【インタビュー】Solmo、音楽的なスリルが詰まった深みと広がりのある歌の世界『ざわめきとヴィジョン』
■5曲まで終わったらまた1曲目の「Palace」に戻っていく
■“創造と破壊の永遠のループ”というイメージもありました
――2曲目の「Punishment」はジャジーでメロウでありつつも、歌詞も含めて鋭利さも隠し持っているような曲です。この曲が生まれた経緯は?
倉原:「Punishment」はコードの響き方から作りました。今の世の中で“生きづらさ”を感じながら、淘汰されてしまう人々をイメージして作った曲でもあります。自分もそういう人間だし、共感してくれる人はたくさんいるんじゃないかと思いながら作っていました。メッセージ性の強い曲になりましたが、直接的な言い方にはせず、いろんな解釈ができるように組み立てました。構成としてはポップなんですが、コーラスにあたる部分をベースで歌っていて、独特な形になりました。歌の延長線上で、ベースがメロディを歌っていますが、自然な流れで出てきたので、そのナチュラルな部分が気に入っている曲です。
――ジャズギター的な要素も入っていますが、ギターに関しては?
古木:この曲に関してはあまり弾きすぎないようにしています。後半部分でちょっとジャジーな要素が入ってくるんですが、ギターが前に出るのはそこくらいですね。あとはボーカルのメロディラインとベースのメロディをいかに引き立てるかを考えながら弾いていました。
――スネアの音色もいい感じです。ドラムに関してはどんなイメージでしたか?
多田:ちょっと話が逸れてしまいますが、もともとSolmoを結成する前までは3人それぞれが違う音楽をフューチャリングして活動していたんですね。で、私だけメタルやハードロックなどの音楽をやってきていて、ドリームシアターというバンドの初代ドラマーのマイク・ポートノイが大好きだったんですよ。高校の頃のメールアドレスも「マイク・ポートノイ」にしていたくらい(笑)。彼のプレイの好きなところは、テクニックを追求しながらも、ギリギリのラインで曲を壊さず、かっこいいと思わせるところ。難しいことをやってる印象を与えないのに、いざ真似しようとしたら非常に難しいことをやっているんです。彼のそうしたプレイングを尊敬していて。「Punishment」でもマイク・ポートノイのプレイのテイストを入れつつ演奏しました。曲の本質に沿った演奏をしながらも、その中で自分の存在感も出すことを心がけました。
――「Paradise」は不思議なギターのリフがクセになる曲で、ラテンのテイストもある曲です。これは?
倉原:コードから作った曲です。EmとAmという2コードだけで曲を作ろうと遊んだ曲なんですよ。ラテンも好きなので、ラテンのリズムを入れつつ、シンプルなコードなので、ボイシングを工夫して、不安定なニュアンスも出しつつ、にごらせながら、Solmoらしい雰囲気を作っていきました。ギターのリードに関しては、キーくんに「ともかく気持ち悪くしたい」とオーダーして弾いてもらいました(笑)。汚していく作業がおもしろかったですね。
古木:イントロのギターが特徴的だと思うんですが、もともとはキーボードでそれっぽい感じで入っていたものをギターに起こして、さらに変な音にしよう、でも崩壊しないようにしようと、いろいろ考えて作りました。いい感じに変になったと思います(笑)。
――シェイカーなど、パーカッシブなリズムも入りつつのドラムとなっています。
多田:この曲だけ唯一、サポートの方に入っていただいています。パーカッショニストに入っていただき、その上に私のドラムを乗せています。ドラムに関しては、かなりシンプルなんですが、ハーフテンポになるところでは、両足で遊んだフレーズを入れたりしました。個人的に気に入ってるのは2コーラス目に入る前のフィルインです。3連のノリで曲を崩すんだけど、すぐにスパッと戻るみたいな。そのアイディアが急に降ってきたのでやったら、倉原がメッチャ喜んだので、良かったです(笑)。
――歌詞の世界観もシニカルなところもあり、生き方の提示みたいなところもあります。
倉原:いろんなものを捨てて、“全裸で走っている感”がありますね(笑)。
多田:この曲の歌詞が一番読み取りやすいかもしれないですね。
倉原:単語の羅列だったりするんですが、“これは必要だよねって思っていた物や概念”でもなくてもいいものがたくさんあって、そういうものを捨てて身軽になった先に、本物のパラダイスがあるんじゃないかという歌ですね。そのパラダイス感はパーカッションの音も重要だったので、楽園感を出すためにパーカッショニストであるMaya Muga Moeranさんに参加してもらいました。
――「目は風景、口は言葉を」はインスト曲でありつつ、フランス語の会話が入った曲です。
倉原:これはちょっとした事故で生まれた曲です(笑)。最後まで歌を入れるかどうか悩んだんですよ。曲全体を作って、コーラスのやりとりも入れて、歌を乗せてみたいんですが、いまいちハマらなかったので、どうしようかと思案していたんですね。スタジオに向かっている時に、ベースで歌うのもいいかなと思いつき、レコーディングで「ベースで歌います」と謎の発言をして録ったので、僕の中で“事故感”の強い曲です。自分たちが予測できないような着地をした曲でしたが、この曲に続く最後の曲がピアノのインスト曲なので、そのブリッジとして、カタルシスに向かっていく流れを作る曲になったんじゃないかと思います。EPという作品全体の中でのピースとしてはめこめた曲です。
――歌の中のフランス語の語りは?
倉原:あれはゴダールの映画『気狂いピエロ』のセリフなんですよ。ゴダールの脚本のセリフも抽象的なところがあるので、そこをちょっと引用しています。あの映画では男女が破滅に向かっていく過程でのセリフなので、EPが最後の破滅に向かっていく流れともハマるのかなと。
――最後の曲「いつか見た夢」はピアノをフィーチャーしたアンビエントな曲ですが、虫の音のようなものが入っていて、自然の世界の音とも溶けこんでいくようでした。
倉原:あれは自然の風景の音をいっぱい入れました。虫の声も自然のものです。
――この曲で終わる構成にしたのはどうしてなのですか?
倉原:EP5曲を通して、ストーリーみたいなものを意識しました。序盤は今の社会に対する憤りが爆発し、中盤でその先にある自分なりのパラダイスを見つけて、最終的に、何かを見つけたり見失ったりを繰り返していくのが人間なんだろうなというところに達する流れです。結論のような、結論でないようなところもあるので、その余韻みたいなものをピアノで表現しようと考えて作りました。5曲まで終わったら、また1曲目の「Palace」に戻っていく“創造と破壊の永遠のループ”というイメージもありました。
――EPのタイトルの『ざわめきとヴィジョン』という言葉については?
倉原:直接的な引用ということではないんですが、ランボーの詩を読んで触発されて出てきた言葉です。Solmoとしての出発というニュアンスですかね。自分たちのある瞬間の世界観を表現できた最初のEPなので、ある種の船出として捉えて、その船出を見据えた時の心境を表すものとして、『ざわめきとヴィジョン』という言葉がしっくり来ました。
――Solmoの現在と未来に向けてのまなざしを表す言葉でもあるわけですね。
倉原:そうですね。
――完成した現在の心境と先々に向けてのヴィジョンを教えてください。
古木:このEPはかなり長い期間をかけて作っていたんです。1年以上はかけているんですよ。なので完成した時は「ようやくリリースできたか」というのが感想ですね。リリースした音源を聴いて思ったのは、これからまだまだやれるぞって、新しい次のスタートに向かっている気がしました。さらにどんどん作っていきたくなりました。
多田:個人的な話になるのですが、2013年に白血病になって死にそうになり、3、4年くらいドラムも叩けないくらい弱った時期があったんです。それまでの人間関係も継続できないくらいの状態だったので、まずは自分を生かすことに全力を尽くした時期がありました。その時期を経て、もともと好きだったことをやろうと思い、SNSを立ち上げた時に声をかけてくれたのが、この2人だったんですよ。一度、死に限りなく近づいたからこそ、生きているうちに作品を残すということの意義を感じたのが大きかったと感じています。3人で作り上げたものが世に解き放たれて、自分が出した音が世界に刻まれたことに感動しています。このEPを作ったことで、これからも音楽活動を続けながら、自分の生きている価値を問い続けたいという心境になりました。
倉原:EPをやっと出せたという感触がまずありました。ずっと出したいと思いながら、なかなか出せずにいたので、完成してすっきりしました(笑)。試行錯誤を繰り返しながら、“自分たちの音楽とは何か?”を考えすぎた末に完成した作品であり、バンド結成からの内面的な変化も含めて表現できたと思っています。このEPをリリースして以降の制作は、もう少し軽いスタンスになってきているんですよ。なので、これからはもっとフットワークを軽くして、アウトプットしていけるのではないかと考えています。
取材・文:長谷川誠
リリース情報
https://linkco.re/C6RzxAus
1. Palace
2. Punishment
3. Paradise
4. 目は風景、口は言葉を
5. いつか見た夢
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