SPiCYSOLの「サンゴの日」ワンマン、“Surf”と“City”の2部構成で開催
SPiCYSOLが3月5日、東京・KIWAでワンマンライブ<SPiCYSOL “Coral Day” 2022>を開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
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SPiCYSOLが3月5日の“珊瑚の日(Coral Day)”に毎年恒例のワンマンライブを開催。今年は昼夜二部構成で、昼公演は海を感じさせるセットリストを盛り込んだ“Surf Time”、夜公演は都会の夜を思わせる選曲の“City Time”と銘打ち、おのおの100名限定のプレミアムなライブとなった。
会場であるTENNOZ KIWAは天王洲アイルの運河の“際”のアートなエリアに立地。20℃近い好天に恵まれ、周辺では散歩する人、カフェのテラス席でランチする人など、都心とはいえリラックスした空気が流れる。天井の高いサンルーム風の会場内部も心地よく、ステージ上はKENNY(Vo,G)曰く、海底を思わせるグリーンで装飾をしてもらったそう。開演まではスクリーンにおなじみの茅ヶ崎サザンCの周辺を行き交う人々の映像が投影されていた。
昼の部はKENNYの「3月5日、珊瑚の日、Coral Day、楽しみましょう」という挨拶を受け、「Coral」からスタート。PETE(Tp,Key,Cho)の晴れやかなトランペットが自然光に溶け合う。気取らない言葉の中で永遠の愛を誓う人気曲であると同時に、<Coral Day>に聴くと、より大きな愛や寛容さに思いを寄せたくなる。一転、AKUN(G)の洒脱なカッティングとKAZUMA(Dr)の乾いたスネアがアーバンなダンスタイムに誘う「Mellow Yellow」。2曲目にしてすでに心地良いグルーヴにフロアが包まれ、「Traffic Jam」のタイトルコールに呼応してハンドクラップが起きた。着席したままだが、多くの人が体を揺らしている。湘南の光景が浮かぶ歌詞も相まって気分はひと足早く夏だ。テンポよく進むステージ。続いてはKENNYがアコギを弾く「Honey Flavor」。彼の小気味いいカッティングと、AKUNの渋くツボを押さえるフレーズの掛け合いで始まり、R&B寄りの淡くせつないボーカル表現力が、甘すぎないセンシュアルさを伝える。
「お越しいただいてありがとうございます。久しぶりのライブだから序盤から熱いわ。今日は(客席が)近いね。俺らの音楽のパワーを受け取って明日からの元気にしてもらえたら。ここからは昼公演のレパートリーに移ります。“From the C”」とタイトルコール。バンドのホームグラウンドを思わせるサーフロックが“今、生きている場所”のメッセージとなって届く印象だ。中間でセカンドラインのビートに変わるアレンジもいい。グッとテンポを落として、柔らかなギターのトーンがやさしい「Monsoon」へ。アコギを爪弾き、フレットのキュッという音すら曲のアクセントに聴こえ、PETEのトランペットが広がる空をイメージさせる。続く「Indian Summer」は小春日和のこの日に似合い、ステージの背景に流れるサーファーの映像も相まって海への憧憬が募る。そしてKENNYの「皆さんのこの後の一日が良いものになるように」と、日常へのエールがこもった「#goodday」で“Surf Time”を締めくくった。
続いて、コロナ禍で未だに先の見えない状況の今をタイトルに託した「かくれんぼ」では、答えはひとつじゃないという思いが伝わる。そして元サッカー日本代表・槙野智章選手とコラボした「LIFE」をこの日のために用意したというスペシャルアレンジで披露。この曲そのものは浦和レッズ時代に出会い共作したものだが、ヴィッセル神戸に移籍したあとも、ストイックにサッカーを続ける彼に敬意を表するとKENNY。槙野選手の語りの分まで、魂を込めて丁寧に歌っていた。さらに「皆さん、新曲聴いてくれましたか? ほんとは自分たちで手を入れたバンで全国ツアーをしたかったんですが、まだまだままならない。でも、その歯がゆさから曲ができました」と、新曲「Far Away」をライブ初披露。力強く踏みしめるようなビートと空間に広がりを添えるシンセサウンドが、風に誘われて遠くに出かけるという歌を飛び立たせるようだ。本編ラストは「今年こそはガンガン、ライブをやってどこかの街で会えますように」との思いを込め、「あの街まで」を届けてくれた。
アンコールではKENNYとPETEのふたりで、4月からオンエアされるドラマ『ねこ物件』主題歌「Bell」を初披露。そして他のメンバーも呼び込み、“Surf Time”選曲のこだわりやエピソードを聞いたのだが、オフマイクゆえに大声で話すほかないKAZUMAが「Indian Summer」を挙げるも、怒り口調になることが可笑しかったり、AKUNは「From the C」は茅ヶ崎に引っ越したからこそできた曲だと話したりして、改めて曲への理解が深まる。KANNYが「じゃあ最後は夜の部でやらなそうな曲をやろうかな」と、時間帯もぴったりな「Sunset Beach」で昼の部は終了した。
続く夜の部は、同じ会場でもグッとカラフルなライティングが映えるライブハウス感が増した印象。スクリーンに投影されている茅ヶ崎サザンCも映像も夕闇の映像に変わっている。スクリーンが上がると、衣装替えをしたメンバーが登場。ステージ上の植物もライティングによって幻想的に映る。セットリストは昼の部同様だが、1曲目の「Coral」からすでにリラックスしたムードで届けられ、文字通り「Mellow Yellow」はよりメロウに響く。そして「Traffic Jam」では思わず立ち上がらずにはいられなかったファンが続々現れ、クラップしながら体を揺らし、みるみるうちに全員がスタンディングで楽しんでいる。KENNYが曲の最中に「好きにしていいよ」と声をかけ、いつものライブハウスのムードが充満、AKUNのアクションもダイナミックになった印象だ。「Honey Flavor」もグッとドライブ感が増した。同じ会場でも時間帯によってビビッドにリアクションが変化する。
「みんなと顔を合わせられて嬉しいです。ここからは“City Time”と銘打って、俺たちの曲の中でもより街を感じる曲を用意してきました」というKENNYのMCから、まずは「Cry No More」。AKUNのリフや音色、PETEのシンセサウンドが夜の街のきらめきを感じさせる。続いてはこの日全体を通してもかなりのレア選曲である「You Find Me, I Find You」が披露される。ミュートしたトランペットが大人っぽく、スロージャムなアンサンブルが格別にメロウ。高層ビル群や車から見る街の映像が気分を盛り上げる。エンディングを受けて、KENNYが「今の曲、わかったかな? これまでライブで4回しかやってない。かなりレアでしたね。次はこの時間にぴったりな遠距離恋愛の曲」と、タイトルコールをして「Blue Moon」をなめらかにスタート。せつない内容だが、週末の街で思いを募らせている離れ離れのふたりにはリアルなナンバーでもある。さらにこの日のためにリアレンジしたという「Sex On Fire」の聴きどころは後半で4ビートのジャズアレンジ。ミラーボールも回り始め、ゴージャスさが際立った。“City Time”を締めくくったあと、KENNYが「“Sex On Fire”の特別バージョン気づいた?」という問いかけに大きな拍手が起き、プレミアムなセットリストを堪能している様子が窺えた。
後半の「かくれんぼ」以降の流れも昼公演と選曲は同様だが、「頑張ってる人の背中を押せたらいいな」と、歌い始めた「LIFE」ではKENNYの歌唱にゴスペル的な祈りのニュアンスを感じ、全身で歌う彼の姿勢にバンドもグッとギアを上げた印象だ。そしてライブがままならない状況の中、それでも音楽を届けたい思いから作った「Far Away」はオーガニックな印象のあるこのバンドに、シンセのフレーズが新鮮な響きをもたらしていることを夜の公演で実感させてくれた。ラストの「あの街まで」も、AKUNのディレイが効いたギターの音色が遠い街の夜空に届きそうなイメージ。同じ曲でも異なるシチュエーションで聴こえ方も生まれるエモーションも変化する。それはメンバーも実感したことだろう。
アンコールでは「Bell」に加え、夜公演ならではの選曲エピソードも飛び出す。そして槙野選手や茅ヶ崎のお店や人々との出会いはバンドを10年続けてきたからこその縁だと確認し合っていたのも印象的だった。ラストは「この暗い夜を超えていきましょう」と、プリミティブなビートに静かに鼓舞される「After Tonight」で幕を閉じた。
オーガニックな部分と都会的な部分が共存するSPiCYSOLの音楽。その特徴をクローズアップした今回の試みはバンドのオリジナリティをより理解する機会になったはず。
MCでも触れていたが、4月29日にはドライブミュージックをテーマに新曲、「Far Away」、「Traffic Jam」のリミックスバージョンを収録したEP「TWO」をリリース。また、今年も7月3日には恒例となっているワンマンライブ「波の日」を横浜ベイホールで開催することも発表された。2022年もSPiCYSOLは前進し続ける、そう確信させてくれた。
取材・文◎石角友香
撮影◎きるけ。
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Digital EP「TWO」
Far Away / Traffic Jam(Remix ver) 他収録予定
Digital Single「Bell /Coffee And Tea」
※オリジナルドラマ「ねこ物件」主題歌&挿入歌
Digital Single「Far Away」
https://spicysol.lnk.to/faraway
<ワンマンライブ>