【ライブレポート】藤川千愛、部屋から部屋へ届ける配信限定ライブ
藤川千愛が2月21日に配信ライブ<音楽の窓>を開催した。
◆ライブ写真
同公演は<藤川千愛 Zepp Tour>を補填するために開催されたもの。当日のライブレポートをお届けする。
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藤川千愛が2月21日に配信ライブ<音楽の窓>を行った。この公演は新型コロナウイルスの影響で延期となっている<藤川千愛 Zepp Tour>を補填する公演として行われたもの。前半部はYouTubeでの無料配信も行われ、国内外のオーディエンスがライブを視聴。本編で藤川千愛は全16曲をパフォーマンス。アンコールでは小沢健二や椎名林檎からあいみょん、藤井風らの楽曲を繋げた弾き語りメドレーも披露し、Twitterでは藤川千愛の名がトレンドワード入りする盛況を見せた。
配信スタートと共に映し出されたのは、アンティーク調のラグとソファが置かれたリビングルームのようなセット。オープニングチューン「誰も知らない」のディスコティックなイントロに導かれ、カメラはソファに身を預けたリラックスした様子の藤川にクローズアップ。まるでミュージックビデオが生中継されているかのような真新しい映像体験の中、藤川はソファにもたれたまま、くつろぐその様子とは裏腹の伸びやかでグルーヴ感のあるヴォーカルを響かせる。
続く2曲目も16ビートのシティポップ、「ライカ」。ここでもソファを舞台に歌い上げる藤川の姿には、彼女の自室からオーディエンスのリビングに届けるようなパーソナルなムードが漂う。奇しくも昨今のライブシーンの主流となっている配信形態のライブ。そこに対しての藤川の解釈を感じさせるライブの幕開けとなった。3曲目はヘヴィロックの肌触りを持った「四畳半戦争」。ラウドさを増したバンドサウンドに乗り、太さを増した歌声で彼女はライブのギアを上げた。
冒頭3曲を終えて初めてのMC、藤川は海外のオーディエンスに向けて日本語と英語であいさつ。ライブハウスではなくスタジオからの配信となったこの夜のライブについて、「画面が窓、私の心の音楽の部屋をみんなに覗いてもらうというのがコンセプト。普段見せない表情や乗りを見せていけたら」とライブの趣旨を語り、“男性はその歌詞に衝撃を受ける”とネットでも騒がれた「私に似ていない彼女」へ。女性の本音を丸裸に語るセンセーショナルな歌詞を、語りと歌を絡めたスリリングなヴォーカルワークで聴かせていく。
続けて披露されたのは3rdアルバムに収録された銀杏BOYZのカバー「援助交際」。ここまでのハンドマイクからギブソン・レスポールを持ったスタイルにチェンジし、本人のルーツであるロックへの敬愛をピュアに表現。MCでは同じ別れをテーマにしながら、「私に似ていない彼女」は女性目線から見た男性への、「援助交際」は男性から見た女性への思いを歌った楽曲であることを語る。
グルーヴィなシティポップスタイル、ギターを抱えたロックスタイルと2つの表情を見せてきた藤川だったが、ライブ中盤、アニメ『盾の勇者の成り上がり』エンディングテーマとなった「きみの名前」では歌姫と形容すべき堂々たるヴォーカルを披露。延期となったZeppツアーの振替日程を告知するMCを挟みながら、ライブ初披露の「Nightmare」ではミステリアスなポップ、「神頼み」ではジャズとヘヴィロックのクロスオーバーと藤川独自のサウンドを畳みかける。バーレスク調のジャズチューン「おまじない」ではソファを効果的に使ったミュージカルのような演劇的なパフォーマンスを繰り広げ、演者としての幅やポテンシャルをオーディエンスの前に刻んでいく。
ライブ後半を前にしたMCでは、ツアー延期により空白となった期間をテレビゲーム『桃太郎電鉄』をして過ごしていたという話題に。「私はよく言えば感受性が強い、悪く言えば単なるお子様といいますか、とにかく負けず嫌い」と自分のことを語った彼女は、ゲーム内でキングボンビーにこてんぱんにされて、涙が止まらなくなったことを告白。さらには悔しい思いのまま眠ったところ、夢の中までキングボンビーが登場。自分のライブをめちゃくちゃにするキングボンビーとの殴り合いとなり、最終的に打ち勝ったことを打ち明け、「こんなにもゲームで大泣きしたり乱高下するやつがゲーム実況やったら絶対おもしろいんじゃないか」とプライベートで抱いた思いを語って会場内外を和ませた。
いよいよライブ終盤、「記憶」「ありのままで」「喜怒哀楽の最初と最後」と3rdアルバム『HiKiKoMoRi』収録の3曲を連続してパフォーマンス。デビュー以来、毒のある歌詞とヘヴィなサウンドが藤川のシンガーとしての個性だったが、この3曲はいずれもポジティブなメッセージを持ったミディアムチューン。これまでライブ終盤では闘争心や変化への意志を歌うことの多かった彼女の、新たな展開を予感させるセットリストとなった。
そして本編ラストに披露されたのは、かつて岡山県の工場に勤務しながら歌手を夢見た彼女の自伝的な楽曲「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」。ソファに腰かけてまっすぐにカメラを、そしてオーディエンスを見据えて歌い上げる藤川。これまで何度も歌われてきた同曲だが、この夜、彼女の歌声にはかつてないポジティブな響きが、目の前の困難を一緒になって超えていこうと訴えるような響きが含まれているように思われた。ここまで全16曲、多彩な楽曲とパフォーマンスを見せた藤川はこの夜の彼女のステージとなったソファにかけたまま、オーディエンスに笑顔を見せて手を振りながら本編を終えた。
アンコールでは本編終了時と同じくソファに腰かけたまま再登場した藤川だったが、その手にはギブソン・ハミングバードが。「今日はギターが違うんです。いつものギターはメンテナンスに出していて、同じハミングバードでも今日は赤のヴィンテージチェリーサンバースト。でも今日もこのギターともお別れ」と名残惜しそうに語ると、披露されたのは合計9曲を3分の中で弾き語る驚きのメドレーだった。
小沢健二のカバーとなる「今夜はブギー・バック」を歌い始めたかと思うと、すぐにメロディは米津玄師「Flamingo」へ。その後も藤井風、あいみょん、Vaundy、くるり、てにをはらの楽曲を同一のコード進行に乗せて一節ごとに歌い上げる大芸当。最後に敬愛する椎名林檎の「丸の内サディスティック」から、自身の「東京」へと歌い繋いだところでバックバンドがジョイン。ライブ冒頭のムードに通じるリラックスしたグルーヴに包まれてこの夜のライブは幕を閉じた。
配信限定、スタジオ収録といった自身にとって初となるライブ形態となった今回。まるでオンラインで友人と杯を交わしているかのようなリラックスしたムードの中、藤川千愛はこの時代におけるアーティストとオーディエンスの在り方を一つの形として提示したかのように見えた。3月からは延期されていた自身初のZeppツアーを再開する藤川。この夜を経てライブハウスに集ったオーディエンスと彼女が次はどんな空間を作り上げるのか、セットリストと共にその光景にも期待の高まるライブだった。
■<音楽の窓>
【セットリスト】
1.誰も知らない
2.ライカ
3.四畳半戦争
4.私に似ていない彼女
5.援助交際
6.愛はヘッドフォンから
7.きみの名前
8.リフレイン
9.ワレモノ注意
10.Nightmare
11.神頼み
12.おまじない
13.記憶
14.ありのままで
15.喜怒哀楽の最初と最後
16.夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして
EN1.弾き語りメドレー※
EN2.東京
※小沢健二『今夜はブギー・バック』~米津玄師『Flamingo』~藤井風『何なんw』~あいみょん『愛を伝えたいだとか』~Vaundy『不可幸力』~くるり『琥珀色の街、上海蟹の朝』~てにをは『ヴィラン』~椎名林檎『丸の内サディスティック』~藤川千愛『東京』
■ライブ情報
2021年3月21日(日)大阪・Zepp Osaka Bayside
・先行販売(抽選):2021年2月21日(日)22:00~3月3日(水)23:59
https://l-tike.com/fujikawachiai-zepptour-hp/
・一般販売:2021年3月6日(土)12:00~
<Zepp Tour 2020-2021『HiKiKoMoRi』>福岡振替公演
2021年4月29日(木・祝)福岡・Zepp Fukuoka
◆藤川千愛 オフィシャルサイト
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