【インタビュー】坂本冬美「全てを賭ける」、桑田佳祐書き下ろし曲に込めた思い

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■新たな自分で

──では具体的にうかがって行きたいのですが、まずこの楽曲の世界観をどのように受け止められたのか聞かせてください。

坂本:読めば読むほど、歌えば歌うほどに新たな発見がたくさんある曲なんです。たとえば自分の持ち歌ですと、年齢を重ねていくごとに、歌い方が変わったり若い時は気付かなかった発見があったりするんですね。でもこの曲は、頂いてから1年くらいですが、こんなわずかな期間で、こんなに次から次へと新しい発見があるんだというくらい、いろんな解釈が生まれてくるんです。これはすごい歌だなと改めて感じています。タイトルからしてすごいじゃないですか(笑)。

──すごすぎます(笑)。

坂本:私の中では冒険というより、ひと皮どころかものすごい殻をガッと破るような思いで向き合いましたね。先ほどもお話ししましたが、今までは和服に身を包んで髪を結い上げて歌っている、どこか優等生な演歌歌手の自分ばかりいた気がするんですが、あの、YouTubeからこっちと言いますか…(笑)。

──“ビフォー/アフター”のアフターですね(笑)。

坂本:はい(笑)。こっちはもう思い切って今までとは違う自分で、今までと同じじゃいけないという覚悟で向き合おうと。「こんなことをしたらどう思われるだろう」とか、「今までのイメージがあるからここまでは出来ないな」ではなく、そんな思いは全部捨てて、新たな自分で挑もうと思ったんですよね。

──それくらいの覚悟がないと歌えない曲だと。

坂本:歌えないです。魂、持っていかれちゃいますから。この歌は本当に、魂が削られる思いなんです。でも私、それでもいいと思っているんです。この曲に全てを賭ける…それほどの思いですから。

──歌詞をご覧になった時はどんなお気持ちでしたか?

坂本:最初にこのタイトルを見て「…え?」でした(笑)。とにかく頭の中が“?”だらけになりながら歌詞を拝見したんですね。すると今度は、まず飛び込んできたのが<目を覚ませばそこは土の中>。「…え?私はここにいないの?」と、ますます謎が深まりました(笑)。これは今まで見たことも聴いたこともない世界観だなと思いましたね。

▲坂本冬美/「ブッダのように私は死んだ」

──主人公についてはいかがでしょうか。かなり異色なキャラのようにも感じますが、その根本の部分には、いわゆる待つ女や尽くす女といった演歌の様式美としての女性像があるんじゃないかなと思いました。

坂本:そうですね。いくつかの恋愛をしてきて、もうこれが最後だと思っていると思うんです。何もかも捨てて、最後に賭けた男。年を重ねてくると、若い時の純粋な気持ちプラスαがあると思うんですが、それでも優しいキスで男に溺れていくんです。尽くして尽くして、全てを賭けたのに手をかけられてしまう。その現実を受け止められず、魂になって気が付いたら土の中にいた。何が起きてるの?あなたじゃないわよね?って、まだ信じているんですよね。

──そんな仕打ちを受けても。

坂本:そしてここが可愛いところなんですが、手をかけられて、こんな男と思って殴るんだけど、私が殴りたいわけじゃないのよと。全部見ていたお釈迦さまに変わって殴るんだからねって。

──なるほど。

坂本:そんな彼女は魂になって彷徨って、その怒りがゲリラ豪雨(あめ)になったり、落雷(いなびかり)になったりするわけです。そして、これはもう私が魂になってしまったから言うんだけど、あなたのその箸の持ち方だけは最初から無理だったのよって。これだけなんですよね。あんなことがあったこんなことがあったとは言っているけど、自分の恨みはそんなに言ってない。まだ惚れているんですよ、最後に賭けた男だから。

──芯の強さがあるんですね。

坂本:最初は、強い女性だと思ったんです。でもそのうち、すごく哀れでかわいそうになってきて。今は抱きしめてあげたくなるような、愛おしさを感じています。そして最後、彼女はお釈迦さまみたいにはなれないことを悟るわけです。「やっぱり私は男を抱くわ」という歌詞があるんですが、結局私は生まれ変わったとしても、あなたのことをまた好きになっちゃって一緒になるかもしれないし、ひょっとしたら他の人かもしれないけど、今度は私から抱くんだからねと。

──抱かれるのではなく、抱いてやるんだからと。

坂本:そうです。最初にレコーディングした時は、私もそう思っていたんです。こんな悔しい思いをして、今度はもうこっちから抱いてやるんだから!って。でも今はちょっと違うんですよ。女って母性があるじゃないですか。「はいはい、あなたのことはわかってる。うんうん、そうね」って抱きしめてあげるような、そう言う意味でもあるのかなって思うようになってきたんですよね。

──なるほど!そこまでは考えが及びませんでした。

坂本:あくまでも私の解釈なんですけどね。こんな風にどんどん出てくるんですよ。深いんです。

──しかし箸の持ち方だけが無理だったって、恋愛は意外とそういうものだったりしますよね。人から見れば些細なことでも、ここだけはっていうところが譲れなかったりして。

坂本:そうなんですよね。恋愛の初めの頃はそれも許せちゃったりしますけど、結局は最初に嫌だと思ったことが引き金になったりするんだなって思いました。

──MVも非常に見応えがありました。まさに歌謡サスペンスドラマといったムードでしたね。

坂本:2日間撮影をしたんですが、本当にドラマを撮っているかのようでした。ロケもありましたし、あとはスタジオも2つ使って撮影したんですが、三途の川もCGじゃなくて本当に作ったものなんですよ。撮影には桑田さんも来てくださったんですが、私がピアノを弾くシーンでは「こんな感じでどうですか」ってさり気なくアドバイスをくださったりもしました。



──今作では、演劇ユニット・TEAM NACSの戸次重幸さん演じる“許せない箸の持ち方をする男”がまた最高でした。戸次さんとの共演はいかがでしたか?

坂本:戸次さん、素晴らしかったです。ちょっとこう下品で、いやらしい色気があって、本当にお上手だなと思いました。実際に聞こえてくるセリフはないんですが、2人で食事をするシーンなどはちょっとした会話のセリフが準備されていたんですね。それも台本どおりにきちんと覚えてきてくださって、本当に一生懸命演じて頂きました。

──坂本冬美さんのMV史上に残る名作がまたひとつ誕生したわけですが、これまでも演歌界初となる3D作品など、思いきった演出や手法で撮られた作品がありましたね。

坂本:「ずっとあなたが好きでした」は3Dでしたね。あの曲は我が家の坪倉由幸さんに出て頂きました。「夜桜お七」は、友永詔三先生の大変素晴らしい人形でやって頂きとても感激しました。「蛍の提灯」では、歌っている私が街頭ビジョンやディスコのスクリーン、駅のホームやパソコンなどいろんな画面に写っているという面白い作りになっていましたね。「アジアの海賊」は中村あゆみさんが作ってくださった曲なんですが、あの映像は一番お金をかけて頂きました(笑)。









──宝船に山と積まれたウーファーのスピーカーというのが斬新でした。このように、いわゆる演歌としてのイメージに縛られることなくたくさんのチャレンジを続けてこられたわけですが、その挑戦の原点にあるのは、先ほどお名前が上がった忌野清志郎さん、そして細野晴臣さんとのユニット「HIS」ではないかなと思います。

坂本:本当にそうなんですよね。清志郎さんとの出会いがなければ、桑田さんとの出会いもないです。王道の演歌でデビューして、たまたまレコード会社が同じということで2年目だった私に清志郎さんが声を掛けてくださって。すごい方だというのは存じ上げていましたが、当時はまだ若かったですから「え?どうして私に?」と驚きましたが、とにかく無我夢中でやらせて頂きました。清志郎さんのおかげで、たとえば「夜桜お七」もそうですが、ちょっとポップな演歌を歌う機会も頂くようになったと思うんです。「また君に恋してる」もそうですよね。あの経験がなかったら、私は絶対に王道の演歌の道だけを歩いていたと思います。繰り返しになりますが、今回こうして桑田さんとの出会いがあったのも、清志郎さんとやらせて頂いた経験があったからこそだと思っています。



──HISの歌が今も歌い継がれているように、この「ブッダのように私は死んだ」も、時代に爪痕を残しながら長く歌い継がれていくのだろうなと思います。

坂本:YouTubeにアップしている公式のMVもたくさんの方にご覧頂いていますが、今、いろんな方がYouTubeで歌ってくださっているんですよね。(検索したら)私じゃない人がたくさん出てきて、びっくりしました(笑)。発売して1週間くらいしか経っていないのに、いろんな世代の方が歌ってくださるなんてすごいことだなと思いましたし、そんな風に反応して頂けたことは今回初めてでしたから本当に嬉しくて。それだけインパクトがあるタイトルであり、歌なんだろうなと改めて思いましたね。これからもどんどん歌って頂きたいです。

──今年はコロナ禍でコンサートなどが延期や中止になったりしましたが、今作はこうして無事皆さんの元へ。1年の締めくくりは、今年もNHK紅白歌合戦のステージですね。

坂本:はい。今年はみんな同じように苦しんだ1年だったと思いますので、私の歌も含めて、出場者みんなの歌の力と熱い思いで嫌なことを全部吹っ切って、新たな年が幸せな1年になるようにと、そんな思いで歌わせて頂ければなと思います。…と、今はこうして冷静に言っていますが、当日は緊張しちゃってそれどころではなくなっちゃうんですけどね。正直なところ(笑)。

──ではその点も楽しみに拝見いたします(笑)。来年はデビュー35年目を迎えられるということで、また何か素敵な企画などをお考えなのでしょうか。

坂本:「ブッダのように私は死んだ」、これ以上のものはないと思います(笑)。この曲、これからは私の歌唱にかかっていますからね。ますますたくさんの方に愛して頂ける曲になっていくよう、あとは皆さんにもたくさん歌って頂いて(笑)、良い1年にしていきたいなと思っています。

取材・文◎山田邦子

New Single「ブッダのように私は死んだ」

2020年11月11日(水)発売
■初回盤(CD+BD)
UPCY-9935 ¥2,100(税抜)
紙ジャケ3つ折り仕様
[CD]
ブッダのように私は死んだ
ブッダのように私は死んだ(Original Karaoke)
ブッダのように私は死んだ(Instrumental)
[Blu-ray]
ブッダのように私は死んだ Music Video 完全版
ブッダのように私は死んだ Music Video 歌唱版

■通常盤(CD)
UPCY-5093 ¥1,100(税抜)
ブッダのように私は死んだ
ブッダのように私は死んだ(Original Karaoke)
ブッダのように私は死んだ(Instrumental)

■通常盤(カセット)
UPCY-5093 ¥1,100(税抜)
ブッダのように私は死んだ
ブッダのように私は死んだ(Original Karaoke)
ブッダのように私は死んだ(Instrumental)

■アナログ7インチ盤 限定生産
UPKY-9023 ¥2,000(税抜)
Side A ブッダのように私は死んだ
Side B ブッダのように私は死んだ(Original Karaoke)

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