【インタビュー】ビリー・F・ギボンズ「ロックンロールの新境地を開くことになった」
ビリー・F・ギボンズの3年ぶりのソロ新作『ハードウェア』が、6月21日にリリースされた。ZZトップで50年ものロック街道を走り続けてきたキャリアを重ねながら、これまでになかったロックンロールの新境地を開くという、ビリー・F・ギボンズの衰えぬクリエイティビティを確認することのできる快作だ。
かのジミ・ヘンドリックスをして、当時「今最もアバンギャルドなギタリスト」と最大の賛辞を言わしめたビリー・F・ギボンズだが、あのハーモニクスをたっぷりと讃えた図太いオーバードライブ・サウンドは身を潜め、クランチなビンテージ/ロックンロールサウンドを嗜む曲もある。
3枚目のソロ・アルバム『ハードウェア』をリリースしたばかりのビリー・F・ギボンズにインタビュー、注目の収録曲について詳しく語ってくれた。
──これまでのソロ・アルバムは、ZZトップとは少しサウンドが異なっていたと思うのですが、今回の作品はとても多様性に富んでいますね。ZZトップの曲になりそうなものもあれば、別の方向に向かっているものもあり…。
ビリー・F・ギボンズ:そうだね。『Hardware』に収録されている内容は、ZZトップの典型的なサウンドからは外れているね。スタジオのドアが開いたとき、もちろんZZトップのブルースや馴染みのある曲も入ってきたけど、それと同時にこれまでとは異なる非常に新しいものを使って曲作りしたいという創造的なモードに入っていたから、最終的にはZZトップの要素が少しと、ブルースの要素が少し、そして新しいものがたくさん入っているというアルバムになった。俺たちはZZトップの作品やその親しみやすさを楽しんでいたんだけど、この作品ではロックンロールの新境地を開くことになったと思っているよ。ラウドでロックであることに変わりはなく、グルーヴがある。すごく満足のいくものになったね。
──レコーディングでソロを弾くとき、過去のフレーズを気にすることはありますか?
ビリー・F・ギボンズ:一般的に、フレーズは事前に考えて決めておくことで、新しいプレイがお披露目できると思うけど、俺たちがスタジオで興奮することは、大体において正反対のものだよね。オースティン・ハンクスの影響力とマット・ソーラムのバックビートが相まって、俺を新しい世界に導いてくれるんだ。実際それですごく珍しい境地に到達することができた。ZZサウンドと言えるほどのフィーリングを持ちながら、ここに来て新しい場所に飛び出すことができたからね、聴けば分かるよ。
──砂漠の真ん中のスタジオで制作したとのことですが、どんな様子でしたか?
ビリー・F・ギボンズ:まずはボールを転がし続けること自体がチャレンジだったよ。慣れ親しんだ機材を持たず、遠い知らない土地で立ち往生してさ、棒を拾ったり隅にあるものを敷いたりして、周りにあるもので何とかしようとしたんだ。2週間目には、注文していた自分たちのお気に入りの機材が届いたけどね。実際のところ、一連のセッションでは、サウンドの要となるPearly Gates(編集部註:ビリーの愛機である1959年製レスポール・スタンダード)がなければ何もできなかった。マットはお気に入りのグレッチのドラムを持っていたね。ただね、信じられないことにオースティンは、スタジオにあった機材で満足していたんだよ。でも、一番最初はスタジオにあった機材だけを使ったことで新しいサウンドが生まれたし、それらはそれでとても魅力的だったから、それを捨て去ることなくすべてを受け入れたのが、このアルバムなんだ。
──『ハードウェア』というアルバムタイトルは、ジョー・ハーディーへのオマージュと聞きました。ジョー・ハーディーは、何年にもわたってスタジオで一緒に仕事をしていた人物とのことですが…。
ビリー・F・ギボンズ:ジョー・ハーディーは我々の長年のエンジニアでね、レコードのライナーノーツをめくると、ジョー“パーティー”ハーディという名前が出てくるよ。彼は優れたエンジニアであり優れたソングライターで、1970年代初頭に俺たちがメンフィスに到着したときから彼の影響を受けてきたんだ。俺たちはジョン・ハンプトン(エンジニア)とテリー・マニング(エンジニア)、そしてジョー・ハーディーに頼りっきりだったからさ。長年にわたって、ジョーのユーモアに触れてきたし、コントロール・ルームも決して衛生的ではなかったけれど生活感にあふれていて、すごく活気があった。ZZトップでもソロでも他のバンドでも、ジョーは温かい雰囲気で作業をスタートさせてくれるんだよ。そんなジョーへの敬意を込めたものだよ。
──そんなアルバムは「マイ・ラッキー・カード」で始まりますが、この曲を1曲目にした理由は?
ビリー・F・ギボンズ:オープニング曲の「マイ・ラッキー・カード」は、非常に個人的な観点からできた曲でね、そもそもこの作品作りは、マット・ソーラムとオースティン・ハンクスがホット・ロッドに乗って俺を迎えに来て、そこから20マイル離れた砂漠まで行って、そこでゼロからアルバムを作ろうというものだったんだよ。俺たちが到着して間もなく、マットの恋人エースが来てくれたんだけど、彼女はマットのラッキー・カードだけじゃなくて、スタジオで作業に没頭するこの3人のマッド・サイエンティストと楽しく過ごしてくれて、俺たち全員のラッキー・カードにもなったってわけなんだ。「このことを歌にしなきゃな。俺たちのラッキー・カードのことを」ということで、できた曲だよ。
──そもそもあなたは放浪者であり、旅人であり、じっとしていられない人ですよね。そしてこのパンデミックでは、3ヶ月間姿を消し砂漠でレコードを作ったわけですが、なかでも「ヴァガボンド・マン」は自伝的な曲に聞こえます。
ビリー・F・ギボンズ:確かに俺はじっとしていられない人だね(笑)。「ヴァガボンド・マン」は個人的な経験だけでなくストーリーが描かれているけれど、それは旅をしているミュージシャンにだけでなく、放浪癖に襲われて外に出なければならないすべての旅人の心に届くストーリーになっているんだよ。「vagabond」という言葉自体が、幅広い個人にタグ付けされやすいだろ?「ヴァガボンド・マン」は感情が噴出してくるような痛烈な表現だけど、そこはグッと抑えながらも、何十年にもわたって放浪してきたことが集約されているかもね。気に入っているよ。
──一方「シーズ・オン・ファイア」は、とてもタイトなリフを中心に構成されていますね。
ビリー・F・ギボンズ:「シーズ・オン・ファイア」には凄いエピソードがあるんだ。今回俺たちが使ったスタジオは、文明の利器に最も近い場所から20マイルも離れた場所にあったんだけど、ラッキーなことに丘を下りたところに小さなメキシコ料理店があったんだ。そこで出会ったのが、オーナーであり料理人であり経理担当でもある若い女性だったんだけど、このプロジェクトが始まって6週間目に、いつものように丘を下りレストランのドアを開いたら、なんとレストランが火事になっていたんだよ。ものすごくびっくりしたけど、そこにその女性が颯爽と現れてさ、「大丈夫、あなたの朝食を燃やしたりしないわよ、すぐに鎮圧するから」って言うんだよ。そのとおりに俺たちは美味しいメキシコ料理を堪能できたんだけど、同時に「シーズ・オン・ファイア」という曲のアイデアを手に入れたってわけ。
──凄いエピソードですね。
ビリー・F・ギボンズ:彼女は文字通り燃えていたんだよ。そのまますぐにスタジオに入ったら、すごく面白いギターのリフが出てきた。アップビートでテンポの良い、俺達のお気に入りの曲になったね。みんな彼女を知っていたから、誰が歌うかを争ったけどね(笑)。
──「モア-モア-モア」と「アイ・ワズ・ア・ハイウェイ」は、どちらも自分を好きになってくれるかどうかわからない女性がテーマですね。彼女たちは選択眼に優れた賢い女性で、一般的なロック・ソングで描かれる女性とは異なるタイプに聞こえます。
ビリー・F・ギボンズ:「モア-モア-モア」という言葉自体は失われた愛の反対語で、実際には「less, less, less」と呼ぶことができる内容の曲かもしれないね。普通ならとても悲しい曲だけど、俺達はアップテンポで楽しんだよ。楽しい時間を過ごすことが目的なんだからさ、それでいいだろ?そういう意味では「もっと、もっと、もっと(モア-モア-モア)」だね。
──「シャッフル、ステップ&スライド」は、あなたの自伝本のタイトルでもありますが、これはどういう曲ですか?
ビリー・F・ギボンズ:とにかくシャッフルという曲だね。ZZトップでは、ヒゲのない男フランク・ビアードとダスティ・ヒルと俺の三人で、シャッフル、カット・シャッフル、モンキー・ビートに傾倒しているけど、今回の『ハードウェア』のセッションでは、マットがテキサス・シャッフルを叩き始めたんだよ。「これでやってみない?」「じゃあ、何か書いてみようか」と演奏を始めたらオースティンが「僕はスライドで参加するよ」と言ってね、そうやってできた曲だ。楽しい曲だし好きな曲だよ。
──「スパニッシュ・フライ」という曲は、とても時間がかかったそうですね。
ビリー・F・ギボンズ:「スパニッシュ・フライ」って何?ってよく訊かれるんだよね。カリフォルニアにホット・ロッド・カーに乗っている仲間がいてね、1946年式フォードの2ドアセダンで、ドアに「スパニッシュ・フライ」が刻まれているんだ。俺はずっとその車を運転したいんだけど、ツアーを終えるとやつはいつもいない。だから、いつかそのハンドルを握れることを期待して「スパニッシュ・フライ」という曲を作ることにした。だから、この「スパニッシュ・フライ」というのは、46年式フォードのことを指してもいるし、もちろんメキシコ国境のラ・フロンテラのそばに行けば媚薬を意味することもあるだろうね。この曲の歌詞にはそういう楽しみもあるから、想像してみると楽しいよ。
──深読みすると面白そうですね。
ビリー・F・ギボンズ:もうひとつ何を意味するか想像してほしい曲があるよ。「S-G-L-M-B-B-R」という曲だ。この曲はジャック・ブルース&ジンジャー・ベイカー&エリック・クラプトンの3人がクリームを結成したときのパワー・トリオにインスパイアされたもので、これも俺たちのお気に入りの1曲なんだけど、歌詞の背後にあるものを考えてもらいたいな。「S-W-L-B-B-R」…子音と母音だけで発音するのは難しいけどね。
──「I am what I am, it is what it is」という歌詞がキーラインですね。
ビリー・F・ギボンズ:そう。何を意味するのか想像してほしいよ。
インタビュー:アンディ・ランガー
編集:BARKS編集部
ビリー・F・ギボンズ『ハードウェア』
SHM-CD ¥2,860(tax in)
https://jazz.lnk.to/BillyFGibbons_HardwarePR
1.マイ・ラッキー・カード
2.シーズ・オン・ファイア
3.モア-モア-モア
4.シャッフル、ステップ&スライド
5.ヴァガボンド・マン
6.スパニッシュ・フライ
7.ウェスト・コースト・ジャンキー
8.スタッキン・ボーンズ
9.アイ・ワズ・ア・ハイウェイ
10.S-G-L-M-B-B-R
11.ヘイ・ベイビー、ケ・パソ
12.デザート・ハイ
◆ビリー・F・ギボンズ・レーベルサイト
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