【コラム】鋭さと包容力で混沌とした時代を描く、羊文学の独創的な世界

「羊文学」という、一度目にしても耳にしても忘れられないバンド名。文学という言葉をバンド名に入れるって結構大胆だ。もしかしたら、なんとなく難しい音楽をやっていそうなイメージを持たれるかもしれない。羊文学の奏でる音楽は、そんな想像を軽々と飛び越えていくぐらい、大胆で繊細でオリジナリティに溢れている。

塩塚モエカ（Vo.Gt）ゆりか(Ba)、フクダヒロア（Dr）からなるロックバンド・羊文学は、2012年に結成。2017年に現体制となり、楽曲のリリースとライブハウスを中心とした活動で音楽好きの支持を獲得して、2020年12月にアルバム『POWERS』でメジャーデビューを果たした。2021年には＜FUJI ROCK FESTIVAL ’21＞への出演や、バンド史上最大規模のワンマン会場となった新木場スタジオコーストでのライブ、ビルボードライブ横浜、大阪のステージに初めて立つなど、着実にキャリアを重ねている。絶妙に歪ませたギターを核にした3ピースのシンプルな編成で、鋭さと浮遊感を併せ持ったサウンドはインディーロックの自由な空気感を纏い、オルタナティブロックの豪胆さを持ったまま、メジャーのフィールドで大きく躍進し始めた。


2022年に入ると、さらにその勢いは増している。1月7日放送に放送された『バズリズム02』新年恒例企画「今年コレがバズるぞベスト10」では8位にランクイン。コアな音楽ファンにとっては、「いやいやとっくにキテるだろ」との思いを強くするだろうが、「2022年春！高校生最新トレンドランキング　次に来るトレンドは？10選」（※）にも選ばれるなど、より幅広く世間に知られる存在としてクローズアップされているのだ。

▲「光るとき」ジャケット

1月12日に配信リリースされた最新シングル「光るとき」は、そんな彼らの勢いを象徴するように、話題のTVアニメ『平家物語』のオープニング曲に起用されている。バンド初となるTVアニメ主題歌として書き下ろされたこの曲について、塩塚モエカは「台本を読むたびに、傲慢なイメージで語られがちな平家の人々の、人間らしく美しい側面を知りました。そんな姿を、私たちなりに讃え、照らし出す曲を作ることができたと思います」とコメントしている。


イントロなしでバンドが一斉に音を出して《あの花が咲いたのは、そこに種が落ちたからで》と歌い出す冒頭にハッとさせられると、16ビートで静かに躍動するリズムを叩くドラム、ゆらゆらと蝶のように舞うギターのアルペジオ、その間を縫うようにビートを刻むベースと共に、塩塚モエカが穏やかに言葉を紡いでいく。曲が進むにつれて徐々に熱量を上げていく演奏は、サビに差し掛かると疾走しながらスケール感の大きなサウンドスケープを見せて、聴く者の心を遠くへと運んでいく。運命に翻弄される物語の結末を知りながら、《ならば、全てを生きてやれ》《何回だって言うよ世界は美しいよ》と歌う力強さは、現代を生きる我々の胸に深く刺さるメッセージだ。何箇所かで「、」と読点をつけているところにも、この曲へ込めた意思を読み取ることができる。終盤で聴ける幻想的にすべてを包み込むようなコーラス、エンディングに向かう迫力のアンサンブルと、この1曲で羊文学が創造する音楽の魅力を存分に知ることができる。

4月20日(水)には「光るとき」を含む12曲を収録したメジャー2ndアルバム『our hope』が発売される。また、5月からは初の全国ツアー「羊文学 TOUR 2022 "OOPARTS"」を開催、＜SWEET LOVE SHOWER SPRING 2022＞、＜CIRCLE’22＞といったフェスへの出演も数多く予定されているなど、さらなるブレイクが期待される羊文学。混沌とした時代を鋭い感性と人の心に寄り添う包容力で描く独創的な楽曲が、これまで以上に多くの人に届くことになりそうだ。

文◎岡本貴之

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