【インタビュー】KEIKO、「良い音を届けたい、以上!」
■歌が見えている曲と、歌を探していく曲
──そうした新しさを感じた中盤から、後半は再びアグレッシブな「現実のメタファー」から幕を開けます。
KEIKO:この曲もアルバム制作序盤に引っ掛かっていた曲ですね。「KEIKOが歌っているのが見える」と言われて、声を当ててみたら「なんだろう、この長年歌ってきた感は?」みたいになり、採用!でした。
──確かに曲調としてはKEIKOさんが歌ってきたテイストがありますよね。
KEIKO:テンションを上げたくなったり歌いあげたくなるメロディなんですけど、そこをしないっていう所を一番大事にしました。本当だったらうわーって歌いあげたほうが気持ち良いと思うんですよ。ここからもうちょっと気持ちテンポ上げて、キーも半音上げてってなるとアニメソング的になるというか。それぐらい聴き心地の良い懐かしいメロディなんだけど、それをあえて行き切らないっていう所が、このアルバムに入れたい方向性だったんです。
──KEIKOさんらしさを感じさせるんだけど、そこでのボーカルアプローチは今っぽくという。
KEIKO:歌い上げない。自分が気持ち良くなっちゃいけないという意味では初心に帰らせてもらいました。自分がまだ音楽活動を始めた二十歳ぐらいの頃で、当時のプロデューサーさんに「ステージで歌っていて自分が気持ち良くなったらまだアマチュアだよ」って言われたんですよ。誰かに届けたいという時に自分が気持ち良くなって歌い上げていると、人には届いていない。
──その難しいバランスがプロとアマチュアの境界線というか……。
KEIKO:若い頃ってそんなことわからないんですよね。この曲も昔だったらめちゃくちゃ歌いあげていたと思うし、そうやって歌いたくなる曲なんですよ。だから皆はカラオケでものすごく歌い上げてほしい(笑)。でも今の私が歌いたい「現実のメタファー」ってこういう感じ。ある意味この曲を通じて今の自分を知ることが出来ました。
──そして続いてはejiさんとのコラボとなる「キミガネムルカラ」。
KEIKO ejiさんと作る曲はひとりの時間を楽しむような、“自分と音楽”というような時間を作れる曲にしたかったんです。音楽を聴きながら自分を見つめる瞬間であったり、クールダウンする時間であったり、そういう時間にしたいなって。「キミガネムルカラ」は暗めの曲でコードもすごく暗い感じ、見える景色は夜な感じで……という具体的なワードをejiさんに投げさせて頂きました。もともと私がサントラの楽曲とか好きだから、楽器メインにしたヒーリングテイストのような、時折言葉がふと出てくるような曲をアルバムに一曲入れたかったんです。なのでこの曲ではチェロだけじゃなくて弦を重ねて、ejiさんに書いて頂いた曲の中でも、これでもか!ってぐらい弦攻めして頂きました。
──そうしたアプローチの違いはあれど、他の曲と比べてもKEIKOさんの作詞も含めてミニマムな視点での世界観というのは共通している気がしました。
KEIKO:私も聴いてみて、「ラテ」の浮遊感やループしていく感じと、違うジャンルなのに軸が共通するものが出来たなって思う所はありましたね。
──異なるサウンドでも一本軸があるという、そこが『dew』的にまとまっているんですよね。
KEIKO:そう、すごく不思議。アルバムってこうやって作られるんだって思います。
──続いては昨年発表されたアグレッシブな「笑ってやる」。
KEIKO:和メロなんだけど突然の英詞という和とロックの融合という感じで。これも「ミチテハカケル」と同じように、アルバムに入れるかは保留にしていた曲だったんですけど、アルバムの中でもどこか和テイストを入れたいなって思っていて。後、ここら辺でまったりしつつあるからそろそろ叩き起こす時間かなと(笑)。
──アルバムの場所的にもクライマックスに向けてもう一度楔を打つというか。
KEIKO:そうそう、また景色の切り替えどきかなという。
──そして続いては壮大なバラードとなった「Revolution」です。
KEIKO:「命の花」のテイストがすごく好きで、同じ作家さんに今回のアルバムでもお願いしたかったんです。ただ最初に頂いた歌詞は男性目線で、それも良いなとは思ったのですが、愛情深い歌詞になっていたので、私が歌うにあたって女性目線にしてもらいました。本当はアルバムの一番最後に入れたかったんですけど、それだと「命の花」が最後の『Lantana』と似てしまうので、今回は違う立ち位置で歌いたかったというのもあってこの曲順にしました。「命の花」も含めて私が歌い続けていきたい“人への愛情を歌いたい”という方向性ですね。
──この愛情に溢れた歌詞がまた感動的で、今この時代に生きる人達にものすごく刺さる内容だなと。
KEIKO:この曲を収録したのは一番最後だったんですね。歌詞があがってきたのもアルバムで一番最後。で、すごい偶然だったんですけど、この曲の歌詞と私が書いた「キミガネムルカラ」で偶然ワードが一緒の所があって、歌詞を読んだ時に一瞬「あれっ、私これどこかで歌ったぞ」って(笑)。
──”泣かないで”というフレーズですね。
KEIKO:やっぱり私って、自分が歌いたいものに引き寄せられているんだな、歌うことが運命だったんだなって思わせてくれて、歌っていてちょっとドキドキしました。
──そこは大きな愛を歌いたいというKEIKOさんの想いとシンクロしたのかも。
KEIKO:今回制作していて、そこは繋がっている気がしました。
──お次の「Lost」は、幻想的なムードにグッとくるファンも少なくはないはず。
KEIKO:「Lost」は春の時点で、私が歌いたい曲達の中に入っていたひとつです。なんなら4月の時点で一番最初に声当てした曲ですし、それこそ2ndアルバムの表題としても挙がっていました。こうした三連の、女の子が好きなドーリーな世界観というか、それこそ私が梶浦さんの世界で歌わせて頂いていた物語的な世界に近いですね。この曲と出会う時はどんなテイストのアルバムにするかまだ決まっていなかったので、もしかしたら「Lost」が表題になるようなアルバムになったかもしれないと思うと、やっぱり私の中でもKEIKOとしてやりたい音楽性のひとつなのかな。
──置き所によっては『dew』の方向性も大きく変わったかもしれないと。やはりこうしたサウンドはKEIKOさんによく似合うというか、ボーカルもまた美しいなと。
KEIKO:音楽によっては作りながら見えてくるものと、初めから見えているものというのがあって、見えているものは声に迷いがないんですよね。「現実のメタファー」とか「Lost」って、歌いながら見えているものがある。それはKalafinaの時から自分の中で持っていたもので、曲を聴いた時から世界が見えていて、こういう歌唱でっていうのがある。それがソロを始めてからは「これもありかな?」という楽しみも出来て、「ラテ」とか「八月の空」では「この曲だとどういう世界がいいかな?」って悩むと、必然的に声も悩むから、そこから正解を探していくんです。
──すでに見えているものが混在している、それがアルバムのバラエティ感に繋がっていくわけですね。そして『dew』の最後の曲となったのが、「Burn In The Wind」です。「Revolution」と共に深い愛情を歌う曲ですが、こちらはより開かれた、爽やかなテイストになりました。
KEIKO:そうですね。「Nobody Knows You」「Lost」「Burn In The Wind」の3曲は最初から歌いたいと思っていた曲で、この曲もレコーディングした時期は早かったです。最初は「歌詞はKEIKOが書く?」って言われたんだけど、これは逆に作家さんに愛情深い恋愛ソングとしての方向で書いて欲しいとお願いしました。重たくなくて開けていきたいという曲だったので、自分が書くよりも俯瞰した愛の歌の方がいいだろうって、メロディを聴いて直感的にそう歌いたいなって。
──“次に進むためにも”というフレーズもありますが、「Revolution」ではなくこの曲でアルバムを締め括ることで、より未来に向かって開かれた印象が強くなりますよね。
KEIKO:音楽って面白いですよね。一曲でドラマを完成させているのに、アルバムってなると一枚として完結させなきゃいけない。それが面白さでもあるんだけど難しさでもある。でもそれをみんなやってのける、それがアーティストのカラーになるんですよね。私も年に一枚アルバムを出せたこのスピード感があるからこそ出来ることだなって思うし、自分の置かれている環境に感謝ですね。
──この1年でKEIKOさんが経験したことがしっかりと反映出来ているアルバムでもあるわけですね。
KEIKO:今年は去年に比べてお客さんを前にして歌う機会が多かったから、モチベーションが違いましたよね。チームで探してみる、発信してみるというだけじゃなくて、皆にどんな景色を届けたいかなって思えたことで、活動として去年より前に進めた気がします。お客さまとの時間を切り取ってアルバムの制作に入れているなって実感するし、それも去年からの経験があったからこそだと思います。
──さて、本作は多くの楽曲でミュージックビデオが制作されています。こちらはすべて『dew』の初回限定盤にも収録されていますね。
KEIKO:収録曲から、「ミチテハカケル」「桜をごらん」「笑ってやる」以外の9曲で映像を作らせて頂きました。これこそチームからの提案で、今は映像と一緒に楽しんでもらえる時代じゃないかなって。音だけでお届けるするものもひとつのやり方だけど、アーティストとして視覚でも発信していくべきなんじゃないかなという発想で、そこは私の中にはなかったものだったので、すぐに「やってみたい!」って思いました。映像制作は若いスタッフと一緒になって曲のイメージを伝えてそれを映像にしてみたんですけど、そこもアルバムを作るうえで新しい経験でした。
──それこそ映像表現としても多種多様で、「Nobody Knows You」では渋谷の街並みも登場しますね。そこもフレッシュな印象があって。
KEIKO:そう! 渋谷です。あれはどうしても入れたくて。「Nobody Knows You」の混沌とした世界には、今の時代を切り取る絵が欲しかったんです。それには渋谷は絶対に欠かせない。私も昔から長くいた場所でもあるんだけど、時代の移り変わりとか人の流れとか、混沌とした感じを出すのには渋谷が一番だと思って、ちょっとでも入れてほしいって映像チームにお願いしました。
──そうした現実のモチーフや非現実的なものまで、映像表現もアルバム同様さまざまな角度から『dew』を表しているものだと感じます。
KEIKO:そうですね、「Lost」みたいなドールハウス的な世界観もあれば、もっとリアルな今を届けたいというものもあって、それぞれを皆と共有しあえたらなと思って作ったんですけど、改めて映像制作はやってみて良かったなって思いました。
──そうした視覚と聴覚が調和したアルバムとしても興味深い一枚となりました。2021年は有観客でのライブも数多く開催されました。最近では10月からeplus LIVING ROOM CAFE&DININGを舞台にしたライブ<KEIKO Lounge>シリーズが3ヵ月連続で開催中です。『dew』リリース後の12月19日には、<KEIKO Lounge K007・K008 ~12月の夜明け~>が行われますね。
KEIKO:そうなんですよ、うれしい。
──ホールやライブハウスと違ってアットホームな雰囲気ですが、KEIKOさんのステージ上での向き合い方に変化はありますか?
KEIKO:そういうのはあまりないかな? 10月も11月もホールと思ってめっちゃ歌っていたから(笑)。披露した曲もダイナミックなものが多かったし、新曲では白玉っていう音符の長さが長い、ロングトーンが多い曲ばかりだったので、ミニマムな歌い方をしていると届かないんですよね。ちゃんと朗々と歌わないと自分の胸にも響いて来ないし、それって私はすごく気になるんですよ。例えば日本武道館で歌う時は九段下駅まで届くぐらいの声量で歌っていたけど、この前歌った「七色のフィナーレ」はそれぐらいで歌っていたし、そこはやっぱり癖なんですかね。
──とはいえお客さんとの距離も近いので、そんなパフォーマンスを間近で聴けるのは贅沢ですよね。
KEIKO:確かにあの距離感は良いですよね。ああいった皆で一緒に作っている空気感は、ライブをやる醍醐味として大事にしていきたいと思いましたね。やっぱりお互いやっていて「これこれ!」って思い出すから。
──ファンと一緒にライブを作り上げる。改めて今の時代には大事なことですよね。
KEIKO:こうして少しずつ、できる限り生のサウンドで一緒にやる時間を作ることで、皆にとっても私たちにとっても、音楽を楽しむことを覚えておくというか。楽しい時間も忘れていってしまうから、いつでも「これこれ!」っていう瞬間を取り戻せるように、そういう時間を届け続けていきたいなっていうのは今回のマンスリーで再確認できました。
──そうした経験が2022年以降の活動にも繋がっていくと。それが次作以降の新しさとリンクするのかなと。
KEIKO:でも根本は変わらないかな。自分の中では「良い音を届けたい、以上!」っていうのがあるので。それは梶浦さんとやっていても新しいチームとやっていても、自分で作曲していても何も変わらないので。だからそうじゃないものはやらない。良い環境で良い音楽を皆が聴けるというのを提供し続けていける存在でありたいので、そこはブレずに来年に向けても挑戦していきたいなって思います。
文◎澄川龍一
2ndオリジナルアルバム『dew』
・初回生産限定盤【CD+Blu-ray+アナログ盤(EPサイズ)】
AVCD-96875/B~C ¥8,200+tax
▲【CD+Blu-ray+アナログ盤(EPサイズ)】ジャケット
・通常盤【CD+DVD】
AVCD-96876/B ¥4,500+tax
▲【CD+DVD】ジャケット
・通常盤【CD ONLY】
AVCD-96877 ¥3,000+tax
▲【CD ONLY】ジャケット
CD収録内容
1. Nobody Knows You
2. 通り雨
3. 桜をごらん
4. ミチテハカケル
5. ラテ
6. 八月の空
7. 現実のメタファー
8. キミガネムルカラ
9. 笑ってやる
10. Revolution
11. Lost
12. Burn In The Wind
DVD/Blu-ray収録内容
MUSIC VIDEO
1. Nobody Knows You
2. 通り雨
3. ラテ
4. 八月の空
5. 現実のメタファー
6. キミガネムルカラ
7. Revolution
8. Lost
9. Burn In The Wind
アナログ盤(EPサイズ)
1. Nobody Knows You
2. 通り雨
ワンマンライブ情報
2021年12月19日(日)
【1st】Open 14:15 / Start 15:00 【2nd】Open 17:00 / Start 17:45
会場:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING
配信:全公演配信有り
◆KEIKO オフィシャルサイト
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