【インタビュー】ヒトリヨブランコ、ポップだけれどどこかいびつでひねくれた個性
■初めての気持ちで出すアルバムを
■全部終わりの気持ちで書いてみたらどうだろうと
――ミニアルバムの制作は順調でしたか?
けえ:順調と言えば順調でした。時間をかけるところにかけられたんで、今までで考えるとすごく悩んだわりにはスムーズにできたのかもしれない。それが果たしてよかったのかまた自分でもわかってない、もっと悩んでもよかったんじゃないかとも思うんですけど。
――こういう作品にしたいっていうイメージはあったんですか?
けえ:やっぱり5曲とも色が違うものを作りたった。自分たちの1本槍を突き通すのもかっこいいんですけど、いろんな武器を試せるときに試した方がいいのかなと思って。2曲目の「イエローサブマリン」は結構毒々しいリリックで、サウンドもピアノちょっと小さめにしてギターを強めにしているんですけど、打って変わって3曲目の「色塗」はちょっとアダルトな、ピアノをすごく強めにしてちょっとだけクラシック感も出してみたり。という感じで、どういうポップにしようかっていうのを考えて1曲ずつ考えて作れました。
――今話に出た「イエローサブマリン」がMV曲として世の中に出ていって、現時点で結構再生もされているっていう状況ですけど、この曲はすごく毒が効いているじゃないですか。これはヒトリヨブランコ的にはど真ん中ストライクっていう感じなのか、それともいっぱいある武器のうちの一つっていう感じなのか、どちらに近いですか?
けえ:いっぱいある武器の一つですかね。やっぱり、歌っているものが、僕から見た世界や社会、その中の人間の嫌な部分とか良い部分、どちらもなんで。「イエローサブマリン」はその中の嫌な部分というか。それだけ武器になるって嫌じゃないですか(笑)。
――確かに。
けえ:だから人間の良い部分も嫌な部分もちゃんと武器にしたいんで、全部丁寧にって感じですね。その中でこの曲は……日頃からやっぱり音楽家ってバトルロワイヤルなところがあるので、どんだけ自分がよくないと思っても売れたもん勝ちの世界だって考えたら、その行き場のない怒りとか苦しみみたいなのを聴いている側の人間に向けちゃって。「もっと視野を広げてもいいんじゃない?」って思うんですよね。音楽以外の部分でも、せっかくスマートフォンやパソコンが身近にあるのに、あまりにも物事を知らなすぎる人が増えている気がするんです。別に間違ってもいいし知らないんだったら知らないって言っていいから、1個調べたら100個調べるぐらいの世界になったら面白いんじゃないかなと思って作りました。
――この曲なんか本当にそうなんですけど、世界には嫌なこともたくさんある中で、けえさんの歌詞はそこから逃避するんじゃなくて、そこに喧嘩をふっかけていくみたいなところがありますよね。それは性格?
けえ:たぶん僕がまだ青いんでしょうね。それをうまくまとめたり、自分の中で消化する能力がないんだろうなって思います。ただ喧嘩をふっかけることしかできてないっていうのもまたマイナスだと思いますけどね。
――というよりも、そこでファイティングポーズを取るっていうところが、ヒトリヨブランコというバンドのタフさを表しているなと思うんですけどね。
けえ:それはすごい嬉しいですし、僕はまだ20代なんで。こういうことって20代にしかできないことだと思うんですよ。30代過ぎたらファイティングポーズを取ってもすぐに握手しなきゃいけない世界だと思うんで、今できるんだったらしてやろうかっていうのでもいいのかなって思います。
――かと思えば「君を唄にしなくなり」とかではすごくロマンチックな切ない情景が描かれていて。このふたつの側面というのはけえさんの中ではすごく近いところにある感覚なんですか?
けえ:やっぱり好きだから憎んじゃうっていうのはあると思うんで、混在していると思います。だからこそ、どちらも書けるんだろうなと思いますし。自分たちがうまくいってないからって周りに当り散らしてしまうのもたぶん、みんなが僕たちのこと好きになってくれるんじゃないかっていう、僕らからの愛情があるからだと思うんで。同じなのかなって思います。
――なるほど。そんな5曲に『「おしまい」のおまじない』というタイトルがついたのは?
けえ:音楽を仕事にしたいっていう気持ちが強くなって、じゃあここからが始まりだって思ったとき、これは別に意味はないんですけど、終わりのことを考えちゃって。「この気持ちが終わるのはいつなんだろう」って。ずっとこの初めての気持ちでいたいなって思っていたので、その初めての気持ちで出すアルバムを全部終わりの気持ちで書いてみたらどうだろうと思ったんです。失恋だったり、人間としてもう終わってるよっていう「イエローサブマリン」だったり、「色塗」だったら片想いの終わりだったり。そういう何か、おしまいってどういうどこで何か区切りをつけるんだろうっていうことを考えながら歌詞を書いていって、人はここで諦めがつくのかなっていうことを再確認していきました。それが一貫してテーマになっていると思います。
――確かに、ヒトリヨブランコとしてはここからという状況で出すミニアルバムが「バイバイ」という言葉で終わるというのは面白いですよね。そういうテーマはメンバーとも共有しながら進んでいったんですか?
けえ:いや、正直ちょっと恥ずかしくて言えない部分で。楽曲の物語性とかは強く言いましたけど、アルバムのテーマ性はちょっと申し訳ないんすけど、恥ずかしすぎて言えなかった。
――ふたりは今の話聞いてどう思います?
ムラカミカエデ:やっぱ頭の中が普通じゃないなって(笑)。良い意味でね。だからこそけえの作るその世界観とかの良さをボーカルとしてどうやったらみんなに伝えられるかなっていうのをこれからもっと研究していきたいなって思います。
せつこ:面白いですよね、面白いからもっとそういうの話してほしいな。
けえ:あ、いいんだ(笑)。なんかスカされたらやだなって。スカさないのわかってるけどさ。
せつこ:大丈夫だよ。
けえ:じゃあ次から話すようにする。
――そうするとまた違う音になっていくかもしれないですしね。でも本当に始まるっていうときに「これも終わるんだろうな」と思っちゃうというのはけえという表現者の特性かもしれないですね。パッといろんなものが俯瞰で見えちゃうっていうか。
けえ:うん。そこもひねくれていますね。結局、自分を操ってるからこそ、あんまり自分のことは見えていないっていうか。昔、子供の頃からそうなんですけど、いろんなものをちょっと距離を置いて見て物語を書くみたいなことが好きだったので。そういう部分がよく出てるのかなと思います。
――でもこれが始まりなわけで、ヒトリヨブランコとしてはここからどう進んでいきたいですか?
けえ:僕はやっぱり、音楽でごはんが食べれるくらい有名になりたい。だけれども、音楽って自分たちが20数年生きてきた人生や生きざまを表現するものだと思っているんで。ただただ売れるための、キャッチーでノリが良くてみたいなものよりも、自分が今まで生きてきた中での感情みたいなものをしっかり書き出して、サウンドにも出して、みんなに聴いてもらってそれが評価を受けるっていうのが一番嬉しいこと。それを続けながら、もっと評価してもらえるようにするにはどうしたらいいかっていうところを考えるきっかけに、今回のアルバムはなったんじゃないかなと思います。それをもうちょっとカスタマイズして、より聴いてもらえるようにできたらなって。
ムラカミカエデ:やっぱりけえが言うように評価してもらわなければ続けていくことも厳しい世界だと思っているので、そこはもちろん意識はしていくんですけど、何より自分たちがこれからやっていてワクワクできる音楽を続けていきたいし、何かの真似をするとかではなくてオリジナルの音楽で、マネされるくらい影響力のあるグループになりたいですね。
せつこ:私も、だいたい一緒。私自身が憧れている人たちみたいな感じになりたいなと思っています。あとは個人的にはもっと上手くなって、できることを増やして、もっと自由に、好きなものを追求していけたらいいなあって思っています。
――バンドとしての直近の目標は?
けえ:あまりライブをやってきてないので、来年からはライブをやりたいなって思います。やっぱり直にお客さんの声を聞かないとわからないところもあるので。それによってまた曲作りが変わっていくんじゃないかという期待も込めて、ライブをやりたいですね。すごくライブのことが得意だったり、好きだったりするわけじゃないんですけど、やっぱりライブに来てくれる人が1人でもいるんだったら、その人のために頑張れる、僕ら3人はそういう人間だと思うんで。ちゃんと丁寧にやれたらなって思います。
取材・文:小川智宏
リリース情報
『「おしまい」のおまじない』
1.忘却の呪文
2.イエローサブマリン
3.色塗
4.friEND
5.君を唄にしなくなり
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