【インタビュー】HIPPY、コロナ禍の時代に鋭く斬り込むワードをぶちまけるメッセージチューン
その大きな体に素晴らしい歌声と、たくさんの夢と、聴くものすべてを奮い立たせる応援歌を詰め込んで。広島出身のシンガーHIPPYのニューシングル「きっと神様は進めと言うだろう」は、ヒップホップ、レゲエ、R&Bをミクスチャーした重厚なトラックに乗せ、コロナ禍の時代に鋭く斬り込むワードをぶちまけるメッセージチューン。彼の代名詞である大ヒットチューン「君に捧げる応援歌」とはまったく違う角度から、熱く激しくリスナーを励ます1曲だ。作詞作曲を共作したのは、かねてからHIPPYが敬愛する多保孝一。楽曲について、過去の活動について、そして未来について、まっすぐな瞳で語る男の話に耳を傾けよう。
■いつかは花が咲く可能性を持っている子供たちだから
■そこで何もやらなければゼロのままだぜ
――前回BARKSでは、セカンドアルバムの時に出ていただいて。それ以来ですね。
HIPPY:じゃあ、もう4年半とかになりますね。
――なので、ちょっとだけその頃の話を振り返って。2ndアルバム『HomeBase~ありがとう~』が2017年に出て、そのあと2020年から配信シングルを連続リリースしはじめる。その間に3年間のリリースのブランクがあるんですが、あれは正直どういう時期だったんですか。
HIPPY:あれは、リアルな話をすると、話題を作らないと次は出せないよという状況だったんです。よくある話で、メジャーデビューして「ここまでは出します」という時期が終わってから、そこまでに出したものがちゃんと数字を取れていたら良かったんですけど、それがちょっと芳しくなかったので。そこからは自力でどうにか話題を作って、出したいと思えるタイミングが来たらやらせてくださいみたいなことだったんですが、なかなか出せる状況は作れず。それでも、今まで出した曲があるんで、それをしっかり愛しながら、ライブ活動だったり、YouTubeチャンネルだったり、そういう活動をしていたら、思わぬ曲が浮上してきたということがあって。
――それが「君に捧げる応援歌」。
HIPPY:そうです。それが注目されたおかげで、次の活動につながった部分はあります。「君に捧げる応援歌」はもともとリード曲じゃなくて、4、5年前にインタビューしてもらった時は、アルバムに入っている1曲ということだったんですけど、今はそれが代表曲と言われるようになっているのが、ちょっと不思議という気持ちがありますね。
――不思議ですか。
HIPPY:めちゃめちゃ不思議です(笑)。最初はミュージックビデオも撮っていないですし。リリースして半年後ぐらいに「あの曲が妙に回っているから、リリックビデオでも撮っておきますか」って、キャンペーンの予算も使い切ってる状態だったんで、その時のマネージャーさんが、ゼロ円で作ってくれたんですよ。だからね、夢がある世界だなと思いましたね。ゼロ円で作ったMVが、今や800万再生に行こうとしていて。
――ありえないですね。
HIPPY:ありえないですよ。レコード会社の方が一生懸命策を練って出したものは、意外に伸びなくて。めちゃめちゃ不思議なんですよね。でもどこかで誰かが見てくれてるということを感じながら、自分が出してきた曲をしっかり愛しながら、どうやったら浮上できるかを考えながら、過ごした3年間でしたね。
――今の話、勇気づけられる人、多いと思います。
HIPPY:僕の中では(過去曲も)全曲リード曲のつもりで愛しているんで。それは、いつかは花が咲く可能性を持っている子供たちだから、そこで何もやらなければゼロのままだぜ、というところですね。
――じゃあ2020年の、3年振りのシングル「四季彩-SHIKISAI-」以降は、ある意味第二のスタートというか。
HIPPY:そうですね。「四季彩-SHIKISAI-」以降は、自分の次なる道を考えながら、いろいろ形を考えながら、自分にはどれが合ってるんだろう?とか、考えながら活動してました。出すためにはたくさんの人の力が必要で、かつ自分も食えるようにするために、どうやってこのミッションをクリアしていけばいいんだろう?みたいな。でも楽しかったですね、いろいろ模索している時期は。今も全然模索してるんですけど。
――そして、今回が10か月振りのニューシングル。正直、コロナの影響はありました?
HIPPY:みなさんと同じく、ライブやイベントがなくなったということはあるんですけど、僕は逆に「君に捧げる応援歌」が注目された時期でもあったので、とても複雑というか。僕を知ってもらえるきっかけができた、でもライブができない、そういうもどかしさはありました。でもここでやめたら、せっかく知ってもらえたのに届けることができないし、やっぱり作ることしかないなと思って、ちょこちょこと作らせてもらってました。
――それが新しいシングル「きっと神様は進めと言うだろう」になっていく。この曲の制作は、どんなふうに?
HIPPY:いろいろチャレンジしたい部分もあって、一緒にやってみたいなと思う方に声をかけさせてもらえたらということで、多保孝一さんにお願いしました。めちゃめちゃ大好きで、一緒にできるならやらせてもらいたいですということで、やらせていただいたということですね。
――それは、どういう出会いの縁で?
HIPPY:出会いは、自分が一緒に制作させてもらっているFROG(音楽制作会社)さんと多保さんがよく仕事をされていると聞いて、「いつか僕にもチャンスをもらえないですか」と言っていたんですけど、じゃあ次の曲を作ろうという時に「多保さんと一緒にやりますか?」「ぜひやりたいです」ということで、この曲に至りました。多保さん自身も、これからいろんな挑戦をしたい時期でもあったらしくて、「こういうメッセージ性のあるエールソングを作りたいです」という話をする中で、作詞の部分でも一緒に書かせてもらったのは、とても楽しかったです。
――そう、多保さんが作詞にも参加しているというのは、けっこう珍しいというか。
HIPPY:そうですよね。多保さんがたまたま、音入れがてら入れていた(歌詞の)フレーズがめちゃめちゃかっこよくて、「それも使わせてください」みたいな感じでした。サビのフレーズの入れ方のかっこよさ、気持ちよさがあったんですよ。言葉(の意味)も大事なんですけど、聴こえて楽しいとか気持ちいいとか、そこもこだわりたい部分ではあるなぁと思いました。もともと僕は、言葉を知らずに(曲を聴いて)踊るのも好きなので。
――二人のやりとりは、リモートで?
HIPPY:リモートでしたね。あとは音源を送り合って、アップデートしていって、いざ本番RECで「はじめまして」でした。リモートでおしゃべりはできていましたけど、会うと、より優しい人だなと思いましたね。愛に溢れる人だなと。しかもいろいろこだわりを持っていて、「ここの子音の入れ方はこうしたほうがいい」とか、細かくディレクションしてくださる部分はあるんですけど、「でも僕的にはこう行きたいです」とか言うと、「それもいいですね」って受け入れてくれる。大きい人なんですよね。もっと吸収しようという余白も持たれているし、学ぶところがすごくありました。
――多保さんといえば、クラシック・ロックやソウル、R&Bに詳しい人。共通点も多いんじゃないですか。
HIPPY:あー、なので、自分の歌い方を分解してくださっていて、「どういう音楽を通って、その歌い方になってるんですか? やっぱ、ブラックミュージックですか?」とか言われて。でも僕的には、ばんばんJ-POPを聴いて育っているので(笑)。僕の理想は、トータス松本さんとエレファントカシマシの宮本さんなんですよ。あんなボーカルになりたいなというところで始めていて、かつ、初めて行ったアーティストのライブがイースタンユースだったりするんで。スピーカーからツバが飛んで来るんじゃないかというぐらいのボーカルがすごく好きで、そのことを多保さんに言ったら「あー、なるほど」っておっしゃってくれて。そういうところからも、いろんなアイディアをいただきましたね。
――トラックはヒップホップぽくて、ギターはミニマルなレゲエっぽくて。ダークでハードに攻めてる感じの、かっこいい曲。
HIPPY:僕が「こういう感じでやりたいんですよね」と言って提示させてもらった曲は、わりと真逆だったんですよ。ハートフルなレゲエちっくな感じで行けたらと思っていたんですけど、けっこう刺々しい感じで返って来たなと。でも僕的には「こういうのやったことないし、最高のチャレンジになるな」と思ったし、自分が今思っていることをすんなり吐き出すことができるトラックなんですよね。その代わり言葉がやたらと尖ってしまったので、今までにない言葉の出方になっちゃいましたけど。本当は、この5倍ぐらい尖っていたんですよ。そしたら多保さんが「尖りすぎて伝わりにくいこともあるから、絶妙なところを探して行こう」ということで、歌詞のやりとりもけっこうしました。
――尖りつつ、リスナーが共感するポイントを探る感じですかね。
HIPPY:結局、コロナ禍のうっぷんが自分の中にたまってたんですね。多保さんもそこを汲み取って、ちょっとヒップホップ寄りのトラックにしてくださったのかなとか、いろいろ憶測する部分はあるんですけど。リリック感もトラック感も、初めてやるようなことだったので。いろんな可能性を引き出してくださったなと思いますね。
――いわば、辛口の応援歌。なんなら、リスナーのケツを蹴り上げるぐらいの勢い。
HIPPY:確かに。AメロBメロは否定で入って、それを全部「振り」にしちゃってるところがありますからね。
――あっちもこっちもあら探し、とか。傷つきたくないから見てるだけ、とか。明らかに現代のメディア報道とか、SNSとかの風潮を指していると感じます。
HIPPY:逆に、これだけ世の中に指摘される時代なら、自分で自分ぐらいはしっかり愛して、生きていけばそれでいいんじゃね?ということで、そういう歌詞になったんですね。
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