【ライブレポート】ザ・クロマニヨンズ、何もかもが変わってしまった世界の中で、全く変わらぬ美しさ
ザ・クロマニヨンズが、2月20日(土)東京・東京ガーデンシアターで有観客・生配信ライブ<ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021>を開催した。彼らが観客の前で演奏するのは、2020年2月以来約1年ぶり。最新アルバム『MUD SHAKES』を中心としたライブで4人は、日本最強のロックンロールバンドとしての存在感を改めて見せつけた。
新型コロナウィルスの影響で停滞を余儀なくされた2020年の音楽シーン。未曾有の事態のなかでザ・クロマニヨンズは、6年ぶりのライブアルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020』、19thシングル「暴動チャイル(BO CHILE)」、そして14thアルバム『MUD SHAKES』をリリースするなど、精力的な活動を続けてきた。さらに2020年12月には、初の配信ライブ<ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 全曲配信ライブ>を開催。この日行われた<ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021>は、まさにファン待望…いや、すべてのロックファンが待ち望んでいたライブだと言っていいだろう。
東京ガーデンシアターの場内に入ると、サム・クックの歌声が聴こえてきた。開演前のBGMはジョー・ターナー、オーティス・レディング、ドクター・フィールグッドなど。観客はマスク着用が義務付けられ、大きな歓声は禁止。観客同士の距離もあけられるなど、今や見慣れてしまった光景だが「この状況であっても、クロマニヨンズはすごいものを見せてくれるはずだ」という期待がどうしても膨らんでしまう。
いつものように、定刻通りに前説の男性が登場。「未曾有の脅威と戦う現代社会。そんな人類を誘う一筋の光。“MUD SHAKES”の扉が今、開かれるぞ!」と叫ぶと観客は拍手で反応。「ロックンロールの用意はできましたか!?」という声とともに甲本ヒロト、真島昌利、小林勝、桐田勝治が姿を見せると、さらに大きな拍手が沸き起こった。
オープニングはニューアルバム『MUD SHAKES』の1曲目「VIVA! 自由!!」。ヒロトの「オーライ、ロックンロール!」というシャウト、マーシーのギターフレーズに導かれ、生々しいグルーヴが爆音で放たれる。「自由は最高」というコーラスに呼応し、観客は手を挙げ身体を揺らしている。さらに「よく来てくれた!最後まで楽しんでいってくれよ!」(甲本)という言葉とともに、ブルースハープとジャングルビートが炸裂する「暴動チャイル(BO CHILE)」、軽快なビートとノスタルジックな歌がぶつかり合う「浅葱色」、「ロック ロック オオカミロック!」と(心のなかで)シンガロングした「新オオカミロック」、労働に明け暮れる人々を鼓舞するロックンロール「カーセイダーZ」とアルバムの曲順通りに進行。約1年ぶりのステージであり『MUD SHAKES』の楽曲を演奏するのは2度目だが、まるで何10本もツアーを回ってきたかのような完璧な仕上がりだ。
6曲目の「ドンパンロック」でアルバム『MUD SHAKES』の“A面”は終了。鳴り止まない拍手に対し、甲本は「手が疲れるだろ」と笑顔で応える。
「精一杯楽しんでいってくれ。みんなは疲れなくていいから。俺たちがヘトヘトになるくらいやるから、みんな楽しんで、ホントに」「配信でいろんなところから観てくれてる人がいます。ここに来てるのがバレたらまずいなって人、いるかもしれないから、薄暗くしておききます」(甲本)という言葉の後は、「アルバム以外の曲をやります」と「クレーンゲーム」「生きる」「ペテン師ロック」を連発。オーディエンスはさらに激しく踊りまくり、両腕を突き上げながら盛り上がる。特に「生きる」の「見えるものだけ それさえあれば/たどり着けない答えは ないぜ」という歌詞にはグッと来てしまった。2018年のアルバム「レインボーサンダー」の収録曲だが、先が見えない現状のなかでは、まったく違う意味を帯びてくる。甲本ヒロトの歌はやはり、未来を照らすのだ…ステージで激しく動き回る彼の姿を観ながら、そんなことを考えてしまう。
演奏、パフォーマンスも文句なく素晴らしい。
小林、桐田による体幹の強いビート…強さと速さを兼ね備え、まったくブレることがない…そして、切れ味と叙情性を同時に響かせるようなマーシーのギター。どんなに激しく叫んでも、絶対的に“歌”であり続け、すべての歌詞がはっきりと聴こえるヒロトのボーカルの凄さは言うに及ばず。ザ・クロマニヨンズが唯一無二にして最強のロックンロールバンドであることは、この日のステージからもダイレクトに伝わってきた。
「このツアー、今日が初日です。もしかしたら最終日かもしれない。なかなか貴重なところに一緒にいてくれてありがとう」(甲本)という感謝の言葉を挟み、再び『MUD SHAKES』の楽曲へ。“B面”1曲目の「妖怪山エレキ」は、モータウン風のビートとドウワップのようなコーラスが楽しいナンバー。そして「メタリックサマー」は鋭利なギターリフと突進するビート、夏休みの思い出を映し出す歌詞が炸裂するアッパーチューン。アルバム『MUD SHAKES』の素晴らしさを改めて体感できるシーンが続く。
「ここからテンポは少しだけ、数字のうえでは落ちるのですが、世の中すべて数字で測れるわけではありません。ロックンロール爆裂させていこうと思います。それはこちらの都合ですけど(笑)」(甲本)と披露されたのは、オーセンティックなブルースを基調にした「空き家」、ポップで素朴なメロディ、新人さんを応援する歌詞、メロウなギターソロが響き渡った「新人」、そして「いつでもひなたの文房具」から始まる歌が郷愁を誘う「ふみきりうどん」。楽曲で描かれる光景を共有することで、ライブの一体感が生まれる。これもまた、ザ・クロマニヨンズのライブの魅力だろう。
「『MUD SHAKES』の曲はあと1曲になりました。いいアルバムだなー! 最後の1曲はもうちょっと後に取っておいて、パーッと盛り上がろう!」(甲本)という言葉に導かれた「東京ブギズキ」からライブは一気に加速。鮮烈なエイトビートともともにロックンロールという宝物への思いを爆発させる「エルビス(仮)」。「どん底だから あがるだけ」というフレーズに胸が熱くなる「どん底」、「永遠です」と連呼するパンクロック「突撃ロック」、野性味あふれるコーラスによって理性を吹っ飛ばした「タリホー」とアンセムを続けざまに放ち、オーディエンスの興奮を引き出してみせる。声こそ出せないものの、激しく腰を振り、拳を突き上げる光景は、まるで世界が元の姿に戻ったようだった。
アルバム『MUD SHAKES』最後の曲「かまわないでくださいブルース」でライブ本編は終了。鳴り止まない拍手のなか、甲本は「1回引っ込もうかと思ったんだけど、めんどくせえよな。オマケやります! 今年最初のライブ、とっても楽しかった! 聴いてくれ!」と「エイトビート」「ギリギリガガンガン」、そして「やる事はわかってる 立ち上がる 立ち上がる」という歌詞が胸に突き刺さり、鼓舞される「ナンバーワン野郎!」という必殺の3曲を披露。凄まじいスピード感、琴線に触れまくる歌、熱気を帯びた爆音。これぞザ・クロマニヨンズ!と快哉を叫びたくなる素晴らしい光景だった。
「ありがとう!楽しかった!またやりたい!またやらせてください!ロックロール!」(甲本)、「またね」(真島)と4人がステージを去った後も、拍手は長く長く続いた。その音からは、この最高の気分を少しでも長く味わっていたいという思いが強く伝わってきた。
いつも通り、極上のロックンロールをぶちかましまくったザ・クロマニヨンズ。何もかもが変わってしまった世界のなかで、まったく変わらない姿勢を貫く彼らの美しさ、尊さをダイレクトに体感できた、“最高”としか言いようがないライブだった。
撮影◎柴田恵理
文◎森 朋之
ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021
1.VIVA! 自由!!
2.暴動チャイル(BO CHILE)
3.浅葱色
4.新オオカミロック
5.カーセイダーZ
6.ドンパンロック
7.クレーンゲーム
8.生きる
9.ペテン師ロック
10.妖怪山エレキ
11.メタリックサマー
12.空き家
13.新人
14.ふみきりうどん
15.東京ブキズキ
16.エルビス(仮)
17.どん底
18.突撃ロック
19.タリホー
20.かまわないでくださいブルース
21.エイトビート
22.ギリギリガガンガン
23.ナンバーワン野郎!
◆ザ・クロマニヨンズ・オフィシャルサイト
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