【ライブレポート】JINTANA & EMERALDS、一瞬で架空の南国に
真冬でも真夏、いや、常夏。JINTANA & EMERALDSのライヴは、いつでも緩く暖かな南国の空気を運んでくれる。結成10年にして初のワンマン・ライヴは、表参道の格式あるクラブ、Blue Note Tokyoで行われた。この日は1stステージに参加したのだが、コロナ禍以降、ライヴ会場はさまざまな規制が敷かれ、なかなか客足が戻らないと言われていた中、ほぼ満席だったところに安堵の息をつく。
まず、楽器のメンバーがステージに登場。スティール・ギター担当のJINTANA。エレキ・ギターにカシーフ。この日はトラックメーカーのXTALがお休みで、代わりにサポート・ドラマーにマルチ・プレイヤーの南條レオが参加。続いて、3人のシンガーがステージに向かう。名作『CITY DIVE』(2012年)以降、現在進行形のシティポップ・シーンを牽引する一十三十一。K-POPや日向坂46などに詞曲を提供するソングライターのカミカオル。そして、MimeやTokimeki Recordsで活躍するひかりが新たに加入。エメラルド・グリーンの揃いのワンピースがステージに映える。
ひかり
JINTANA & EMERALDSは、横浜のサウンド・クルー、PPP(Pan Pacific Playa)のメンバーであるJINTANA(steel guitar)を中心に結成されたネオ・ドゥーワップ・グループだ。2014年にリリースされた1stアルバム『Destiny』は、MUSIC MAGAZINE誌で年間1位になるなど、非常に評価が高い作品となった。2021年秋には、7年ぶりとなる2ndアルバム『Emerald City Guide』をリリース。メンバーそれぞれがほかの活動母体を持ちながら、ゆるりと活動を続けている。
JINTANA
ライヴは2ndアルバム『Emerald City Guide』のオープニング・ナンバー「Oh! Southern Wind」でスタート。その瞬間に場内の空気が変わる。一十三十一がリード・ヴォーカルを取るこの曲は、楽曲はオーソドックスなドゥーワップだが、バックに隠し味のように聴こえるスティール・ギターとエキゾなムードのエコーが架空の南国へと見る者を運んでくれる。柔らかに切り込んでくるカシーフのギター・ソロは、ロック的なフレーズなのに、なぜかこのサウンドの中にうまく溶け込んでいる。これがEMERALDSのサウンドの面白いところだ。
一十三十一
この日特筆すべきだったのは、DUB MASTER Xによる音響だ。通常のライヴにおける残響とは違う、サウンド全体を覆うような深いエコー。しかし、その中からヴォーカルや演奏の音がきちんと抜け出して来て、CDで聴けるサウンドのバランスがそのまま再現されていた。技術だけでなくセンスも必要な匠の技と言っていい。一十三十一のヴォーカルから始まる1曲目の歌い出しでこの音響を確認した瞬間、この日のライヴにどれだけのこだわりをもって臨んでいるのかが伝わって来た。
こだわりという点で言えば、ステージの背景にVIDEOTAPEMUSICによるVJを映していたことも挙げられるだろう。様々なVHS素材から作り出した映像は、その質感そのものにレトロな味があり、この日のライヴのムードを作り出す重要なエッセンスになっていた。もうひとつ、自分の席からは見えにくく後で知ったのだが、JINTANAのスティール・ギターのスタンドは、エメラルドをイメージした三角形の8面体が回りながら光るというもので、加藤ユウのデザインをNEST DESIGN STUDIOが制作したというオリジナルなもの。このように至るところにバンドのコンセプトに則った徹底的な拘りが見られ、世界観を作り出していた。
ふと思ったのが、一十三十一、カミカオル、ひかりのヴォーカルのユニークさだ。3人組の女性コーラスというと、バキバキにプロフェッショナルで一糸乱れぬハーモニーを聴かせるか、お友達感覚の素人っぽさが魅力かというパターンがよくみられるが、この3人のコーラスは、どこかゆるりとした感覚がありつつもハーモニーはバッチリ決まっているという絶妙なバランス感覚で、これもまたこのムードの重要な要素になっていた。
カミカオル
3人のシンガーが代わる代わるリードをとりながらライヴは進んでいき、「Love Again」ではゲスト・シンガーにsauce81が加わり、ロマンティックなヴォーカルを聴かせる。終盤ではサックスに浦野紘彰も加わり、より彩り豊かなサウンドに。普段はカシーフのギターとJINTANAのスティール・ギター以外は打ち込みのオケを使っているが、こういったところにもこの日のライヴの特別さを感じる。
途中、アコースティック・パートを挟みつつ、オリジナル曲の他に、LA'S「There She Goes」のカヴァー(この選曲センス!)、アンコールの最後は浜田省吾「二人の夏」のカヴァーで締めた。1ステージ1時間程度と決められている会場で、「Destiny」や「Runaway」などの代表曲を網羅し、アンコールも含めてなんと16曲も演奏したのには驚いた。
彼らのライヴは、これまで江ノ島のOPPARAほかストリートやクラブなどで見てきたが、Blue Noteのラグジュアリーな空間との相性は抜群で、外国の海沿いのホテルのラウンジでくつろいでいるかのような、リラックスした贅沢な時間を過ごすことができた。EMERALDSにとってベストな会場ではないだろうか。見ている者までを優雅に心地よい気分にさせてくれる彼らのライヴ、今年またどこかで見られることを楽しみにしている。
取材・文◎池上尚志
◆JINTANA & EMERALDSオフィシャルサイト