【ライブレポート】aikoという“哲学”、aikoという“人間力”
2021年12月14日。東京ガーデンシアター。aikoの全国ホールツアー<Love Like Pop vol.22>の開催が決定され、その詳細スケジュールが発表されたのは、2021年3月の半ばのことだった。これは、前回のツアー<Love Like Rock vol.9>の一部の振替公演も含むものであり、本人ももちろん、ファン全員がツアーの完走を強く願っていたこともあり、開演前からライヴが開催される喜びが会場中に溢れていた特別な熱を感じたほどだった。
◆ライブ写真
ファンの手拍子の中、真っ赤な幕が降ろされると、aikoはボーカル台に立ち「Last」でオーディエンスを迎えた。発色のいい蛍光色に近いピンクのインナーと、鮮やかなグリーンのオーバーサイズのシャツと、インナーよりも少し色の濃いピンクの靴下と蛍光イエローのスニーカーという、ラフではあるが随所にaikoのこだわりとセンスを感じる衣装に身を包み、2曲目に届けられた「磁石」では早々にステージの下手と上手を行き来し、「Smooch!」では勢いよく花道へと駆け出し、足を高く上げたり、くるくると回ったり、曲のリズムに合わせて軽やかにステップを踏んだりと、ライヴ序盤から全力でフロアを盛り上げていったaiko。
1人1人と目線を合わせる様に姿勢を低くして唄う仕草も、しばらくをライヴを観れていなかっただけに、よりaikoの想いが伝わってくる気がした。ライヴで初めて聴いた新曲達には、音源だけで聴いていたときとは異なる物語を感じた。これも、ライヴで聴けて当たり前だと感じていた以前の感覚とは違い、“やっとライヴで聴けた!”という想いの強さもあってのことだろう。お互いがライヴを渇望する熱が、今まで以上に強くなったことを感じさせてくれたのも、“今”ならではの光景として特筆しておきたいところである。
その一つとして、声を出してはいけないという制限がある為、一部のオーディエンスはaikoとのコミュニケーション用に、メッセージを書いたスケッチブックを持参して来ていたのだ。そこには、「〇〇歌って」「“C”見える?」「大好き!」などのメッセージが書かれていたのだが、aikoはそのメッセージを目ざとく見つけては、MCでしっかりと答えていた。
ピアノとストリングスとボトルネックの響きが印象的な「えりあし」のメロディを、大切に伸ばして唄ったaikoの姿と、メロンソーダを思わせる緑の照明で染まったステージで、大きなステップを踏みながら「メロンソーダ」を唄ったaikoの姿と、サビの“ばいばーい”を、悲しい今を全部その言葉に乗せて忘れてしまおうと願う主人公に代わって叫ばれる様に唄われた「ばいばーーい」では、客席の動きがピタッと止まったほど、真に迫る感情が注がれていた。少し震える唄声は、泣いているのか?と思ってしまうほどに感情が溢れ出ていたのを感じた。ラストでは赤い照明がaikoを包み、aikoは少し浅く息を吸い込むと、最後の“ねぇ時間が過ぎるって凄いことなの この歌を作り終えた頃あたしは少し前を向いてる”の言葉を唄った。このときマイクが拾った小さな息の音は、より一層胸に響いた。CDでは感じ取れない、ライヴゆえ、生ゆえの直に心臓をギュッと掴まれた様な感覚を久しぶりに味わえた気がした。
曲が変わっていく度に、聴く者の感情を大きく動かしていたaiko。アップな曲で足を時折高くあげ、大きくステップを踏むaikoのパフォーマンスには心を踊らせ、どうしようもない切なさが唄われる歌声では身動きができないほどに心を掴まれ、客席で立ち尽くしていたオーディエンス。
aikoによって引っ張られる感情が激しく変化していたのが感じ取れた。aikoはいつも歌い終わった後、話し始めるときは必ず、届けた曲のタイトルを言って、“聴いてくれてありがとうございます”と深く頭を下げる。この光景は見慣れてきた光景であるのだが、この日、ふと、それはもしかしたら、歌の世界からオーディエンスを現実に引き戻しているのかもしれないな、と感じたほど、aikoの唄の力強さを実感させられた。
それほどまでに、歌の世界に入り込むaikoと、MCでのナチュラル過ぎるほどに気さくなやり取りでオーディエンスと接するaikoとの温度差が激し過ぎるのも、そう思った理由なのかもしれない。現に、この流れで差し込まれたMCでは、客席に置かれてあったQRコードが印刷されたチケットを読み込み、そこから質問を書き込むとステージ上でaikoが持っていたiPadに質問が送られるという仕組みが施されたコーナーでしばし盛り上がった。ステージに座り込み、ボーカル台を机代わりにし、完全に体を委ねる体制で肘をついてiPadを見ながら質問に答えていくaikoの姿は、メンバーからも、“aikoさんの部屋からライヴを届けているみたいな光景”と言われていたほどのリラックスぶりであった。ここでは、近々手術をすることになったので励まして欲しいというお願いと、母親がカード詐欺にあったので慰めて欲しいというお願いに、まるで友達の相談に乗っているかの様な身近さで答え、会場を笑いの渦に引き込んだ。
平日とあってスーツ姿のサラリーマンも多く見られたが、上着を脱いで、両手を上げて全身の力を込めたクラップでライヴを楽しんでいたのがとても印象的であったし、aikoのファッションを真似た10代の女の子がたくさんいたのも、変わらずな光景だった。仕事上多くのアーティストのライヴに足を運んでいるのだが、こんなにもファンの年齢層が幅広いアーティストは珍しい。そんな中でも、MC中に普通にお客さんに話しかけたり、下がった靴下を無造作に上げてみたりと、気持ちを近く置いたaiko流な距離感で惹きつけるaikoのライヴは特別な温度感であると思う。
コロナ禍でライヴが延期や中止になったからこそ、aikoのライヴが自分にとって必要不可欠だったことを改めて思い知った人も多かったことだろう。それを証明するかの様に、この日のオーディエンスのaikoの欲し方と手拍子の力強さと、最高の盛り上がりは、これまで以上の高さだった気がする。一方aikoも同じくだ。終始軽やかにステップを踏み、花道に駆け出し、ボーカル台をジャンプ台代わりに高くジャンプするいつものライヴスタイルは、何一つ変わっていないのだが、その当たり前を一つ一つ噛みしめるかの様に、いつも以上に大切に熱を注いでいたのが感じ取れた。
スカ調にリアレンジされて届けられた「シャッター」が印象的だった後半戦では、好きが募るからこそ臆病になってしまう感情が実にリアルに描かれた「食べた愛」でさらにオーディエンスの心を引き付け、そこから、「心日和」「ドライブモード」「夢見る瞬間」と間髪入れずに届け、恋愛における心情の揺れ動きを見事に唄って届けていった。この時点でライヴは1時間半を超えていたのだが、そんなに時間が過ぎていたことに驚いたほど。毎回aikoのライヴはそうなのだが、体感的にはまだまだ始まったばかりと思えてしまうほど、とにかく何よりも楽しさが勝ち、時間を忘れさせてくれる魔法がかかるのだ。
「あともうちょっとで終わってしまう、ライヴが……。やなんですけど、ツアーが終わるの」と、少し寂しそうに話し始めたaikoは、メンバーと、“振り返るのではなく、これからもずっと長く長くみんなと一緒にライヴがたくさん出来るように、未来のことを話そう”と約束したことを話した。ライヴが終わってしまう寂しさを抱えながらも、突然会場に居たトナカイの着ぐるみを着たファンを弄り始めたり、スーツ姿で参戦してくれているファンに、“暑かったら上着脱いでね”と、友達を気遣うかのように話しかけていた、壁のないaikoの優しさがとても愛おしかった。
とにかくたくさんのファンの想いに答えようと、コロコロと話題を変えていくaiko。声を出せない制限の中でも、なんとかお客さんと近い距離で掛け合って行くaikoのファン愛だ。そんな中でaikoは、親子連れでライヴに参戦していたファンに声をかけ、「前も来てくれてよね? 前のときも喋ったよね? 子供ちょっと大きくなったね! (子供に向かって)お母さんだよ!」と、会場を笑わせたのだが、驚くのはこのズバ抜けた記憶力だ。しかし、このやり取りからも分かるように、その場限りのノリだけではない、ちゃんと1人1人と毎回真摯に向き合って話しているのだ。これは誰もが出来ることではない。
「じゃあ、みんなやろっかな!」という一言から、何を始めるのかと思いきや、突如振り付け講座を始めたaiko。両手を上げて全身を震わせる振りをして見せる振りを男子に。両手を下げた状態で押し引きする振りをして見せる振りを女子に。両手を上下させて屈伸するような振り付けをして見せる振りをそうでない人に。と、aiko自らが振り付けを見せながら指導。aikoによると、男子はハタキ。女子は掃除機。そうでない人は窓拭きという、年末の大掃除をイメージした振り付けだったのだとか。そして、最後は全員で両手と片足を上げてフワッとするポーズをして、“綺麗になったわぁっ!”で締めくくるというものだった。
最後は素晴らしく息の合った1本締めで、aikoとオーディエンスの会場内での大掃除は大成功! これこそ、誰一人として置いて行ってない、そこに居た全員が一緒に盛り上がれたことが証明されていた瞬間だった。すごいな。aikoは。人を楽しませることが出来る天才だ。
「58cm」では、バンドメンバーを紹介すると同時にそれぞれのソロへと導き、会場を盛り上げた。「みなさん、どうもありがとうございました! 最後の曲、歌いま〜す!」と、本編最後に届けられた曲は「ストロー」。緑、紫、黄色、赤の照明が派手やかにフロアまでも照らす中、aikoは花道の先端で大きくステップを踏みながら、1人1人に幸せを届けた。花道の先端で、ファンに囲まれながら唄うaikoの姿も、とても幸せそうだった。歌い終わると、何度もありがとうを言い、「バイバイ」と一言残しステージを後にしたaiko。会場はアンコールを求める手拍子が鳴り止まなかった。
しばらくして、黒のツアーTシャツに赤のワイドめなルーズパンツ姿で、オーディエンスの拍手に応えてステージに戻って来たaikoに、拍手はより大きさを増した。しかし、静かにステージの中央に立ったaikoの姿に、自然と拍手の音は静まった。届けられたのは「あたしたち」。その静かなスローチューンに、一つ一つの言葉(歌詞)をゆっくりと置いて唄っていくaiko。“好きになって嫌いになって 繰り返し見えてくる 答え合わせを何度もして──”人を愛する気持ちの動きを、aikoは本当に見事に書き記す。オーディエンスは、大切にこの曲を歌い上げる届けるaikoから目を離すことなく、見守った。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。終わりたくないです、やっぱり。これからも続けていけるように頑張ります。これからもいろんなことがあると思いますが、みんなもいろんなことがあったと思うし、これからもいろんなことあると思う。楽しいこともめちゃくちゃいっぱいやって来たらいいなと思うけど、嫌なこともあるかもしれない。そのときは、諦めずに一緒に乗り越えて行けるように、あたしはライヴでこうやって曲を頑張って届けられるのがすごく幸せなので、みんながそれを受け止めて、それがちょっとでも楽しいっていう気持ちになってくれたら嬉しいと思います。というか、いつもあたしが貰ってばっかりなんですが、これからもっと、たくさん楽しいいろんな気持ちを投げていけるように頑張って曲作ります! なので、また出来たらみなさん、聴いてやって下さい。よろしくお願いします! みんなに届きますように。1人で来た人も、そうじゃない人も、みんなにいつも一緒にいます。「いつもいる」です。聴いて下さい」
“辛い時にはあたしを見てね あなたの隣で笑ってる それが生活 ずっと一緒にいるということ”とてもパーソナルなこの歌詞。愛する人たった1人に届ける言葉に聞こえるが、aikoが曲を作る先には、唄う先には、自分を支えてくれるファンが見えているのだろう。
そして、この日は最終日とあってトリプルアンコールまで届けられたのだが、なんとダブルアンコールのラスト曲だった「ボーイフレンド」を届けた後、バンドメンバーとステージ前方に並び、挨拶トークをしている流れで、aikoの口からサラッと結婚の報告が放たれたのだった。
「報告しま〜す! aiko結婚しました〜!」
その報告は、そこに集まっていたファンはもちろん、関係者、スタッフ、バンドメンバー全ての動きと息を止めたほどに強力だった。その衝撃はまさにメガトン級。会場中が一時停止したかの様に動きを止めた中で、ケタケタと悪戯に無邪気に笑うaiko。会場は本当に驚きを隠せないといった光景だった。でも、これこそもaikoのファン愛の証。誰よりもファンに1番に報告したいという、aikoの愛情の証であったのだ。あまりに突然の報告に驚いていた会場中だったが、次の瞬間その空気は一変し、全員で万歳をし、aikoを祝福したのだった。こんなにも愛されているaikoを素晴らしく思った。報告後に届けられた曲は「beat」。唄うaikoの幸せを喜ぶオーディエンスからの手拍子はここまでの力強さとはまた一味違った、力強さがあった。「mix juice」では、フィドル隊が楽器を置き、aikoの為に全身で喜びダンスを踊っていたほど、幸せに包まれたステージだった。
このツアーの最後を締めくくったのは「be master of life」。ロックサウンドをホーンが華やかに彩る最高に盛り上がるライヴチューン。“あたしがそばにいてあげる ささいな事も言ってね 明日も幸せである様に” “あたしは味方よ”と“あなたに出逢えたこの奇跡”を心から喜び、寄り添える仲間がいることの素晴らしさを教えてくれるこの歌は、aikoからの“ありがとう”だった気がしてならなかった。aikoはこの曲中に、何度も「ありがとう」を叫んだ。本当に嬉しかったのだろう。曲を届け終わってからも、aikoは「ありがとうございます」をずっと言い続けた。そして、「これからもよろしくお願いします」の言葉も同じくらい叫んで届けた。
「これからもたくさん恋愛の曲書きます!」と結婚を報告した後のMCでaikoが言った言葉にも愛を感じた。これまたサラッとMCの流れの中で言った言葉ではあるが、これこそとても重要なところ。これはaikoからの“変わらずにいるからね”という約束だったに違いないと感じた。
しかし、やられた。今回も本当にやられた。手放しな状態で純粋に“楽しかった〜”という感想のみが体に残されていた終演後の自分の気持ちに気づいたとき、改めてaikoのすごさに気づかされた。これは、毎回aikoから届けられる楽曲や歌詞を受けたときに感じる最初の感想と同じ。やられた。また今回もやられた。すごいな、aikoって。そう思う感覚。楽しませ方も、サプライズも、そして、直接聴ける唄も。
“哀しい”とか“切ない”とか“愛おしい”とか、そんな既存の言葉じゃ到底言い表せない感情を、aikoはスッキリするほど素直に唄って届けてくれる。まるで、そのモヤモヤした感情に名前を付ける様に。独りでは乗り越えなれない苦しさに、同情する訳でもなく、手を差し伸べる訳でもなく、寄り添う訳でもなく、驚くほど同じ目線で魔法をかけ、引っ掛かっていたり、引きずっている気持ちを、グイッと前に向けてくれるのである。それは、単なる“恋愛ソング”でもなく、“処方箋”などでもなく、もはや“aikoという哲学”であり“aikoという人間力”そのものなのである。音源以上にその全てが直に伝わってくる時間。この日のライヴも、そんな“aikoの全て”で私たちを楽しませてくれた時間だった。
コロナ禍でライヴが延期や中止になったからこそ、aikoのライヴが自分にとって必要不可欠だったことを改めて思い知った人も多かったことだろう。それを証明するかの様に、この日のオーディエンスのaikoの欲し方と手拍子の力強さと、最高の盛り上がりは、これまで以上の高さだった気がする。一方aikoも同じくだ。終始軽やかにステップを踏み、花道に駆け出し、ボーカル台をジャンプ台代わりに高くジャンプするいつものライヴスタイルは、何一つ変わっていないのだが、その当たり前を一つ一つ噛みしめるかの様に、いつも以上に大切に熱を注いでいたのが感じ取れた。
aikoのファンは幸せだなぁ。
この日、改めてそんなことを思いながらaikoのライヴを観た。この日はいつも以上にその想いを強く感じたといってもいい。この先、aikoがこの日誓った様に、これからもずっと変わらず、aiko流の恋愛ソングを届け、多くのaikoフリークを、今まで以上にもっともっと夢中にさせ、幸せに導いて欲しい。そう心の底から思えた夜だった。
取材・文◎武市尚子
写真◎岡田貴之
セットリスト
M2.磁石
M3.Smooch!
M4.シアワセ
M5.列車
M6.宇宙で息をして
M7.えりあし
M8.メロンソーダ
M9.ばいばーーい
M10.しらふの夢
M11.シャッター
M12.愛で僕は
M13.食べた愛
M14.心日和
M15.ドライブモード
M16.夢見る隙間
M17.58cm
M18.ストロー
アンコール
M20.あたしたち
M21.冷凍便
M22.いつもいる
ダブルアンコール
M23.プラマイ
M24.陽と陰
M25.未来を拾いに
M26.ボーフレンド
M27.beat
M28.mix juice
M29.Loveletter
M30.be master of life
■Love Like Pop vol.22ツアーファイナル セットリストプレイリスト
URL : https://aiko.lnk.to/LLP22
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