コロナ禍で音楽フェスを未来につなげるアクション

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この約20年のなかで、一時は「飽和状態」とも謳われたほど日本全国各地で生まれ、地方創生も担った「音楽フェス」のシーンも現在、新型コロナウィルスの感染に大打撃を受けている。近年では全国で年間300件近くも開催されていた音楽フェスは、この2021年も新型コロナの感染状況に影響され続けており、開催地や開催タイミングによって中止や延期をせざるを得ないフェスも多い。2021年4月30日(金)、5月1日(土)、2日(日)に予定されていた<ARABAKI ROCK FEST.20th×21>は、全ての関係者への抗原検査も予定していたが、開催間際の4月24日に中止を発表した。

一方で、もはや一つの文化として根付いた「音楽フェス」の開催を強い意志のもと目指すアクションが次々と起こっている。その象徴が、2021年3月に設立された「野外ミュージックフェスコンソーシアム」だ。地方との連携や、安全安心なイベント開催に向けたガイドラインの策定、その周知、政府や行政・自治体への要望などを共同して行うことで、いちイベント主催者では達成の難しい目標や課題の解決を目指す。<FUJI ROCK FESTIVAL>を主催する株式会社スマッシュ、<ROCK IN JAPAN FESTIVAL>の企画制作を手がける株式会社ロッキング・オン・ジャパン、<SUMMER SONIC>を主催する株式会社クリエイティブマンプロダクション、<RISING SUN ROCK FESTIVAL>を主催する株式会社ウエス、<SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER>を主催する株式会社スペースシャワーネットワーク、<ARABAKI ROCK FEST.>を主催する株式会社 ジー・アイ・ピー、<RUSH BALL>を主催する株式会社グリーンズコーポレーションらが発起人だ。加えて、コロナ禍によって期せずして設立された「野外ミュージックフェスコンソーシアム」は今後、「多様な主体が集うエコシステムとして発展させたい」とも表明。音楽文化の発展にとどまらず、地域活性、環境問題など、意義深いメッセージを発信し、それぞれに強固なアイデンティティを抱いている「野外音楽フェス」らしく、これからの時代の命題も見据えて連携していくことが窺い知れる。

さらにその後、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が発令されていた2021年5月5日には、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会、一般社団法人日本音楽出版社協会の音楽4団体が、緊急事態宣言の延長に際した声明文を発表した。特筆すべきは、2020年5月の最初の緊急事態宣言の解除以降、1年近くにわたり、団体会員社のコンサートや演劇、ミュージカル等の公演会場からのクラスター発生は報告されていない旨が明記されたこと。言うまでもなくこれは、徹底的に感染症対策を行ってきた成果だ。また声明文では、ライブエンタテイメント産業の苦しい現状についても言及。2020年の市場規模は前年比8割減となり、アーティスト等だけでなく、文化施設や、公演に従事する人々の生活が危機に直面していると報告した。

1年にもわたって、ライブ会場でクラスター感染は発生していない。そうした多数の人々が尽力してもたらした実績の上で、音楽フェスは開催される。その象徴として、2021年5月2日(日)、3日(月・祝)、4日(火・祝)、5日(水・祝)に千葉市蘇我スポーツ公園で2年ぶりに開催された<JAPAN JAM 2021>の事務局は、同フェスの参加者、出演アーティスト、運営スタッフにおけるクラスター発生がなかったことを、終演から20日が経過した5月25日に発表した。これは野外音楽フェス開催における光明であると同時に、対策を結実させるのはフェスに関わる参加者一人一人に他ならないことを伝えた。主催者や出演者に限ることなく、すべての関係者が「当事者」として作り上げる空間が音楽フェスであると再確認させられもした。


参加者が一丸となる音楽フェスと言えば、97年に初開催されてから日本のフェス文化を牽引してきたフジロック。1年のサイクルの中心にフジロックがあるという、いわゆる「フジロッカー」の存在も多く、延期になってしまった2020年度の気持ちも持ち越して並々ならぬ思いから参加するに違いない。主催者サイドも、2020年の延期発表以降は「KEEP ON FUJI ROCKIN’」を合言葉に、過去のライブ映像の配信や無観客による年越しイベントを実施してきた。「KEEP ON FUJI ROCKIN’」、すなわち、世界に誇る日本のフェスを未来に繋げていくという使命を実現させるのは、紛れもなく関係者一人一人だ。そんなフジロックの大きな魅力である苗場の大自然の恩恵を活かし、「自然と音楽の共生」を目指すフジロックならではの創意工夫を図り、感染リスクの回避に取り組むとしている。三密の「密閉」に該当しない野外という環境のなか、もちろん、人数制限やソーシャルディスタンスの確保などによって「密集」と「密接」の対策を講じて開催に臨む。また、国外アーティストの参加は断念しておこなわれる今回の特別なフジロックが、邦楽リスナーがフジロックに初めて参加するきっかけになったらとても嬉しい。

気になる今後の海外アーティスト招聘に関しては、2021年5月、海外アーティスト公演の早期再開を目指す「インターナショナル・プロモーターズ・アライアンス・ジャパン」が発足された。コンサートプロモーターズ協会(ACPC)に加盟するエイベックス・エンタテインメント、ウドー音楽事務所、エムアンドアイカンパニー、クリエイティブマンプロダクション、キョードー東京、スマッシュ、ハヤシ インターナショナル プロモーションズ、阪神コンテンツリンク ビルボードジャパン、プロマックス、Live Nation Japanという招聘プロモーター10社が設立した。アメリカやイギリスなどでは国民のワクチン接種が進み、大型コンサートや音楽フェスの準備がすすむなか、日本は存亡の危機に瀕していることは言うまでもない。日本の音楽文化の成長にも関わる海外アーティストの来日公演の実現に向けて、各国の大使館や領事館の協力を得ながら、政府や行政に対して要望を行っている。なお、昨年は開催を見送った<SUPERSONIC>が2021年9月18日(土)および19日(日)に千葉県・ZOZOマリンスタジアムと大阪府・舞洲SONIC PARKにて、海外アーティストを迎えて開催を目指すことも先日発表された。

また、イギリスの<ダウンロード・フェスティバル>は、2021年の開催も中止することを発表しているが、ライヴ〜イベントの安全な開催再開を目指し英政府が行っている研究プログラム<Events Research Programme>に参加するという。収容人数1万人に観客数を抑えたパイロット版を6月18~20日に開催し、入場者はPCR検査などを受けた上で会場ではモッシュやダンスやハグすることが許され、マスク着用やソーシャルディスタンスを取る必要もないそうだ。イベント5日後に再度PCR検査を受け、夏以降のイベント開催における安全確保に役立てるという取り組みであり、音楽フェスの可能性を広げようとしている。


「命や健康が最優先」という事実を前に、当然のことながら新型コロナ対策に準じてきたのがこの約1年半だ。規制の中で緊張の場面も多く、多かれ少なかれ「孤」や「個」を強く感じさせられる日々の中で、より一層、心のよりどころになっているのが「音楽」。その祭典が無事に開催されることは、脅威に立ち向かって新しい未来を作っていくことであり、コロナ禍を生きる人々にとって大きな活力となり得るはずだ。

文:堺 涼子
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