【インタビュー】井出靖「ヴィンテージTシャツはジャンルに関係なく集めることができる面白さがあります」
井出靖が、『VINTAGE MUSIC T-SHIRTS SCRAP』をリリースした。
◆『VINTAGE MUSIC T-SHIRTS SCRAP』 関連画像
本著は、ヴィンテージ・ポスター同様、井出がこれまでに収集したヴィンテージTシャツ(仕入れからカタログ撮影後、すぐに買われてしまったものがほとんど)の写真を580点掲載したビジュアル・ブックだ。パンク/ニューウェーブ、ニューヨーク、Pファンク、レゲエ/アフロビートなど、いわゆる古着屋のようなセレクションではなく、あくまでも井出独自の視点から収録され、井出曰く「時代の匂いを感じられるセレクト」という言葉通りの内容だ。今回は、井出とともに、本著の編集を務めた南知佳に同席してもらい聞いてみた。
◆ ◆ ◆
■どこにでもヴィンテージの音楽Tシャツが
■あるってわけではなかった
──そもそも井出さんがTシャツを集め始めた理由は?
井出靖(以下、井出):『VINTAGE MUSIC T-SHIRTS SCRAP BOOK』のまえがきにも書いてあるんですけど、ポスターと違ってTシャツは積極的に集めてたわけじゃないんですが、Grand Galleryを渋谷に作るにあたってそのヴィンテージのコーナーを充実させたいなと思っていて、そこからだよね?
南知佳(以下、南):割合としては最初からポスターの方が多かったですが、渋谷でTシャツを扱い始めたのが2006年くらい。まだそのときはヴィンテージTシャツがブームになりかけで、70年代のものがヴィンテージとされていたんですね。
井出:どこにでもヴィンテージの音楽Tシャツがあるってわけではなかった。
南:なかったですね。古着屋さんに行って古着の中に混ざって置いてあるっていうくらいで。
井出:それで、渋谷でヴィンテージ機材に囲まれて生活していたころ、機材を探すために旅したことがあったんです。アメリカのテキサス州のどこかでマエストロ(編注:エフェクターやテルミンなどで知られる機材メーカー)の機材を見つけたことがあった。そのとき店の傍に段ボールにTシャツがドカーンと入ってて、全部欲しいけど、そのときファンタスティカって自分の店ではTシャツを扱ってなかったわけ。結局一枚しか買わなくて……それがなんか引っかかってて、ポスターと同じようにヴィンテージTシャツを扱ってもいいんじゃないかなと。それで昔のものを掘り出したんだよね。
南:そうですね。
──そのころはヴィンテージTシャツって高価なものではなかったんですか?
井出:この本に出てくるものは博物館級の値段のものもありますけど、当時はそういうものではなかった。ちょうどeBay(編注:世界中で1.6億人、Sellerは2,500万人と世界最多の利用者を持つインターネットオークション)も日本に知ってる人がそれほどいなくて……個人のコレクターの人がインターネットを使って売買するのが生まれ始めたくらいで。じゃないと東京でどこで探してもなくて。
──音楽Tシャツの売買をしている人がそれほどいなかった?
井出:世界中にはいたけど、東京にはまだあまりいなかったと思います。
南:ちょうどコレクタブルなものが、個人でオンラインで少しづつ出し始めたときくらい。昔だったらロサンゼルスに行って古着屋さんをたくさん回ったら買えた、みたいなことからスイッチしてたころ……。
井出:そういうスイッチが変わって……じゃあ、ああいうのもあるんじゃないかっていうのは結局“検索ワード勝ち”っていうか……知識があるかないかで、どこの誰が持ってるかもしれないということからコネクションができて、たまたま良いのを持っている人に当たると、その人にこういうTシャツもある?と。当時はそうやってちょっとずつ、音楽とか知っている知識で集めていった感じなんです。
南:最初はファッションっぽい感じで流行っていた風潮だったんですけど。その流行る前ですね、私たちが集め始めたのは。
井出:ロック好きの人がロックのTシャツ着てるくらいで(笑)。そこからヴィンテージTシャツも面白いなと思ったんですが……ポスター本と同じように、お店のオープン前にTシャツもキチンと真俯瞰でブツ撮りしていこうということになったんです。その撮影代が当時ホントに高かった……(笑)。今だったらスマホでサクッと撮れちゃいますけど、当時のあのスタジオ、天井高何メーターくらいあったっけ?
南:5メーターくらいありましたね(笑)。
井出:それが莫大なお金で、そのあとはもう撮れないなーと。そのころは本を出すとか決めてたわけじゃないから、もう入荷したら売ってた状態。で、そのうちに手頃なデジカメやiPhoneが出てきて……自分たちで撮れるなと。最初はそんなきっかけです。
──ヴィンテージTシャツはあくまでもお店で売るもの?
井出:そう。当時音楽Tシャツだけを扱っている店ってホントになかった。結局お店でヴィンテージTシャツを売り始めると、リクエストもあったりしてすごく売れたんだよね。
■所謂メジャーなアーティストじゃなくて、
■こんなのあったんだっていうもの
──井出さんにとってヴィンテージ音楽Tシャツの魅力はどういうところですか?
井出:ツアーポスターとリンクしている部分があったり……ジャンルに関係なく集めることができる面白さがありますね。レコードだったら好きな音楽しか聴かないけど、Tシャツってデザインが良ければ着られるでしょ(笑)? 美術館のTシャツも集めてたけど、そういうアートを集めている感覚かな。
南:うちはスタートが古着屋さんじゃなかったので、ポスターと同じように、このレコードのときのこのTシャツは……といった感じで仕入れてた感じでしたね。デザインがいいから入れるというより、こんなのあるんだ、という。
── それでいうと仕入れる、仕入れないのジャッジはどういうところでしょうか?
南:所謂メジャーなアーティストじゃなくて、こんなのあったんだっていうものかな。
──当時はいわゆるバッタものはなかったんですか?
井出:もちろん失敗したことはたくさんあります。それは仕方ない。
──それはどういうところで見極める?
井出・南:明らかに……(笑)。
南:それほど多くはないですけど。
井出:だんだん知識がついてきて、打率が高くなるし、失敗は少なくなる。例えばローリング・ストーンズ本体じゃなくて、キース・リチャーズが一時期やってたニューバーバリアンズのTシャツないかなとか。そういう探し方なんです(笑)。ダブとかスカ、Pファンクないかなとか。探し方はポスターと似てるのかな。
──一番のお宝Tシャツは?
井出:Def Jamのもすごいし……。
南:私はボブ・ディラン『ローリング・サンダー・レビュー』のTシャツですかね(P204掲載)。
井出:これは45年くらいのもので一回しか見たことがない。すごく珍しいと思います。あとは例えばシックとか……。
南:分からないと100円くらいで取引されてそうな……(笑)?
井出:ポインター・シスターズとかクール&ザ・ギャングとか、そういうのはやっぱり自分たちしかができなかったんじゃないかな。
南:あとはファンカデリックとか……
井出:ああ、これ見たときは上がったね(P136掲載)。
──ちなみにこれはeBayで仕入れたものでしょうか?
井出:違います。コレクターの方がいて……その人と出会って、購入しました。集めている人というより、実際にその方がライブを見て持ってた感じかな。女性だから全部サイズが小さいんです(笑)。そういうコレクターの方から話を伺って次を買う、そういう買い方はポスターと同じなんです。当時は最初にどう検索するか。ebayもあったけど、個人でTシャツを売ってたりもするから、どう検索してたどり着くか。
──いまだに当時知り合った方とは付き合いがあるんでしょうか?
井出:付き合いある人もいますね。ポスターの方は特に。
──井出さんが見たことがないもので、どうしても欲しいTシャツって存在しますか?
井出:僕はマニアじゃないし、全部売ってしまうんです。ホントのTシャツマニアの人って全部キッチリと取ってあるじゃないですか? 着るものと保存用と二枚あったり。
南:自分のためのコレクターですよね。
井出:僕だったらダブとか探しちゃうわけ。普通はそんなの探さないよね(笑)。イギリスってTシャツを着る文化がもともとなかった。アメリカに行ったツアーのものが売られることが多いんです。ザ・スミスとかはたくさんあったけどね。Tシャツは今高くなっちゃってなかなか(サイトを)見られないよね。特に90年代のものは。
自分たちは当時はまだ90年代はやってなかったんです。そこは若い人に任せておきたいというか……。今回の本は300ページくらいですけど、これまで1500ページ分くらいのTシャツは買ってますけどね(笑)。
南:10年越しくらいで売れてゆくTシャツもありますし。2年くらい前にマーク・ロンソンが来店したことがありまして、10年くらい売れてなかった、ソウルのMOTOWNのイベントTシャツを買っていったんです。
井出:10代のときに自分が行ったライブなんだって言ってね。
南:このTシャツ、遂に売れたって思いました(笑)。
井出:絶対に売れ残るだろうと思っていたTシャツが旅立っていく瞬間の嬉しさね(笑)。そのあとマーク・ロンソンのSNSを見てたら、うちの店で買ったローランド・カークのTシャツを着てて……普通だったらローランド・カーク選ばないよね(笑)。
■自費出版──こういうことが僕たちでも
■できるんだってことを知らせたいですね
──『VINTAGE MUSIC T-SHIRTS SCRAP』は、海外流通も決まったそうですね?
井出:BOOKMARCで行なった展覧会の様子をインスタで見てくださったことから、ヨーロッパではイギリスのアートデータ社を通して流通することになったんです。条件面で向こうのいいなりは嫌だから、勝ち取るのが大変でしたね(笑)。最初は委託と言われて……海外で委託販売っていつ返本されるか分からない。本を流通するのに委託は基本なんですが、それを買い取りにする契約を取って……。
大手レコード会社に所属していたときに、LONESOME ECHO STRINGSやLONESOME ECHO PRODUCTION名義でさまざまなプロモーションをして、著名レーベルから世界中にリリースされて、コンピレーションにもたくさん収録されているのに、お金をもらったことがほぼないんです。
LONESOME ECHO PRODUCTIONのときに初めて原盤権を三分の一持ったけれど、ほかのは原盤権を持ってないから、いくらコンピに入ってもこちらの利益にならない。例えば『PURPLE NOON』の収録曲が50種類のコンピに入ったとしてもサンプル盤が送られてくる程度でそれほど入ってこない。他のレコード会社の実情は分からないけど、そういう状況がなんだか納得いかなくて……。
で、本の場合は出版社に権利を委託すると僕は印税しかもらえず、音楽同様またもらえないパターン。そうじゃなくて、今回二冊とも完全に自費出版ということで、うちから直接卸して買い取りという契約までもっていけた。向こう(アートデータ社)もディストリビューターということで間に人がいないわけ。これって画期的な出来事だなと思って。こういうことが僕たちでもできるんだってことを知らせたいですね。
『VINTAGE MUSIC T-SHIRTS SCRAP』
Grand Gallery
3,300円+税
Grand Galleryのみの購入特典としてQRコードから聴いて頂ける、VINTAGE MUSIC TSHIRT SCRAP本に載っているアーティストのカバー集が付きます!
当店HPからもお求め頂けます。
https://grandgallerystore.com/items/5f275392afaa9d54518f9dca
◆Grand Gallery オフィシャルサイト
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