【インタビュー】TK from 凛として時雨、10周年記念オリジナルライブを語る「ソロでしか生み出せなかったもの」
TK from 凛として時雨の活動10周年を記念したオリジナルライブ<TK from 凛として時雨 10th Anniversary Session presented by WOWOW>が、7月17日(土)19時半より、WOWOWライブで放送、WOWOWオンデマンドで配信(※放送終了後、一週間アーカイブ配信あり)される。このライブはBOBO (Dr)、吉田一郎不可触世界 (B)、ちゃんMARI (Pf)、須原杏 (Vin)といったお馴染みのサポートメンバーに、内田麒麟(Vc)を加えた特別編成によるもので、さらにはゲストボーカルとしてSalyuが参加。美しい映像演出やドキュメントパートも含め、必見の内容となっている。
◆TK from 凛として時雨 画像
2011年のPHOTO BOOK+DVD『film A moment』を起点に、2012年の1stアルバム『flowering』から本格化したTKのソロ活動は、本人いわく「偶発的」なものだったという。しかし、10年に及ぶキャリアで数多くの作品を生み落し、様々な編成でのライブを行い、数多くのクリエイターとのコラボレーションで自分自身の解体/再構築を続けたことにより、現在では凛として時雨の活動とともに、TKにとってなくてはならない活動になったと言えよう。その魅力は国内にとどまらず、海を越えて国外にも伝わっている。
今回のメールインタビューでは、ライブ収録を終えたTKに<10th Anniversary Session>について聞くことはもちろん、ソロでの活動が自身に及ぼした変化や、ターニングポイントについてなど、この10年のキャリアについて、深く掘り下げてもらった。
◆ ◆ ◆
■WOWOWだけで見られる特別なライブ
■こういった時期に映像に残せるのは嬉しい
──<10th Anniversary Session>は10年におよぶソロのキャリアの中で、どのような意味のあるライブ/作品になりましたか?
TK:10年を振り返るという形ではなく、新しい編成で、楽曲によっては今までと違ったアレンジを構築し直しました。楽曲が入り組んでいて、なかなか変えるのも大変なのですが、自分自身も新しい音像を体感したいなと思ったんです。ちょうどツアーファイナルの中野サンプラザ公演を終えた後だったのもあると思います。そのままの流れで収録する方がスムーズだったとは思いますが、そこはチャレンジしましたね。
──2020年以降はコロナ禍の影響もあってライブ映像を収録する機会が増えていますが、思えばTKさんのソロは映像と音楽(と写真)による『film A moment』から始まっていました。改めて、自身の音楽と映像の関係をどう捉えているか教えてください。
TK:あのときは偶発的にソロが始まり、ストレートに自分一人で作るものをアウトプットするという概念ではなかったので、思考がまず映像や写真という視覚的に見えるものに自然と向いていました。「バンドとは違うアプローチを」という思いも強かったと思います。最近はいろんな形態でのライブ収録が増えてきましたが、『film A moment』のように自分の内側と向き合いながら撮影している時間をそのままパッケージするというのは、またどこかでやりたいですね。今見てもどこかヒリヒリするというか、音楽とは違って自分の視点がそのまま収められていて、ああいう生々しいのに掴めない感覚をまた残しておきたいなって。
──セットリストは10年のキャリアの中から幅広く楽曲が選ばれていますが、何か意図や狙いはありましたか?
TK:最近演奏していなかった楽曲もあえて選んだりしましたね。演奏しながら自分の歩みや思考をたどれるような、そんなセットリストになったと思います。どんどん演奏するのが大変になっているなというのもひしひしと感じますが(笑)。
──バンドセットでヴァイオリンだけではなくチェロも交えた編成というのは珍しいかと思います。その意図や、実際に演奏した感想を教えてください。
TK:実は最初に収録したスタジオライブ(『flowering』の初回生産限定盤に収録)ではチェロがいたんです。自分の中ではヴァイオリンとベースの間を埋めてくれる重要なパートですね。人数の関係もあるので通常のライブではなかなか難しかったりもしますが、普段はハードディスクから流している音も生演奏に置き換えて、音の重ね方を変えたりしました。やっぱり実際のアンサンブルでアレンジができるので、バンドのテンションや歌の温度感に対して順応してもらえるのがすごく楽しかったですね。
──ソロでのキャリアを重ねていく中で、凛として時雨との差異は明確になっていきましたか? それとも、逆に曖昧になっていきましたか?
TK:自分の中では最初から明確ではあったのですが、ギターが激しい曲を作ったりすると、スタッフから差別化を言われることは多かったですね(笑)。ただ、僕が作っていて、僕が歌うものですし、結果的にそれを人がどう判断するかに囚われてしまうのはもったいないと思いました。最終的な形がどういうアレンジになったとしても、それはバンドでしか生まれないもの、ソロでしか生み出せなかったもの、という風により強く思えるようにはなってる気がします。曖昧にしておいても明確になってる、という感じでしょうか。
──凛として時雨とソロの大きな違いのひとつはやはり“ピアノ”の存在だと思います。10年の変遷の中で、ピアノという楽器との距離感にはどのような変化がありますか?
TK:自分の感情に寄り添ってくれるものとして、限りなく直感に近いというのは今も変わらずですね。今でもピアノという楽器が出してくれる音色には、自分が表現しようとしてるものの一番繊細な部分がある気がしています。
──「楽曲によっては今までと違ったアレンジを構築し直した」というお話もありましたが、個人的には「katharsis」序盤の抑制されたライブアレンジが印象的でした。一度完成した楽曲を再構築する上で、どんなことを意識していますか?
TK:昨年のビルボード公演から少しだけ大胆なアレンジをするのが好きで、特にちゃんMARIと杏の組み合わせは再現するというよりも、お題を投げかけたときに新しく生み出すまでのアクションが面白いんですよね。ハマるかハマらないか、ギリギリのところを攻めていく。自分たちも原曲とは違ったアプローチで演奏できるので刺激的ですね。
──ライブ後半ではSalyuさんがゲストボーカルで参加されています。共演の感想を教えてください。
TK:ずっとライブでもご一緒したくて、やっと叶いました。WOWOWだけで見られる特別なライブなので、こういった時期に映像に残せるのはとても嬉しいですね。Lily Chou-Chouの頃から聴いていて、「moving on」はアップテンポですが、今回静かな楽曲も一緒に歌わせていただき、Salyuさんの静と動の魅力をどちらも間近で体感させていただきました。曲の解釈を合わせ過ぎないで、自分にとってもハッとする瞬間を残せたテイクになったと思います。メロディやアクセントも音源とは違った仕上がりになっているので、早く聴いてもらいたいですね。
──ソロの10年はコラボレーションの歴史とも言えるように思います。 ミュージシャンだけでなく、映像作家をはじめとした様々なクリエイターとのコラボレーションの重要性をどのようにお考えか、改めて聞かせてください。
TK:ソロだからこそ出来るコラボレーションというものをこの10年の中で経験出来たと思います。その中で他人と何かを作る重要性はもちろんのこと、他人と何かを作り出す中で自分を見つけることが出来ることがとてもとても重要なんじゃないかって気付きました。今回も監督の丹(修一)さんと映像を作る上で自分はどんなものが作りたいのかという部分を、丹さんとのコミュニケーションや撮影の中で見つけていくのがとても刺激的でしたね。
──ライブ中盤ではアコースティック編成での演奏も取り入れられていました。アコースティック編成もやはりソロならではですが、その面白味や難しさについて、この10年間でどのような変遷がありましたか?
TK:時雨にしてもソロにしても弾き語りにしても、一言で「楽しい」と言えるような向き合い方をしていないので、難しいことだらけです(笑)。偶然音楽の世界に紛れ込んでるような感覚で今までやってきたので、常に自分の音楽というものを探したり、アウトプットすることに必死で、いまだに客観的に楽しんだりすることもできないですし。自分で絞めている首への圧力をもう少し緩められたらなとはずっと思ってるんですけど、なかなかそうもいかないですね(笑)。
──いろいろなライブの編成がある中で、アコースティックのライブのときはどんな心境なのでしょうか?
TK:アコースティックのときは丸裸になりますから、より自分自身を解剖しているような気持ちになります。「ちくしょー、できないー」って言いながらリハーサルを終えたりするのがほとんどですけど、多分曖昧なものじゃなくて、そのネイキッドな状態で自分が確かなものを生み出せるのかを試したいんだと思います。
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