【ライブレポート】Kroi × ニガミ17才、“音を楽しむ”という原点
Kroiの対バン企画ライブ<Dig the Deep>。2020年3月以来1年半ぶりの開催となるツアー形式の本イベントも、いよいよ折り返し。福岡、名古屋を経て、12月18日に梅田CLUB QUATTROで行われた大阪公演の対バン相手は、ニガミ17才。両者のライブは「その場にいた人だけが味わえる新しい体験をさせてくれる」「音を楽しむ」という原点をひしひしと感じさせてくれるものだった。
◆ライブ画像
寒さが一気に本格化し、外は身震いしてしまうような気温だったが、開演前の会場からは、暖房の暖かさだけではない高揚感が感じられた。ステージ上には、<Dig the Deep>のキービジュアルの幕が吊るされている。
先攻はニガミ17才。関将典(B)のラブコールで実現した対バンだ。ステージが暗転すると大きな拍手が沸き起こった。岩下優介(Vo)、平沢あくび(Syn)、イザキタツル(B)がステージ前方に置かれたiMacを囲う。1曲目は「テクノロジーの鬼」をドロップ。岩下は存在感を放つカラフルなファーを纏い、ラップを紡ぎ出す。一体何が起こるのだろう、と期待が高まるスタートだ。「ライブハウスへようこそ」の言葉を皮切りに、ニガミワールドにどんどん引き込まれる。
その雰囲気に圧倒されたフロア。2曲目の「こいつらあいてる」では岩下が演奏を止め、「これじゃあね、いけないと思う。カッコ良く始まったものの手拍子ぐらいは欲しい」と一言。ソフトな口調の中にも、ただライブをやるだけじゃ終わらないぞ、一緒に楽しむんだぞという気合いと意思が伺えた。オーディエンスはすぐさま手拍子&ジャンプで応え、文字通り会場が揺れる。続けて「おいしい水」「ねこ子」を披露。日本語に聞こえない日本語詞を吐露しながら、小道具と自身の体を使い、岩下と平沢がステージを自由自在に動き回る。クセになるリズム感と独特のパフォーマンスに釘付けになる。
MCでは、車で前日入りした岩下が吹田SAに到着するまでビーチサンダルで来たことに気づかず、そのままライブしていることを告白。また、「Yoチェケラッチョ」の合図でサポートドラムのkyon(Dr)とイザキがヒップホップのリズムを奏でることが決められ、初見の人には楽しみな伏線も張りながら和やかに進行された。
岩下がサンプラーをプレイする「幽霊であるし」、全員の見せ場が映える「あの娘かわいそうに」から続けざまに「ただし、BGM」をプレイ。一見バラバラに見える個々の強烈な個性が調和して心地が良い。平沢がステップを踏みながら手で振り付けをすると客席も応え、サビでは綺麗な一体感を生み出す。「化けるレコード」を経てラストは「かわきもの」へ。「ありがとう、ラスト」という岩下の言葉で、ステージの空気がピリッと引き締まったように感じた。曲中コロコロと展開が変わり続けるステージングは本当に目が離せない。さらに、突如差し込まれる「Yoチェケラッチョ」。フロア含め、ライブを構成する全員が異なる拍子をとっている複雑な状況をコミカルかつわかりやすく説明し、さらに気持ち良いリズムへと導いていく岩下。
何度見てもメンバーの対応力には舌を巻く。最後はオリジナル曲に戻り、会場の温度を上げ切ってステージを後にした。「音楽を心から楽しんだ」という満足感を得られるライブ。それはニガミ17才の持つ強みであり、彼らだからこそなし得るものだろう。
転換中、長谷部悠生(G)がDJをつとめるラジオ番組がBGMとして流れてきた。本ツアーで流されているもので、本編からCMのジングルまで長谷部の手作り。Kroiの新譜の宣伝、グッズ紹介、宇宙人のゲストコーナー、リスナーのお便り紹介など、かなり細かい構成が練られている。本人にとっては念願だったそうだが、客席の反応は……ぜひ実際に会場に足を運んで聞いてみてほしい。
サウンドチェックを済ませ、ステージに5人が登場する。待ってましたといわんばかりの歓迎ムードにメンバーも拳を上げる。幕開けは「Noob」。のっけから千葉大樹(Key)のスペーシーなサウンドが鋭く響き、会場を満たす。「皆さん調子いかがですか!」と内田怜央(Vo)が叫ぶと、フロアも熱狂。サビでは一斉に手が上がり、加速度的に一体感が増していく。ニガミ17才の残した空気を引き継ぐように、様々なテクニックのオンパレード。メンバーの見せ場が次々にやってくる。「Balmy Life」ではグルーヴィに魅せ、「Juden」でメロディアスに踊らせる。一切音が濁らず、それぞれの奏でる音がよく聴こえる。一音一音が立っていて、それらが重なりひとつの楽曲を形づくる。耳で体で受け止める音の、果てしない躍動感。パワー漲る演奏が、目の前で繰り広げられる。
メンバー全員が「ハッハ! ホホホ!」と声を発するイントロが衝撃的な「Monster Play」では、緩急のある構成でもって、大人の深みを見せつける。曲の途中、「ギターソロじゃんけんをして、勝った奴が気持ち良くギターソロをします」と内田。益田英知(Dr)が音頭をとり、ギターソロの権利は長谷部が獲得。往年のロックスターよろしく、泣きのギターを情緒感たっぷりに披露した。遊び心も交えながら、超絶テク全開でプレイするのがKroiらしい。
MCでは、この大阪公演が年内最後のライブで、年明け一発目のライブも大阪だと明かされた。大阪に縁があるのは素直に嬉しい。「皆さんブチ踊ってってください!」との内田の言葉に続き、ムーディな「Rafflesia」をプレイ。囁くような歌声で会場中を魅了する。さらに「あまりここでやることがないんですけど、ボルテージMAXでお願いします」と、アンセム「Fire Brain」をドロップ。オーディエンスは両手を挙げて大喜び。ブラックミュージックを思わせるボーカル、力強い演奏に自然と身体が揺れる。
かと思えば「Never Ending Story」では優しく柔らかなピアノをバックに、感情を込めて美しく歌い上げる。この内田の声量と存在感、表現力の幅の広さに驚かされる。Kroiはあらゆるジャンルの影響を昇華したミクスチャーバンドだが、曲単位のみならず、1曲の間でも表情が変化する。まろやかな音も、本能をゆさぶる音も自在に操る力がある。
ここで2度目のMC。「めちゃめちゃ楽しいですね!」と笑顔の内田。転換中のラジオについて語った長谷部は、忙しくて大阪編が録れなかったと詫び、「このツアー、回を増すごとに俺だけダメになっていってる気がする」とラジオの評判にやや消沈(?)しつつ「後半戦見ててください!」と、明るく気合いを入れた。
ライブに戻り、異国感を感じさせるサウンドながらも日本語詞がはっきり届く「おなじだと」ではコーラスワークもバッチリ決まり、それぞれのソロに合わせた照明のドラマティックな演出が効いた「WATAGUMO」では内田の歌唱力が光る。日本語の美しさが引き立つ楽曲。そしてその歌声を支え、彩る4人の演奏力。本当に、彼らにはどれだけ引き出しがあるのかと思わずにいられない。
「Network」が始まると、導かれるように手拍子が発生。高速ラップが軽やかに空間を弾き、リズムで身体が勝手に跳ねる。Kroiのライブは“次にこの音がきたら気持ち良いな”と思う音が期待通りにくる。1度見たら離れられない。中毒性抜群だな、と思う。続く「selva」ではドラムソロからベースソロへ、そして流れるように「Page」へと、最高にカッコ良いアレンジで繋いでみせた。内田はパーカッションの役割も担いつつ、マイクを使い分けてサウンドの厚みを増してゆく。
「どうも皆さんありがとうございます。ラスト1曲です。ブチ上がってください」と、本編最後に演奏されたのは「HORN」。曲が始まった瞬間、フロアはノリノリに。カラフルなライトとポップで軽快なビートに乗せられジャンプ! 「まだまだ!」との内田の煽りで、さらにヒートアップ。最高潮の盛り上がりを見せた。
アンコールではサングラスを外した内田。長谷部もポニーテール姿で登場。内田は「最高の1日になっちゃいました。皆さん本当にありがとうございます」と挨拶。そして「最初すごい暗い曲なんですけど、ちょっと我慢してください(笑)」と「侵攻」をプレイ。振り絞るような内田の声と4人の演奏に没入し、アンダーグラウンドな音の波に溺れる。思わず時間を忘れてしまった。
そこから一転、パッと音が軽くなり、最後に「夜明け」をドロップ。内田は心底楽しそうに笑顔でリリックを放つ。安定感のある益田のドラムに支えられ、関のベースソロから千葉のキーボードソロへ。体を倒し、渾身の力を込めて演奏する。長谷部の熱量の高いギターソロでバッチリ決めて、ラストは優しくフィニッシュ。こうしてKroi年内最後の大阪ライブは幕を閉じた。
Kroiとニガミ17才の共通点は、最強の個性の集まりでありながら最適なバランスであること、まるで生き物であるかのように変幻自在に音を操ること、真剣に遊ぶところ、ライブと音源が全く違うところ、だと思う。そして飽きない。あっという間に終わってしまう。2組のライブはそれほど夢中にさせられるのだ。この感覚は現場でしか味わえない。「音楽を好きで良かった」。純粋にそう思わせてくれた、最高の夜だった。
文◎久保田 瑛理
撮影◎松田直也
<Kroi Live Tour 2021-2022 “Dig the Deep”>
2022年
1月8日(土)東京・渋谷 CLUB QUATTRO w/マハラージャン(SOLD OUT)
1月9日(日)東京・渋谷 CLUB QUATTRO w/在日ファンク(SOLD OUT)
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