【コラム】2021年に大きく羽ばたく、遥海の飛躍

遥海というボーカリストをご存じだろうか。2020年5月、シングル「Pride」でメジャーデビューを果たした、ピカピカの新人。と思わせて、実はデビュー前からテレビのオーディション番組などでその名を知られた、本物の実力派。2013年、高校生でエントリーした「X FACTOR JAPAN OKINAWA」を皮切りに、「第5回全日本歌唱力選手権 歌唱王」「Theモーツァルト 音楽王No.1決定戦」出演など、大舞台を踏んだ経験は数知れず。2018年4月には、クラウドファンディングにてZepp Divercity Tokyoでのライブを支援するプログラム「Road to Zepp」の第一弾アーティストに選ばれ、見事に目標額を達成して満員の観客の前でパフォーマンスを披露した。SNSでの情報発信とライブを中心とする正統派な活動が、若い音楽リスナーから大きな支持を得ている、次世代ブレイク候補の呼び声高い逸材だ。

彼女はフィリピン生まれ、3歳でゴスペルクワイヤに参加した早熟型で、アメリカのブラックミュージックやポップスを吸収しながらすくすく成長。13歳で日本に移住してからは、宇多田ヒカルや青山テルマなど洋楽テイストのJ-POPに親しみ、英語と日本語を駆使して歌心を伝える、スケールの大きなアーティストへと飛躍。2020年秋には、ブロードウェイ発の人気ミュージカル『RENT』の日本版公演に重要なキャストの一人として参加するなど、すでに新人とは呼べない堂々たる活躍ぶりを見せている。それだけで1本の映画ができそうな彼女のライフストーリーと、最新作『INSPIRED EP』のレコーディングエピソードが、公開中の「遥海Special Story“PROMISE”」で彼女自身の口から語られているので、ぜひチェックしてほしい。明るい笑顔と陽性な人間力、ポジティブ思考に裏付けられたメッセージ力、厳しい練習に支えられた圧倒的なボーカル力、そのパワーの源がわかる秀逸なドキュメンタリーだ。







その最新作『INSPIRED EP』（2月17日リリース）に収められたのは、オリジナル1曲+カバー4曲の計5曲。カバー曲の選曲は、遥海が小さな頃から慣れ親しみ、影響を受けてきたアーティストの代表曲ばかりで、一聴しただけで気合の入り方がハンパないことがすぐわかる。アリシア・キーズの「No One」は、軽快な16ビートに乗せたグルーヴチューンで、「これまでアップテンポは苦手だった」というウィークポイントを克服した充実の1曲。後半を飾るフェイクとコーラスの、天真爛漫な伸びやかさが特に聴きどころだ。キーシャ・コール「LOVE」は、ゴスペル風味の香るハートウォームなR&Bチューンで、心地よさ満開の自然体ボーカルがじんわりと胸に沁みる。切ない歌詞なのに暗くならず、元気をもらえる気がするのは、遥海の声にあらかじめ含まれている、陽性なポジティブ成分のおかげかもしれない。

リアーナのNo.1ヒット「Take A Bow」も、ゴスペル風のフィンガークラップとピアノ、精密なビートを持つスローR&Bだが、なんといってもこの曲の聴きどころはコーラスだ。七声のコーラスを遥海が一人で歌いこなす「一人ゴスペルクワイア」の完成度の高さからは、彼女の中に蓄えられた分厚い音楽ルーツが聴こえてくる。そしてプッシーキャット・ドールズのヒットバラード、シンプルなアコースティックタイプのR&Bチューン「Sticwitu」は、ほかのどの曲よりもアダルトで包容力あるボーカルが聴ける、これからの遥海を先取りしたような1曲。パワフルな曲はとことんパワフルに、優しい曲はどこまでも優しく。無理なく歌いこなす遥海の表現力の豊かさが、これほどにわかる曲はないだろう。

そんな4曲のカバーで体得した、様々な音楽的エッセンスを凝縮したのが、1曲目を飾るオリジナル曲「FLY」ということになる。遥海も作詞に参加したこの曲は、ゴスペル、ソウル、R&B、そしてJ-POPと、彼女のルーツをすべて詰め込んだような壮大なミドルバラード。“we can fly”と歌う、ラブソングでもライフソングでもあるまっすぐなメッセージが胸を打つ、熱情あふれる1曲だ。この曲があることで彼女の過去、現在、そして未来が一つにまとまる、『INSPIRED EP』はそんな作品に仕上がっている。


2月末に予定されていたリリースライブは、諸般の事情で残念ながら中止になってしまったが、『INSPIRED EP』で彼女が得たボーカリストとしての自信と、ゴスペルをベースとしたR&BとJ-POPという確かなスタンスは、これからも揺らぐことはないだろう。“INSPIRE”（インスパイア）という言葉には、“触発される”という意味に加えて“鼓舞する”“励ます”というニュアンスが強く含まれる。かつて遥海が多くの素晴らしい歌にインスパイアされたように、これからは彼女の歌がリスナーをインスパイアしていく番だ。2021年に大きく羽ばたく、遥海の飛躍を楽しみに見守りたい。

文◎宮本英夫



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