【インタビュー】犬塚ヒカリ、豊かな言葉とメロディーの振り幅で耳と心を包み込んでくれる1stアルバム『Halo』
■自分の名前に関するタイトルをつけるというのは
■自分をもっと好きになるための一歩なのかなとも思った
──ヒカリさんの創作活動において、ヒップホップとの出会いもひとつの転機になったそうですね。
犬塚ヒカリ:かなり大きな出会いでした。ヒップホップって、英語もネイティブなほどはわからないので共感できないから、昔はそんなに聴いていなかったんです。でも大学に入って周りがヒップホップというジャンルに興味を持ち出し、試しに聴いてみなよって言われた日本語のチル系のラップを聴いて、こんなに美しいヒップホップもあるんだと思ったんです。
──例えばどういう方ですか?
犬塚ヒカリ:男性だと唾奇さん、女性だと2人組ラップユニットのチェルミコとしても活動されている鈴木真海子さんのソロの楽曲とか。優しい音楽の中にきつい言葉が出てきたり、逆に生活に馴染むヒップホップを歌っていたりして、私の中では衝撃だったお2人です。納得しちゃいましたね、こういうのもありだよなって。
──なるほど。
犬塚ヒカリ:高校の3年間、女性シンガーソングライターとして若さとか、そういうのを求められるのが苦痛だったんです。歌詞を聴いてくれない悲しさというか。届けたいのは曲の中にあるはずなのに、外見とかそういうものに囚われて聴いてもらえないという悲しさがあったんです。その点ヒップホップを聴いている子たちって、「あのバース、“来る”よな」とか、言葉しかないぶん、言葉の中身をちゃんと理解してくれる。このジャンルだったら、もしかしたら私の声を聴いてくれるかもしれないと思ったのも、やってみたいと思ったきっかけでした。
──アーティストとしての見せ方や作る楽曲の方向性など、いろんなことを具体的に考えられるようになったのでは?
犬塚ヒカリ:そうですね。決して惰性だったわけではありませんが、ずっと続けてきたものをどう新しい方向に持っていくかとか、ワクワクする方向に変えていくかっていうビジョンがさらに見えるようになった気がします。
──その後は配信シングル、そして今回のアルバムと順調にリリースが続いています。今回はCDとしてもリリースされるんですよね。
犬塚ヒカリ:はい。私自身、好きなアーティストの作品はサブスクでも聴くけどCDも買うタイプなので、こうやって出せること自体嬉しく思っています。このサブスク時代にCDで聴いてくれる人がどれだけいるかなっていう不安もありましたが、目に見えるものとして薦められるし、人の手に直接渡せるじゃないですか。サブスクだと渡ったかどうかが実感としてわからないけど、こうやって物として渡していくことって、小さな積み重ねかもしれないけど自信になるなって思うんですよね。
──ご自分の名刺ができたみたいな感覚というか。
犬塚ヒカリ:そうですね。本当にそう思います。
──なるほど、だから『Halo』という自分のルーツに根差したタイトルをつけたわけですね。
犬塚ヒカリ:これまで配信リリースしたものに加えて新曲を4曲プラスしたので、「これが、今まで私が作ってきたものです」ってひとまとめにするにあたっては、自分に関係するタイトルがいいのかなと思ってつけました。
──ヒカリさんの誕生日である4月8日は旧暦で言うとお釈迦様の誕生日。そのお釈迦様の後光(Halo)がヒカリと言う名前の由来になっているそうですが、となると、先ほど「ひかりという名前が好きじゃなかった」という話にはどう繋がっていくのでしょうか。
犬塚ヒカリ:「ひかり」ってひらがなで書くと全部丸っこいし、柔らかくて優しくて可愛らしい感じで、私自身に合っていないと思ってずっと嫌いだったんです。でもアーティストとして活動する時にカタカナにして、6~7年やってきた中で、ちょっとだけ自分の名前を好きだなって思えるようになったんです。いろんな方に曲が良いねと言ってもらえたことや、認められたっていう過程が、自分の名前や自分のことを好きになるきっかけだったのかなと思うんですけど。その時に、自分は自分でいいんだっていう自己受容じゃないですが、そういう意味でも、自分の名前に関するタイトルをつけるというのは、自分をもっと好きになるための一歩なのかなとも思ったりしたんですよね。
──今作のリード曲は「overlap」。この曲はいつ作ったものですか?
犬塚ヒカリ:大学1年の時、3年前に作りました。ちょうど楽曲に対して疑問を持ち始めていたというか、先ほどお話しした100曲を封印することになったきっかけの曲でもあるんです。やりたい方向性が見つかって、実際に形にできたのがこの曲。「あぁ、自分ってこういう曲も作れるんだ」っていう自信にもなった最初の楽曲ですね。ライブでは何度か歌っています。
──アルバムの幕開けを飾る「愛を形容」に関しては?
犬塚ヒカリ:愛してるよとか好きだよという言葉よりも、もっと「愛だな」と感じる瞬間って日常にいっぱいあるなと思っているんです。それが歌詞の中に情景として反映されていると思うんですが、そういう愛しさだったりホッとするような瞬間──安心してね、大好きだよ、愛してるよって言葉で言うよりも、その風景を思い出したり、そういう一瞬一瞬を詰め込んだりしたような曲があったら素敵だなと思って作りました。この曲を1曲目にしたのは、そういう安らぎとか、赦しとか、落ち着いた気持ちになれるような楽曲で幕を開けたいなと思ったんです。
──「chroma」という曲の中に「微塵の不安を 抱え生きる 人の群れに 灯をさあ」という歌詞がありますよね。今のお話もそうですが、ヒカリさんの音楽は誰かの日常にいつの間にかそっと寄り添っているような存在でもあるのかなと思いました。
犬塚ヒカリ:映画とか物語とか何でもいいんですが、(作品として描かれると)日常が非日常に感じられるじゃないですか。ジブリ作品もそうだと思うんですが、日常生活のシーンが描かれているのに、映画として観ているから非日常に感じる。でも私たちの生活も、映画として切り取ったらきっとああいう風に見えると思うんです。そう考えると、日常の一瞬を楽曲にするのも面白いんじゃないかなと思うんですよ。人ってたくさんいるけど、各々の人生がそもそも物語のようなものですから、それをある意味自覚させたいというか、自分自身が特別だって思えるような曲を作れたらと。生活感とか、日常にある愛しさや美しさを切り取って上手く表現出来たらいいなという気持ちで楽曲を作っていますね。
──そういう気持ちで作った楽曲を、ライブで直接リスナーの皆さんに届ける時は何か違う感情が生まれていたりしますか?
犬塚ヒカリ:人前で歌う時も自分の部屋で作って歌っている時も、あまり意識は変わらない気がします。広い世界のためを思って歌ったり、大人数の人のことを思って歌うというより、最小単位のあなたと私みたいなところに向かって私は歌っているのかなと思うので。
──2月11日からは、中島美嘉さんのツアーにオープニングアクトとし参加されます。こちらも楽しみですね。
犬塚ヒカリ:美嘉さんは私が物心ついた頃からの大スターなので、お話をいただいた時はびっくりしましたし、私で大丈夫かなという気持ちにもなりました。でも、美嘉さんの楽曲の雰囲気やアーティスト性は、私が理想とするものに限りなく近いなと思っているんです。明るく頑張れよとか大丈夫だよって励ますというよりは、どちらかというと一緒に悲しみの中にいてくれて、悲しいよねって言えるようなアーティスト性を目指しているので。美嘉さんの楽曲もすごく悲しみに寄り添っていると思いますし、苦しみを知っている人の明るさって、ただ明るいだけとは違う魅力がありますよね。私はそういう人にすごく惹かれるんです。苦しさや悲しみや苦さなど全部知っていても、それでも立ち上がって明日を頑張る。ただただ行けるぞって言われるよりも、そういう人の頑張れって説得力があると思うから。そういう意味でも、美嘉さんの楽曲やアーティスト性や人柄、自分もこうありたいなと思える存在。尊敬する方のライブを、片時も離れず見られるのは絶対に何か自分が成長するきっかけにもなると思っています。
──そして、4月にはヒカリさんのワンマンライブも。
犬塚ヒカリ:ワンマンライブは1年ぶりになるんですが、コロナ禍ということもあって、直接ファンの方にお会いできる機会がなくて。だから今回は、私がファンの方の顔を見られるという意味でもすごく楽しみなんです。なるべくコロナが落ち着いていて欲しいなと思うし、私の曲を聴いてくださっている人と何か交流というか、お話ができればなと思っています。
──これからどんな音楽が発信されていくのか、今後の活動も楽しみにしています。
犬塚ヒカリ:ありがとうございます。コロナも3年目で、いろいろと辛いことが多い世の中ですよね。私も息苦しさを感じていますし、早く元の生活に戻りたいなと思っています。でも今回の私のアルバムが、そんな中での孤独感や悲しさや辛さみたいなものに寄り添い、少しでも安らぎだったりホッとするようなものになればいいなと思っています。
取材・文:山田邦子
リリース情報
2022年2月9日(水) Release
BNHI-0001/2,500(税込)
1.愛を形容
2.PATAPURIKE
3.overlap
4.Highway (nostalgic ver.)
5.恋がしたい
6.初夏と神様
7.chroma
8.Lonely
9.Anchor
10.チャプター
11.春屑
ライブ・イベント情報
日程:4月9日(土)
会場:下北沢ラグーナ
時間:開場15:00/開演15:30
チケット:前売2,500円 当日3,000円(各税込/別途1ドリンク代)
<Mika Nakashima Premium Live Tour 2022>
オープニングアクト
公演日程:
2月11日(金)千葉:成田市文化芸術センター スカイタウンホール
2月14日(月)東京:サントリーホール ブルーローズ
2月19日(土)大阪:あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
2月23日(水・祝)愛知:今池ガスホール
3月 5日(土)神奈川:神奈川県民ホール 小ホール
(追加公演)
3月26日(土)東京:イイノホール
4月2日(土)大阪:あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
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