【インタビュー】ラッパーデビューを果たした“めだか専門家”青木氏が語る「福祉と新しいエンタメ」
■ニート、引きこもりや精神障害の若い人たちの背中を押せるような歌にしたい
──では今回の楽曲「めだか達への伝言 feat.MIMORI(kolme)」の歌詞に注目したいのですが、ここまで青木さんがどんな風に生きて来られたかということがベースになっているようですね。はじめに、これまでの経歴を少し聞かせていただけますか。
medakaya.com:僕は25歳くらいの頃に開頭手術をしたんです。5年間働くことができませんでした。もともとは会計士になりたいと思っていたんですが、たまたま病気をしてしまい、それまで順風満帆だった人生で初めて挫折を味わいました。死ぬかもしれない、歩けなくなるかもしれないというリスクを背負って手術したんですが、術後は本当に大変で。全く生産性のない、価値のない人間になったような気分で、これはもう死んだほうがいいとすら思ったんです。でも、死にたくても思うように体が動かない。今の若い子たちは平気で「死にたい」なんて言いますが、死ぬためにリハビリをする奴がいるんだぞということを知ってほしい。それぐらい辛いし、大変でした。
──体が動くようになってからはいかがでしたか?
medakaya.com:たまたま、児童養護施設からボランティアの依頼があったんです。めだかのことを教えてくださいって。まだ仕事として出来るほどの体ではないけど、ボランティアくらいはできるんじゃないかと思って、週に1回教えに行くようになったんですね。何度か行くと、みんなが僕のことを門で待っていてくれるようになったんです。こんな自分でも必要としてくれる人がいるんだと思って、そこから福祉事業について学び始めました。そこで、1ヶ月間で20日働いても700円しか貰えていないということを知って。だったら僕が彼らにめだかの育て方を教えて、売り方を教えたら、700円を1万円札に変えられるぞと思ったのが着想なんです。とは言え福祉に関しては経験もないし、資格もありません。福祉には老人福祉と障害福祉があるんですが、30歳からの5年間は老人福祉の現場で夜勤も介護士もやりました。デイサービスのアルバイトから始めて職員になり、次の5年は障害福祉を行う法人の理事としての仕事をやりました。そこで40歳になり、自分の会社──めだかと福祉を掲げた事業所を立ち上げ、現在がちょうど5年目になります。
──実際の歌詞も、術後の苦しみの部分から描かれていますね。
medakaya.com:頭の手術をしてリカバリーまでの間にうつ症状があり、精神病院にも半年ほど入院したんですね。普通は朝になって目が覚めたら起き上がって何か行動するんでしょうけど、うつの人のほとんどは、目が覚めて下を向くそうなんです。何かしようじゃなくて、下を向く。「右行って 左行って」って歌詞にもありますが、何をすればいいのかもわからない。周りのみんなが、同情するように自分を見ている。悔しい思いをするんですが、そこからどのように立ち上がっていくのか。どのようにリカバリーしてきたのかというのが、最初のバースです。
──次の部分は、人間の本質。
medakaya.com:人間は、夜になると正常な判断ができなくなってくるんですよ。命を絶ってしまう人もたくさんいる。悲しいですよね。だから僕は言いたいんです。「ただ横になれ」と歌詞にもありますが、とにかく寝なさいと。もし自殺しようと考えているんだったら、とりあえず寝て、朝起きてからやってみろと言いたい。死ぬやつは1人もいないはずです。朝起きたら冷静になっているから、「これはいけない」っていう判断ができるはずなんです。だから寝ろ、横になれと言っている。これも、僕自身が乗り越えてきたことなんですよね。こういうシンプルなことを、自分の言葉を持って伝えていきたかったんです。嫌なニュースじゃないですか。若い子たちが命を落としていくのって。どうしてもそこにストップをかけたいし、車椅子に乗っていたこんな俺でも今は会社の社長をやっている。できるんだぞっていうのを言いたかった。そして後半は、病気から立ち上がり、どう成功するかという成功法則。まさに、僕が辿ってきたことをそのまま歌詞に入れています。
──地元、八王子についてのワードも出てきますね。
medakaya.com:八王子は自分のアイデンティティーですし、大切にはしているんですが、土地がどうだ、八王子だからどうだと言っているわけではないんです。そこで自分の命は育まれてきたんだから八王子を大切にしなさいという歌ではなく、自分の大切なものがどこにあるのかを知ること、自分の身近な人たちを大切にということを表しました。みんな自分の身近な人たちを大切にして、プライド持ってやっていこう、と。僕だっていろいろあったけど、立ち上がって今があります。ニート、引きこもりや精神障害の若い人たちの背中を押せるような歌にしたいと思い、歌詞を書きました。サビの部分も僕が書いたんですが、MIMORIちゃんが歌ってくれたことによって、音楽としてさらに、しっかり締まったなと思っています。
──タイトルにある「めだか達への伝言」という言葉も、青木さんの人生にとって欠かせないものだそうですね。
medakaya.com:そうなんです。小学6年生の時、クラスにKくんというすごく優秀な子がいて、彼はその後、有名私立中学に行ったんです。僕は勉強なんてしたことなかったから、普通に公立。一緒に生きていきたいなと思うようないい友達だったんですが、なるほどこういう人と僕は進む道が違うんだなと思ったんです。当時そのKくんは文集に将来の夢として、「落合信彦のような国際ジャーナリストになりたい」と書いていたんですね。僕はジャーナリストが何なのかすらわからなかったんですが、なんだかずっと頭に残っていたんです。で、中学になって書店でたまたま落合信彦の「狼たちへの伝言」を見つけ、読んでみたら自分の中でいろんなことが激変したんです。世界ってこんななの!?って。
──その時の衝撃を「猛毒」と表現されていましたね。
medakaya.com:男としてこうあれ、みたいなことが書いてあるんですが、打ちのめされました。俺、こんなんじゃやっていけないって。でも、じゃあどうやって自分の中で達成していくか。苦しいんですよね。子供の頃はケンカばっかりしていて、絵に描いたような不良少年だったんです。殴ったり蹴ったり、しょっちゅうやってた。でも、そこから一切やめました。…あ、5回くらいはやったかな(笑)。当時は不良とかに憧れていましたが、その本を読んで、こんな小さな世界で生きていたのかと思い知りました。それで中学3年ぐらいになって、僕は初めて教科書を開きました。行ける高校なんてないって言われていましたが、やろうと奮起。そこから、やれば出来るということを知りました。
──その後、アメリカで経営を学んだりもされたと。
medakaya.com:はい。落合信彦の猛毒が突き刺さっているから、できないんだったら人の倍やればいいと。簡単なことです。そうやって、いろんなことを達成してきました。でも病気のことまでは書いてなかったんですよね、「狼たちへの伝言」には(笑)。だから俺、超えたと思いました(笑)。生死を彷徨うところまで行って、そこから復活しましたから。
──そうですね。
medakaya.com:僕と同じような、そして様々な悩みを抱えている若い子たちがたくさんいます。だからこそ今度は僕流で、“狼”ではなく“めだか”達の伝言として、伝えていく立場じゃないかなと思うんです。僕流の毒を突き刺していってやろうって思っているんですよね。でも、ただ単に行動すればいいわけじゃないんです。絶対に、何をするにもとにかく考えること。5分、10分考えてダメだったら5時間でも10時間でも考える。とにかく人の何倍も考える。そして行動に移す。思想家のパスカルは「人間は考える葦」だと言いましたが、思考があるから人間なんです。それが、人間に与えられた本当の武器なんですよね。くだらない喧嘩とかじゃなく、強くなるためにはしっかり学ばなきゃいけない。最終的に何が大事なのかなって考えると、思考に行き着くんです。若い子達には、とにかく考えろということを言いたいです。
──今後についてはどのようにお考えですか。
medakaya.com:将来的には、ヨーロッパなどでも日本のめだかのアートアクアリウム展を開きたいなと考えています。その時に僕の作った歌とか、そう言ったものを日本語で披露したりしたいなと。それがまず、エイベックスさんと一緒に作るエンターテイメント水槽として目指しているところです。福祉事業をやって、めだかのことをやって、音楽もやって。「やることいっぱいで大変ですね」みたいに言われたりもしますが、全然大変じゃないんですよ(笑)。
──忙しさも含めて、楽しんでいらっしゃるように感じます。
medakaya.com:でも60歳になったら、潔く引こうと思っています。福祉でもめだかでも、今その業界では牽引する立場にあり、全て結果も出しています。でもやがて自分も古くなる。僕は新しい福祉を謳っていますが、やがて僕も古くなるんです。そこで勘違いすると絶対にいけないから、60になったら現場からは引くと会社でも言っています。そこまではひたすらうちの職員と利用者に、とことん現場で関わっていく。あと15年、ただただひたむきに毎日休まずやっていきます。
──60歳って、少し早いような気もしますが。
medakaya.com:20代の時に病気をして僕は一度死んだと思っているから、そこに関してはあまり怖いものはないんです。僕は何事においても、やるぞと言ったことは絶対にやる。有言実行ですよね。不可能っぽいことがあったとしても、もしできなかったら笑えと。ダサい社長だなって言えばいいと思っています。でもそれは恥ずかしいですから、そうならないようにやりますよね。そういう姿をとにかく60まで毎日見せ続けて、そのうちスタッフの中で私の理念を得心した若者が出てきて、それを引き継ぎやっていく。それが僕の主義です。そうしなければ、その仕事は100年企業にならないで無くなっていきますからね。この仮面も、将来引退する時にはあげようと思っています。そうやって承継していきたいというのが、夢のひとつです。
──社内での日々のラップに加え、今後どんな新曲が上がってくるのかも楽しみにしたいところです。
medakaya.com:嬉しいです(笑)。今後は絵本なども出していこうと考えているんですが、いわゆる「めだかの学校」のような、みんなが口ずさめて多くの人たちが楽しめるようなめだかの歌も作っていきたいなと思っています。でも、まずはこの曲をしっかり成功させること。結果が出ていないのに「次もお願いします」なんて恥ずかしくて言えませんからね(笑)。絶対に、大成功させなきゃと思っています。先ほども言いましたが、歌は、アクアリウムのおまけとしてではないんです。めちゃくちゃ本気です。僕は、自分のやっている仕事において手を抜きません。世の中にワッ!と思ってもらえるようなものになるまで、昇華させたいと思っています。次も、また次もと続いていくように頑張りますので、是非とも応援してください。
取材・文◎山田邦子
写真◎市村辰文
■リリース情報
「めだか達への伝言 feat. MIMORI(kolme)」
2021年7月30日(金)配信スタート
https://avextrax.lnk.to/medakawrap
CDシングル
https://amzn.to/3AWtVPP
▲「めだか達への伝言 feat. MIMORI(kolme)」
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