【インタビュー】松室政哉、音楽による短編映画集“封切り”
■どの距離感で見るか?
──いちいち、腑に落ちますね。これ以上解説してもらうと、これから聴く人に悪いかな?と思うくらい(笑)。そして5曲目の壮大なバラード「Eternal」が来る。これはつまり、ストーリーのエンディングですか。
松室:まさにそうです。これがクライマックスです。この二人は、別れて、違う方向に歩いて行きます。別れたという事実だけを見ると、バッドエンドになるかもしれないけど、それって結局、どこから見るか?だと思うんですよ。チャップリンが、「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ」と言ったのと一緒で、どの距離感で見るか?が大事で、それがカメラの位置だと思うんですよ。この二人が別れていった、その先を想像すれば、僕はハッピーエンドになると思ってます。それが、僕の好きな恋愛映画でもあるんですね。別れたとしても、主人公たちの人生はここから続いていくわけだし、それをハッピーエンドかバッドエンドか決めるのは、おこがましいと思うし、別れたという事実を踏まえて、その先が見えるような曲にしたいなと思いましたね。
──これは美しいシーンですよね。明治神宮の、絵画館の前の長い銀杏並木とか、ああいう景色が浮かんだりします。具体的に、浮かんでいるシーンはあったりします?
松室:あんまり実在の場所は、頭の中には出て来ないです。ただ、二人が歩いている感じとか、その時の空の色とか、気温とかは、確実に頭の中にありますね。
──でも、今言われて気づいたんですけど、それを特定する言葉は、あえて使ってないですよね。「まだ肌寒い朝」という表現で、季節感がわかるだけで、それ以上は詳しく描写しない。
松室:それを出すと、逆に映像の広がりがなくなると思うんですよ。もしもこの曲を聴いて、雪が降っているところを思い浮かべてくれたのであれば、それは一つの映像だし、人によって違っていいと思います。
──そして、ラスト曲「Touch」は、エンドロールに流れる曲、ということになりますか。
松室:まさに、そのイメージでした。「Eternal」で映画が終わって、“THE END”の文字が出て、エンドロールが流れる中で「Touch」がかかっている。「Touch」という言葉は、それが恋愛であろうが、友情であろうが、家族愛であろうが、すべてを包括している言葉だと思うんですね。僕らは、触れ合うことができるから、誰かを愛することができるし、分かち合うことができる。でも、触れることができるからこそ、傷つけてしまうこともあるし、触れることができるからこそ、それを許すこともできる。そういうことが、コロナで一気に遮断されたというのは、一つの大きなテーマだったし、それはミュージシャンだけじゃなく、すべての人が肌で感じているところだと思うんですね。それが今回のテーマで、最後にできたのがこの曲だった。この歌詞は、今回の映画(楽曲)の中で、一番抽象的な言葉を使っているんですよ。すべてのことに当てはまるものだからこそ、一本の映画を見終えた時に、見た人がどういう気持ちになったとしても、当てはまるような曲になればいいなと思ってましたね。
──本当によくできた、いい映画(アルバム)だと思います。今は、なかなか、アルバム単位で聴く人も少なくなってきていますけども。
松室:そうなんですよね。
──でも、これは1枚通して聴いてもらわないと始まらない。
松室:今は1曲1曲で聴かれる時代だし、僕だってそうすることがありますし。聴いてもらえることは、作ってる側からすると、一番ありがたいことなので、そこに抵抗はあまりないです。ただ、今回はこういうコンセプトでミニアルバムを作ったので、「もし全部聴いていただけるのなら、順番に聴いてね」というぐらいです。「今回僕はこういう思いで『Touch』というアルバムを作りました」というものはありますけど、作り手がそれを押し付けるのは気持ち悪いと、僕は思っているので。聴く人がそれぞれの場所で、それぞれの思いを重ね合わせながら聴いてもらうのが、今の音楽の聴き方だと思います。だからこそ、どういう聴かれ方をされても、満足してもらえるものを、作っておかなければいけないと思ってますね。
──そして、これ「Vol.1」ですよね。いつか、続編があるかもしれない。
松室:「Vol.1」と言ったからには、「Vol.2」も考えていかないといけないですね。いろんなことができると思いますし、ここからまた広がっていくものになっていくかな、と思います。
──あと、これって、DVDが付いてるんですか。これは初回特典とかじゃなく?
松室:そうです。買ったら、絶対に付いてきます(笑)。
──それで2800円。いいんですか、こんなことしちゃって。
松室:いいみたいです(笑)。去年やった、デビュー記念日の配信ライブが、全曲入ってます。ストリングスカルテットと、ドラムとベースと僕とで、ちょっとシックな感じでやってます。見どころは、僕が頑張って、グランドピアノを弾きながら歌ってるところですね。あとは、ストリングスとか、このライブ用にアレンジしてもらっているので、曲を知っている人は新鮮に感じてもらえると思うし、『Touch』で初めて松室政哉を聴いてくれた人には、「こういう曲もあるんだ」ということが、わかってもらえるセットリストになっていると思うので。楽しんでもらえると思います。
──今日はいろいろ、腑に落ちることが多かったです。素晴らしい作品だと思います。最後に、せっかくなので、松室さんの人生のベストスリー映画を、教えてもらっていいですか?
松室:えーっと、僕の1位は、実は、『A.I.』なんです。監督がスピルバーグで、脚本は、もともとキューブリックが書いていたものを、スピルバーグが跡を継いだんですけど、あれが今までの1位ですね。あとは…いっぱいあるんですけど、ランダムに言うと、『殺人の追憶』かな。『パラサイト』を撮ったポン・ジュノ監督の、2003年ぐらいの映画です。僕は映画が好きなあまり、TSUTAYAでバイトしていて、その時の店長に、「おまえ、映画好きと言ってるのにこれ見てないのか?」と言われて、見て、衝撃を受けました。未だに僕の中では、映画史に残るラストシーンです。あとは、『トイ・ストーリー3』かな。あれは全世代型映画の、最高峰だと思います。誰が見ても感動できる、ポップスだと思います。今浮かんだ三つは、それですね。
取材・文◎宮本英夫
撮影◎野村雄治
▲松室政哉/『Touch』
Concept Mini Album『Touch』
¥2,800(税抜)/UMCA-10081/CD+DVD
[CD]
1.ai
2.hanbunko
3.PUZZLE
4.Cube
5.Eternal
6.Touch
[DVD]
Matsumuro Seiya Anniversary Live 2020 “with Quartetto” Online 2020.11.1 東京・STUDIO E-RA
・今夜もHi-Fi
・Fade out
・海月
・どんな名前つけよう
・hanbunko
・ラブソング。
・マーマレードジャム
・主題歌
・Hello innocence
・ハジマリノ鐘
・毎秒、君に恋してる
・今夜もHi-Fi
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