大人になり、考えの変化ももちろんある。そのなかで私ができるのは、歌を歌うことと観客に語りかけると、この日のために書いた新曲を披露した。長い人生や未来への思いを綴る歌が、シンプルなピアノに乗って飛び立っていく。この曲もまた、これからのヒグチアイにとって大事な、日々の曲になっていくのだろう。
取材・文◎吉羽さおり
写真◎藤井拓
4thアルバム『最悪最愛』
■初回限定盤 [CD+DVD] PCCA-06116 ¥4,950(税込)
■通常盤 [CD Only] PCCA-06117 ¥3,300(税込)
※初回生産限定仕様(初回限定盤のみ):描き下ろしイラスト巻き帯仕様(作画:MAPPA)
※初回・通常共通:短編小説「最悪最愛」収録
【収録内容】
[CD]
1. やめるなら今
2. 悪魔の子
3. 劇場
4. 縁
5. ハッピーバースデー
6. 距離
7. 悪い女
8. まっさらな大地
9. サボテン
10. 火々
11. 悲しい歌がある理由
[DVD] ※初回限定盤のみ付属
ヒグチアイ 5TH ANIV 独演会 [ 真 感 覚 ]
2021.11.26 atよみうり大手町ホール
1. 悲しい歌がある理由
2. 東京にて
3. mmm
4. やめるなら今
5. 前線
6. 備忘録
7. 劇場
8. 縁
全8曲収録
購入リンク:lnk.to/higuchiai_CD
▼法人別特典
音源ランダムDLコード付ポストカード
【TYPE-A】Amazon.co.jp
【TYPE-B】タワーレコードおよびTOWER mini全店、タワーレコード オンライン
【TYPE-C】全国HMV/HMV&BOOKS online
【TYPE-D】楽天ブックス
【TYPE-E】その他法人
DL音源:2021年11月26日(金)東京・よみうり大手町ホールにて開催「ヒグチアイ 5TH ANIV 独演会 [ 真 感 覚 ]」より「悲しい歌がある理由」「やめるなら今」「劇場」
※ダウンロードできる音源はランダムで、上記のうちいずれか1曲です。
※ポストカード裏面にダウンロードコードが印字されます。
※ダウンロード有効期限は2022年8月31日(水)までとなります。
※ダウンロード方法等詳細はポストカードに記載されます。
※タイプによりポストカードの表面絵柄が異なります。
※特典は先着で付与されます。なくなり次第終了となります。
※一部、取扱いのない店舗もございます。購入時にご確認ください。
※ECサイトで購入する場合、特典付き商品をご希望の場合は必ず特典付きカートからご注文下さい。
配信シングル「悪魔の子」
https://lnk.to/akumanoko
1. 悪魔の子
(TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season Part 2 エンディングテーマ)
2. まっさらな大地
ダウンロード専用配信シングル「悪魔の子」
https://lnk.to/akumanoko_DL
1. 悪魔の子
2. まっさらな大地
3. 悪魔の子 TV Size Ver.
4. 悪魔の子(Instrumental)
5. 悪魔の子 TV Size Ver.(Instrumental)
弾き語り全国ツアー<HIGUCHIAI solo tour 2022 [ 最悪最愛 ]>
2022年4月16日(土)広島・Live Juke
2022年4月23日(土)兵庫・海辺のポルカ ※SOLD OUT
2022年4月24日(日)福岡・ROOMS
2022年4月28日(木)石川・もっきりや
2022年4月29日(金・祝)愛知・BL cafe ※SOLD OUT
2022年5月1日(日)長野・長野市芸術館 アクトスペース
2022年5月6日(金)京都・磔磔
2022年5月8日(日)東京・早稲田奉仕園スコットホール(講堂) ※SOLD OUT
チケット販売中
https://eplus.jp/higuchiai-solotour2022/
*各公演、地方自治体/会場ごとの感染拡大防止ガイドラインに従い開催されます。状況により、開場/開演時間が変更になる場合がございます。
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