【インタビュー】心之助、斬新な歌詞表現で心情を浮き彫りにする新作EP『PURPLE』

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2015年~2020年/LINE MUSICの「5年間で最も聴かれたインディーズアーティスト」5位に輝き、「507」「俺と一緒になってくれ」「太陽と空」「happy end」など、代表曲の数々が愛され続けている心之助。彼の音楽が支持されている理由は、最新作となるEP『PURPLE』を聴けばよくわかる。斬新な歌詞の表現によって心情を浮き彫りにしている各曲は、豊かな物語の結晶だ。今作に込めた想いについて本人に語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

■いろんな失恋をしてきました

──今回のEPを作るにあたって何かイメージしていたことはありましたか?

心之助:毎回そうなんですけど「実体験を曲にしていく」というのが僕のスタイルなんです。今回も実体験をテーマに、今描けるものを作っていきました。

──収録曲は、ギリギリのタイミングで変更したそうですね。

心之助:はい。曲が揃った段階で何度も自分で聴き込むんですけど、そういう中で他の曲のイメージが浮かぶことがよくあるんです。今回もギリギリの段階で「XXな関係」ができて、入れることになったんですよね。

──「XXな関係」に関しては後程詳しくお聞きしますが、今作の中で独特な存在感を放っている曲ですね。「XX」は「ミッフィー」と読むわけですが、ウサギのキャラクターのミッフィーちゃんの口が由来ですか?

心之助:はい。昔から「そこは内緒でお願いします」というようなのを「ミッフィーでお願いします」と言ったりしているので(笑)。

──(笑)。他の曲に関しても言えることですが、心之助さんは言葉の表現の面でも、すごく独特なものを持っているアーティストですね。

心之助:ありがとうございます。子供の頃から自然と歌詞を書いていたんです。自分の心の中でひとりで喋っているようなことも多い子供で。他人と話をするのが苦手でもあった分、ポエムとかの形で自分の気持ちを解消する感じだったんですよね。その延長で今もいろんな言葉の表現が浮かんできやすくなっているのかなと思います。

──「内緒」を「XX(ミッフィー)」と表現するのもそうですけど、リスナーにイメージが伝わりやすいキャッチーなフレーズを、いろんな曲に盛り込んでいますね。

心之助:比喩表現が好きなんです。例えば「きみといることが終わらない夏休みみたいだ」というような。そういう表現は使うようにしています。

──リスナーから歌詞に関する反応をもらうことは多いですよね?

心之助:はい。僕の音楽は歌詞がすべてだと自分の中で思っているんです。僕に足りていない音の部分、新しい要素はプロデューサーに任せているんですけど、言葉を伝えたくて音楽をやっているところがあるんですよね。手紙みたいな感じで音楽をやっているというか。僕がやっている音楽って、例えばヒップホップ畑でゴリゴリにやっている人たちからすれば少しポップス寄り。かといってポップスのシーンの人たちからするとヒップホップと感じるんだと思います。僕自身も自分の立ち位置みたいなものの表現は難しいと感じていて、「自分にしかできないことをやっているな」と思いながら活動していますね。

▲心之助/『PURPLE』

──今回のEPに収録されている「pinky ring」も、そういう作風がまさしく発揮されている曲ですね。

心之助:そうなんだと思います。「pinky ring」は男性目線の失恋の曲です。お互いにピンキーリングをして、約束をする時に指輪同士が重なるっていうことをサビで歌詞にしていますけど、それと同じ体験をしたことがある人は少ないと思うんです。でも、聴いた時に、いろんなことが思い浮かぶようなストーリーなのかなと。ロマンチックな風景を思い浮かべながら聴いてもらえたら嬉しいです。「心之助はこんな女の子と昔付き合っていて、こういうことがあったんだろうなあ」みたいな想像もしながら聴いてもらえたらいいですね。

──心之助さんは後悔とか未練も赤裸々に描写しますよね?

心之助:そうですね。包み隠さず描いています。自分の弱いところが「共感」という名前の武器になると思って僕は音楽をやっているんです。だから特に恥ずかしがることもなく、つらいと感じたこともダイレクトに描いたりしています。意外と引きずるタイプなんですよ(笑)。いろんな失恋をしてきました。

──「あの時、ああしておけばよかった」というような後悔、未練は、誰もが多かれ少なかれあるんじゃないですかね。

心之助:そうなんだと思います。僕は2年くらい前に結婚したんですけど、それまでも自分のリアルを描き続けてきました。例えば「奥さんに初めてプレゼントした曲です」とか、プロポーズした時に書いた曲をリリースして、プロポーズした時の様子をMVで表現したりとか。そういうことをずっとやってきたんです。今は結婚というひとつのゴールみたいなことに辿り着いているので、過去を振り返るようになっています。だから昔の恋愛、失恋の曲を出すようになっているんですよね。あと、ファンのみなさんからの相談のDMで、「失恋の曲を聴きたいです」という声も多いので、それも参考にしているところがあります。

──ラブソングにも様々な形がありますが、失恋を描いた曲がリスナーに求められる理由は何だと感じていますか?

心之助:僕はおふくろに「忘れられない人とか、忘れられない恋愛とかないの?」って聞いたことがあるんです。「そういう人はいるよ。でも、自分を幸せにしてくれる人は違うの。あなたのお父さんと結婚して、みんながいてくれて、今は本当に幸せ。だから忘れられない人はいていいんだよ」って言っていました。その話を聞いた時に、すごくグッとくるものがあったんですけど、みんなが失恋ソングとかが好きな理由は、そんなところにあるのかもしれないですね。忘れられない思い出はつらいものであってもきれいなままですし。

──「pinky ring」は、《俺だけが 変われないまま 引き出しに仕舞ったピンキーリング》というフレーズも印象的です。

心之助:こういうこと、結構あると思いますよ。例えば写真とかを捨てられないまま持っているっていうこともあるでしょうし。

──今のパートナーにそういうものを見せない配慮は必要ですけど、大事にするべき思い出はありますよね。心之助さんのお母様がおっしゃる通り、過去の体験が現在の自分を作っているのは確かなんですから。

心之助:そうですよね。「pinky ring」に関しても自分のリアルなところなんです。17歳くらいの頃に付き合っていた彼女とお揃いのピンキーリングを買ったんですよ。その女の子と「ずっと一緒だよ」みたいなことを言って、指切りをした情景を今でも覚えているんです。「あの時、指輪と指輪が重なっていたなあ」みたいなことが大人になって振り返ってみると素敵だと感じられて、それを歌詞にしました。


──《君のLINEのBGM 俺も真似して聴いてたFavorite 君の好きを好きになり染め合う》という部分も、共感する人がたくさんいると思います。

心之助:こういうこと、みんなもあるんじゃないでしょうか? 好きな人と同じ香水をつけたいと思ったり、好きな人が好きな場所が好きになったり、好きな人の好きを好きになるっていうのは素敵なことだと思います。でも、そういうことが多ければ多いほど、離れることになった時につらく感じるんですけど。

──この曲は17歳の頃の体験が反映されているとおっしゃいましたが、もしかしたら「17の夜」と繋がりがあるんですか?

心之助:まさにそうです。歌詞としての接点は1ヶ所くらいしかないんですけど。《秘密のタイムマシンに乗って会いに行くよ》というのが「17の夜」で、《もしもあんならタイムマシンに乗って 馬鹿な俺をぶっ飛ばしに行きたいよ》というのが「pinky ring」。タイムマシンに乗って過去に行くというのは非現実的なことですけど、頭の中の妄想であの頃の彼女に会いに行っているという点でストーリーが繋がっている2曲ですね。

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