【インタビュー】SOMETIME’S、“己の質をもっと高めろ”と強く教えてくれたニューアルバム
■もっといい作品を作るために頑張りたい
──そんなお三方が制作したSOMETIME'Sの『CIRCLE&CIRCUS』は、これまでのグッドミュージック感だけでなくさらに新しい要素が加わって。名刺代わりの1枚でもあり新しい道を切り開く1枚にもなっていると思います。
SOTA:ありがとうございます。特にテーマを設けて制作をしたわけではなく、とにかく今やりたいことを詰め込んだ、という感じですね。デモの中からかたちになりそうなもの、やってみたいことにどんどん着手していきました。EPではできなかった曲調の楽曲も収録することができたので、そういうものでは徹底的にフルスイングして(笑)。振れ幅の大きな作品になったと感じてますね。
会った時にガッTAKKI:目指している未来があるというわけでなく、その場その場でやりたいことをただやっただけで。その結果洗練されたものができたし、ミックスやサウンド感も含めて、1曲1曲をその曲のあるべき姿にできたアルバムだと思っていますね。去年リリースした『TOBARI』はトレンドを意識したサウンド感に特化したけど、今回は曲の持っている雰囲気を重視した制作ができました。長いスパンでレコーディングをしたので、おのずとミッチーとも同じ時間を共有する時間も増えていって。やりたいことのイメージの共有がうまくいったぶん、完成度も上がったと思いますね。
──“同じ時間を過ごす”という、人間的なものがSOMETIME'Sには重要なのかもしれないですね。
TAKKI:全員連絡無精でタスクフローがうまくないから、会った時にガッ!と詰めておかないと終わらないというのもありますね(笑)。ケツに火がつかないと着手しないから、会わない間はまあまあサボって(笑)、会った時にひたすら集中して。そこでの爆発力の大きさが、SOMETIME'Sの制作では重要かもしれないです。
藤田:生楽器を使ったアレンジも少しずつできるようになってきたので、生楽器のアレンジも多くなりました。敢えて生楽器を入れないアレンジも過去にはしてきているんですけど、『TOBARI』の制作を通していろんなサポートミュージシャンの方々と交流を持つことができたので、アレンジを組む段階で“この人に弾いてもらうといいかも”というイメージができていたんですよね。サポートミュージシャンの人の音色やプレイに寄せた打ち込みでプリプロを作りました。アレンジも僕ひとりの手癖で作るよりも、関わる人が多くなればなるほど楽曲の深みが出るし、幅が広がるなと感じてますね。
──ちなみにどんな順序で曲は出来上がっていくんですか?
TAKKI:基本的にはSOTAが作ったデモをミッチーがアレンジして、それに対して僕がギターを考えて、そのあとレコーディング中に歌詞を書くという(笑)。
SOTA:でも僕のデタラメ英語に沿った譜割りで作詞をしてくれるので、そんなに歌入れで躓いたりはしないんですよ。
──そして各楽器の細かいところはサポートミュージシャンそれぞれに委ねられている。SOMETIME'Sにしかない制作方法かもしれません。
TAKKI:自分たちのことながらそう思いますね……。普通ならチームからもSOTAからも怒られますもん(笑)。僕らの曲作りは特殊なので、参加してくれるサポートミュージシャンのみんなもよく付き合ってくれてるなあと思うんですよ。
SOTA:俺たちのそういうのも楽しんでくれる、非常に寛容な方々に支えていただいてますねえ……(笑)。
TAKKI:“自分の好きなようにやれてうれしい”って言ってくれたりね(笑)。本当にありがたいです。
──1曲目「Signal」からインパクトのある曲だと感じました。ポップでありながらもひりひりしていて、ロックの肌触りがある。
SOTA:デモの段階ではもっとBPMの遅いシャッフル系の曲だったんですけど、道哉から届いたアレンジの第1稿が想像以上にアップテンポで、めっちゃシンセが入ってた(笑)。かっこいいなあとは思っていたんですけど、まさかこのアレンジで完成まで行くとは思ってなくて。でも結果的にアルバムの1曲目として重要なピースになったなと感じていますね。道哉もアルバムの1曲目という意識でアレンジしてくれたからこういう曲調になったんだと思います。
──新鮮で耳を引くサウンド感です。歌詞はメジャーデビューの決意表明にも聞こえるのですが、いかがでしょう? ラブソングではないのも意外性がありました。
SOTA:ほんとだ、言われてみるとそういう受け取り方ができる(笑)。
TAKKI:全然そんなつもりはなかったです(笑)。ばりばりシンセが入った曲なので、80年代っぽい歌い回しができるといいのかなと。文字にするとちょっとダサいワードセンスを意識しましたね(笑)。歌詞は基本的に楽曲の雰囲気に合う言葉を書いていくので、SOTAの作るメロはドラマチックだから必然的にラブソングが多くなるんです。歌詞主体というよりは、ミュージック先行の楽曲制作をしていきたくて。そのほうがSOTAの歌が生きると思うんですよね。彼の歌の持つフロウはオンリーワンなので、そこを立たせたい。
SOTA:もともと僕は音楽に対してメロディやコーラスの鳴り方、コード感にしかエゴは持っていないので、そういうところを尊重してくれてるんだなと感じてます。おまけに僕がデモに入れたデタラメ英語に合わせてちゃんとした歌詞を乗せてくれる。だから一つひとつがありがたいですね。
──SOTAさんのボーカルや藤田さんの作ったサウンド感が生きる歌詞を考えたり、TAKKIさんは人の良さを引き立たせる力に長けているのかもしれないですね。
TAKKI:ははは。あとはやっぱり、自分以外の人が歌うものに歌詞を書くなら、自分の言葉のまんまではいけないなと思うんです。だからSOTAが発しても違和感のない言葉を客観的に選んで書いているところはありますね。そのうえで“人を見る”というのは重要なのかもしれないです。
──でも今作には、TAKKIさんの思いが濃く出た歌詞もありますよね? 「You and I」はバンドのことを歌詞にしているんじゃないかなと。
TAKKI:「You and I」は、かなり自分のなかの思いを言葉にはしていますね。この曲はアルバムのなかで最後に作った曲なんですよ。長いスパンで行ったアルバムレコーディングが終了することに、自分的にもなんとなく達成感があったんですよね。“これでアルバム曲の歌詞を書くのは最後か”と思いながら、いつもどおりラブソングを書いていったんですけど……75点みたいな歌詞になっちゃって。
──悪くはないしクオリティも維持できているけど、何かが足りない、というか。
TAKKI:なんかグッと来なかったんですよね。それで考え直したときに“自分たちのことを書いてみようかな”と思いついて。今までそういう歌詞を書いたことはなかったんですけど、自分たちのことだからすんなり書けたんですよね。「真夏の太陽」と「Don't know why」はSOTA作詞で、彼の書いた歌詞を読むのは「シンデレラストーリー」(※結成当初に制作された楽曲)ぶりだったんですよ。自分にはないスキルや感覚の言葉たちがすごく刺激になったんですよね。だからナチュラルに自分たちのことが書けたのかな。
SOTA:アルバムで最後のレコーディングだったのもあって、僕も歌詞をもらった瞬間にグッときちゃって。おまけにいつもよりキーが低めだから頑張らずに歌える曲ぶん、ちょうどいい温度感で歌えたのがアルバムのラストとしても良かったと思います。最後の曲にするつもりじゃなかったんですけど、やっぱりそういういろいろが混ざり合った結果、アルバムの最後にパチッとハマる曲になりましたね。
──“二人”という言葉が多いのも気になりました。SOMETIME'Sのメンバーはふたりだけど、おふたりとも“たくさんの人と協力してこそSOMETIME'S”ともおっしゃっている。だからこの“二人だけ”はどういうことなのかな? と思いまして。
TAKKI:これはSOTAと僕というわけではなくて、“ふたり”が人間の最少の単位ということを言いたかったんですよね。コロナ禍で痛感したのが“人はひとりでいないことが重要”ということで。SOMETIME'Sも、誰かが悩んだ時にひとりにならないチームにしたいんです。というブラインドメッセージですね。
──なるほど。SOMETIME'Sはユニットなのか、グループなのか、バンドなのか、アーティストなのか、どう言うべきか悩むんですけど、根本にあるのはやはりバンドなのだろうなと。この曲がラストに来ることでよりその意味合いが強まる気がしました。
SOTA:うれしいですね。やっぱりTAKKIも僕もバンド育ちだから、フラットになった時にそういうものが自然と出るんだろうなって。
TAKKI:ラスト3曲の「真夏の太陽」→「Morning」→「You and I」の流れ、めっちゃ好きなんですよ。毎回しっかり最後まで聴いちゃいますね。
──「真夏の太陽」もアルバムのなかで異彩を放つ楽曲ですよね。SOTAさんの低音が効いているのもあって、シリアスで切実なムードを感じます。
SOTA:この曲は最初のデモの段階で1サビの歌詞がメロとすぐに出てきたんです。それで自分的にも“おお~……”と。メロと歌詞がいっぺんに出てくる時は自分で書くようにしてるんですよね。
藤田:本当はもっとこの曲はキーが高かったんですよ。デモでもらった時点ではSOTAさんの声がいちばん響く音域だったんですけど、八神純子さんの「黄昏のBAY CITY」の構成を取り入れてみたんです。あの曲も最初低いんですけど、ラスサビでちょうどいい感じに転調するんですよね。それをやりたいなと思って。
SOTA:その結果、僕が最初にデモで出した時より高いキーを歌わなきゃいけなくなりました(笑)。この曲がアルバムでいちばん難しいんですよね……。ライヴでぎゅっと引き込むためにはちゃんと練習しないと(笑)!
──ははは。ギターソロも胸を掴みますね。
SOTA:このギターソロ、すごくいいですよね。でも最初のレコーディングではいいテイクが録れなかったんだよね?
TAKKI:なんかしっくりこなくて「ギターソロだけもう1回考えてきてもいい?」と一旦保留にして、ギターの師匠に相談しに行ったんです。3日間レッスンに通って、いろいろ助言を受けたうえで録り直しました。転調がテーマだったぶん、俺もSOTAと同じくめっちゃくちゃムズかったです(笑)。昔の曲はギターソロの中で転調してる曲が多いけど、最近の曲にはあんまりないんですよね。自分の勉強不足を痛感しましたね……(苦笑)。
──これだけのソロが録れてるのですから素晴らしいことです。「HIPHOPMAN」も遊び心の効いたチャレンジが印象的です。作曲はSOTAさんと藤田さんによるもので、かなり斬新なサウンドメイク。ずっとサビ?と思うような強いセクションで構成されているのも刺激的でした。
SOTA:これは道哉のデモからスタートした曲で、僕がメロだけ作ったんです。SOMETIME'Sは実質僕ら3人みたいなものなので、道哉の目線でSOMETIME'Sを見たとき“こういうことがやりたい”というものが詰まっているんだろうなと。
藤田:「HIPHOPMAN」の最初にFairlight CMIというシンセの“オーケストラ・ヒット”という音が入るんですけど、あの“ジャインッ!”という音を死ぬほど使いたかったんです(笑)。往年の名曲に多々使われている音でもあるし、5年くらい前からずーっとどこかタイミングがあれば使いたいと思っていて。今回ようやく入れることができて、無事その念が成仏できました(笑)。
──80年代のポップソングにお馴染みの音ですが、現代においてこの音がここまでたくさん入っている曲を聴いたのは初めてです(笑)。その結果すごくユーモラスなサウンドになったのではないでしょうか。
TAKKI:ドラムのチューニングもかなり攻めましたね。ミッチーも都合が合う限りはレコーディングに参加して、テックさんを含めて音色の相談をしているんですけど、この曲はスネアの音ひとつ取ってもめちゃくちゃ面白い音に仕上がってると思います。みんなでトータルサウンドを目指してゴールまで走り切って作った曲ですね。
藤田:こういうことが出来るのはフルアルバムならではだと思いますね。遊びすぎちゃいました……(笑)。SOTAさんが僕の家に来てくれて、“このセクションはこういうコード感がいい”とお願いしたらすぐにメロを乗せてくれて。それをTAKKIさんに送ったら“サビに入るのがいきなりすぎるから、ここでワンクッション置いたほうがいいんじゃない?”とアドバイスをくれてBメロを入れることにしました。僕のエゴで走り出して、そのあとはディスカッションしながら完成形を目指していきましたね。
──逆に藤田さんが挑戦した楽曲というとどれになりますか?
藤田:「Don't know why」と「My Love」です。両方とも僕が全然やってきてないジャンルで、結構悩みました。だからこうやって形になったのはサポートミュージシャンのみなさんのおかげだし、みなさんの懐の広さが際立った2曲になっていると思います。「My Love」はSOTAさんのデモの段階から割とパワーがあって、シンセシンセしてても良くないなと。管楽器を入れるかやめるか、隠し味をどう入れるか……入れる音のチョイスが難しくて、TAKKIさんに電話して泣きつきました(笑)。先行配信曲というプレッシャーもありましたね。
TAKKI:プリプロで想像していた音像から、生楽器が入ることでこんなに化けた!というパターンが今まで多かったし、それがすごく楽しかったんです。でも今回のレコーディングでは“ひとまず生楽器を録ってみてからどの音を入れるかを考える”という非常に贅沢なことをしまして……。だから「My Love」をはじめ、ポストプロダクションで化けた曲が多いんです。
──スタジオミュージシャンの方々も“あ、こんな仕上がりになるんだ”と完成を聴いて思うと。
TAKKI:弾いていただいたものを加工するのは、なかなかセンシティブな問題で。もちろんそこは失礼にならないぎりぎりのラインで……!
SOTA:みなさんわかってくれて“このテイクは煮るなり焼くなり好きにしていいよ”と言ってくれるという……。本当にみなさん優しい!
TAKKI:本当にみなさんの優しさで成り立っていますね。管楽器を入れずにここまでアッパーなものができたことは、僕たち的にも自信になって。ベーシックな楽器と歌でグルーヴを出せることが証明できたかなと思ってます。
──SOMETIME'Sでないとできない制作方法で完成したアルバムであることを実感するお話でした。バンド初のフルアルバムであり、メジャー1stフルアルバムに相応しい内容になったのではないでしょうか?
SOTA:ここまで長い期間を掛けてひとつの作品を作ったのが初めてで、達成感もあったんですけど、すぐにいろいろ自分の改善点が見えてきたし、もっといい歌が歌いたいと思ったし、もっともっとやりたいことが具体的にわかってきて。いろんなことに恐れず挑戦したぶん振れ幅は広がったけど、中途半端になってしまったら意味がない。“己の質をもっと高めろ”と強く教えてくれたアルバムでもありますね。
藤田:聴いてほしい音がたくさんあって、音を詰め込みすぎたかなという反省もあるんです。だからオードブルのようなサウンドスケープというよりは、精進料理みたいな一音一音にフォーカスできる音を勉強したいなと思っています。「KAGERO」だけ西陽仁さんがアレンジをしているんですけど、すごくシンプルなのに一つひとつの音にちゃんと意味があるなと感じるんです。引き算の追求ができればなと思っています。メジャーでの制作で、より強く“仕事”という意識が芽生えたし、早い期間で自分たちの求める正解に近づけられるような力もつけたいですね。……反省点ばっかりだ(笑)。
──ははは。課題が生まれるというのは、いい作品が作れた証拠でもありますから。
SOTA:そうですね。だからもっといい作品を作るために頑張りたいですね。
TAKKI:新曲も10曲録って15曲を収録して、たくさんのミュージシャンに参加してもらって。そういうボリューム感はSOMETIME'Sならではだと思うんです。クレジットを見るたびに、本当にいろんな人に助けられてるなと実感しています。その時その時にやりたい音楽性を追求していくという姿勢は崩さず続けていきたいし、自分のスキルが足りないせいでやりたいことができないという状況にはしたくない。
──この先もその時の自分たちのやりたいことに忠実に、ということですね。
TAKKI:SOTAと僕は、人間性は正反対だけど、人や物事の好き嫌いや、ダサいと思うこと、かっこいいと思うことが似てるんです。そういうことがブレなければ、どんなことをやってもいいと思っています。自分たちのやりたい音楽をいいクオリティで出せるスキルを身に着けて、ライヴで得た熱量を次の制作に生かして──そういうサイクルで活動をしていくと、SOMETIME'Sがメジャーシーンでどう動いていくべきなのかが見えてくると思っていますね。そういう意味でも『CIRCLE&CIRCUS』は、この先の自分たちに期待が持てる1枚になりました。
取材・文◎沖さやこ
撮影◎いわなびとん
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