【対談インタビュー】浜端ヨウヘイ×森川欣信(オフィスオーガスタ最高顧問)、幸福な「祝辞」
■この曲の道のりは長く、まだ始まったばかり
──「祝辞」のサウンド面でのこだわりを教えていただけますか?
森川:ヨウヘイは意識していなかったみたいだけど、聴いたときにすごくビートルズを感じた。ビートルズの中でポップなものをエッセンスとして入れられたらいいねという話はしました。
浜端:特別な楽器を使ったりするわけじゃなく、生っぽい音だけで作ることにこだわりました。今回、ドラムはあらきゆうこさん、ベースは岡本定義さん(COIL)に協力していただきました。めちゃめちゃ最先端ではないけれど、古くならない音楽が個人的にも好きだし、そうしたアンサンブルになったと思います。20年後に聴いても心地よいアンサンブルだと思います。
森川:最初のデモが素晴らしかったので、僕は今回、ヘッドアレンジ的な立ち位置でしたね。いま、ヨウヘイがアンサンブルと言いましたが、ソロのアーティストが集まったというより、ヨウヘイのバンドのような感じだったし、バンドサウンドになっていると思いますね。エレキギターの音っていうのはヨウヘイからあまり出てくる要素ではないので、それを入れることで、よりバンド感を出したりしましたね。
浜端:ええ。皆さん素晴らしいソロのミュージシャンですが、お互いの関係性からさらに引き出されるものもあると感じました。スタジオで森川さんとサダさん(岡本)が、ずっとビートルズ談議をして楽しそうだったのも、すごくいいなと思って。その流れから、「こういうの、好きやろ?」「こんなの、欲しがってるんじゃないの?」という感じで生まれたフレーズもあります。そういうのが出てくると、音としてぎゅっとまとまってくると感じますし、僕が想定した以上のものが出てきて形になりましたね。
──コロナ禍に「祝辞」というタイトルでウェディングソングを発表するのは、勇気ある決断だったのでは?
森川:確かにそういう声も、聞こえてきましたね。でも、求められていると感じていたし、作りたいんだからいいじゃないかと(笑)。こんな状況だから逆手にとってやろうみたいなものもありましたね。
浜端:はい。音楽って今ある怒りとか、違和感とか、目の前にある事象に対することを吐き出すみたいなところもあると思うんです。「祝辞」を作ったのも、そういう思いから来ている部分もある。だって、親戚や地元の友達って、結婚披露宴でもないとなかなか会えなかったりするじゃないですか。でも今はその機会が奪われちゃってるわけですから。
森川:「祝辞」という曲は、実際に披露宴で歌ってもらえるようなものにしたいと思って作ったんですよ。そういう意味では、この曲の道のりは長く、まだ始まったばかりなんです。歌い継がれていく歌になってほしいと思っています。
浜端:先日、SNSで「祝辞」の歌詞を「あなたが祝辞を贈りたい相手に合わせた歌詞に替えてみてください」っていう企画をやったんです。それに参加してくださった方から「まだ全然予定はないけど、将来、息子の結婚披露宴がこうなったら嬉しい」と反応をいただいて、すごくうれしくなりました。
森川:今年の<Augusta Camp>はオンライン開催だったんですが、ヨウヘイがこの曲を歌ったときのコメントがよかったんだよな。
──どんなコメントだったのですか?
森川:「結婚したくなりました」って書かれていたんですよ。「いい曲ですね」とか「感動しました」という誉め言葉ではなく。フェスで曲を聴いて「結婚したくなる」ってなかなかないよ(笑)。その時、特別な曲が作れたんだなって思いましたね。
浜端:何件か、そういうコメントがありましたよね。コロナが収まったら、披露宴にサプライズで歌いに行きたいですね、マルーン5みたいに。
森川:それはいいね。マルーン5もミュージックビデオで、ドッキリみたいに歌ってたのがあったけど、人をハッピーに驚かせるっていうのはオーガスタの得意技ですから(笑)。それに、よく言うじゃないですか、曲はリリースされるとアーティストの手を離れて、届いた人それぞれのものになるって。だから、結婚する2人に自分たちの歌として替えてもらってもいいなと思ってますし、SNSなんかで皆さんに気持ちよく歌詞を変えて歌ったものをアップしてもらってもいいよね。
浜端:楽しんでもらえたらいいですよね。実は僕らはすでに替え歌を1つ作っています(笑)。
森川:「私がおばさんになっても」という森高千里さんの曲があったけど、結婚して2人がおじさん、おばさんになったらどうなるだろうとか、おじいさん、おばあさんになったらどうかという歌詞。それもデモも作りました(笑)。どこかで披露する機会があるかもしれないね。
浜端:あと、最終的に形にはしてませんが、人前ではちょっと言えないようなエピソードを入れたパターンもありましたね(笑)。
──「祝辞」は曲調も制作過程もハッピーな曲なのですね(笑)。この曲を作るにあたり、お二人も「幸せ」について改めて考えたのではありませんか?
浜端:そうですね。サビの歌詞に、「そうして二人が歩む道が喜びで満ちるように 今日の日を祝うすべての人が 遠くから近くから祈っている 友よおめでとう 輝かしき未来に幸あれ」とあるんですが、こう思えることこそが幸せだなって書きながら思っていました。大事な人がいて、そういう人に対しておめでとうと言えることって、ありがたいことなんだなって。
森川:ああ、そうだよな。福耳の「星のかけらを探しに行こう」という曲で、近すぎて遠すぎて少しずつ見えなくなって……という歌詞があるけど、逆もあるんだなって。「祝辞」は、出発点の歌。自分たちのことを近くから遠くから見守ってくれている人たちがいることを分かっていれば、結婚する2人は近すぎて見えなくなるってこともないのかなって思いますね。
浜端:はい。「祝辞」では、披露宴に来ている人も、来たくても来られなかった人もみんなが祝ってるよって伝えたかった。これまで僕は何年も毎日のように、どこかに行き直接歌を届けてきました。でも、コロナで2年近くそれができなくなってしまったから余計に……。
森川:何が幸せかって考えてみると、コミュニケーションできることなのかもしれませんよね。そして、音楽も1つのコミュニケーションの手法。この曲を<Augusta Camp>で聴いてくださった誰かが「結婚したくなった」と言ってくれることが、僕らにとっては幸せなことなんですよね。こんな時世でオンラインで聴いたから、余計にいつもと違う受け止め方になったのかもですね。会えない家族や友達、大切な誰かを思い浮かべてくれたというか。
浜端:はい。……なんか、しんみりしちゃいましたね。
森川:(笑)。こうして事務所で久しぶりにアーティストに会って話せることも、素直にうれしいんですよ。アーティスト同士も、ばったり会えると互いにうれしそうにしている。人と人って、そういう何気ないことが幸せなんじゃないでしょうか。
──確かに、そうですね。2021年もそろそろ終わりに近づいてきましたが、2022年はどんな年にしたいですか?
森川:コロナ禍でライブが滞ったこともありましたが、緊急事態宣言が解除になって、徐々にライブも解禁になっていきましたよね。そんなとき、会場に足を運んでくださったお客さんたちの姿を見て、本当に楽しみにしてくださっていたんだなと感じたんです。来年、オフィスオーガスタは30周年を迎えます。ここ2年は<Augusta Camp>にお客さんを入れられず、2021年の開催もぎりぎりまでリアルでやるかを迷った。結果、オンラインになったことでお客さんからクレームが来るのを覚悟していたんです。でも、みなさん、やさしい言葉をたくさんかけてくださった。うちを応援してくださる皆さんの、その気持ちに恩返しできるような30周年にしたいなと思っています。
浜端:2021年はとにかく制作に集中した1年になりました。あと、舞台にも立たせていただきましたし、ツアーもキャンセルになっていたところを回ることができました。今できる範囲のことでしっかりやらせてもらったと思うし、充実した1年でした。ただ、ライブではまだお客さんに我慢していただくこともあったり、舞台も厳しい制限がある。もったいないなと感じることも多かったのも事実ですが、お腹が減ってるときに食べる方が何倍もおいしいと感じるように、制限がとっぱらわれたときはより楽しめるんじゃないかなって。これまでは、いつも新しい曲ができると「ねえ、新曲できたから聴いてよ」みたいな気持ちで全国を回っていたので、またそういうふうに曲を届けに行けたらいいなと思います。
取材・文◎橘川有子
撮影◎大橋祐希
▲「祝辞」ジャケット
■配信シングル「祝辞」
https://lnk.to/hamabata_shukuji
[収録曲]
M1. 祝辞
M2. ラジオと君と僕のうた
M3. ただそれだけのうた
M4. 祝辞(instrumental)
◆浜端ヨウヘイ オフィシャルサイト
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