【インタビュー】MUCC、新体制による初音源完成「行き着いたのは“自分とどう向き合うか?”」
10月3日(日)、郷里・茨城ザ・ヒロサワ・シティ会館での公演を最後にMUCCのSATOち(Dr)が勇退。逹瑯(Vo)、ミヤ(G)、YUKKE(B)からなる3人組ロックバンドとして新たなスタートを切ったMUCCが、11月5日(金)に早くもニューシングル「GONER/WORLD」をリリースする。それに先立ち、11月4日(木)からは新体制始動ツアーをスタート。本来ならば5月に4人体制の幕を閉じる予定だったが、コロナの影響による紆余曲折があって8月に延期、さらには10月へと再延期されたため、新体制でのリスタートまでたった1ヵ月という怒涛のタイムスケジュールとなった。
◆MUCC 画像 / 動画
しかし、度重なる順延は余韻に浸る暇を与えない慌ただしさを引き起こしただけではなかった。結成から24年という長い年月を共にしたメンバーの脱退という大きな別れを受け容れていく、なだらかなスロープのような心理面での効果を当事者にもファンにも与えたようだ。
インタビューでは3人に登場してもらった。SATOちを笑って送り出すことができたラストステージの振り返りからスタートし、シングルの楽曲についての詳細を掘り下げ、今後の意気込みに至るまで、存分に語ってもらった15000字のロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■あの日はやっぱり特別だったので
■誰かのためだけに演ってもいいかなと
──10月3日、SATOちさん最後のステージが紆余曲折の末、ようやく行われました。まだ1週間経っていませんが(※インタビュー当時)、今、率直にどんなお気持ちですか?
逹瑯:“あ、一区切りついたんだなぁ……”という感じですね。“一区切りついたぜ!”っていう歯切れよい感じじゃなくて。自分の中で区切りがついたというよりは、若干、第三者的な捉え方もしているというか。うん、なんか不思議な感じです。
──あまりウェットな感じでもないんですか?
逹瑯:やっぱり、脱退発表から、それだけの時間が経ったと思うので。いちばん最初の頃の、あの湿度の高い感じが乾くにはちょうどいい時間があったのかな。湿っぽさもありつつ最後はカラッと終わった気がします。コロナのお陰で、いい感じで時間が空いたんでしょうね。
▲逹瑯(Vo)
──ミヤさんはいかがですか?
ミヤ:時間が経っていたので、最後のライヴに向かう時も、そんなに“終わっちまうんだ”みたいな気持ちではなかったし。それよりも今、いろいろと忙しくしていて。新体制の準備もあるんですけど、ライヴ映像を作品化したりする作業がめちゃくちゃ多くて、余韻に浸っている暇はないですね。
逹瑯:SATOちに同じ質問したら、また全然違う答えが返ってくるんじゃないですか?
──まだ浸っていらっしゃいますかね?(※10月13日、パーソナルトレーナーとしての第二の人生を選んだことを発表)
逹瑯:この間、一緒に飯行きましたけど、浸ってはいなかったですね、もう(笑)。
──でも、ミヤさんもステージ上では、こみ上げるものがあったんじゃないですか?
ミヤ:予想外のアクションをSATOちがした時はビックリしましたけど。いきなり泣き始めたりとか(笑)。
逹瑯:もう、とにかくすぐ泣くから(笑)。ビックリしたよね、“嘘だろ⁈”って。
ミヤ:ちょっと笑っちゃった(笑)。大のおじさんが、あんな分かりやすく……。
逹瑯:“えーん!”って嗚咽交じりに(一同笑)。
ミヤ:そう、それが一番衝撃でした(笑)。
逹瑯:“泣き真似だろ”と思ったら“ガチかよ?!”って。
ミヤ:しかも“早ぇーよ!”っていう。貴重なものを観ました(笑)。
──「いつもは違う方向を向いて表現する曲も、今日はSATOちのほうを向いて届けている感じがある」とステージでおっしゃっていましたよね?
ミヤ:あの日はやっぱり特別だったので、外に向けて作った曲であっても、誰かのためだけに歌ったり奏でたりしてもいいかな、と思ってやっていました。
▲<MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world>10月3日(日)@ザ・ヒロサワ・シティ会館
──YUKKEさんは、今、どんなお気持ちですか?
YUKKE:昔から、メンバーの誰かの脱退ライヴだったり、解散ライヴだったり、自分が抜けるライヴとか……想像したことはあったんですよ。そのイメージを表現するならウェットという言葉になったりするんだろうなと思っていたんですけど、そういう気持ちは5ヵ月ぐらい前に、すでに自分の中で昇華していってて。“最後は楽しもう”と決めていたので、いざステージに立ってみると、想像よりも普通に楽しんでできたなと思います。SATOちが先にああやって泣いたので(笑)、俺はそうじゃないモードになったのかもしれないし。終わってからは、そんなに感傷に浸る時間は自分の中ではなかったかな。すぐに前を向けたというか、“次へ”というモードになったので。ちょっとだけ予想外だったんですけど、今はそんな感じですね。
──延期を繰り返してきたことが、やはりYUKKEさんにとっても、SATOちさん脱退を心の中で整理して受け容れていく、いわば喪の時間になっていたんでしょうか。
YUKKE:そうだと思うし、そういう時間があったからこそできたライヴやイベントや配信企画とかがあって。その一回一回の中で、“あ、これで最後だな…”と感じたことが数回あったんですね。だから、心の中では“十分にできた”という気持ちもあったし、自然に整理を付けられていたんだと思います。
逹瑯:でも、今年のバースデーイベントはYUKKEの誕生日だけSATOちがいないよね?
YUKKE:そう、そうなんですよ! 「GONER/WORLD』の発売日となる11月5日がちょうど俺の誕生日なんです。他3人の誕生日の時は、“やっぱり4人で祝いたいな”ってイベントを作ったんですけど(※10月3日の公演では逹瑯の誕生日8月21日を祝った)。まぁ、その姿が見せられたので良かったよね。
逹瑯:YUKKEの誕生日だけさ、SATOちがいなくて3人っていうのもなんか寂しいじゃん? だから、YUKKEひとりでやったら?
YUKKE:待って待って待って(笑)!
▲<MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world>10月3日(日)@ザ・ヒロサワ・シティ会館
──ひどい(笑)、祝ってあげてください。すべての演奏が終了した感動の後に“MUCC体操”のコーナーがあり、SATOちさんはボウリングのピン姿でした(笑)。ラストステージを振り返った時、笑顔が残像として浮かんでくるように配慮された優しさだなと思ったのですが、あのアイデアはどなたが出されたんですか?
YUKKE:最初はリーダーです。
ミヤ:はい、俺が出しました。しんみり終わっても楽しく終わっても、どっちも結果一緒なのであれば、楽しく終わったほうがいいかなって。もちろん、脱退することに対して悲しみとかはありますけど、悲劇ではないというか。それぞれにイメージがあって、目標があっての決断なので、“楽しく、今後もやっていこうよ”という感じで終わったほうがMUCCらしいし、辞めるSATOちもそのほうが気分がいいかなって思ったんです。そういう構成がある中で、あれだけ本番中に泣いてくれたので(笑)、100点でしたね。
YUKKE:最初、リーダーから「2日目のラスト、“MUCC体操”やったらどうかな?」というLINEが来た時、俺の返信は一文字だったんですよね、「!」だけ。それくらいウワーッ!と感じたんだと思うんですけど(笑)。そこからラストステージを想像し始めて、“やるんだったらこういうふうにやってみたいな”というアイデアも出てきて……“ラストはSATOちを緞帳の外にSATOちひとりを取り残したいな”と思うようになったんですよ。中野サンプラザのライヴ(9月23日)の朝ぐらいに、SATOちが「俺、最後の姿はボウリングのピンなんだよね?」って言うから「そうだね……」って答えたら、「やっぱり、ピン姿でも最後にしゃべったほうがいいよなぁ」と言ってきて(笑)。
──ははは。
YUKKE:緞帳の外に出されるというネタを知らないのに、向こうから、その場を望み出して(笑)。“あぁ、全部上手いほうに転がっていくな、MUCCは”と思っていました。SATOちへの最後の最後のドッキリがいい感じで成功したので、良かったです。
──逹瑯さんはあの終わり方について、今、どう振り返っていらっしゃいますか?
逹瑯:さっき言ったように、コロナ禍の状況の中でウェットなものが乾く時間はあったし、いろいろ折り合いがついて、当初からは感覚が少しずつ変わっていった、というものの大きな一例で。最初の予定通りの日程で開催していたら、あのパートはなかったと思うでんすよ。ところが、“MUCC体操”をやって終わってもいいんじゃないか?と思えるぐらいの心の変化とか、昇華された何かがあった、というのが結構大きくて。ああいうふうに終わる気持ちの持っていき方ができた、送り出せたというのは、良かったことなんだろうなと思います。
──距離や時間といった物理的な問題で参加できなかった人も、コロナで会場に足を運びづらかった人も、配信映像によってみんなが観ることができたのは良かったですよね。表情をしっかり観られたのも良かったし。あの場の様子を配信で届けたことのメリットを、リーダーはどう捉えていますか?
ミヤ:例えば、これがコロナ禍じゃなかったら?と考えれば、今までに行ったことのある全部をまわるような全国展開のラストツアーをしていたと思うんですよ。でも、それは不可能だったし、会場に来られない人のほうが多いこの状況下に、SATOちの脱退が被っちゃったのは悲しいことでもあったので。やっぱり配信の強みとしては、ライヴハウスの現場で観ている時とはまた違う空気感で観られる、というのがあると思います。もちろんこちらとしては、どっちも観てほしいという気持ちなんですけど、やっぱり、顔を観られるっていうのが一番のメリットじゃないですかね。あとは、どんな環境でも観ようと思えば観られるっていう。ライヴハウスに行ってライヴを観るって、結構ハードルが高いので。
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