【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】ウェイウェイ・ウー 儚く美しい音色を奏でる二胡の魅力
来日30周年、来年にはデビュー20周年を迎える二胡奏者のウェイウェイ・ウー。これまでに、ベスト盤を含め15枚のアルバムとライブDVD 1枚をリリースする二胡の第一人者だ。彼女が奏でる優しく柔らかい音、時には激しく、そして悲しみを湛える音色は老若男女を問わず人気を集めている。そんなウェイウェイ・ウーに、二胡の楽器としての仕組みや魅力について徹底的に語ってもらった。
――まずは、二胡はどういう構造になっているのかを教えてください。
ウェイウェイ・ウー:二胡は本体と弓で構成されていてバイオリンやチェロと同じです。ただ、大きい違いがあるのが、二胡はこの楽器本体に弓がくっついてるんです。二本の弦の間に弓の毛が挟まれてる状態になっています。これは昔、遊牧民族が馬車に揺られながら弾いても弓をなくしてしまわないように考えられた知恵らしいんですよね。
──ヘッドはカッコいいですよね。
ウェイウェイ・ウー:一番上は琴頭(チントウ)と言うんですけど、いまはシンプルなのが人気です。装飾として竜、花、鳳凰などがあります。飾り自体は基本的に音色にはあまり関係ないのですが、もしもなくなったら意外と音が変わっちゃうんです。やっぱりこのぐらいの長さが、音が響くというのがあります。次、下に下がってくると糸巻きが2つ。これは三味線とかと同じですね。上の方は太い方の内弦を巻きます。下の方は細い方の高い音の弦(外弦)を巻きます。ただし、巻き方がバイオリンとかと違って、この内弦は外に向けて巻いて、内側の弦は外から内に向けて巻くんです。これを間違っちゃうと弦がくっついちゃうので。さらに言うと、この巻きは“場所”も関係あるんですね。二胡の場合は角度をつけることが大事なので、なるべく同じ角度で斜めに巻くこと。巻き方によって弦の張りが違ってくるんです。なるべく外に向けて巻くことです。
──弦の巻き方ひとつで音が変わるんですね。
ウェイウェイ・ウー:次は千金(センキン)です。ここはとても大事な部分。通販で楽器を買ったときに、「これは通販で郵送してきた時の固定のためのものだ」と思って切っちゃう人がいるんですよ(笑)。切っちゃダメ! 弾く人に合わせて調整します。二胡はバイオリンのように大きさのバリエーションがなくワンサイズの楽器なので、女性、男性、子供などの手の大きさや腕の長さに応じて千金の場所を調整します。もうひとつ大事なのがこの千金の部分の竿からの高さです。弾く人の親指の幅を高さに合わせればうまくいきます。楽器を弾く前に、まず位置をしっかり決めないと次の段階に行くのが難しくなります。
――これは材質は何ですか?
ウェイウェイ・ウー:いわゆる日本のタコ糸に近いです。私が実際に今よく使ってるのは麻の糸。これはユザワヤで売ってるんです。金属のセンキンも中にはあるんだけど、弦も金属だから金属と金属になっちゃうと音はクリアだけど強すぎる。私は糸の方が好きです。
――弦はスチールなんですね。
ウェイウェイ・ウー:昔はガット弦だったんです。バイオリンとかと同じように羊の腸を使ってるのと一緒で。あとシルクも昔使っていました。三味線とかもそうですよね。でもそれだと伸びてしまって張りが足りないんですよね。だから、100年ぐらい前からバイオリンと同じようにスチール弦が開発されたんです。いまバイオリンのメーカーが二胡の弦を作っているんですよ。私が今使っているのはレッドドラゴンというドイツ産の弦なんです。
──そして本体にあるブリッジ(駒)はどんな役割があるんでしょうか?
ウェイウェイ・ウー:駒がとても大切な役割がありますよ~。二胡の弓の毛で弦を擦って弦が振動しますよね。その弦の振動を表面のヘビの皮に伝達するのが駒の役目なんです。駒の材質によって、二胡の音色が変わることがあるのも面白いです。
──駒と弦止めの間にある布地の役割は?
ウェイウェイ・ウー:中国では海綿を使ってることが多いです。これは要するに、弦が振動したあとに、駒の穴から音が抜けてしまわないようにストレートに琴皮に伝える役割。要するに「コントロールシート」ですね。これがないと、ちょっと定まらない感じ。付けるとぜんぜん違ってくる。
──さて、本体の表面の皮はヘビですね。
ウェイウェイ・ウー:これはニシキヘビの皮です。ニシキヘビの皮は近年は動物保護法で輸入が難しくなっていて、いまではほとんど見かけなくなっています。近い将来には、人工皮になっていく方向かもしれないですね。生きていたときには、食事したあとに膨らんだりしますよね。その伸縮を生かすように、頭としっぽのところではなく基本的にお腹のあたりの皮を使うんです。音色がもっと豊かになりますだからウロコが大きい方が良いんですよね。あと、色の均等性やツヤがあること。やっぱりカサカサしてると良くない。人間の肌もそうですよね。どうしてもそうなりがちな時には、あまりオイルが多めじゃないハンドクリームでマッサージしたり。要するに潤いを少し戻すという感じですね。
――なるほど。生き物だからこそですね。
ウェイウェイ・ウー:皮製品ってそうですよね。弾く人が愛情を込めてマッサージしてあげるといいですね。すごく乾燥した場所で演奏したことがあるんですけど、ほんとに市販のUVカットのためのクリームをつけたら見事に戻ったの。楽器を製作される方とあとで話したら「そうなんだよ」って。最近、専門のクリームも中国で売るようになったんです。
▲いろいろな駒。花梨、紫檀、黒檀などがある。レッドドラゴンというドイツ産の弦。そして松脂。
――松脂はバイオリンと同じですか?
ウェイウェイ・ウー:松脂は弓に必ず付けるものです。バイオリンと同じです。やっぱり擦弦楽器は“擦弦”だから、“摩擦”しないと音がしないんですよね。私が使っているのは、実はバイオリン用のです。質の良い松脂を付けることによって、弓の毛が長持ちするんですよね。松脂って実は甘~いんですよ。ヤニだから、だからこういうところに虫が生まれやすいんですよ。
――えぇっ!
ウェイウェイ・ウー:弓がだめになるのは、この中に松脂を食べる虫が発生してしまうからなんです。だから良い松脂を使わないといけません。自分の弓はそうなったことないけど、やっぱり昔よくその話を聞いたことあるので。バイオリンではあまりそういう話を聞かないのは、やっぱり質のいい松脂を使うからなんでしょうね。松脂の付け方は、バイオリンは表側だけですが、二胡は両サイドで弾くので、表裏両面に付けなければなりません。
――そうですよね。
ウェイウェイ・ウー:そう。二胡は弓の毛が2本の弦の中に入ってるから、けっこう難しいです。手で弓を触ってしまって手の汗とか脂(あぶら)とかけっこうくっついてしまうんですよね。そうすると松脂がすべって付けられなくなる。だから、なるべく手が実際に触れないように松脂だけつけていく。最初、慣れないうちには大変ですけど。
──今度は弓の話にいきましょうか。
ウェイウェイ・ウー:弓は木ではなく竹でできているんです。だからすごい軽いんです。重たいと換弦(弦を変えて弾く)がスムーズにできなくて速い曲が弾けない。さらに節(ふし)があった方がいいんです。長さは80cmぐらいが普通です。でも長くなると重たくなるので、そこはどっちを取るか。80~83cmぐらいが普通です。
──本体なんですが、何か台のようなものが付いていますね。
ウェイウェイ・ウー:この下の部分は琴托(チントウ)と言って、実は本体と離れているんですよ。脚の上に置いて演奏するので、本体が体がくっつくとミュートしちゃうんですよね。離れていないと音が響かないんです。
――そうですね。
ウェイウェイ・ウー:もう一つ形が違うのを持ってきたんで見てください。これは二泉二胡と言います。この丸い形をしているのは、中国の北部の地方で作られているものです。寒いと音が届きにくいので、大きい音を出さないといけない。だから、明らかに丸い筒の方が音が大きいんです。今日、これを紹介したかった。こういう形の違いも地方によってあるんです。普通の二胡より五度下のチューニングになります。低い弦がGで高い弦がDです。日本では特にこの低い音が人気があるので、私自身もニューアルバム『歳月之詩』の「HALLELUJAH」でも、この二泉二胡を使ってるんです。
――本体や竿(琴杆・チンガン)の材質は?
ウェイウェイ・ウー:材質もいろいろあるんです。私が使っている二胡は老紅木(ロウコウボク)です。でも、紫檀もありますし、黒檀もありますし……。それこそ老紅木の老がない紅木もありますし。
──一番、ポピュラーなのは?
ウェイウェイ・ウー:(考え込む)。老紅木はやっぱり老で少なくなってるから貴重ですが、人気はありますね。紫檀もインド紫檀とかアフリカ紫檀とかもだんだん少なくなってきていて貴重になってきています。紫檀は高いですよ。黒檀の方が少し安い。でもね、黒檀好きですよ。落ち着いた音色がするので。
――ローズウッドのことですよね。
ウェイウェイ・ウー:そう、紅木はローズウッドのことです。
──以上のような二胡を演奏して、デビュー20周年になりますね。ウェイウェイさんが感じる二胡の魅力を改めて教えてください。
ウェイウェイ・ウー:ヴァイオリンは頭の近くで演奏するので頭で音を聴きますが、二胡はお腹の前で弾いて、お腹に響く楽器です。そして左手で抱きかかえて演奏します。だから子供を慈しむように抱きかかえて、それが音を出して、お腹に感動を伝えてくれる。ある意味、二胡の方が感動的な楽器だと私は感じています。女性的な楽器とも言えますので、女性奏者として自分の分身のように感じます。二胡は、演奏していると映像が観えてくるんです。自分が表現したい全てに合う楽器と思っています。
──慈愛に満ちた音を奏で、それが聞く人の心と身体に同時に感動を与えてくれます。そういった楽器として、モンゴルに馬頭琴というのがあるじゃないですか? 二胡とルーツ的には同じなんですか?
ウェイウェイ・ウー:弦を押さえるのに指の表と裏の両方を使うんです。あれはまず痛みを耐えることが重要(笑)。すごく痛い。爪の付け根で押さえてるんですもの。私も試しましたが無理無理! なんか神秘的な楽器ですよね。木でできていて、共鳴胴がどっちかというとチェロとかバイオリンと一緒で、f孔があって、そこから音が出ます。
──胡弓と二胡を混同している人も多いですね。
ウェイウェイ・ウー:胡弓は日本の楽器。胡弓もおもしろいんですよ。共演したことあるんですが、音量が二胡にどうしてもかなわない。だけど、秘めた、なんか哀愁をすごく感じますよね。胡弓はルックスが三味線に似ていて、三味線を縦に弾いてる感じ。
――二胡あるあるとか紹介してもらえますか。
ウェイウェイ・ウー:これはぜひ書いてほしいんですが、二胡は指にタコができないの。ここはバイオリンとかギターとかにない、手にやさしいところです。
――それが不思議なんですよ。なんでなのか?
ウェイウェイ・ウー:指板がないからなんですよ。指板があると、下からの抵抗力が指に戻ってきて振動がくるから、それがタコができる理由なんです。バイオリン、チェロ、ギターとかだと指板がありますよね。そこに弦がさらに間に挟んで弾くじゃないですか。そうすると指板から振動が指に戻ってしまう。
――それがタコの原因なんですか?
ウェイウェイ・ウー:そうなんです! そうなんですよ。これ(二胡)はないから。タコがないの。
――不思議ですよ。普通だとウェイウェイさんの指先ってカチカチなのかなと思うんですよね。
ウェイウェイ・ウー:ないのー! 手がきれい(笑)。バイオリンだと、ちょっと弾いただけでタコできちゃう。両方やってるから知っています(笑)。逆に右手の指にタコがあるんですよ。これは、弓を挟んでずっと弾いてるから。
――では、近況を聞かせてください。最新アルバムについて。
ウェイウェイ・ウー:5月8日に来日30周年記念アルバム『歳月之詩』をリリースしました。全11曲収録で、6曲オリジナル、5曲カバー曲です。6曲のオリジナルのなかで4曲は私が書き下ろしています。今回ものすごい曲数を書いたなかから絞った4曲です。あとは演奏家でもある父の曲も2曲入っています。それから、1曲、私の妹(歌手のアミン)とコラボをしています。「ふたりの天使」っていう名曲です。はい。二胡とボーカルのコラボもみなさんに楽しんでいただきたいです。タイトルチューンの「歳月之詩」は、アレンジャーとミーティングして、何回も何回も修正して、長い時間をかけて仕上げた1曲です。今回はアレンジャーは全部で4名。みなさんが気持を込めてアレンジしてくださったので、たぶん今までにない力強さと、未来に向けての希望も感じられる1枚になっていると思います。自分にとっては、たぶん今までの中で一番力強いアルバムかな。
──カバー曲は?
ウェイウェイ・ウー:カバー曲も力強い曲が多いかも。ヴィバルディの「Storm」。かなりのスピードなので、次弾けるかわからないくらいのチャレンジです。あとは大ヒットドラマの『Game of thrones(ゲーム・オブ・スローンズ)』シリーズの主題歌もすごいスケールが感大きく、ちょっと超絶技巧も入ってる1曲。あとは、『ファイナルファンタジー8』の主題歌「Eyes On Me」です。さらに「ふたりの天使」ですね。あと、おもしろいタイトルの曲も1曲あって。「一粒万倍」。ふふふ(笑)。「一粒万倍」って日本の言葉なのに、知らない人が多い。大安の日とか一粒万倍の日とかっていうのは実はあるんですよね。大安はみなさん知ってるけど。いい日ですよね。それよりももっといい日が一粒万倍の日なんですよ。
──1曲目の「千年の糸」は壮大な曲です。
ウェイウェイ・ウー:人はどこから来たのか、人はどこへ行くのか。なんか消えていても、実際には見えないつながりの糸がある、っていうイメージです。この曲を最終的に仕上げた時に敦煌に捧げたいなっていう気持ちがあって、「千年の糸~敦煌」っていうタイトルにしました。私が観光大使を務めている世界遺産の白川郷もそんな気がしますね。時空を超えた、なにかのご縁、なにかのつながりがある。これを今後、シリーズにしていきたいなと思っているんです。あとは、もう1曲カバー曲はレナード・コーエンの「HALLELUJAH」。二胡とギターでやっています。これも好きな曲なので、今回カバーができてうれしいです。
取材・文・撮影:森本智(BARKS編集部)
リリース情報
\3,000 税込
M1.千年の糸~敦煌(新曲/ウェイウェイ・ウー作曲)
M2.HALLELUJAH(カヴァー/レナード・コーエン作曲)
M3.Vivaldi Storm(カヴァー/A.ヴィヴァルディ作曲)
M4.稲草人~かかし(新曲/巫洪宝作曲)
M5.Game of thrones(カヴァー/ラミン・ジャヴァデイ作曲)
M6.一月の雨(新曲/ウェイウェイ・ウー作曲)
M7.Eyes On Me(カヴァー/植松伸夫作曲)
M8.春の泥路(新曲/巫洪宝作曲)
M9.ふたりの天使(カヴァー/サン・プルー作曲)
M10.一粒万倍~蝶のつばさに乗って(新曲/ウェイウェイ・ウー作曲)
M11.歳月之詩(新曲/ウェイウェイ・ウー作曲)
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