桑田佳祐、ライブの原点の場所からひたすらに良い音楽を奏でていく記念碑的配信ライブ@Blue Note Tokyo
2021年3月7日、桑田佳祐が初めてBlue Note Tokyoのステージに立った記念碑的配信ライブ<静かな春の戯れ~Live in Blue Note Tokyo~>を観た。サザンオールスターズとして開催した年越しライブから2か月後、自ら「ライブの原点の場所」と言うライブハウスへと立ち返り、ソロ楽曲を中心に組み立てたおよそ2時間のステージ。派手な演出や凝った構成をあえてせず、ひたすらに「良い音」「良い歌」を奏でていく、それはそれは贅沢なひとときだった。
ギターの斎藤誠をはじめ、ドラムスに河村“カースケ”智康、ピアノに片山敦夫、サックスに山本拓夫など、気心知れたメンバーのタイトかつ柔軟なプレーに支えられ、桑田佳祐は最初から絶好調。椅子に腰かけて歌に集中できるおかげか、桑田のパワフルでブルージーな歌声も安定感抜群だ。メンバーはそれぞれにドレッシーな装いで決め、無観客の代わりにスタッフが手拍子で盛り上げ、曲によってはテーブルに置かれたランタンに灯をともすなど、どのシーンを取ってもお洒落で落ち着きがある。配信ライブというシチュエーションにもぴったりの、アダルトで落ち着いたステージングが印象的だった。
注目はやはり、セットリストということになる。現時点での最新ソロアルバム『がらくた』から、「若い広場」など4曲。ちょうど10年前にリリースされた2枚組の大作『MUSICMAN』から、「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」など3曲。ほかに「孤独の太陽」「東京ジプシー・ローズ」など、会場の雰囲気に合う渋めのアルバム曲が中心となる中、KUWATA BANDの「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)や、「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」「真夜中のダンディー」など、シングルヒットで要所を盛り上げる。年越しライブの最後に花火の映像とともに音源だけ披露された「SMILE~晴れ渡る空のように~」が、初めて生演奏で歌われたのも嬉しく、感動的なシーンだった。
そしてもう一つ、この日のライブで重要な役割を担っていたのが、合計5曲披露されたカバー曲だ。いきなりライブ1曲目を飾ったティン・パン・アレーの「ソバカスのある少女」、浅川マキの「かもめ」、加藤登紀子と長谷川きよしの「灰色の瞳」、ドクター・ジョンの「アイコ・アイコ」、そしてジュリーこと沢田研二の「君をのせて」。いずれも1970年代前半に登場した曲、つまり桑田佳祐が多感な少年時代にリアルタイムで聴いた(かもしれない)曲ばかり。それらを実に楽し気に闊達に、自らの歌として伸び伸び歌う姿に、「歌を継ぐもの」としての桑田佳祐の本質を観た気がして、心がじんわりと熱くなった。
思えば、桑田佳祐は傑出したオリジネイターであると同時に、昔からずっと、古き良き歌のモチーフを好んで自らの音楽に取り入れてきた、「歌を継ぐもの」だった。ごく初期の「いとしのフィート」や「Hey!Ryudo!」のような音楽的にストレートなもの、のちの「MICO」や「吉田拓郎の唄」のように、物語としてひとひねり効かせたものなど、そのセンスはオリジナル曲の中でしばしば発揮されてきたが、カバーとして本格的に取り組むようになったのは、ソロ活動が活発になった90年代、2000年代以降のことと記憶する。
特に、<ひとり紅白歌合戦>と題した一連のライブシリーズは、さながら戦後日本歌謡史のごとく、リズム歌謡やラテン、シャンソン、ムード歌謡、GSからフォーク、ニューミュージック、アイドルポップから現代J-POPに至る壮大な、しかしユーモラスなスパイスを効かせた秀逸なものだった。初期サザンオールスターズが洋楽ロック、ブルース、ファンクの影響下から比類なきオリジナリティを獲得してゆく一方で、桑田佳祐ソロ作品は日本の歌謡曲、フォーク、ロックの影響が強い印象がある。近年はそれらが一つに流れ込み巨大な大河となり、もはやソロもバンドもそれほど違いはないよう感じていたのだが、この<静かな春の戯れ~Live in Blue Note Tokyo~>では、邦楽ルーツの色濃い桑田佳祐らしさを久々に堪能できた気がした。アコースティックギターで歌う「ソバカスのある少女」は、まるで自作曲のように馴染んでいたし、「かもめ」の洒脱な歌いぶりもかっこいい。「君をのせて」の無垢な歌詞とロマンチックなメロディを、あのしなやかなブルースボイスで聴けるのも、得難く幸福な体験だった。
思うに、すでに日本のロック/ポップスのスタンダードとして成立しているサザンオールスターズ、及び桑田佳祐の楽曲を、こうして桑田佳祐自身が歌うことも「歌を継ぐ」行為になっているのかもしれない。自らの感性と主張でトラックを作り、複雑な作詞作曲を同時にこなす、自己完結型の才能あふれるアーティストが次々と世を騒がせている2021年に、「歌を継ぐ」「歴史を受け渡す」といった手法は、もう古いのかもしれない。だからこそ、桑田佳祐が今もなお、偉大な先達の影響を受け、一人の歌を継ぐものとして活動し続けていることに、じんわりとした感動を覚える。愛に溢れたスローバラード、アンコールのラストチューン「明日晴れるかな」を聴きながら、日本の歌謡音楽史の長さをふと思い、理由もなく明日への活力を体に感じる。桑田佳祐という音楽家の大いなる価値を再確認した、素晴らしい2時間だった。
なおこのライブは3月14日(日)23:59まで見逃し配信中(現在も視聴チケット購入可)。
文:宮本英夫
撮影:岡田貴之
セットリスト
2.孤独の太陽
3.若い広場
4.DEAR MY FRIEND
5.こんな僕で良かったら
6.愛のささくれ~Nobody loves me
7.簪 / かんざし
8.SO WHAT ?
9.東京ジプシー・ローズ
10.グッバイ・ワルツ
11.月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12.かもめ※2
13.灰色の瞳※3
14.東京
15.SMILE~晴れ渡る空のように~
16.明日へのマーチ
17.大河の一滴
18.スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
19.真夜中のダンディー
ENCORE
1~2.Iko Iko※4~ヨシ子さん
3~4.君をのせて※5~悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
5.明日晴れるかな
※1 ティン・パン・アレー(カバー) / AL「キャラメル・ママ」(1975.11)
※2 浅川マキ(カバー) / SG「夜が明けたら/かもめ」(1969.07)
※3 加藤登紀子&長谷川きよし(カバー) / SG「灰色の瞳」(1974.03)
※4 ドクター・ジョン(カバー)/AL「ガンボ」(1972.04)
※5 沢田研二(カバー)/SG「君をのせて」(1971.11)
配信情報
2021年3月7日(日)19:00~
【見逃し配信期間】2021年3月14日(日)23:59まで
会場:Blue Note Tokyo(東京)
チケット情報:料金 4,500円(税込)
※配信メディアによって異なる手数料がかかる場合がございます。
※収益の一部は「Music Cross Aid ライブエンタメ従事者支援基金」を通じて、ライブエンタメ業界のために役立てていただく予定です。
公演詳細・チケット購入
特設サイト https://sp.southernallstars.jp/kkbluenote/
公演オフィシャルグッズ予約販売中
https://www.asmart.jp/kkbluenote
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