【インタビュー】川崎鷹也、広がる活動域「孤独は、恩返しのための過程なのかもしれない」
■訴えかけるような、飾らずにさらけ出す歌
──「Answer」は“孤独”がテーマのひとつになっており、それと呼応するように川崎さんの単身弾き語りアレンジの楽曲です。川崎さんが考える、弾き語りだからこそ成せる美しさとは?
川崎:ピアノでもギターでもそうなんですけど、弾き語りで僕が唯一好きなのは、ギターのコード感、メロディ、歌詞を一発でしっかり届けられることなんです。シンプルな表現が好きなんですよね。ギター歌のニュアンス、テンポ感によって演奏するたびに曲の響き方が変わるのも面白いんです。「Answer」は『眠れないオオカミ』がベースになっている曲なので、もちろん漫画の情景を思い浮かべて歌うんですけど、ベースの下の深いところに、過去の自分がいるんですよ。
──もがきながら音楽活動をしていた頃の川崎さん、ということですね。
川崎:お客さんがいないなかで、必死になって本気で30分ライヴをしていたり、早く誰か僕のことを見つけてほしいともがいていた自分は、どうしても切っても切れない存在というか。それがあったからこそ今の自分があるので、「Answer」は歌っていると過去の気持ちを思い出すんですよね。だから訴えかけるような、飾らずにさらけ出す歌になるんだろうなって。
──ソロアーティストさんのものづくりは、孤独に没入することで生まれるものだとも思います。
川崎:洞窟に迷いこむような感覚ですね。いまでこそ即興ソングを披露したりしてますけど、曲を書いてるときは結構しんどいんですよ。書きたいことや伝えたいことはたくさんあるんですけど、じつは曲作りの過程はあんまり好きではなくて……苦しいんですよね。自分が素敵な考え方を持っていないといい曲ができないと思っているから、書けば書くほど“わ、俺全然なんも持ってないじゃん”とか、“これまでの人生がしょうもなかったから言葉が出てこないんだ”とか──。
──足りない部分ばかりが見えてくると。
川崎:俺ってからっぽだなと思うんです(苦笑)。でもそんななかから“あの時ああ言ってもらった言葉が、今の俺のこういう考え方につながってるな”と掘り出していって、ようやく完成するというか。誰かの手を掴んだことで光のある場所に出てこれるような感覚なんです。だから「Answer」は、きつかった。あんまり人には見せたくない、過去の部分を掘り起こさなきゃいけなかったから。
──いままでの川崎さんは大切な人からもらったものに対してどう感じたかを曲にしてきていたけど、「Answer」は川崎さんの内側から生まれてきたものが曲になったということですね。
川崎:ああ、たしかに! 本当にそうだ。
──活動も積み重ねてきて経験も増えてきたし、注目も集めてどんどん名前も広がっているのだから、そろそろこういうソングライティングにも挑戦してみてはいかが? という天からの思し召しかもしれませんね。
川崎:そうかもしれない。ああいう曲調の楽曲を書こうと思ったのは、したらさんと出会ったからだし。このタイミングでなければ、したらさんに背中を押してもらわなかったら、「Answer」は書けなかったと思います。……僕はいろんな偶然が重なっていまこの場所にいさせてもらってるなと思うんです。みなさんからいただいた愛情にどう恩返しをしようか、そればっかりを考えてたけどどうしたら返せるのかもわからない。「Answer」はそんな状況のなかでもがいてきた人生から生まれた曲ですね。
──Twitterで川崎さんは2018年から基本的にひとりでレコーディングをなさっていると拝見しましたが、“ひとり”とは具体的にどういう環境なのでしょう?
川崎:ほんとちっちゃい格安のスタジオを自分で電話して予約して、夜中にそこにPCとマイクと機材を全部持ち込んで、エンジニアさんも誰もいない環境で僕ひとり、って感じです。この先めちゃくちゃ信頼できるエンジニアさんと出会って“この人の録る音源を作りたい!”と思うことがあればそうすると思いますけど、いまのところは自分の納得いくテイクを自分のペースで録りたいので、自由度の高いこの形態でやってますね。
──「Answer」の歌詞どおり、孤独を味方にしてらっしゃるなと。
川崎:あははは、そうかも。“孤独”とはどういう状態を言うのか、まだ正解は出ていないんですけど……制作中は孤独だけど、完成した曲を誰かに聴かせたり、音源がリリースされたり、ステージに立ったら孤独ではなくなるし。いまの僕にとって孤独は、恩返しのための過程なのかもしれないですね。
──川崎さんの近況としましては、松本隆さんのトリビュートアルバムの参加、日比谷花壇とのコラボ曲「拝啓、ひまわり」発表と、精力的な活動をなさっています。4月にTwitterに投稿していた“夢のようなレコーディング”の正体は、トリビュートアルバムだったんですね。
川崎:そうなんですよ。光栄なことに松本隆さんのトリビュートアルバムのプロデュースをしている亀田誠治さんが、最後の1ピースとして僕を指名してくださって。レコーディングがめちゃくちゃ楽しかったんですよねー……。感動しました。それ以外にもいろんなリリースが決まっているので楽曲制作をしていて、そのレコーディングもいつもどおり孤独に進めています(笑)。
──では現在進行形で、曲作りの苦しみの真っ最中ということでしょうか……?
川崎:いや、いまはリリースしたら聴いてくださる方々や、新曲を待ち望んでいる方々が本当にたくさんいらっしゃるので、それを原動力に頑張れていますね。もちろん昔から楽しみにしてくれる人たちはいてくれてたんですけど、この数ヶ月で求めてくれる人も、期待してもらえることも増えたので、それに出来る限り応えることが僕にとっての恩返しです。だからしんどさはありつつも、早くリリースしたいですね。タイアップの書き下ろし曲以外にも、リリースは特に決まっていない、自分のコアの部分を歌った曲を作ったりもしています。
──着々と前に進んでらっしゃるということですね。そういった新曲制作も盛んななか、“チェキinstax mini 40”とのコラボ企画で「幸せあれ」がピックアップされたり、廃盤になっていた『I believe in you』が2021年5月26日に再販されるなど、過去曲にもスポットが当たっています。
川崎:いま「魔法の絨毯」を愛してくれている人が30年後にカラオケで「魔法の絨毯」を歌ってくれたらうれしいと言っていますけど、それは『I believe in you』に収録しているすべての曲に共通して言えることなんです。2018年の春にリリースした作品に収録されている曲が2021年にヒットしてくれてるのはいまの時代ならではですし、それが良しとされる世の中になったんだなと実感してますね。全国のCDショップに、自分のCDが置かれるんだなあ……すごいことですよね。
──毎日TVでお見掛けするアーティストさんから、そんな言葉が出てくるのもいまの時代ならではだなと思っています(笑)。
川崎:(笑)。3年前のアルバムが全国展開されるなんてなかなか聞いたことないし、どんな結果になるかわからないけど、そんなチャレンジができるのはこのチームだからなのかな、と思います。世代を超えて、月日を超えて愛される音楽を作ることは僕が目指していることですし、「魔法の絨毯」のヒットや『I believe in you』の再販はそれが少なからず叶っている証だと思うので、とてもうれしいですね。
──3年前の作品に収録された楽曲たちを客観的に見て、この3年でどんな変化を感じますか?
川崎:過去曲は“あのときこう思ってたな”と日記を読み返すような感覚なんですよね。演奏面や歌唱面も含めてちょっと気恥ずかしい部分もありつつ、あの時の素直な感覚が100%出せていると思います。当時の僕はほんと思ったことを思ったまんま書きすぎてて、“もうちょいひねれよ”と思ったりもしますね(笑)。でも幼少期からいままでの人生、自分のなかには一貫して若かりしピュアな少年の感性があるから、過去の自分の言葉も誇れるし、今でも当時の言葉を歌えると思うし、この先もそれを歌える自分でありたいとも思っていますね。
──まさにライヴという場は、いま話していただいたことをダイレクトに感じられる場でもありますよね。その時にしか出てこない表現が体感できる場所でもありますし、やはり音楽において重要な空間だと感じます。
川崎:春にライヴを数本したんですけど、お客さんが全員マスクをして声が出せなくて、距離を取っているなかでも、ここにいる人たちは僕も含めて音楽に助けられている人たちで、生音に飢えていることがひしひしと伝わってきたんです。“僕の音楽に逃げてきてくれる人たちがたくさんいるんだ”と思ったと同時に、その期待に応えなきゃいけないなというプレッシャーも感じて。こういう状況でも現場に来て生音を聴いてくれる人の生活がもっと豊かになるためには、どういう曲を書けばいいんだろう? と思ったんです。
──ライヴで感じた気持ちが、制作面での視野を広げているんですね。
川崎:奥さんや家族といった近い距離にいる人たちに向けて曲を書いていたけど、そこからちょっと広がったかも。そういう視点を持った曲もこの先生まれてくるのかな、なんて思いながら日々を過ごしてますね。
取材・文◎沖さやこ
▲川崎鷹也/「Answer」
リリース情報
2021年3月22日(月)リリース
https://takayakawasaki.lnk.to/answer
1stアルバム『I believe in you』(再販)
2021年5月26日(水)リリース
VICL-65503 ¥2,500(税込)
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