【インタビュー】Bitter Lake Recordings、米国レーベルが日本の1980年代インディーズバンドをディグる理由「宝石が隠れている」

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■日本の音楽は影響を受けた欧米の音楽への
■ラブレターでもあると思っています

「世にあまり知られていない、大好きな日本の音楽を再発し、欧米の人にも見つけてもらう」ことにかけるアダムの並々ならぬ情熱が窺えるが、彼がそもそも日本のアンダーグラウンドミュージックに興味を持ったきっかけは何だったんだろうか?

「私は12歳から欧米のパンクとハードコアが好きでしたので、その延長で10代後半からは日本のパンクとハードコアミュージックも聴いていました。ただ同時に幅広いジャンルの音楽に興味があったので、段々と日本のさまざまなアンダーグラウンドミュージックを探すようになり、日本のインディーズが大好きになりました。また音楽だけではなく、日本の映画やアニメにも大きな関心がありました。私は大学で映画学を専攻していました。松本俊夫の1969年の作品『薔薇の葬列』は大好きな映画の一つです。これらのおかげで (秘めたアニメ愛もです…笑)、日本音楽に徐々にインスピレーションを受けていったのだと思います!」──アダム・アブ・ヘイフ

▲C. Memi『Heavenly Peace』

▲DIASTEREOMER『Ignition Advancer』

日本のアンダーグラウンドミュージックの魅力は、「明白に日本の音楽だと言えることだ」とアダムは語る。

「それは日本語という言語だけの話ではなく、日本の音楽の雰囲気とフィーリングという面でもです。日本の音楽の欧米メディアの影響の受け方もとても興味深いです。日本のたくさんのバンドは、欧米の音楽を取り入れ、自己解釈し、日本特有のレンズで新たなものを作り上げてきました。この音楽は日本特別なものでありながら、影響を受けた欧米の音楽へのラブレターでもあると思っています。また日本の音楽ファンはとても情熱的で、アメリカのファンよりも強い思いがあると思うことが多々あります。これらが日本のアンダーグラウンドシーンを一層特別なものにしているのだと思います。
 またさらに、日本の過去のアンダーグラウンドミュージックは、欧米のものに比べると、隠れている宝石がまだたくさん埋まっています。全く新しいものなので、これがたくさんのファンに刺激を与えているのだと思います。今はYouTubeなどで公開されているものもありますが、全く自分が知らない日本の音楽に出会うことも度々あり、その時はとても幸せを感じます」──アダム・アブ・ヘイフ

▲共三党『Communist』

▲F.U.P.『Noise And Chaos』

それぞれに枚数を限定したリリースとは言え、ほとんどの作品がソールドアウトになっていることを考えると、熱心なファンがいることがわかる。BLRはこれまで前述したBandcamp以外の配信サービスは使わず、アナログ盤とカセットテープのみのリリースにこだわってきたが、ファンを増やすためにたとえば大手の定額制音楽配信サービスを使ってみようとは考えないのだろうか?

「否定しているわけではないのですが、今のところ自分のレーベルの音楽を大きな配信サービスでリリースする予定はありません」──その理由をアダムはこう語る。

「アンダーグラウンドミュージックのコミュニティと音楽シーンでは、レコードとカセットテープを筆頭とするフィジカルメディアによって音楽が発売されてきました。私自身、これらのリリース、そしてフォーマットの大ファンですので、この素晴らしい伝統を続けていきたいと思っています。まだそんなに私は歳を重ねていませんが、あまり配信サービスに関心はありません。もし自分が大きな配信サービスで音楽を聴くとしたら、わざわざアンダーグラウンドミュージックではなくマドンナを聴きます(笑)」──アダム・アブ・ヘイフ

つまりジャンルも含め、音楽の在り方や、その聴き方が多様化した現在、音楽にはそれぞれにふさわしいリリースフォーマットがあるということなのだろう。そこは何が何でもアナログ盤と頑なにこだわっているようではないようだ。今後、BLRの作品を、大手の定額制音楽配信サービスで音楽を聴くことがあたりまえになっている世代のリスナーに知ってもらいたいと考えたら、それを使う日も来るかもしれないが、今のところ、BLRのファンに音楽を届けるにはアナログ盤が一番合っているということなのだと思う。

▲Sacrifice『Total Steel』

▲GRAVE NEW WORLD『The Last Sanctuary』

ネットや人脈を駆使して、未知の音楽を日々、探しているBLRがこれからどんな宝石を掘り当てるのか楽しみだ。アダムによると、今年2021年はオークションサイトで、約4万円で落札された、あるバンドのシングルをはじめ、5作品をリリース予定だという。

ちなみに今回、リリースされる我々PIPYUの『PIPYU』はカセットテープの全9曲を収録したLPに1990年にレコーディングした未発表2曲を収録した7インチシングルが加えられている。カセットテープの9曲は初期~中期の音楽性の変化を物語るものだったと自分たちは考えていたが、そこにレーベル曰く「よりキャッチーでポップ志向のソングライティングを取り入れた」未発表2曲を加えたことで、後期も含め、我々のバンドの音楽性の変化がよりダイナミックに伝わるものになったことはとてもありがたい。

「Bitter Lake Recordingsでは、1980年代のカルトな日本のパンクのこのユニークな作品の待望のリイシューをお届けします」という惹句は、身に余る光栄でしかない。

取材・文◎山口智男

■PIPYU「S/T」

2020年11月20日リリース
BLR-019 / Limited Edition / Vinyl LP + 7”
01. Waltz (Intro.)
02. Let Me Kill
03. I Love Her
04. Hedonist
05. 墜落天使
06. その花は笑わない
07. コンビナート
08. Noise
09. 気狂いピエロ
10. 死角
11. Duet


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