【ライブレポート】My Hair is Bad、1年越しのスーパーアリーナ公演で「ロックバンドがどれだけ優しくて、危なくて、不安定で、儚いか」

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ついに当日を迎えたさいたまスーパーアリーナ公演。このライブは本来、4thフルアルバム『boys』を携えた44ヵ所45公演の全国ツアー<サバイブホームランツアー>のスケジュールに含まれていて、2020年3月28日および29日が公演日であった。しかし新型コロナウイルスの影響によって同年6月9日および10日に<リベンジホームランツアー>として延期。その振替公演もさらに延期されて今回に至った。<ブレイクホームランツアー>という新たなタイトルを掲げた1年越しとなるスーパーアリーナでの公演。2021年4月10日および11日に行われた公演の内、有観客としては約1年ぶりとなった初日の模様をレポートする。

◆My Hair is Bad 画像32点

開演を告げるSEが流れた時点で早くも観客の間から手拍子が起こり、椎木知仁(G, Vo)、山本大樹(B, Cho)、山田淳(Dr)が登場すると一際沸き立ったさいたまスーパーアリーナ。広大な会場全体がみるみる内に興奮で包まれる感覚が気持ちいい。そして、メンバー3人が手を重ね合わせて掛け声を上げた後に放たれた爆音。「ドキドキしようぜ!」という椎木の言葉と共に「アフターアワー」がスタートすると、熱いサウンドが我々に向かって猛烈な勢いで迫ってきた。気持ちを高ぶらせながら掲げた腕を揺らす人々の姿が美しい。続いて、「熱狂を終え」「ドラマみたいだ」「虜」も披露された時点で、観客は完全にステージに釘付けとなっていた。




「まだまだいろんな状況がある中、今日、ここに来てくれて、顔を合わせてくれてほんとにありがたく思ってます。ライブが前よりももっと特別なものとなっている中で、改めてロックバンドがどれだけ優しくて、どれだけ危なくて、どれだけ不安定で、どれだけ儚いか。きちんと全部見せられたらいいなあと思ってます。今夜はどうぞよろしくお願いします」──椎木知仁

と挨拶をした後、ギターを掻き鳴らしながら「君が海」を歌い始めた椎木。山本のベース、山田のドラムも合流し、3人のアンサンブルが構築された瞬間、一気に鮮烈さを帯びたサウンドの色合い……エモーショナルさ、繊細なタッチ、豊かな情感を絶妙に融合させているMy Hair is Badの音の凄さを改めて実感した。“爆音を浴びた身体から汗が噴き出したと思ったら、いつのまにか涙腺も緩んでいる”という不思議な感覚をいつも届けてくれるのが彼らの演奏だ。瑞々しく躍動するサウンドが、青春の風景を体感させてくれた「18歳よ」。起伏に富んだ展開を遂げながら、歌詞で描かれている物語を鮮やかに浮き彫りにしていた「卒業」……その後も五感の全てが戦慄く瞬間の連続であった。




クリーントーンのアルペジオによる弾き語りと共に幕開けた「予感」。恋人同士でも両思いでもない男女の物語がじっくり描かれる様に引き込まれずにはいられなかった。オリンピックの中止、ソーシャルディスタンスなど、2020年の世相を想起させる言葉も交えているこの曲は、同じ時代を生きている我々の心にとても深く沁み入ってくる。続いて届けられた「幻」も、歌詞で描かれている主人公の心に感情移入せずにはいられなかった。My Hair is Badの音楽の中には、驚異的なまでに生々しい世界が広がっている。そういう曲たちをライブで存分に体感できるのは、やはりとても幸せな体験だ。

「グッド・バッド・バイ」が届けられた後に迎えた小休止。たくさんの観客が集まっている喜びを、3人は笑顔を浮かべながら話し合っていた。そして、突然話題に上ったのは、椎木が誕生日に山本からプレゼントしてもらったロボット掃除機・ルンバ。「ルンバって携帯に接続できるんです。名前をつけなきゃいけなくて。僕はうなぎが好きなんですけど、そこから取って“うな”。うなちゃんが今、家にいるんです。ひとり暮らしの男の部屋にルンバが来たら、めちゃくちゃ話しかけるよ」(椎木)。「それはきついなあ(笑)」(山本)──椎木とルンバのほのぼのとした生活が語られたこのMCタイムは、観客を大いに和ませていた。





「思い出はどんどん思い出になっていくけど、いい思い出ばかりじゃないですよね?」という言葉が添えられた「真赤」は、爆音を浴びながら観客が興奮を露わにしている様が壮観であった。続いて、我々が日常生活で抱えざるを得ない無数のフラストレーションを全力で粉砕してくれた「ワーカーインザダークネス」。マシンガンのように言葉を溢れ返らせる椎木の歌、爆音にゾクゾクさせられた「戦争を知らない大人たち」。イントロの途中で「どれだけロックバンドが優しいか証明する! 誰のライブに来てるかわかってる? My Hair is Badだ! 来た全員に後悔させないロックバンド。お前らの胸を焦がしたい!」と椎木が宣言して本編に雪崩れ込んだ「ディアウェンディ」……中盤戦も印象的な曲ばかりであった。

「ほんとは心はもっと広い。少しでも頭より心で考えられますように。心で何かを選べますように。心がもっと柔らかくなりますように。そんなことを教えられるロックバンドになりたいです。どうぞよろしくお願いします!」──椎木知仁

という宣言の後に弾き語りで歌い、勢いよく突入した「フロムナウオン」も圧倒的だった。言葉と音を絶妙にシンクロさせながら、ある種、演劇的とも言える空間を作り上げるのもMy Hair is Badのライブだ。このバンドの魅力は本当に底知れないものがある。




その後も椎木の心から溢れ出る言葉が、演奏する曲を劇的に光り輝かせる場面がいろいろあったので触れておこう。「このギターは古くて、1964年製。母と同じ生まれ年。何かの縁があって母も僕を産んでくれて、母の生まれ年に作られたギターが僕のもとにやってきて……。大好きな人、大嫌いな人、出会ってしまった理由があると思います。自分の周りの人を思い浮かべて」という言葉を経て始まった「芝居」。「このバンドを始めて史上、最も最低な春に。この4分間だけ2020年の5月に戻れますように」という祈りが込められていた「白春夢」。「好きな人はいる? もし勝負して自分が負けちゃったら、大切な人が傷つくかもしれないじゃない? だから戦わないほうがいいと思うんだよね。“きみのために戦わない”とか、“俺はきみのために逃げる”とか、全然カッコわるくない。きみに笑っていてほしいから俺は逃げる。何が悪い? そう思ってます。この歌は昨年の12月に出して、もっと素直に届いてほしいと思ってます。誰かのために逃げてもいい。それを肯定する歌です」という言葉が添えられた「味方」──抒情的なサウンドで彩られたこの3曲も胸に沁みた。




「こうやって会ってくれてありがとうございます。さいたまスーパーアリーナでライブができる日が来るとは、バンドを組んだ頃は絶対に思ってなかったし、こんな景色を見る日が来るとは思ってなかったです。僕らがバンドを続けてるだけでは、こういうことにはならなかったですし、みなさんのおかげであり、チームのおかげであり、支えてくれる人のおかげであり、そして僕らのおかげであり。いろんなものが繋がって今日がここにあります。2021年4月10日にこういうことが起きて、こういう音を出せて本当に良かったと思ってます。ネガティヴな話ばっかりじゃん? 最近。鬱憤が溜まるでしょ? なんとなく今年の桜が綺麗に見えるのも、桜が綺麗に咲いているからじゃなくて、俺が鬱憤溜まってるからな気がしていて。そういうことに穴をあける手伝いができるのが、そういうきっかけになれるのが、ロックバンド、好きなアーティストだと思ってます。大それたことはできないですけど、僕らが全力で何かをやることによって誰かがちょっとでも前向きになれたり、喜んでくれる瞬間があるんであれば、ほんとにやってる甲斐があると思える。そういうバンドでいたいなと思っています。真面目になっちゃった(笑)。元気出してほしいなあってこと。できるだけ元気でいてください!」──椎木知仁

My Hair is Badのライブレポートを書いている時にいつも感じるのだが、椎木のMCはコンパクトな文章にまとめてしまいたくない。なぜなら届けられる言葉のひとつひとつに深い想いがあり、このバンドを突き動かす原動力も示されているからだ。素敵なMCを噛み締めてから始まった終盤戦も、ステージ上の3人の姿が眩しかった。「手挙げられる?」という言葉に促されて、会場中の人々が掲げた掌を揺らしていた「宿り」。「ライブハウスを見せてくれますか?」という椎木の願いがまさしく叶っていた「告白」。そして、夏の風景を一足早く感じさせてくれた「夏が過ぎてく」で本編が締め括られるまで、片時もステージから目を離すことができなかった。





アンコールを求める手拍子に応えてステージに戻ってきたメンバーたち。「アンコールどうもありがとう! めちゃくちゃ楽しかったです。明日もライブができるんだよ?」(山本)。「明日空いてる?(※マイクなしの生声)」(山田)。「このキャパの会場で、マイクなしで、なんで声通るんですか(笑)?」(椎木)──3人の掛け合いが面白くて仕方ない。彼らの仲の良さも伝わってくるやり取りだった。そして、「本当に嬉しいです。これからも何度も会えるように、僕らも一生懸命頑張ります。また会いに来た時、“来てよかった”と思ってもらえるような日を何度も作りますので、これからもよろしくお願いします」と椎木が改めて挨拶してからアンコールで届けられたのは3曲。春の終わりが近づいているこの時期に実にふさわしかった「惜春」。観客が激しく打ち鳴らす手拍子が、まるで温かな大合唱のように感じられた「いつか結婚しても」。轟く爆音と共に一気に駆け抜けた「クリサンセマム」……最後までMy Hair is Badは最高にカッコよくて、優しくて、雄々しいロックバンドだった。

取材・文◎田中大
撮影◎西槇太一

■<ブレイクホームランツアー>2021年4月10日(土)@埼玉・さいたまスーパーアリーナ SETLIST

01. アフターアワー
02. 熱狂を終え
03. ドラマみたいだ
04. 虜
05. 君が海
06. 18歳よ
07. 卒業 (弾き語り)
08. 予感
09. 幻
10. グッド・バッド・バイ
11. 真赤
12. ワーカーインザダークネス
13. 戦争を知らない大人たち
14. ディアウェンディ (弾き語り)
15. フロムナウオン
16. 芝居
17. 白春夢
18. 味方
19. 宿り
20. 告白
21. 夏が過ぎてく
encore
22. 惜春
23. いつか結婚しても
24. クリサンセマム

■<ブレイクホームランツアー>2021年4月11日(日)@埼玉・さいたまスーパーアリーナ SETLIST

01. アフターアワー
02. 告白
03. ドラマみたいだ
04. 虜
05. 君が海
06. 接吻とフレンド
07. 卒業 (弾き語り)
08. 予感
09. 悪い癖
10. グッド・バッド・バイ
11. 真赤
12. 青
13. 戦争を知らない大人たち
14. ディアウェンディ (弾き語り)
15. フロムナウオン
16. 芝居
17. 白春夢
18. 味方
19. 宿り
20. 熱狂を終え
21. 夏が過ぎてく
encore
22. 次回予告
23. いつか結婚しても
24. クリサンセマム
W. encore
25. 優しさの行方
26. 月に群雲

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