【インタビュー】フラワーカンパニーズ、今を生きる「瞬間のリアル」
フラワーカンパニーズが18作目となるフルアルバム『36.2℃』をリリースする。タイトルが象徴しているように、本作の発端には新型コロナウイルスの影響によってライブ活動などを自粛せざるをえなかった2020年の社会情勢が強く関係している。
そもそもバンドとしては、今年はアルバムを作る予定ではなかったというが…なかなかどうして、この『36.2℃』は素晴らしい。自粛期間中に、鈴木圭介だけでなく、グレートマエカワや竹安堅一も曲作りを始めたことによって、制作開始段階でのデモの数は通常よりもはるかに多かったようだが、結果として、この『36.2℃』には選りすぐりの10曲が収められることになった。グルーヴィなロックンロール、詩情が映えるフォークロック、サイケデリックなジャム、そして、フラカン流パンク民謡…などなど、それぞれが際立った色彩を持った粒揃いの10曲。端的に言えば、いい曲が10曲並んだシンプルなアルバム。だがここに、フラカンが結成から31年という年輪の先に辿り着いたひとつの境地がある。
本作を作るうえで鈴木が意識したことのひとつに、「削る」という行為があったという。皮をめくり、肉をはぎ、骨になるまで、自分自身の内側から零れ落ちるメロディやメッセージを研ぎ澄ませること。心と身体が一致する状態を求めること。そういった制作過程が、本作の洗練されたフォルムに繋がっている。その濃密な歴史と、そのなかで育まれた数多のメロディやメッセージの中から選び取られた、この2020年に鳴らすべき音や言葉。その端々には、社会が、時代が滲む。そこから生まれる不安が、怒りが、瀬戸際の祈りが滲む。それでも最後に行きつく場所は、ここにしかない…「それでも、これは音楽である」と。歌だけが辿り着く場所があるのだと。結果として本作は、余計な説明を回避しながら、2020年という時代の空気、今を生きる自分たちの生…そうした「瞬間のリアル」を、見事に音楽アルバムとしてパッケージングすることに成功している。
前置きが長くなったが、本作『36.2℃』について語ってもらったメンバー全員インタビューをお送りする。
──新作『36.2℃』がリリースされますが、アルバムタイトルがまず、この2020年という時代を示唆的に表しているように思いました。ここに収められた10曲は、すべてコロナ禍以降に作られた曲なのでしょうか?
鈴木:そうだね。ただ、「こちら東京」のサビの2行だけは、もう10年くらい前からあったかな。
──「こちら東京 世田谷区 僕の声が聞こえるかい?/こちら午前1時5分 僕の声が聞こえるかい?」という部分ですね。
マエカワ:10年どころじゃなくて、14~5年前にはもうあったんじゃない?
鈴木:そうかも。元々、友部(正人)さんとツアーをやったときに、弾き語り用に作った歌だったんだよね。そのときの曲は1回、奥野(真哉)さんにレコーディングしてもらったんだけど、お蔵入りになっていたんだよね。今、こういう状況になって、いい機会だからサビだけ引っ張り出してきて、他の部分は歌詞もコードもまるっと変えて曲にしたんです。
──「こちら東京」こそ、歌詞的にも、自粛期間を受けて作られた曲なのかと思っていました。このサビの2ラインが何故、当時の鈴木さんから出てきたのか、覚えていますか?
鈴木:何故っていうか、こういう感じのことはいつも考えているから。今でもそう。今も世田谷に住んでいるし、ずっと夜型だし、夜中の1時~2時くらいに「みんな、なにやってるんだろうなあ」って考えてる。俺は酒も飲まないし、夜中に人に会ったりもしないから、考え事をするといつもこういう気持ちにはなるね。特に今年は、いつも以上にこういうことを考える時間が多かったなと思う。
──アルバムを作るモードになったのは、いつ頃だったのでしょう?
マエカワ:そもそも、ここ15年くらいオリジナルアルバムは2年に1枚くらいの周期で作ってきたから、それでいうと今年は作る予定ではなかった。でも、4~5月にライブができなくなり「6月からのツアーも無理かもしれない」という状況でなにもやることがなくなってしまって、「じゃあ、アルバムを作ろうか」と。4~5月くらいの時点で、スタジオにも入れないけど、一応それぞれが曲を作っておいて、スタジオに入れる状況になったら曲出しをしようっていう話はしていたんだよね。
──では、自粛期間中は、全員が曲のアイディアを練っていく期間だったんですね。
鈴木:今回はすごいよ。俺が作るのは当然だけど、このふたり(竹安とマエカワ)も作ってきてくれて。しかも、歌詞も一緒に。1回、リモート会議でそういう話もしたんだよね。「歌詞も書いてほしいし、書いた人が歌うのがいいから、歌ってくれ」って。結局、その曲は今回のアルバムには入れていないんだけど。
マエカワ:他のメンバーが歌詞も書いて、しかも、書いた人が歌う。こういうのって今までなかったことなんだけど、「それでいい曲ができれば、それも全部出しちゃえばいいんじゃないか」っていう話を鈴木がしたんだよね。2枚組にしてもいいし、大げさな言い方だけど、ザ・ビートルズの『ホワイト・アルバム(The Beatles)』みたいな感じにしちゃえばいい。それで、俺と竹安も曲を書き始めた。この31年間なかった新鮮な試みだったね。
──今回はマエカワさんがメインで作詞作曲した「燃えよフラワーカンパニーズ!」も、締め括りに収録されていますもんね。
マエカワ:自粛期間中、時間があったから親父の形見の尺八をいじってみたり、いろいろやっていたんだけど、今まで興味のなかったスラップベースの練習もしてみようと思って。そのなかで、曲はできたんだよね。まあ、3週間練習した程度のスラップベースは使いものにならず、結局、指弾きでやったんだけど(笑)。
──タイトルや歌詞は、バンドのテーマソングのようですよね。
マエカワ:結成30年も経って、こんなタイトルの曲を作ることなんてそうそうないと思うんだけど、ずーっと毎日のように会ってきたメンバーに会わなくなって、ずっとあったものがなくなって。そういう時間があったからこそ、できた曲だと思う。自粛が開けて、久しぶりに4人で揃ったのがV6に提供させてもらった曲(「夢のつづき」)をレコーディングしたときだったんだけど、そのあと、リハを再開する前に河原でアコースティックセッションをしたことがあって。そのとき、「やっぱり、この4人で揃うと空気が独特だな」と思ったんだよね。歌詞は、その感じを書こうと思って書いた。この曲は鈴木が歌ったほうがいいと思ったから、言葉尻は鈴木が歌いやすいように変えてもらっているけど、歌詞の中には、鈴木は普段書かないような言葉もあると思う。タイトルも、「鈴木は絶対に作らないだろうな」と思ったから、敢えてこういう感じにしたんだよね。
──この先、竹安さんや小西さんが詞曲、さらにはボーカルを担当する曲が出てくることもありえる、ということですよね。
鈴木:うん、ありえる。小西も、ギターは弾けるし歌も上手いし、曲作りはやろうと思えばできると思うし。
竹安:俺はこの自粛期間、最初はバンドに持っていくっていう感じでもなく、すごく個人的な癒しのために曲を作り始めたんだよね。それこそ夜中に、コード進行を思いつくままにスケッチしたりして、曲の断片を作っていくような感じで。いつもは圭くんにメロディをつけてもらうことが前提だけど、今回はそういうことも考えず、フラカンでは絶対に使えないであろうコード進行も、自分のためだけの音楽として録音したりしていて。そういうことをやったのは初めてかもしれない。
──そうして他のメンバーから生まれてきた音楽に触れて、鈴木さんはどんなことを感じられましたか?
鈴木:すごく嬉しかった。曲にはそれぞれのルーツも出てくるし、なにより、歌詞も書いてもらえたのがすごく嬉しくて。しかも、その歌詞の完成度がすごく高かったんだよね。俺が使えないような言葉も使っているし、言葉の使い方も上手いし、韻もちゃんと抑えていたりするし、勉強になった。それに、「へえ、こんなことを考えてるんだ」って、歌詞で本心を知るところもあって。照れくさいのもあって、普段はそんなに本心で話さないんだよ。どうでもいいテレビの話とか、感染者数の話とかはするけど。でも、歌になると本心が出てくる。それは、ドキッとするんだよね。やっぱり、歌ってその人の皮を1枚めくるようなものというか。その人の恥ずかしいところこそ、歌になるものだから。特に、夜中に書くとそうなる。
──なるほど。
鈴木:「このバンドは総力戦で闘える」と思ったね。俺が全部の曲や歌詞を書かなくてもいいんだって。そういうことがあって、『ホワイト・アルバム』みたいな感じでもいいんじゃないかと思ったんだよね。もちろん、この先も俺は曲を書いていくけど、それだけだとマンネリにも陥るわけで。ずっとこの4人でやってきて、なかなか新鮮な風が吹きづらいなと思っていたんだけど、今回はすごく刺激的だった。
マエカワ:この先、いろんなことが起こる可能性がある。結果として、この自粛期間は自分たちのできることの可能性が広がった感じもあったね。
──ただ、結果として本作は『ホワイト・アルバム』的なざっくばらんなアルバムにはならず、むしろ、スッキリとした10曲入りのアルバムに落とし込まれています。この形に行きついたのは、どのような経緯があったのでしょうか?
マエカワ:何作か連続で出してもいいなっていうくらい、曲はとにかくたくさんあったんだよね。ただその中で、鈴木が作った核となるような曲やみんなが「入れたい」といった曲を選んでいくうちに、結局、10曲にまとめることになって。ちゃんとした会議をしたというよりは、自ずとそうなっていった感じだったね。振り返ると、竹安や俺が歌う歌を入れるのは今回じゃないと最終的にジャッジしたのは、自分たちのライブが再開したことも大きかったかな。怒髪天と一緒に大阪でイベントをやったんだけど、やっぱりすごいんだよ。増子(直純)さんももちろんすごいけど、(上原子)友康さんも、シミさん(清水泰次)も、サカさん(坂詰克彦)も、それぞれが本当にプロなんだよね。
──本当に、バンド然としたバンドというか。
マエカワ:そう、俺たちもそのつもりでやってきたなって考えると、ここはやっぱり、エースである鈴木の曲をバンッと出したほうがいいんじゃないかと思った。あと、怒髪天との対バンのあとだけど、10月の終わりに、今回のアルバムに繋がる、今年作ったばかりの新曲だけをやる配信ライブをファンクラブ限定でやって。そこで俺と竹安も1曲ずつ歌ったんだよね。その曲ももちろんよかったんだけど、やっぱり鈴木が歌っとるバックで竹安が弾いているギター、鈴木が歌っとるバックで俺が弾いているベースやコーラスのほうが、かっこいいと俺は思ったんだよね。だから、「このタイミングは、ちゃんと今出すべき(出したい)曲に絞ってアルバムにしたほうがいいんじゃないか」っていうことを、俺からスタッフやメンバーにも話して、この形になったかな。
──全体を通して聴いた印象として、歌詞には今の時代感を反映しているものもありますけど、同時に、すごくあっけらかんとしたものを、このアルバムから感じたんです。ポジティブというのとはまた違うんですけど、余計なものがない状態で、すごく純粋に、音楽が音楽として鳴っているというか。
鈴木:ひとつ言えるのは、いろんな曲が数ある中から選ぶとなったときに、暗い曲はあんまり選ばないようにしたかな。こういうムードのときだから、なるべく明るめの曲を出したほうがいいよねっていうのは、なんとなくあった。俺自身、重い曲を歌える気分じゃなかったし、そういう曲を歌うと、自分が潰れる感じがしたし。「軽めにポロっと出しました」っていう感じのほうがいいなと思ったんだよね。そのほうが、自分でも聴けるなと思って。だから、例えば「深夜高速」とか「ハイエース」みたいなどっしりした曲はなくてもよくて。踏ん張って聴くアルバムというよりは、腰の位置は高く、ちょっとライトな感じでいい。そういうこともあって、今回、俺の個人的な目標として、「曲の長さを短くする」っていうのがあったんだよね。今までだったらもっと長い尺になっていた曲でも、とにかく削る。そもそも俺らって、1曲が4~5分あるものが多くて、ちょっと長いんだよね。
──そうですよね。
鈴木:それを今回は、「できれば3分以内に収めたい」ということを目標にしていて。今までだったらなんとなく入れていたイントロ2回回しとかも、「これ、いらないんじゃない?」って削ったし、歌詞も、だいぶ削った。今までは付け足す作業の方が多かったけど、今回は削る作業の方が多かったね。例えば1曲目の「揺れる火」なんかも、もっと歌詞は長かったんだけど、伏線とかも削って、骨だけにしちゃった感じ。「これだけを見て、みんなどう思うんだろう?」って、ちょっと心配になるくらいまで削ってる。
マエカワ:「削る」っていうのは、今回、鈴木はすごく意識していたよね。
鈴木:うん。今までだったら、メンバーも気を遣って、歌詞が乗っている部分は削らないようにしてくれていたんだけど、今回はもう、俺の方から先に「この歌詞、いらないわ」っていう感じだった。そういうこともあって、今回はなるべく曲出しの段階で、歌詞も全部できた状態でメンバーに聴かせているかな。今までだったら曲だけまずあって、歌詞はあとで付ける流れが多かったけど、その感じはやめて、なるべくメロディと歌詞を作る時間の距離を詰めたかった。なかなか難しいことではあるんだけど、できれば、メロディと歌詞が同時にできるのがいい。それが理想としてはあったかな。
──歌詞とメロディの誤差を減らすというのは、「心と体の一致を求める」ということですよね、きっと。
鈴木:そうそう。今までだったら、「サビに、この曲の言いたいことを短縮していれよう」みたいなことを考えていたけど、今回は考えなかった。「別に、言いたいことなんてなくてもいいしな」とも思ったし、「よくわかんないものでもいいか」って。
──「よくわかんないものでもいい」という、音楽にそういうものを求める感覚というのは、鈴木さんの中にずっとあったものだと思いますか?
鈴木:うん、根底にあったものではあるんだけど、今までは時間的な問題で、それができなかったんだよね。俺たちの場合、どうしてもアルバムはツアーの合間に作ることになるでしょ。そうすると、アレンジにかける時間はほしいから、先にコード進行とメロディだけ出して、歌詞は後から合間合間に書くことになる。そうなると、削ることに対しての勇気やエネルギーが出てこなくなるんだよ。「この歌詞、3日間かけて考えたんだよ?」みたいな感じで、過程ばかり気にしてしまう。でも、時間があると、「たしかに時間はかけたけど、たいしたことないや、削っちゃえ」っていう判断ができるようになるんだよね。
──先ほどマエカワさんが仰っていた、「10曲を選ぶときに核になった曲」というと、どの辺りの曲になりますか?
マエカワ:やっぱり、まずは「履歴書」かなあ。横アリでやった曲でもあるんだけど、この曲は歌詞もいいしね。あと、最初に話した「こちら東京」のサビのラインも、やっぱり強烈だと思うんだよね。14~5年前だと、いかにも当時の鈴木が言いそうなことだし、そのぶんメンバーの中では跳ねなかったのかもしれないけど、久しぶりにこの歌詞を聴くと、「この曲は入れないとな」っていうのはあったね。
竹安:「こちら東京」は本当に、14~5年前よりも響き方が変わったよね。このコロナ禍の状況にリンクしたというか。僕自身、「みんな、なにしてるんだろうなあ」って、夜中にひとりで空を見上げることも多かったし、孤独を感じることもあった。そういう時期が長かったぶん、ギターを入れるときも、あのときの空気感がすごくイメージしやすかった。
マエカワ:だから、核となると「履歴書」と「こちら東京」、この2曲かなあ。あと、「A-HA-HA」なんかは、普段だったらたぶんアルバムには入れていない曲なんだよね。自分たちの雰囲気でジャムって、「これいいねえ」なんて言っているけど、聴く人からすると渋いだろうなあっていう。
鈴木:これは、渋すぎるよ(笑)。「いまどき、こんな曲をやって大丈夫かな?」というのもあったんだけど。
──「A-HA-HA」、僕はすごく好きな曲で。この曲は、ライブでのフラカンの姿に近いというか、後半のジャムセッション的になっていく部分も、「演奏するの、すげえ楽しそうだな」と思いました。
マエカワ:「A-HA-HA」は、ほぼ1発録りなんだよね。
竹安:録る前は、「上手くいかなければ後から編集すればいいや」っていう感じで「せーの」で録ったんだけど、結局、一筆書きみたいにそのままいけて。聴いている人はどう受け取るかわからないけど、すごく達成感があったよね。
小西:決めごともほとんどなく、みんなが研ぎ澄まされた空気感で録れたんですよね。やっぱり、サッとできた曲って、それなりの理由があるというか。こういう曲は、ちゃんとメインに残ってくるんだなと思いました。もし、やり直しをしていたら別のものになっていたと思いますね。
マエカワ:そうだね。俺たちの曲作りって、いつもだったら、ポップにするためにあとから曲の構成を変えたりするんだけど、「A-HA-HA」に関しては、最初にできたときと構成をほとんど変えていない。自分たちがかっこいいと思う、そのままの感じで出している。鈴木の頭の中にあった形、ほとんどそのままっていう感じ。こういうのをそのまま出したとき、リスナーはどんな反応をするのか知りたいっていうのもあったんだよね。だから「A-HA-HA」も、もしかしたらこのアルバムのキーになる曲になっているのかもしれないね。
──横浜アリーナでの配信ライブでも披露された「履歴書」は、どのようにして生まれたのでしょうか? 今の状況を反映したうえで新曲を出すとなったとき、例えば政治的なことや、音楽家としての心情など、ミュージシャンによって表現することは様々だったと思うんです。その中で、フラカンが鳴らしたのは、この曲だったんですよね。
鈴木:すごく個人的なことなんだけど、一緒に暮らしていないんだけど俺には息子がいて、その息子が今年、二十歳になったんだよ。その息子に向けて書いた曲なんだよね。二十歳になって東京の方に出てきて、せっかく大学生になったのに、この状況で大学に全然行けていないっていう話も聞いていて。だから、この曲に関しては聴いてほしい対象がちゃんといたんだよね。まだ聴かせていないけど。
──横アリのMCでも、「自分のことばかり歌ってきた自分ですけれども、僕ももう51歳になったし、若い世代に向けて親目線というか、先輩面して作った歌です」という言葉のあとに、「履歴書」は演奏されていました。
鈴木:あと、直接は息子に向けて作ったんだけど、それと同時に、息子と同じくらいの年齢の人たちに向けて作った感覚もあって。自分らがバンドをやっていて、「コロナでライブができなくなった、どうしよう」みたいなことはあるけど、そんなことよりも、若い人たちのほうがもっと辛いんじゃないかと思ったんだよね。自分が18~19歳の頃なんて一番遊びたかった頃だけど、そんなときに「遊びに行っちゃいけません」なんて言われたら、相当辛いだろうなって。もちろん俺はもう若者じゃないし、今の若者が本当にどう思っているのかはわからないけど、彼らに気持ちを近づけようとしたというか、理解しようとしたというか。
──鈴木さんにとってそれは、かなりイレギュラーなことでもあるんですよね。
鈴木:うん、こういうことって、普段はないんだよ。俺は、基本的にはずっと自分と同世代の人たちに向けて歌ってきたから。そうじゃないと、俺は気持ちがわからないんだよね。60歳くらいの人の気持ちもわからないし、30歳くらいの人の気持ちもわからない。俺は今51歳で、唯一わかるのは自分と同世代くらいの人の気持ちだけ。それなら、その人たちに向けて歌いたいなと思って歌ってきたんだけど、もう51歳にもなって、いつまでも「寂しい」だの「悲しい」だの「嬉しい」だの、日々の個人的なことばかり歌っているのも、どうなんだろう? っていう……。そういう気持ちはこれまで、歌いながらも半分くらいずっとあったんだよね。ずっと迷いながらやってきたんだけど、50歳つったら、結構な歳じゃない? もう立派な中年のベテランだよ。
──そうですよね。見上げられる立場というか。
鈴木:だったら、若い人に向けてのメッセージが歌の中にあってもいいんじゃないのかなって。俺は、あんまりそういうのは好きじゃないんだけどね。若い人にメッセージなんて言いたくない。そんなに誇れるような生き方なんてしていないし、若い人には、俺みたいな生き方は絶対にしてほしくないなって思うし。だからMCでも、そういうことは一切言いたくなかった。でも、そんな気持ちがあるなかで唯一、「履歴書」は胸を張って作った曲かな。この曲は、作るのに全然時間がかからなかった。対象がはっきりしているし、言いたいことがちゃんとあったから。
──皆さんは、鈴木さんから「履歴書」が出てきたとき、どのように受け止めましたか?
マエカワ:もちろん、一聴して誰に向けて歌われているのかはわかったけど、もっと大きく、若い世代全員に響くことを歌ってくれたなと俺は思った。鈴木がこういうメッセージを歌うことがいいと思ってきたわけではないし、もちろんこっちからリクエストしたわけでもなかったから、「履歴書」は俺としても「鈴木、こういう歌を歌うんだ」ってビックリもしたけど、「よくぞ歌ってくれた」とも思ったね。
小西:僕も驚いたんですけど、横アリのあと、YouTubeかなにかを見ていたら、もうこの曲を弾き語りで演奏している方がいたんですよね。1度、配信ライブでやっただけで、まだ音源もなにも出していない曲に対して、ギターのコードを探し、歌詞も一生懸命覚えたんだと思うと、その反応の速さだけで、「これって、すごくいい歌なんだ」と改めて思いました。感動しましたね。
竹安:俺は、最初に圭くんからこの曲が出てきたとき、清々しい風のような曲だなと思って。俺らには珍しく歌詞に「オートバイク」なんて出てくるし、地平線が見えるような、視野の開けたものを感じたんだよね。だから、サウンドもなるべくドライにしたいなと思って。
マエカワ:この曲も、「A-HA-HA」と一緒で、構成は鈴木から出てきた状態のものとほとんど変えていないんだよね。
竹安:そうだよね。俺は勝手に、(ブルース・)スプリングスティーンみたいなアメリカのイメージでやったんだけど、なにしろコロナ禍は公園に行っても人を気にしちゃうような感じで、開けた空気を感じることができなかった時期だったから、それを払しょくするような曲だと感じていたかな。
──「履歴書」のような曲をこの先も書いていこうという気持ちは、今の鈴木さんのなかにはあるのでしょうか?
鈴木:どうだろう……。まあ、あるかもしれないね。頼られる大人にならなきゃいけないというか。俺は「ついてこい!」的なキャラクターではないし、胸を張るようなキャラじゃないけど、若い人から見たら、50代のずっと続けてきたミュージシャンが胸を張って歌っていないのは、それはそれでどうなんだ? とも思うし。それは「履歴書」を作って特に思った。いつまでも自分の中で悩んでいるだけっていうのも、なんだかなあって。もちろん、そういう一面は残しつつ、夢を持った大人としての一面も出していけたらいいのかもね。……まあ、それもこれも「履歴書」の評判がよければ、だけどね(笑)。
一同:(笑)。
鈴木:この曲がまったく響かなかったら、もうやらない(笑)。俺は鍵を閉めるよ(笑)。
▲鈴木圭介(Vo)
▲グレートマエカワ(B)
▲竹安堅一(G)
▲ミスター小西(Dr)
──6曲目「うたは誰のもの?」は、歌詞の中に「FEVER」という単語出てきたりもしますが、どのようなことを考えながら生まれたのでしょうか?
鈴木:今回、みんなが曲を作ってくれたというのもあったし、「燃えよフラワーカンパニーズ!」みたいに、他の人が歌詞まで書いてくれた歌を俺が歌うっていうこともあったんだけど、そうすると、「果たして、その歌は誰のものなんだろう?」みたいなことになってくるなと思って。歌詞も俺が作っていないのに、歌っているのは俺。そうなると本来、歌って誰のものなんだろう? とか……そういうことをすごく考えたんだよね。
竹安:俺が思ったのは、緊急事態宣言が出たときに、SNSでみんなが歌い合ったりしたじゃないですか。誰かのカバーだとしても、「この人はこういう選曲するのか」、「この人はこういう曲に気持ちを乗せるのか」というところで、改めて、その人の気持ちが見えてきたり。そういうことが、ブワーッとあった時期だったし、ありすぎたくらいだと思うんだけど、それが自分の持ち歌じゃなくても、歌を歌うことでみんな励まし合ったりできるんだなあと思って。そういうことも、「うたは誰のもの?」を作るときに思い出した。
鈴木:もちろん、著作権とか原盤権とかっていうのはあるけどさ、よく「発表したと同時に、歌は作り手の手を離れてひとり歩きする」っていうけど、まさにそういうことだなと思うんだよ。歌詞だって、こっちの考えとは全然違うふうに受け取ってくれてもいいし、聴いた人が勝手に咀嚼して、その人のものにしてくれていいと思う。もちろん、そのためには「届かないと意味がない」っていうことでもあるんだけどね。歌は、あくまでも届かないと意味がない。誰にも届かずにその辺に流れているだけだと、あんまり意味がない。誰か人間に……まあ、動物でもいいんだけど、誰かにちょっとでも影響を及ぼすものが、歌だから。
──「聴かれる」という関係があってこそ、歌は成立する。
鈴木:だからこそ、「じゃあ、その歌は誰のものか?」となると、尚更、よくわからなくなるんだよ。この曲は、「歌は誰のものだろうねえ?」という投げかけというか。まあ、誰のものでもないのかもしれないけど、最終的には回答を出さないまま、よくわからないまま終わらせている。
──先ほど「伝えたいことはなくていい」「よくわからないものでもいい」とも仰っていましたけど、その反面、フラカンの音楽というのは、ある部分で、「意味」が非常に重要な側面があったというか。バンドの物語や鈴木さんの精神性を聴き手が受け止めてきた側面も強くあると思うんです。でも、この『36.2℃』というアルバムは、もっと肉体的であり、感覚的であろうとしているというか。すごく音楽のプリミティブなところに立ち返っている感じがします。
鈴木:うん……そうかもしれない。本当は、そこまで考えてないけど(笑)。
──(笑)。
鈴木:まあ、時間があったからいろんなことを考えたというよりは、時間があったから、シンプルな方向に戻っていったという感じかもしれないね。極端なことを言ったら、今年中に出さなくてもよかったアルバムだから。今までは2年に1回には絶対にアルバムを出したくて時間に追われながら作ってきたけど、今回の制作は「できなければ、出さなくていいでしょ」っていう感じだったから。縛りがないぶん、気持ちを楽に作ることができた部分はあると思う。
──『36.2℃』というタイトルは、どのような経緯でつけられたのですか?
鈴木:俺は昔からタイトルを考えるのがすごく苦手だから、いつもみんなで案を出し合って決めるんだけど、その中に、こういう「平熱」的なニュアンスの言葉があって。それがすごくいいなと思ったんだよね。「36.2℃」って、俺の平熱なんだけど、それが、このアルバムにはちょうどいいかなと思って。
マエカワ:この1年は、世界中の人が一番熱を測ったんじゃないかっていう年だったからね。
鈴木:そうそう。今年は、この数字をイヤというほど見たから。だから、タイトルはこれがいいなと思った。これが一番端的に表している言葉だったというか、これなら、いろんなことが説明しなくてもわかるかなって。
──前作の『50×4』というタイトルもそうでしたけど、今回の『36.2℃』というタイトルも、非常に記号的だと思うんですよね。それはどういうことかというと、鈴木さんが仰るように、「説明的でない」ということなのかなと思ったんです。『50×4』も『36.2℃』も、聴いた感触としても、どこか解脱しているようなものを感じるんですよね。「説明」が剥がれ落ちて、ひとえに「瞬間」を記録しているような状態というか。だからこそタイトルも、自分たちの年齢や温度、時代感を端的に表す記号に集約されていくのかなと。
鈴木:やっぱり、できることなら説明はしたくないからね。曲のことに関しても、こうやって取材してもらうことで気づくこと、繋がることはもちろんたくさんあるんだけど、それでもやっぱり、歌詞のことも説明はないほうがいいなと俺は思う。説明しないと誤解されそうだから、しなきゃいけない曲もあるんだけど、基本的には丸投げがいい。聴いてくれる人が勝手に解釈してくれればいいから。
──説明が生業という部分がある僕が言うのもなんなのですが、説明というのは、重ねれば重ねるほど、意図せずとも、嘘を内包してしまう。現実から遠ざかってしまう部分もありますからね。
鈴木:うん、うん、そうだよね。説明って、結局は後付けなんだよ。「なんでこの曲を作ったんだろう?」って、自分でもよくわかっていないし、整理されてもいないんだから。こういう取材でも、いつも「よくわかんないけど、なんかできちゃったんだよね」で話が終わってくれればいいんだけど(笑)、そういうわけにもいかず、後付けで理由を考えたり、わかりやすいように言葉にするために、話を作っちゃうこともあるし。結局、「あと」なんだよね。前には歌があって、本当はそこで完結しているんだよ。
──わかりました。最後に、9曲目の「アッチ向いてホイ」がどのようにして生まれたのか、説明していただけますか?
鈴木:こんな話をしたあとに曲の説明するの?(笑)。
──お願いします(笑)。こういう曲がどのようなレファレンスから生まれるのか、非常に謎で……。
鈴木:う~ん……なんというか、「アッチ向いてホイ」みたいな曲はもう、鼻歌でできちゃうんだよ(笑)。これこそ、メロディと歌詞が一緒に出てきた曲だね。『ど根性ガエル』みたいな、俺たちくらいの世代の人たちが観ていたアニメのエンディングテーマの雰囲気というか。洋楽とかの影響を受けるもっと前から自分の中にあった要素だと思う。こういうのは俺の一番得意な形だし、結成した当初から常にあるタイプの曲。「アッチ向いてホイ」は、歌詞的には東京アラートのときの歌なんだけど、こういう曲は、深追いせずに作っちゃう。本当は「アルバムには入れなくてもいいかな」と思っていたくらいの曲なんだけどね。
マエカワ:今回に限らず、アルバムを作り始めるとき絶対に鈴木から、こういう曲調のは1曲は出てくるんだよね。その都度、アルバムには入れたり入れなかったりするんだけど、今回は歌詞も一緒に出てきていたから、俺は最初に聴いたときからすごくいいなと思っていて。
竹安:風刺的だよね、この歌詞は。
マエカワ:そう。この歌詞が、童謡っぽいというか、音頭っぽいというか、こういう曲調に乗っているのは面白いなと思った。
──民謡っぽい節回しのあっけらかんとした雰囲気の中に、<神様たちは知らんぷり 偉いさんは群れてるだけ>という棘のあるラインがあったりして。こういう「実はパンクな表現である」という部分も含めてなのですが、鈴木さんのエッセイ集『深夜ポンコツ』を読んでいたときに、鈴木さんが「フラカン結成前、バンドをやるなら、ローザ・ルクセンブルグのようなバンドがいいと思っていた」と書かれていたのを読んで、そのエピソードと、この「アッチ向いてホイ」は、すごく合致したんですよね。
鈴木:うん、うん。どんとさんはすごく好きだったし、自分の根っこも、近いところにあったらいいなとは思う。ちょっと話は逸れるかもしれないけど、前に、スピッツの(草野)マサムネさんがラジオで俺たちの曲の特集をやってくれたときに、すごく鋭いことを言ってくれたんだよね。俺って、ライブでウワーっとシャウトするような印象も強いんだけど、実はどちらかというと俺の声って、ほのぼのした歌い方が合っているんじゃないかって。そういう部分はまさに、「アッチ向いてホイ」のような曲に出ていると思う。
マエカワ:「ラジカルとほのぼのが同居している」って、マサムネくんは「ヒコーキ雲」を流しながら話をしてくれたんだよね。
鈴木:そうそう。あれを聞いて、「なるほどな」と思ったし、嬉しかった。俺は、本来的にはのんびり屋さんなんだろうね(笑)。
一同:(笑)。
鈴木:こういう感じの方が実は得意なのかもしれないし、放っておくと、「アッチ向いてホイ」みたいな感じばかりが出てくるんだと思う。これはもう、風呂の栓を抜いたような状態だと思うな(笑)。
photo by 田島貴男(ORIGINAL LOVE)
取材・文◎天野史彬
18th album『36.2℃』
ライブ会場、通販>12/16 先行販売開始
XQNG-1004 3000円(税込)
1.揺れる火
2.産声ひとつ
3.こちら東京
4.履歴書
5.A-HA-HA
6.うたは誰のもの?
7.DO DO
8.一週間
9.アッチ向いてホイ
10.燃えよフラワーカンパニーズ!
<フラワーカンパニーズ大晦日年越しライブ<ヤングナイター '20/'21>>
@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE
開場 21:45 / 開演 22:45
チケット料金:5,000円(税込/全席自由/1drink代別)※おみやげ付き
チケット購入:https://t.co/t0w1InpEPV
ライブ生配信
視聴チケット料金:2,500円(税込)/ ※2021年おみやげ付き(後日郵送)3,000円(税込)
視聴チケット発売:12月12日(土)10:00~2020年1月7日(木)19:00
※アーカイブ期間:2021年1月1日(金)ライブ終了後~1月7日(木)23:59
チケット購入:https://t.co/DQtDfsWww3 https://t.co/wpBsCFrlQm
[問]duo MUSIC EXCHANGE 03-5459-8716(12:00~19:00)/ネクストロード 03-5114-7444(平日14:00~18:00)
◆フラワーカンパニーズ・オフィシャルサイト
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