【インタビュー】鈴木瑛美子、「歌唱力だけではなく表現力を知ってもらいたかった」

■新しい表現方法を見つけたい。そういう欲や想像力が刺激されました

──「未来」はデビュー時のCD購入者向けライヴで一度だけ披露された楽曲なので、10代の時に作ったということですよね？　10代とは思えないシリアスな世界観で……。

鈴木瑛美子：あははは！　19の時に作った曲なので、めっちゃくちゃかっこつけてますね……きっと当時はこういう曲が歌いたかったんでしょうね（笑）。失恋して痛くて苦しかった気持ちを誇張しているというか。苦しすぎてお酒の力も借りれないなという意味で、お酒の描写を入れてます。当時は完全に妄想ですが（笑）。

──（笑）。今回初収録の鈴木さんが作詞作曲した楽曲は、どれも低音が効果的ですよね。

鈴木瑛美子：わたしの作る曲は落ち着いて歌えるキーのものが多くて。それが自分の本当に歌いたい音域なんだろうなって。

──おしゃべりするときの声の高さ？

鈴木瑛美子：そうなんですよね、しゃべるような歌（笑）。自分の実際の感情は、この中音域を行き来しているような感覚なんですよね。ここから上のキーに行くときは本当に興奮したときや、思いっきり力強く表現をしたいとき。そういうのが出てくるのは稀で。今回のアルバムでは表現を追求したかったから、なおさらそうなったんだと思います。

──なるほど。広い音域で魅せるだけではなく、ということですね。

鈴木瑛美子：はい。“歌唱力！”みたいなところだけではなく、自分の声の表現力を見てもらいたかった。知ってもらいたかったんです。



──『5 senses』を聴いていて、自分が気持ちよく歌うことだけを大事しているわけではなくて、何よりもそれぞれの曲をより良い状態で響かせたいことが伝わってきました。鈴木さんの愛情が表現力に姿を変えたんだろうなと。鈴木さんが作詞を担当している「I sing」は、すごく胸に迫るものがあって。

鈴木瑛美子：ミュージカルで初めて大千秋楽を迎えたときの感情を書いたんです。舞台で出会う人たちは、キャストやスタッフだけでなく、観に来てくれるお客さんとも次はいつ会えるかわからない。それまで出演した舞台はコロナ禍の影響で、途中で公演が中止になってしまって……千秋楽を迎えられなかったことが苦しかったし悔しかった。でも初めて見た大千秋楽の舞台からの景色が本当に美しくて。もう一度ここに来たい、何度でもここに戻って来たい──そう思った気持ちを書きました。

──“この日をまた／迎えるために”ということですね。

鈴木瑛美子：“孤独が終わったから、ずっと歌い続けようね”って。ミュージカルのことを歌った歌だから、ミュージカルでウエストエンドのステージに立った父にコーラスを入れてもらいました。


──「My Dearest」はミュージカル本編のような華やかな楽曲だと思います。

鈴木瑛美子：村松崇継さんの書いてくださった詞が、しっかり内容が伝わってくるし本当に素敵で、曲を聴いた瞬間に高校時代からの親友のことしか頭に浮かばなくて。その子のことだけを考えて歌って、タイトルをつけさせてもらったんです。そしたらYouTubeで公開したアルバムの全曲ダイジェストを聴いたその子から「この曲ってわたし？」とLINEが来て──高校時代にその子の筆箱に“Dearest ○○（※親友の名前）”と書いてたんですよね。彼女がその写真を送ってきたんです。

──へええ。時を超えてつながっているんですね。

鈴木瑛美子：「文字がだいぶ消えてきちゃってるけど、今もこの筆箱使ってるんだよ」って。あれから何年も経っても彼女のことをずっとDearestだと思っていたんだなとあらためて気づいたし、それをちゃんと感じ取ってくれたこと、同じ気持ちでいてくれていることもうれしくて。お互いがおばあちゃんになってもこの関係でいられるだろうなと思いました。

──「A New Story」はとても新鮮でした。鈴木さんからこんなにJ-POPなメロディが出てくるのかと。

鈴木瑛美子：この曲は楽器を使わないで、頭のなかで歌詞とメロディを作ったんです。キャッチーで、歌いやすい、聴きやすい曲を作ろうと思って──でもこんな曲ができるなんて自分でもびっくりで（笑）。友達でも“この曲ほんとに好き！”と言ってくれる人が多いんです。



──迫力もあるけど穏やかな楽曲で、亀田誠治さんのきめ細やかな音づかいがそれをさらに引き立てています。とうとうご自分の楽曲を亀田さんがプロデュースというのは、感慨深いのではないでしょうか。

鈴木瑛美子：本当に、やっと！　亀田さんとの制作は「フロントメモリー」というカヴァー曲から始まって、EPの表題曲の「After All」があったけど、とうとう自分の作った楽曲、それもラブソングをサウンドプロデュースしていただけて……。ずっと見守っていただいていた方にこうして成長をお見せできたのがうれしかったです。おまけに亀田さんにも「自分で作ったんだよね？　いや～僕この曲大好きだなあ」とすっごく嬉しいお言葉をいただいて！　自分の曲をもっと亀田さんにアレンジしてもらいたいなあと思いました。……ベースぎゃんぎゃんに入れてもらいたい（笑）。

──たしかに、J-POPだけでなくロックの造詣も深い方ですからね。

鈴木瑛美子：これからわたしが作っていく曲で、亀田さん色が出たら絶対もっと面白くなる！　そういう曲ができたらぜひお願いしたいです。

──『5 senses』は様々な色を持つ楽曲がたくさん味わえるだけでなく、どの曲も歌詞やストーリーがダイレクトに入ってくるので、なんだか童話を見ているような気持ちになりました。ストーリーはシンプルだけど、受け手の解釈によっていろんな読み取り方ができるというか。

鈴木瑛美子：なるほど……。「カナリアの歌」をはじめとして、いろんな角度、いろんな視点で聴こえるというか、ひとつの意味に固執しない表現ができたらいいのかもしれない。それを浅くて平坦な表現にしないでできたら、すごくいいですよね。そういうところを磨けるようにもなりたいです。


──鈴木さんにとって『5 senses』は表現者欲が満たされたアルバムでもあり、表現者欲がより掻き立てられたアルバムなのかもしれないですね。

鈴木瑛美子：まさにそうですね。CDのみに収録されるボーナストラックは仲間や姉に参加してもらって私の歌声のルーツを表現できたし、これがベースにあるからこれだけ多彩な楽曲を歌うことができるようになって……1曲1曲に達成感と満足感がすっごくあって。これを踏まえたうえでまたちょっと違う表現をしてみたいし、新しい表現方法を見つけたい。そういう欲や想像力が刺激されましたね。全力で詰め込んだからこそ、客観的な視点が持てました。これをもっと成長につなげられるんじゃないかなあ。

──いいアルバムができたという何よりの証拠ですね。今の鈴木瑛美子を生ライヴで観られたら最高です。

鈴木瑛美子：ほんとですよね！　リリースイベント、全箇所成功させたいです！　私のナマ声の倍音を感じてほしい。配信だとスマホで調節できる音量でしか聴こえないし。スマホのスピーカーやイヤホンのなかよりも素敵だと思ってもらえるはずだから、会いたい！　目の前で聴いてもらえると、わたしももっと成長できる。“お待たせ〜！”の気持ちで歌いたいですね。

取材・文◎沖さやこ
撮影◎大橋祐希


◆鈴木瑛美子 オフィシャルサイト