【インタビュー】志音(aphasia)、初のソロ作品リリース「人間にしかできないもの、愛を伝えたい」
■ホントに改めて自分を知ったり、新たに気づいたり。
■いい機会をいただいたなぁと思って。
──そういった面は、特に4つのオリジナル曲に色濃く表れているかもしれませんね。これらは今回のアルバムを作るに当たって書き下ろしたんですか?
志音:「サマヨイ蝶」に関しては、ほぼほぼ学生のときに作っていたものなんですが、歌詞は書き直してます。主人公である彼は彷徨っているんですけど、ただ一人を愛する覚悟を持っている。その意味で彼は傍から見ると、とても芯が強い、決意が固い人物なんです。アルバムのジャケットに描かれている青い蝶は、ユリシスという幸せの蝶なんですね。彼からしたら、愛する人と離れてしまっていて苦しいんですけど、生涯かけて愛する人を見つけたという幸せがあるのではないかなと思うんです。前奏のピアノも、ひらひら彷徨いながらも、その一人に決めて突き進むところを表しているんです。
──なぜ、こういうテーマで書こうと思ったんですか?
志音:このテーマで書こうというように逆算したのではなく、自分の気持ちをベースにして積み上がっていったものなんですけど……報われてないからですかね、自分が(笑)。でも、根底には、近くにいる上辺だけの関係よりも、たとえ遠く離れていても、自分が強い思いを持っているほうが尊いなと思っているからかもしれないですね。
──余談ですが、刑事ドラマで流れてきそうな曲にも感じました(笑)。
志音:刑事ドラマ、むちゃくちゃ好きなんですよ(笑)。『レッドアイズ』とか『相棒』とか『天国と地獄』とか……よく考えたら、刑事ドラマばかり観てます。『アンフェア』もそうですもんね。
──意外な話が出てきました(笑)。昂揚感のある「Go ahead」はCerveteriのIsao(G)さんの作曲なんですね。
志音:はい。この歌が最後に出来上がりまして。最初は、ちょっと爽やかな、昔で言うポカリスエットのCMみたいなイメージの曲にしたいとお伝えしていたんですけど(笑)、アルバムの全体像などを考えたときに、ちょっと違うなぁと思ったり、何度も曲調を変えていただくことになって。最終的にはキャッチーなロックになりましたね。歌詞はしっかりと今の時期に照らし合わせて考えました。これも結構、コロナの影響が大きくて。たとえば、黒死病で多くの方が亡くなった中世ではなく、AIだったりロボットが発達している現代でも、ウイルスに晒されて私たちの生活が制限されている。でも、歴史を乗り越えて、軌跡を見ながら頑張っていこうという思いを普遍的に表現して、みんなに元気を与えられるように、“前に進んでいこう”という歌詞にしています。
──まさに今だからこそ書きたかった、伝えたかったことですね。
志音:そうですね。今のこの時代の自分を鼓舞することも含めて書けました。生活は激変していますけど、これで気持ちまで下がってしまったらダメだなと……やっぱり打破していきたいという思いです。
──「What do you think of me?」はどのような曲でしょう?
志音:私はミレニアル世代なんですけど、その特徴的な悩みというか、気持ちかなと思ってて。今はリモートだったり、IoTだったり、近未来の機械みたいなものをジャケットに入れていただいているのですが、この主人公って、まさに今、SNSとかですべて情報を得たりしているんですね。“いいね”が欲しかったり、自分の顔を加工して、インスタ映えする理想ばかり追いかけたり。それに対して、ちょっと注目してもらったりすることに喜びを覚えながらも、実際は自分との乖離に寂しくなってしまう。そのアンビバレンスな感情ですね。そんな中で、自分の好きな人は、すべて自分のことをさらけ出している。SNS上の顔も知らない相手に対しても、取り繕ったものではなくて、自分の嫌な部分も見せる。ただ、自分はどうかと言えば、見せているものに対して自信がない。だから、“What do you think of me?”なんです。あなたは私をどう思っているんだろうって。
──他人との距離感が掴みづらい事象ですよね。便利なようで不便にも思える。
志音:会わずして何でもできるけど、今回のインタビューのように面と向かって会って話すこと感じ取るものってあって。会わずに済んでしまうことが当たり前になっている世代であれば、対面であるありがたみを、もしかしたらあまり感じないのかもしれないですけど、そんな過渡期ゆえの揺れ動く複雑な心情を書きました。この曲と「A・I」は、今の時代に対するちょっとした風刺もしているつもりです。時代という点で言えば、さっきジャケットの話を少ししましたけど、今回はCDの盤面デザインも含めて、アート的なものにも力を入れているんですね。音楽を好きな人は今もCDを買うかもしれないですけど、最近は配信で済ませてしまう人も少なくない。アーティストに対しての尊厳のようなものをあまり感じずに、流してしまっている気がするんです。そういった“モノ”に対するありがたみを伝えたいなという気持ちもあります。
──その「A・I」は、曲名からしても、いくつか意味を掛け合わせていることが窺えますね。
志音:そうですね。人工知能のAIであり、愛や哀もありますし、“騙し合い”の合いもそう。もちろん、私の“I”という意味もある。ドロドロしてて、ホントの愛って何なのかって思っているんですけど、この主人公の愛って、束縛だったり、執着だったり、人間特有の複雑さがあるんですね。この気持ちを表すことは、AIとか機械にはできるのか。昨今はボカロとかに歌わせたりする曲もありますが、人間にしかできないもの、愛を伝えたいなって。問題提起じゃないですけど、そういった思いはあります。
──ある種、重いテーマをジャズポップ的な曲にまとめ上げたのはどういう意図なんですか?
志音:これもIsaoさんが作ってくれたのですけど、これは再結成したWANDSの「真っ赤なLip」をイメージした部分もあります。大人な女性が、愛とはなにか、苦しんでいるのを書きたくて。かつ、今のこのコロナで期せずしてリモート化が推し進められている状況もありますし……その2つのテーマを入れたかったというのはあります。幼い頃、アニメの『スラムダンク』を見ていたので、WANDSも好きなんですよ。しかも、同年代の方が新たなヴォーカリストになって。aphasiaも長く活動しているバンドですけど、そこに私が入りましたよね。そんなところにも、ちょっと親近感みたいなものがあって。
──通常であれば、アルバムのリリース後は、それに伴ってライヴが行われるわけですが、その辺りはどのように考えているのでしょう?
志音:やりたいですねぇ……。こういう情勢なので、ライヴハウスを押さえていても延期せざるを得ないことも多いですし。現実的なところで言うと、何かしら配信でできたらなとも思っていて、今、いろんな方に声をかけて進めているところです。アルバムはぜひじっくり聴いていただきたいんですが、生の歌を届けられたら嬉しいのですけどね。
──この『Oto no Mori』の制作を通して、自分自身のシンガーとしての個性も、改めて見つめる機会になったのではないですか?
志音:本当にそうですね。改めて自分を知ったり、新たに気づいたり。いい機会をいただいたなぁと思っています。今、この時間もそうですね。お話ししていて、コアな部分がまた見えたと思います。
取材・文◎土屋京輔
『Oto no MORI』
Blue Butterfly
BFLY-004 ¥2,700+税
01. サマヨイ蝶
02. Go ahead
03. What do you think of me?
04. Faith
05. 魂のルフラン
06. bird
07. A・I
08. Seasons Of Love
09. 月光
10. ハナミズキ
Guest Musicians
仁耶(G/Unlucky Morpheus, UNDEAD CORPORATION)
Saki(G/Mary's Blood)
Isao(G/Cerveteri)
小川洋行(B/Unlucky Morpheus)
Massu-(B/MAHATMA)
Mao(Key/LIGHT BRINGER)
他
◆志音 オフィシャルTwitter